Part 28-1 Last Resort 最終手段
Lansing, Mich. 20:05
午後8:05 ミシガン州 ランシング
連邦検察捜査局ミシガン支局のDAU(:強襲部隊)十名と捜査官十六名がワシントンからの長官命令で緊急編成されデトロイトから西部の都市の一アパートメント──コミニオン・ラ・メゾンに配置に着いたのが七時四十五分だった。
すでにアパートメントを監視していた中央情報局職員が合流し彼らから状況を引き継ぎ七階の705号室のドアの死角となる場所に八名の強行班が突入準備を調え、更に階上の805号室から四名が組み二名のラペリング突入の準備をし、六車線の道路を挟んで向かい合うビルの七階に狙撃手二名と一名の観測手が準備を調えたのが五十五分だった。
指揮に当たるFBIミシガン支局捜査官フィリップ・レークスはドアからの突入班の一人として加わり狙撃手達が最もスレット(:攻撃目標)をとらえ易いタイミングを待った。そうしてターゲットがリビングのソファーでくつろぎテーブルにもソファーにも何も脅威となる武器がない事を窓越しに確認した。
ドアからの突入班の先頭の二人の男が大きなデッドボルト破砕器を両手でつかみそれ以外の男達はサプレッサの付いたHK416を構え、CIA職員二人がしんがりにつく予定だった。
男達の緊張が高まりそれを引き延ばし七分がたったその時狙撃手二名からコード“グリーン”が入っている最中にレークスは全員に突入を命じた。
八階のテラス外に両足を掛け降下待機していた二人の男達はカラビナの上で束にして握りしめていたロープを下に垂らすなり拘束していたロープを緩め七階を目指しテラスを蹴りだした。
その姿が七階のテラスに現れる寸前にドアの前に立ち短い丸太の様な金属製のドア破砕器を二人がかりで後ろに振り上げ揺すり戻すとその衝撃をドアの機構部にぶつけデッドボルトをねじ曲げた。
その時、室内から連続した射撃音が響きだし、三人目の捜査官が急いでベネリM4ショットガンでドア片側上下の蝶番を撃ち抜くとドアを押し倒し男達が突入した。
先頭の捜査官が短い通路をアサルトライフルを肩付けしトリジコンRMRマイクロサイトで照準点を廊下の開口部に向けながら素早く足を繰り出し奥へ急いだ。
そして部屋の出入口に達するなり急激にマズルを振り袖壁の死角からテラスの開口部までを照準すると小型のマシンピストルKGP-9の細長いパイプストックを肩付けした容疑者の男が、テラスからガラスを割り突入をしようとしテラスの外に張り巡らせたワイヤーに絡まり足掻いている捜査官に向かって発砲していた。
男は廊下から突入した捜査官から右腕を撃ち抜かれマシンピストルを落としながら振り向いた。二番目に突入した指揮官レークスが男の顔を見、CIA職員が用意していたバサム・ハジャールの顔写真と間違いないと判断した刹那、彼の目前でハジャールはペルシャ語で叫んで左手を掲げた。
「アッラーは! 偉大なり! 異教徒共に粛清を!」
言い終わりきる寸前に窓を穿ち狙撃手の放った.300ウインチェスタ・マグナムが男の振り上げていた手首を撃ち抜いた。
だがその直前、握られていたグリップ上の黄色いボタンが小さな音と共に押し込まれてしまった。
ハジャールの胸や胴から急激に広がる真っ白い輝きを追ってオレンジの火焔が空気を圧しながら膨れ上がると、テラスのガラスが一瞬で外へ押し出されロープにぶら下がりワイヤーから逃れようとしていた捜査官二名を呑み込み外へ広がった炎の明かりが建物の幅以上に道路を照らしだし、様々な物が路面に落下していった。
先に駆け込んだ同僚が破ったドアの上を火焔と共に押し戻されるともう一人のCIA職員の眼の前を背中から飛ばされ登り階段の際まで弾かれた。
突入班の中で唯一生き残ったその情報局職員は唖然として出入口の際にへたり込むと残り火を撒き散らし吸い込まれてゆく炎を見ながら自らの思考のブレーカーが飛んでしまっている事に震え、何を優先してしなければならないかをつかみきれずにいた。