Part 28-6 Confused Pursuit 戸惑いの追撃
Broadway Uptown Manhattan, NYC 20:00
午後8:00 ニューヨーク市 マンハッタン アップタウン ブロードウェイ
時おり前を走る車を避けながら左右に車体を振り疾走するピックアップトラックから、アハメド・バーハム少佐は前の助手席から、ハサム・サイド中尉は後席の左から腕を突きだしAK-47をセミオートで撃ち続けていた。
橋を渡り都市に入ったと彼らが見渡しながら車を走らせているといきなり猛然と追い上げてきたSUVが前に斜めに割って入りトラックを止めようとした。
咄嗟にバーハム少佐は運転しているフィラス・アブゥドに命じトラックを歩道に乗り上げさせ被せてきたSUVを追い抜かせた。直後だった。再び追い上げてきたそのSUVが撃ってきたので少佐と中尉は応戦を始めた。
「少佐、奴ら警察ですか!?」
サイド中尉が一瞬撃つのを止めバーハム少佐に大声で尋ねた。
「あいつらは警察じゃない! 街中であんなに撃ってくるか!? フィラス! あいつらを絶対に前へ出すな!」
少佐はサイド中尉へそう答えた直後運転するアブゥド少尉に命じた。だが少尉が返事を返さないので怒鳴った。
「分かったか、フィラス!」
「わかりました──少佐」
答えたもののアブゥド少尉は混乱していた。襲撃してきている何者からが警察でない予感はあったが、アメリカの情報局であるかもしれないと思っていた。
モサドへ無言の通話を続けすでに一時間が経っており、本国からアメリカの情報局に何らかの働きかけがあり襲撃となった可能性があった。
モサドがアセットを見捨てる事は絶対にない。だが現に無差別な銃撃を受けており、彼は少佐や中尉と共に撃ち殺されるつもりはなかった。もはや猶予はなく、サローム大佐との合流なくして先に二人を射殺する必要がありどうやったらいいのか彼は考え続けていた。
ラム・トラックスのダッジ・ラム6.7Lの走行を阻止するという初手を躱され、その軽々と加速するワイドタイアを履いたピックアップトラックを追いかけながらカエキリア・ドリヤースは助手席の窓を開け放ち身を乗り出しトラックに銃撃を加えていた。
だが夜間に数多の光が流れる中、蛇行を続けて走る標的は照準し辛く数発に一発がボディを捉えているだけだった。それにカービンのマズルブラストが射撃の都度に膨れ上がり、その度に彼女は照準しなおさなくてはならず、すでにマガジン二つを無駄にしていた。
「ベニー! 撃ってくる二人はフィラス・アブゥドじゃないわよね!」
カエキリアが窓の外に上半身を乗り出したまま、運転するベニー・コーヘンに怒鳴った。
「分からん! 我々がモサドの工作員だと分からずに応戦してるかもしれん!」
ベニーはトラックに被せられふらついたハッチバックの小型乗用車が迫り急ハンドルでそれを躱した。
「くそったれ! 顔を確かめるからもっと縮めて!」
彼女がピラーにしがみつき毒づき叫んだ直後、ベニーはルームミラーに、警告灯を踊らせしきりにワイルとパッシャー(/Wail & Phaser:米国緊急車輌の二種の電子サイレン)を撒き散らしているパトロールカーが五台に増えたのを眼にしてアクセルを床まで踏み込んだ。