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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #28
107/155

Part 28-3 Clear intention 明確な意思

W.55th ST.-7th AV. Midtown Manhattan, NYC 19:05


午後7:05 ニューヨーク市 マンハッタン ミッドタウン 7番街55丁目



 市警察から中東人らしき男が警官二人を刺殺したと連絡を受けクレンシーは指揮車輌を7番街のセントラルパーク近く──アップタウンへ向かわせた。



 彼らが現場近くまで来るとすでに規制線が張られ、7番街のカーネギーホールから1ブロック南の一角は十台以上のパトロールカーや現場検証車が到着しており辺りは幾つもの警告灯の明かりが踊っていた。



 クレンシーとマーサは立ち入り禁止の黄色いテープの外へ待ち市警の殺人課の捜査官を呼び警官を殺したのはイズゥ・アル・サロームで間違いないと確認したが、事件発生からすでに半時間近くの時間が経過していたので“ウルフ”は近辺にいるとは考えられなかった。



 マーサはクレンシーの予測通りなら、一基の核爆弾はこのアップタウン近辺のどこかにあると信じて疑わなかった。だが合わせて何百人というFBI捜査官と警察官をもってしても、三時間以上経つのに発見には至っていなかった。



 クレンシーは刑事と話し終え周りを見回していたマーサのもとへ戻って来るなり説明した。



「たまたま職務質問をした二人の定時パトロールが殺られた。コート姿でなくクイーンズで買ったと思われる黒いジャンパーと同じものを着ていたらしい。“ウルフ”は遮二無二どこかへ向かっているようだ。ミドルタウンへ向かって7番街を歩き去ったと目撃があり、警察が今、追っている」



「今夜中に核爆弾にたどり着き起爆させようというのでしょうか?」



 意見を述べながらマーサはすでに十ブロック以上は“ウルフ”が南下してると判断し、クレンシーの示した起爆地点の一つ、マンハッタン島南側の一帯に奴はいると思った。



「狙うなら明日の感謝祭当日だと考えていたが、危ういな。それでもテロリストらが爆破場所を選ぶのなら、いつまでも人混みの中に核爆弾を放置して見つかるリスクは避けるだろう」



 マーサはじっと彼を見つめ可能性という選択肢を検証した。



 通常の自爆テロに使う爆発物ベストですら爆破の直前まで露呈するのを避ける。



 核弾頭は人の身体半分以上はある代物だ。通りでなくマンハッタンの建物のどこかに隠されていると考えるのが正しいだろうと彼女は自らに言い聞かせる様に考えクレンシーに質問した。



「長官代理、核爆弾というものを私は大まかな破壊力しか知りません。もっとも被害を与えるとしたらどの様な場所を選ぶでしょうか?」



「威力の弱い爆発物と違い、周囲が壁で被われているかそうでないかは考慮しなくていい。地上を効率よく破壊するなら地表から百ヤード以上離す。都心部や軍事施設を狙う弾道ミサイルのMIRV(:再突入体)は地表近くで起爆せずに電波高度計からの高さを拾い一定の高い位置で起爆する様に設定されている」



 クレンシーにうながされマーサは指揮車輌へと歩きながら彼の説明を聞いていた。



「それなら警察達にマンハッタンのビルを闇雲に調べさせるより高いビルの上階からおさえていったほうが確実なのでは?」



「ああ、そうさせている。爆弾のほうはいずれ見つかるだろう。それよりも先に首謀者らが捕まるからその線から場所が分かるかもしれない」



 クレンシーから初めて聞かされるテロリスト組織の内情にマーサは驚いた。



「長官代理、どこまで判明しているんですか?」



「最後に受けた連絡からだとパキスタンに潜伏していたHISのマハラート・カビール──シャリア派のカリフを特殊部隊が襲撃し身柄を確保している」



 彼に聞かされ歯切れの悪い情報だとマーサは思った。首謀者を拘束していながら、まだ核爆弾の場所が分からないのかと苛立ち尋ねた。



「どこが調べにあたっているんですか!? 厳しく取り調べていないんですか!?」



「襲撃の際に撃たれ重体だそうだ。身柄を押さえているのはCIAだ」



 中央情報局と知りマーサは動揺した。彼らの訊問が生半可なものでないと予想は出来た。



 たとえ被疑者が重体であっても容赦はしないだろう。それなら何も判明していないなどあり得ないと思った。



 何も有益な情報がクレンシーにもたらされてないとなると、八方塞がりではないかと最後に落胆した。



「だから我々は爆死覚悟の彼ら実行犯を追いつめなければならない」



「私、市警本部の監視課へ行き市内全域の監視カメラの映像を精査します。そしたら手掛かりが──」



 マーサがそう提案していると聴き込みにあたっていたベリーズとララが戻って来た。



「二ブロック先まで聞き取りをしてきましたが、やはり、それらしい男が7番街を南に行った事まではつかめました」



 副主任のベリーズがクレンシーとマーサに報告をした。



「三人とも指揮車輌に乗り込むんだ。“ウルフ”はこの通りをウォール街へ向かいまだ歩いている。通行人の中から捜しだす」



 クレンシーに指示され即座にベリーズとララは車へと駆けた。



 マーサはなぜ“ウルフ”がウォール街まで歩いていると彼に分かるのだと思い立ち止まったままクレンシーを見つめると、まるで彼女の意思が聞こえたとばかりに歩きかけた彼が振り向いた。



「簡単な事だよ、マーサ。第一に“ウルフ”はもう地下鉄や車を使わない。逃道を塞がれるのを嫌い、ましてやナンバーから手配されるリスクを避ける。それに他の通りを使いどこかへ行こうとしているならそこの交差点から曲がったはずだ。明確な意思の持ち主だ。どこかへ、とまっしぐらに進んでいる。奴は今の状況でロウアー・マンハッタンに向かわなければならない理由があるはずだ」



 クレンシーはそうマーサに説明しそばの交差点へ振り向いた。



 マーサは交差点へ視線を向け“ウルフ”が東西にまたがるストリートを使わずに南北に走るアヴェニューを真っ直ぐに立ち去った事を意識した。



 尾行を潰すと明確に意識し“ウルフ”は廃工場の敷地を選び我々を誘い込み混乱に陥れた。クレンシーの言うように明確な意思をそこにも感じ彼女は言いきった。







「急ぎましょう、クレンシー。“ウルフ”がこの通りにいる間に私が見つけだします」



 クレンシーは眼でうなずくと駆け出しマーサは後を追って走り出した。












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