71 強奪
多くの日数を費やした挙句、"牛馬の高原"のエリアボス初討伐の栄誉は〈蒼翼騎士団〉に掠め取られる結果となってしまった。
「ねぇ、やっぱりボクらもメンバーの数を増やした方がいいんじゃないかな……」
"清水の鍾乳洞"の時に続いて、またも数の暴力の恐ろしさを見せつけられたせいで、どうも気弱になっているようだ。
「気持ちは分かるが、やっぱりそれは無しだな」
「えー、どうしてなの?」
「確かにあんな攻略手法は、今の俺達にはまず真似できないし、かなり効果的であるのも認める。だけどな、あれを真似するのはそれ相応のリスクを覚悟する必要がある」
まず、単純にあれだけの数を集めるだけでも、かなりの労力を要するだろう。
他所のギルドのスパイなどの可能性なども十分に検討する必要がある以上、ホイホイ適当な相手をギルドに入れる訳にはいかないからな。
「そうして、数だけは集めたとしても、今度は統率の問題がある。ハルカ、今お前はうちのサブギルドマスターだが、メンバーが〈蒼翼騎士団〉並みにもし増えた場合、お前が数十人を纏める事になるんだぞ?」
「ええっ、それはちょっと……。ボクには無理じゃないかなぁ、あはは……」
「だろ? かといって、新入りにそんな大事な役職をおいそれと任せる訳にもいかないぞ」
特にうちのギルドは、"生存の書"と"封印の書"を大量に所有している。
そしてその一部は、サブギルドマスター以上の役職にしか取り出し権限の無いギルド倉庫に保管してあるのだ。
そんな訳もあって、仮に有能で統率能力に長けた人材が居たとしても、まだ信の置けない相手に重要な役職を任せるつもりは俺には毛頭無いのだ。
「うん、確かにそうだよね……」
「そしてある意味一番の問題は、その"生存の書"そのものの扱いについてだ。今現在、うちにギルドが8つ程所有しているが、多分この数は現状では最多だと思われる。だがそれでも、うちのギルドメンバー全員に配ったら、一つも余らない程度の数なんだぞ?」
俺達4人に、ブリギッド達生産組が4人、合わせて8人とギルドとしては小規模な人数だが、それでもギリギリなのだ。
"封印の書"への対策分も数に入れれば、むしろまだ全然足りていないと見るべきだろう。
「見た感じ、少なくとも奴らは100人以上がいた。だが、そんな人数全員に"生存の書"を行き渡らせるなんて真似、出来ると思うか?」
「うーん、どう考えても無理だよね……」
事前情報に依れば、エリアは全部で100。そして攻略済みのエリアが15。残るエリアは85となる。
ボスの規模などによっては、複数の"生存の書"を入手出来る相手もいるようだが、それを考慮に入れたとして、今後すべてのエリアを彼らが初討伐を為し得たとしても、全員に行き渡るかは微妙な数だ。
一応、エリアボス以外からの入手方法もあるので、実際はもう少し楽だろうが、それでもハッキリいって全員に"生存の書"を行き渡らせるのは現実的では無い事は分かって貰えるだろう。
「多分ブルーロビンの奴は、始めっからメンバー全員を助けるつもりなんて無いんだろうな」
大方、とりあえず数を揃えて、その中から優秀な働きを示したメンバーにだけ"生存の書"を与えるつもりなのだろう。
メンバーのやる気の向上や寄生行為の防止にもなるし、そういった方策自体は特に否定するつもりは無い。
だが――
「やっぱり俺としては、やはり仲間は全員生き残って欲しいからな」
これは単純な善意からではなく、俺個人の我儘な感情から生じるものだ。
仲間を見捨てるのは後味が悪いし、何よりカッコ悪いだろ?
