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70 数の力

 意気揚々と"牛馬の高原"のエリアボス〈アステリオス〉と〈ケイローン〉に戦いを挑んだ俺達だったが、あっさりと返り討ちに遭ってしまう。


「ちょっと反則だな、ありゃ……」


「そうね。あんな重そうな鎧を着ているのに、あの動きはちょっと卑怯だわ……」


 〈アステリオス〉は全身を金属鎧で纏った鈍重な見た目に反して、機敏な動きにて俺達の行く手を阻む。


「あの馬の人の魔法も凄かったね。ボクここで死んじゃうのかなぁってつい思っちゃったよ」


 〈ケイローン〉はその手に杖を構えたいた事からも分かるように、魔法を主体とした攻撃をしてきた。

 その威力も去る事ながら何よりこちらの驚異となったのは、その多彩さだ。

 種々の属性の魔法を場面場面に応じて的確に使ってくる為、その対処に追われロクに反撃をする事が出来なかったのだ。


「どうにか捕まえようとしても、無理でしたしね……」


 その上、〈ケンタウロス〉系のモンスター特有の四本脚を生かした高い敏捷性を活かし、〈アステリオス〉を盾代わりに使いつつフィールド中を縦横無尽に動き回る為、魔法の発動の邪魔をする事すらままならない有様だったのだ。

 あんな魔法の嵐の中で奴に近づき、攻撃を加えるのはかなり厳しいと言える。


「この様子だと、〈ケイローン〉から先に倒すのは難しいでしょうね」


 ここまでの道中〈ミノタウロス〉と〈ケンタウロス〉のコンビネーションに対しては、〈ミノタウロス〉の足止めをしているうちに比較的軟らかい〈ケンタウロス〉を先に仕留めるという戦法でどうにか対処してきた。

