Part 28-4 Central Park セントラルパーク
Sheep Meadow Central Park Manhattan, NYC 19:55
午後7:55 ニューヨーク市 マンハッタン セントラルパーク シープ・メドウ
マンハッタン中央に位置する周囲を樹木で囲まれた東西八百メートル南北四キロもある広大な都市公園セントラルパーク。
その中心に古くは羊の放牧の草地とされていた芝生の広場シープメドゥがあり、雪に覆われた白い開けた場所に次々にタッチダウンしたシールズの彼らは即座にスクウェア・パラシュートを大まかに折り畳み始めた。
先に降下しすでにパラシュートをまとめ終えたマイク・ガーランド大佐の傍に後から降りてきたドール・ジョージア中佐がパラシュートを抱え駆け足で近づくと小声で話し掛けた。
「ボス、あの航空機を見ましたか? 民間機じゃなさそうな」
「ああ、暗がりではっきりとは見えなかったが、黒い機体で周囲に四基のファンがあった。グローブマスターほどの大きさだったが、あんな機種は見たことも話しに聞いた事もない。パイロットの顔が一瞬見えたよ。若い女だった」
話す二人の周囲でそれぞれの班のリーダーが負傷者と人員の確認をとっていた。即座にそれも終わり彼らがジョージア中佐の元へ報告に来たので、彼はリーダー達にシープメドゥ南側の遊歩道を挟んだ電気の消されたメリーゴーランド寄りに移動するよう指示した。
「民間人がいなくて助かったな」
大佐に言われジョージア中佐は頷いた。
「そうですね。夜ですし、この雪と冷え込みですから」
メリーゴーランドの近くの植え込みの陰に全員のパラシュートを隠している最中に遊歩道を一人の男がライトを照らしながら歩いて来るのを一人の隊員が気づき次々に他の者へ無言で報せると、明かりを点けた男が歩んで来た時には全員が樹木の陰に身を隠して気配も周囲に埋没させていた。
明かりを手にした男はメリーゴーランドの周囲をライトで照らし見ると明かりを消したのを、木立の陰からガーランド大佐は暗視装置でじっと見ていた。
「ヤンキーズ・ブラボー」
いきなり男は誰にへでもなく声をかけた。
「サンディエゴ・アルファ」
ジョージア中佐が答えると暗がりの中で男は振り向いた。中佐が木の陰から出てくると男が身分を名乗った。
「CIAの現地要員だ。マーク・アランという」
「シールズのドール・ジョージアだ。私の横にいるのが総指揮官のマイク・ガーランド大佐だ」
暗がりの中でなんとか見ようとアラン支局長が眼を凝らした。
「ライトを使っていいか? 暗視装置の用意がないんだ」
アランの要望にジョージア中佐は皆に向かい声を掛けた。
「全員、NV(:暗視装置)使用中止」
中佐が命じるとアランはライトを点けた。
「ついて来てくれ。移動手段を用意してある。貴方達をテロリストらが今晩だけ隠れ家に使う二ヶ所へ案内する。急ごう」
そう言ってCIAニューヨーク支局長は雪を踏みしめ歩きだした。数十歩歩いて誰も付いて来ている気配がないので彼が振り返ると数十人の男らが二列になり彼の直ぐ後ろに列なっていた。マーク・アランはこいつらは雪の中でも足音を立てないのかと驚いて再びセントラルパークの外へ急ぎ足で向かった。
途中、マイクはCIAエージェントに尋ねた。
「ターゲットらには監視がついているのか?」
「いや、我々はテロリストらをマークしてない。今ごろはNSAの連中が血眼になって捜しだしているはずだ。だがこちらはネストは押さえてある」
事務的に答える情報局職員にマイクはCIAの連中はいつもこうだと眼を細めた。テロリストの四人がアジトに今夜戻る確証が欲しかった。
「ターゲットらを支援している連中は?」
「支援者は複数の中東人の男女だが不定期にネストに出入りしてる。盗聴は仕掛けてあるので、決行が迫ると分かる」
ガーランド大佐はターゲットの四人がアジトを利用してないのが気になった。
作戦指示書では自爆テロの決行日が明日だと結論づけてあった。だが前夜になってもターゲットらがネストを利用しない理由は何なのだと考えた。
二基の核弾頭をそれぞれ分けて隠し持つ事は容易に想像できる。その隠れ家で爆破させてもこの都市を壊滅するのに十分だが、彼らがこれを宣伝に使わないわけがなかった。群衆の中で自爆したがるのが連中のやり方で後から反抗声明の画像が出てくる。
だがこれは並みの自爆テロではないのだ。もしかしたら群衆の中に持ち出して決定的瞬間をネットに中継するかもしれない。その前にネストを襲撃し核弾頭を奪還することを最優先すべきだろう。
公園の外に出ると三台のカーゴトラックがハザードも点けず路駐していた。それを眼にしガーランド大佐は眉根を寄せエージェントに尋ねた。
「こんな目立つ車を! 他になかったのか?」
「州兵のものを借り上げてきた。君達人員を移動させるのにこれしかなかった。まさか観光バスともゆくまい」
マイクはジョージア中佐に部隊を分け後続のトラックに乗るよう指示し、彼は先頭のトラック荷台に最後に乗り込み最後尾に腰を下ろした。
幌の中は暖房もなく冷えきっていたがマイクは隊員達が気持ちを緩めそうな気がした。エージェントを含め全員が乗り込みそれを見ていたCIAの要員の二人がそれぞれ三台の運転席に乗り込み重苦しいディーゼルの音が広がると、マイクの肩にまわしたハーネスに取り付けたパウチの中でバイブレータが振動を始め彼は携帯電話を取り出した。
送信者の名を見るとローラ・ステージからだった。通話のボタンを押し聞き始めた彼は眉間に深い皺を刻んでしまった。