トッププレイヤーたるもの、体面もまた重視すべき事柄なのだ。
そもそもにして、知り合いが死んで喜ぶ奴なんて、よっぽどの悪人か、奇人変人くらいのものだろうしな。
幸い、俺はそんな連中とは違い、その感性は割とまともなのだ。
「そっか、そうだよね。やっぱカイトはそうでなくちゃ」
ハルカが感心したように俺を褒めてくる。
おう、そうやってもっと俺を褒め称えるがいい。
「えっと、気分が良くなっているところに水を差すようで悪いのだけれど、現実問題として今後似たような状況に陥った場合、どうするつもり?」
「ううっ、俺があえて目を逸らしていた現実を突き付けないでくれ……」
「はいはい、それで?」
「……そうだな。やはり、フルレイドを共にした連中と、もっと密に連携を取るしかないだろうな」
そう†ラーハルト†達とガミガミ達、ついでにカズヒトだ。
彼らなら人となりはある程度知っているし、腕も確かなので協力するにはうってつけの人材だ。
「彼らをうちのギルドに勧誘するって事かしら?」
「……出来ればそうしたいが、多分無理だろうな。†ラーハルト†は多分俺と組むよりも、競い合いたい性分だから、一時的な協力関係は受け入れても、きっと同じギルドに所属はしてくれない気がする」
より正確にいえば、俺の下につくのを良しとしないというべきか。
そしてそれは多分、シンの方も似たようなモノだろう。
「そうね。彼はそんな感じね」
「ガミガミ達の方は、4人で既にギルドを結成したみたいだしな」
「新興宗教ガミガミ教、でしたっけ? あの、あれって一体どういう意味なんでしょうか?」
ユキハが首を傾げてそう尋ねて来るが、生憎俺もさっぱりだ。
そもそも、宗教なんてものに俺は全く興味が無いしな。
「そもそも、あれは宗教って言っていいのかしら……。妙に怪しげな感じだから、悪徳宗教、いえ、彼ら自身はそう悪い人達じゃないと思うから、そうなると一体なんて呼べばいいのかしら……」
何やら、ガミガミ教の存在について頭を悩ませているようだが、そんなに深く考えるような事じゃないと思うぞ、ナツメ。
「あとはそうだな。まだゲーム開始から1月しか経っていないんだ。多くのプレイヤーがそろそろゲームにも慣れて来た頃だろうし、新しく上位に躍り出るプレイヤーが出て来ても全然おかしくは無いからな。そんな奴らとのコネを上手く繋げるように頑張るしかないだろうな」
わざわざギルドに加入させなくとも、緩やかな協力関係を結べばそれでいいのだ。
数の力が必要になるなんて、そう毎回の事でも無いだろうしな。
余り変な連中と関わると、それはそれは面倒なので、付き合う相手は選ぶ必要があるだろうが、それでも仲間は増やしていく必要があるだろう。
「結局のところ、現状維持に近い方針な訳ね……。まあ、まだトップを維持出来ているし、性急な変化で問題が出ても困るし、それくらいで丁度いいのかしら?」
有体にいって俺の提案は、これまで行ってきた俺達の行動からなんらズレるモノでは無い。ナツメの言う通り、現状維持に他ならない。
「ぶっちゃけ、こういった事象にこれといった正解は存在しないからな。である以上は、現状と擦り合わせながら手探りで、ゆっくりと調整していく他ないだろうさ」
聞こえのいい言葉でサクッと纏めて、俺はこの話を終わりにする事にした。
「それより今は、"不毛の荒野"の攻略について考えるべきだろうな。何か新しい情報が入ってないか、ブリギッド達に尋ねてみるとしよう」
とはいえ、本当に重要な情報を手に入れていれば、向こうから連絡してくるだろうから、期待薄だろうが。
「ねぇ、その前に一度、睡眠取らない? ボクそろそろ……」
「……そうね。私も少し疲れたわ」
っと、そう言えば長い事、休みを取ってなかったな。
そんな訳で休みを取るべく、俺達は各自の個室へと散っていく。
そして、俺は久しぶりの惰眠を貪っていたのだが……。
「カイトはん! 大変や!」
寝ている俺の耳に突如、そんな声が響いて来る。
「どうしたんだブリギッド、そんなに慌てて……」
「なんや、もしかしてまだログ見取らんのか? "不毛の荒野"が攻略されたんは知らんの?」
どうやら俺が寝ている間に、何者かが攻略してしまったらしい。
結局、一度も挑戦する事無く終わってしまったのは少し残念ではある。
「確かに重要な事実だが、そんなに焦る事か?」
それだけなら、俺が起きてから伝えても特に問題無いと思うのだが……。
「ちゃう! 本当に重要なんは、その後や! そいつらが何や〈全民公敵〉とかいう連中にPKされて、"封印の書"を奪われてしもうたそうなんや!」
ブリギッドのその言葉に、寝ぼけていた俺の思考が一気に覚醒する。
「その話、詳しく聞かせてくれ!」
ベッドから飛び起きて、すぐさまギルドの会議室へと俺は向かうのだった。
申し訳ありませんが、諸事情により1週間程更新をお休みさせて頂きます。
更新再開は9/28もしくは9/29からを予定しております。