 だが、このエリアボス戦においては、どうやらその戦法は通用しない模様だ。


「そうだな。作戦を一度見直す必要があるな」


「んー。だけど、あの牛の人、すっごく堅くなかった? ボクの魔法の直撃を食らっても、ほとんどHPが減って無かったよ?」


 そうなのだ。

 見た目通りに高い防御力を持っており、こちらの攻撃がほとんど通らないのだ。

 弱点属性などがないかも、色々試してみたが、別段見当たらなかったしな。


「攻撃が大振りで避けやすい事だけが、唯一の救いだったわね……」


 圧倒的な耐久性に加え、それなりの機動力を持ち合わせており、一見完璧にも思える〈アステリオス〉だったが、唯一攻撃面に置いては若干の難が見られた。

 手に持つ大斧から繰り出される攻撃は、簡単に地面を抉り取る程に強烈なモノだったが、反面、モーションが分かりやすく回避は容易なモノであった。

 流石に攻撃性能まで高かったら、どうしようも無かっただろう。

 ただ、その事実も相方の〈ケイローン〉が圧倒的なまでの魔法攻撃能力を持っているせいで、ペアとしてみればそこまで致命的な弱点とは言えないものであったが。


「うーん。考えれば考えるほど、攻略の道筋が見えてこないな。……あれホントに1パーティで倒せる相手なのか?」


 実際に戦った感触から考えれば、最低でもミニレイド級(2パーティ)で相手をすべきボスに思える。

 一体一体だけですら、正面から戦えば並みのパーティでは全滅は免れない、それ程の強さなのだ。

 俺達の実力があればこそ、あの2体を同時相手にして辛うじて死を免れているのだ。


「HPバーは5本しかないし、きっとそれで間違いないんでしょうね……」


 だろうな。俺も残念ながら、そうとしか考えられない。

 そんな訳で、俺達だけであの2体を倒す必要がある訳だが、それを成し得るビジョンが全く見えていないのが現状である。


「せめて、2体を分断できれば勝機もあるんでしょうけどね……」


 4人で2体を相手するよりは、2人で1体ずつを相手取る方がマシだと考えて、実際に試してみたのだが、生憎その作戦は上手くいかなかった。

 別々にタゲを取り、奴らを引き離そうとしたのだが、2体の距離がある程度離れた時点で、これまで稼いだヘイトを完全に無視して、2体は合流してしまうのだ。


「あれはちょっと引き離すのは、難しそうだな」


 ヘイトの大小よりも、互いが連携する事を最優先に考えるAIらしく、引き離しての各個撃破はどうにも難しそうだった。


「とりあえず、何度も挑戦して何か攻略法が無いか、地道に探っていくしかなさそうね……」


 結局、ロクな作戦も無いまま、エリアボスへと挑戦を繰り返す俺達。

 だが、攻略の糸口が見つからないまま、ただ時間だけが過ぎていく。


「くそっ、どうしたもんか……」


 これだけ進展が無いと、どうにも苛立ちが抑えられなくなる。


「ねぇ、カイト」


「ああ、分かっている」


 ナツメが言いたいのは、今こちらに近づいている大人数の気配の事だろう。


「全く隠してないようだし、この人数は多分アイツラだな」


 一瞬、ラキシス達である可能性も考えたが、それは直ぐさま否定する。

 奴らならもっと気配を殺してくるし、何よりここまで数は多くない。

 集団の性質上、一気にメンバーの数を増やすなんて考えにくいしな。


「おや、なんだか苦戦してるみたいっすねー」


「……久しぶりだな。たしかシルなんちゃらだったか?」


「やだなーカイトさん。俺の名前はシルバリズムっすよ」


 勿論ちゃんと覚えていたが、嫌味の一つくらい言ってやりたい気分だったのだ。

 だが、シルバリズムはそれを特に気にした様子も無い。

 そんな彼の後ろには〈蒼翼騎士団〉の面々がずらりと並んでいる。

 色々とゴタゴタがあったこともあり、てっきり人数が減っているかと思っていたのだが、どうも逆に増えているように見えるのは、俺の気のせいだろうか? 

 いや間違いなく気のせいじゃない。だってどう見ても100人を超えているぞ!?


「やぁ、久しぶりだね。カイト君」


 集団の中から、一際目立つ派手な装備で全身を飾った男が現れる。

 奴こそがこの大集団を率いる長であるブルーロビンその人だ。


「ああ、そっちも元気そうだな」


「はは。君と一緒で僕も殺されちゃってね。これでも何かと大変だったんだよ?」


 俺が死んだ事にまで一々触れるな。

 イラつきが増すだろうが。


「そうか。……そう言えば、普通にパーティを組んでいるみたいだが、一体ここまでどうやって来たんだ?」


「ん? どうやっても何も普通に敵を倒しながら進んで来たけど?」


 ソロじゃないと、〈ミノタウロス〉と〈ケンタウロス〉の群れに襲われまくって、ロクに前に進めない筈なのだが、どうやら彼らは数の力でもって無理矢理押し通ってきたようだ。

 全く、色々と苦労した俺達が馬鹿みたいじゃないか。


「それで、僕らもエリアボスに挑戦したいんだけど、大丈夫かな?」


「ああ、構わない。譲ってやるよ」


 アイテム類が尽きた事で、どの道、一旦街に戻る予定だったのだが、折角なので軽く恩を売っておく事にする。

 ついでに、奴らの戦いを観戦して、攻略の助けにさせて貰うとしようか。


「ありがとう。じゃあ早速始めるとしようか。先遣隊、前へ!」

 

