Part 27-7 Encouragement 鼓舞
W.56th ST.7th AV. Midtown Manhattan, NYC 18:20
午後6:20 ニューヨーク市 マンハッタン 7番街56丁目
警告を無視した男が、前に身体を傾いだ同僚の陰に姿を潜り込ませ、状況がつかめずにその警察官はグロックを構えたまま左に回り込みおかしな動きを続ける男をサイトに捕らえようと焦った。
その瞬間、同僚が背中を向けたまま自分へ飛び込んできて銃を構えた警察官は驚き両手を振り上げた。
彼は眼を大きく開き同僚が崩れ落ちる背後からその男が血潮をスカーフの様に引き延ばし光る長いものを急激に持ち上げるのが見えていた。だがすでに何も出来ない事を覚った瞬間銃を持った警察官は大きく吸い込もうとした空気が喉の途中から唸り入り込んでいる事に気がついた。
銃を手放すと両手で自らの喉を押さえながら地面に両膝を落とし、彼は女の悲鳴を耳にしながら建物の出入口のひと段に倒れ込んだ。
イズゥは崩れ落ちる二人目の警察官のジャンパーで半月刀を拭い素早くスラックスの内側に下げたシースに戻すと、三人の傍らから後ずさっている野次馬らを掻き分け、気がつかずに通り過ぎてゆく歩行者を追い越し歩道を急いだ。
背後で悲鳴を上げた女が他の警察官らを呼び寄せる可能性は十分にあったが、彼は急く足をなだめ必要以上に目立つ歩き方を避けた。
降る雪の合間に自分の吐き出した息が白く広がりみるまに後ろへと流されていく。眉間に意識を集中し幾つかの視線の中に敵意を探した。
日中うなじにあれほど感じていた視線はなかったが、イズゥは溢れる歩行者を避け続け前へまえへと足を繰り出した。
今、たった今、この場で、アッラーの偉大さを称え灼熱の壺を起爆させてもよかった。周囲の者らに赤いリモートコントローラーを見せつけ、共に死ねと蔑み、数千度の空気に骨まで一瞬で灰になるのだ。
彼は歩きながら歌いだした。アラビアの部族長を讃える歌を初めはゆっくりと、それから段々と声を張り上げ、振り向く人らを気にせずに歌いながら歩いた。
そうする事で自らを鼓舞し、この戦いに自分を打ち負かす敵はいないのだと喉を震わせた。そうしてお前達は知るのだと彼は思った。遥かに離れた地球の裏の国を破滅に追いやり、今、報いが来たのだと。力の前に平和はなく、力の後にも平和はない。だが力は力に屈するのが世の有り様なのだ。
この傲り高ぶったアメリカに数人の中東人が鉄槌を振り下ろす。
遠くから響いていたサイレンがいきなり甲高くなり交差点を二台のパトロールカーが曲がって来た。だが歩道の人の流れは変わらなかったが、スピードを上げ通り過ぎていく警察車輌を多くの者が振り向き、間延びし始めたサイレンが遠ざかった。
警察官らを倒した場所からすでに二百ヤード離れているとイズゥは歩みをさらにゆるめ流れに埋没した。