Part 27-5 Reinforcement 援軍
Mossad HQ Jerusarem Israel, West-Asia West 02:10 Nov. 23rd
11月23日 午前2:10 西アジア西部 イスラエル エルサレム地区 モサド本部
長椅子で仮眠をとっていたスルムス・ワウリンカは声を掛けられた気がして瞼を開いた。
彼は傍に立つ華奢な女の顔を見上げ、こいつ誰だと一瞬考えてしまい外務部の──名前が出てこずに乗せた上着を押さえ長椅子から両足を下ろし身体を起こした。
「ワウリンカ中佐、外務部までお越し下さい」
少尉に言われスルムスは短い返事をすると立ち上がりながら上着の袖に腕を通した。
若い時は一日二日の徹夜など堪えなかったが、自分の衰えを感じてわずかに苛つきながら迎えに来た少尉と共にフロアー違いの外務部へ急いだ。
アメリカの核爆弾はどうなったのだろうと頭に浮かび、ヒズベ・イスラミ・シャーリア派のカリフ──マハラート・カビールがパキスタンでアメリカの特殊部隊に襲撃され拉致された事まではつかんでいたが、その後ニューヨークの元イラク軍共和国親衛隊大佐のイズゥ・アル・サロームの消息を見失い、他の三人も状況がつかめていなかった。
アメリカのモサド要員は決して多くなく、CIAやNSAそれにFBIの動きを追い続け構築した状況だった。
「少尉──君、名前は?」
「メリル・ヨハンセンであります」
「君も二日間徹夜してるのか?」
「三日目であります」
この女見かけよりずっとタフだと彼は呆れ自分を呼びに来た理由を尋ねた。
「私を何故呼んだ?」
「はい、核爆弾テロの重要ソースであるアセット(:工作員)から無言の連絡が入ったままで、私共の主任が判断を下す前に中佐の意見を伺いたいと」
「無言の通信? 無線か?」
「いえ、携帯電話であります」
携帯電話と聞きいつからだとスルムスは思いつき尋ねた。
「どれくらい続いてる?」
「まだ五分ほどです」
五分と聞き彼はたかが五分と思い、いつ途絶える五分と感じ歩く足を速めエレベーターを使わずに階段を駆け上がった。
外務部に入るなり主任を眼にとめスルムスは声を掛けた。
「フィラス・アブゥドは殺られたのか!?」
「分からん。モニターしている間に一度それらしい声が入った。数人がそばにいるとだけしか」
「こちらから話し掛けたのか?」
「いや、それは規定で必要な場合のみで──私達が知りたいのはアメリカの国家安全保障局が彼を捕らえたのかどうかだ」
規定の事ぐらい知っているとスルムスは己に念押ししNSAのサンドラ・クレンシーなら約束を反故にしないと定かでない確証が残った。
「場所は?」
すぐに反応がなくスルムスは外務部主任に怒鳴りつけた。
「携帯電話の会社基地局のデータを解析したら直ぐに割り出せるだろ!」
彼が声を張り上げると主任が慌てて部下達に指示をだし、一人がフィラス・アブゥドの使っているプリペイド式の携帯電話の番号から携帯電話会社を割りだしそのアメリカのサーバーにハッキングを開始した。
幾つかのファイアウォールを破るのに数分を費やし、その間スルムスはフィラス・アブゥドがどうして無言の通話を継続し続けているのか考えた。
切り忘れもあったがまさかアセットがモサドへ掛けながら誰かに通話先番号を見られるようなヘマはしまいと思い、それなら話しが出来ない状況なのかと考えた。その携帯電話の送話口から拾える限りある中で何を伝えようとしているのか。
「その電話の声をスピーカーに!」
スルムスに言われ一人の局員が直ぐに切り替え音量を上げた。
『──あとどれくらいだ?』
アラビア語で中年の男の声だとスルムスは思った。
『先ほどの標識にNYCまで六十マイル(:約96.5㎞)と』
別な若い声が答えた。
『時間が押している。もっとスピードを上げろ!』
声を荒げたのは最初の男だった。
『少佐、あまり出すと警察車輌の目にとまります』
先の二人とは違うこれも年嵩の落ち着いた声だった。
『かまわん。警察に目をつけられたら撃ち殺して先へ進むだけだ──』
スルムスは会話の内容から数人が車で移動中でありニューヨーク市街が目前だと理解した。だがフィラス・アブゥドは何を伝えようとしているのか? 分かったのは大都市までの距離だけでフィラスが何を伝えたいのか明確な異図がつかめなかった。
「アセットはニュージャージー州北西部の都市ハッケツタウンからニューヨーク市へ繋がる州道上──ハッケツタウンに近い東二十マイルの場所にいます。移動中の様で定位置が確定しません。変化し続けています。引き続き位置をトレースします」
位置を割り出した分析官が報告した内容は送られて来る通話内容と矛盾してないとスルムスは思い、ではアセットは何を伝えたいのだと必死で考え続けた。
単純に位置を報せ続けているのか?
何故?
我々に?
我々に何かを求めて──?
「フィラス・アブゥドは我々に動いて欲しいのかもしれない」
スルムスがそう言うと数人がPCのモニターから顔を上げ彼を見た。
「彼のアセットとしての最重要指令は何だ?」
スルムスがそう問い掛けると主任が即座に答えた。
「我が国もしくは親交の深い国へイラクが甚大な被害をもたらす場合、その最大限の妨害工作だ」
最大限の妨害工作──テロ実行犯達の殺害。それが危惧される場合彼がとりえる最大限の妨害工作は状況を報せ支援工作を受ける事だとスルムスは気がつき主任に問いただした。
「ニューヨークにいるうちの手持ちのアセットは?」
「二人いるが──」
「フィラス・アブゥドは増援を要請してる」
スルムス・ワウリンカがそう言い切ったのを十数名のモサドの外務部分析官達が見つめていた。