 大人数だけあって、様子見専用のパーティが存在しているようだ。

 重装甲の前衛2人に、ヒーラーが2人、かなり安全性を重視したパーティ構成のようだ。

 そいつらが、エリアボスの行動パターンを解き明かし、後ろに控える本命のパーティが討伐の参考とする為だろう。

 客観的視点からボスの動きを見れるのはかなりの利点だし、そういう意味では中々に合理的だと言えるだろう。

 そしてこれは、うちのギルドでは無理な戦術だ。正直なところ、少し羨ましい。


 その後、先遣隊は正しく敵の動きを見る事に専念した動きで、かなり長い時間エリアボスと戦い続けた。

 先遣隊の腕は、俺達から見ればまだまだといった程度だったが、それでも無理に攻撃を仕掛ける気がなく、ひたすら防御に専念すれば、相当に長いく戦えるようだ。

 というか、その役割に特化した連中なんだろうな。何でも回数をこなせばある程度は上手くなるものだ。


「成程ね。カイト君たちが苦戦している理由は大体分かったよ」


 そんなものは一度戦えば誰でも分かる事だ。

 俺が本当に知りたいのは苦戦する理由では無く、エリアボスを攻略する方法なのだ。

 

「確かにここのエリアボスは、呆れるほどに強いね。でも、僕らなら打ち破れる。そう君たちでは出来ない方法でね」


「俺達には出来ない方法? なんだそれは?」


「それは実際に見てからのお楽しみって事で」


 そう言って彼らは、ギルド通話を用いて打ち合わせを始める。

 声が聞こえず、ただ口だけ動いている姿は、ちょっと不気味だ。

 あんまり人前で、パーティ通話やフレンド通話を多用するのは辞めた方がいいかもしれない。


「さてと、では始めるとしようか。第一パーティ、行ってくれ」


 その言葉に、4人が前へと進み出る。


「行くぞ!」


 そして彼らは果敢にエリアボスの2体に立ち向かい、そしてある程度HPを削った果てに全滅した。


「おいおい、全員死んじまったぞ!? いいのか?」


「第2パーティ前へ!」


「「はっ!」」


 新たな4人が前へと進み出て、再びエリアボスへと挑んでいく。

 彼らもまた奮闘し、エリアボスのHPをかなり削った末、全員が死んでいった。


「まさか……」


 俺の問い掛けに、ブルーロビンから返事は無いが、きっとそれが答えなのだろう。

 彼らは、その身と引き換えにエリアボスのHPを削っているのだった。


「だけど、他のパーティが挑戦したらその時点で、HPが回復する筈では……?」


 ナツメのその疑問は、俺も思った事だ。


「普通はそうだね。だけど、例外もあるんだよ。例えば、そう。HPを削ったパーティが全滅した場合なんて時にはね」


「そういう事か……」


 彼らがわざわざ途中で逃げる事なく全滅するまで戦っているのは、他パーティが挑んだ際に発生するエリアボスのHP回復現象を阻止する為だったのだ。

 それが意味する事は即ち、端から彼らはエリアボスのHPを削る為の捨て駒だったという事だ。


「はぁ、澄ました顔して、またえげつない事を考えるな……」


「上に立つ者は、時に冷酷な判断を下さねばならない事もあるんだよ」


 困ったような顔で曖昧に笑うブルーロビンだったが、その瞳に迷いの色は一切見られない。

 冷酷だとは口にしたが、別に俺としても、別にその判断を特別批難するつもりは無かった。

 犠牲になる本人達が納得済みならば、十分に合理的な作戦だからな。

 もっとも、俺達に同じ事をやるのは無理そうだが。


 その後、10パーティ40名程が、エリアボスと対峙して散っていったが、最終的に彼らはそのまま数の力を押し通して、2体のエリアボスを倒してしまった。

 途中、ゲージの変化で敵の行動パターンにお決まりの変化も見られたのだが、それすらも全て人海戦術で押し切ってしまったのだ。

 こんな無茶苦茶な戦法が通るエリアボスばかりでは無いのだろうが、それでも今後の事を思えば色々な意味で脅威を覚えずにはいられない戦いぶりだった。


「なんだか疲れたわね……」


「そうだな」


 見れば、仲間達は皆ぐったりとした表情をしている。

 それもそうだ。あんな無茶苦茶な戦術を見せられても、こっちは参考にしようが無いからな。

 数の暴力の強さをまざまざと見せつけられて気落ちした俺達は、トボトボとこのエリアから去って行くのだった。


今後の更新についてですが、勝手ながら隔日更新に変更したいと思います。

引き続きどうぞよろしくお願いします。

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