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7 朱色の砂浜

本日更新2回目です。

続きは明日更新予定です。

 現在、俺達4人は"始まりの街"の東にあるエリア"朱色の砂浜"へと来ていた。


「綺麗な砂浜ね……」


 ナツメがそう呟くのも無理はない。

 遠くに見える海の青と真っ白な砂浜が、美しいコントラストを描いている。

 その景色は、俺の灰色モノクロの心を色鮮やかにするような魅力を持っていた。


 ――こんな所、現実にはもう存在しないよな。


「ここの雑魚Mobである〈クラブ〉は、砂浜の中から飛び出して奇襲してくる事もあるらしいから、足元には気を付けてな」


 俺達は、ずっと続く白い砂浜を歩いていく。

 途中に出て来る雑魚ガニたちは、俺とナツメでターゲットを引き寄せて削りつつ、トドメはハルカとユキハの魔法でやらせる。


 パーティを組んでいるので、誰がトドメを刺しても、経験値は全員に均等に分配される。

 だが、アビリティについては少し事情が異なる。

 こちらは使用した回数や、そのシチュエーションなどによって、得られる熟練度が変わるので、なるべく2人に稼がせたいからだ。


 というのも、どうやら2人とも、あれだけの近接戦闘技術を持つにも関わらず、希望は後衛職なのだ。


 ハルカは攻撃魔法主体の、いわゆる遠距離アタッカー(火力役)を目指しているらしい。

 ちなみに彼女の初期アビリティは、〈火魔法〉と〈雷魔法〉だそうだ。どちらも攻撃的な魔法が多いアビリティである。


 対してユキハは回復魔法や支援魔法を主軸としたヒーラー(回復役)に成りたいそうだ。

 彼女の初期アビリティは〈水魔法〉と〈土魔法〉。どちらも支援寄りな魔法が多いアビリティだ。

 特に〈水魔法〉には低レベルで取得できる回復スキルが存在するようなので、早めに習得して貰いたい所だ。


 どちらも、2人の性格には合ってそうだし、何よりパーティバランスを考えれば、むしろこちらからお願いしたいくらいだったので、その希望を快く受け入れたのだった。


 こうして俺達は、ハルカとユキハのアビリティの熟練度を稼ぎつつ、一直線に海を目指し、ついにエリアボスのもとへと辿り着いたのだった。

 そこには浅い水辺に佇む、全高2m超の巨大なカニの姿があった。


「あれが〈ジャイアントクイーンクラブ〉? ホントにでっかいカニなんだね」


「そうだな、さて、準備が出来たなら、そろそろ仕掛けるぞ!」


 そして俺達パーティとエリアボス〈ジャイアントクイーンクラブ〉の戦いが始まった。


 事前の打ち合わせ通り、俺とナツメがボスのターゲットを確保しに突っ込む。

 ハルカとユキハは周囲を警戒しつつ、タゲが固定されるまで待機だ。


「やぁぁ!」


 ナツメが先手必勝とばかりに、剣を振り下ろす。


「ギィィィ!」


 甲羅に覆われておらず無防備な横腹に手痛い一撃を食らい、敵が大きく仰け反る。

 その隙を突いて、俺も短剣での攻撃を仕掛ける。

 若干水に足を取られるが、そう致命的ではない。


 俺とナツメの波状攻撃を前に、ボスガニはただ闇雲にはさみを振り回すばかりだ。

 威力自体はかなり高そうだが、そんな雑な攻撃が俺達に当たる訳がない。


 あまりの手応えの無さに若干違和感を覚えつつ、油断なくHPを1ゲージ削り取った所で、ボスガニが変化を見せる。

 ブクブクブクッと泡を大量に吐き出し、それらがあっという間に周囲を埋め尽くしていく。


 軽く触れてみた感じ、ダメージは無いようだが、これだけの泡で視界を埋め尽くされていては、攻撃どころではない。

 已む無く俺とナツメは、一旦後ろへと下がる。


「あれ、何してるんだろね?」


「さあな」


 ハルカがそんな疑問の声を上げるが、俺にだってそんなのは分からない。

 ただ、何かよからぬ事をやってそうなので、泡の中に突っ込んで攻撃を仕掛けたい所だが、それも厳しい。

 あれだけ視界が悪いと、奴の強力なはさみの一撃を回避出来ない危険がある。直撃を貰えば、下手をすれば一発でHP全損も有り得る。


「という訳でだ、魔法で攻撃を仕掛けてみてくれ」


「分かったよ、〈ファイアボルト〉!」


「は、はい。〈アクアボール〉」

 

 ハルカが炎の矢を、ユキハが水の球を泡の中へと打ち込む。


「ギィィ!」


 泡の中から、うめき声が聞こえてくる。

 と同時に泡そのものがゆっくりと消えていく。


 そして再び姿を見せたボスガニが、ハルカへとターゲットを向け、横歩きで突撃してくる。


「ハルカ下がれ! ナツメ!」


「任せて!」


 ハルカに後退の指示を出しつつ、ナツメへと視線を向けるが、彼女は既に動き出していた。

 ボスガニの進路上に、ナツメが剣を構えて立ち塞がる。


「〈ヘビースラッシュ〉!」


 ナツメは、上段に構えた剣を思いっきり振り下ろす。


「ギィィィ!!」


 重い剣撃がボスガニの腹部へと入り、その巨体を大きく仰け反らせる。

 折角出来た隙なので、俺もついでとばかりに〈ポイズンエッジ〉を叩き込んだが、毒の状態異常を食らわせる事は叶わなかった。

 

 ――このゲーム、状態異常は基本ボスには効かない感じかな?


 そんな事を頭の端で考えつつ、周囲へと警戒の視線を配っていると、ある事に気付く。


「あれ、なんだ?」


 ボスガニが先程まで居座っていた場所に、直径1m程の赤茶色の球体が4つ程転がっていた。

 よく見ると、その球体は生きているかのように微かに震えている。

 嫌な予感を感じた俺は、咄嗟に武器を弓へと持ち替えてスキルを放つ。


「〈ピアシングアロー〉!」


 きっちり纏めて4つとも貫くが、それなりに耐久度があるのか、破壊しきれない。

 俺は更に矢を放ち、1つ1つトドメを刺していくが、残り1個という所で、その球体が自ら割れていく。


 その中からは、鮮血の如く真っ赤に染まったカニ型のモンスターが現れたのだった。

 どうやらあの赤茶色の球体は、ボスガニの卵だったらしい。

 泡の中で隠れて、しれっと産卵をしていたのだろう。

 泡内への魔法攻撃が遅れていたら、卵の数が更に増えていた危険性もある。そう考えると中々に初見殺しと言えよう。


 出て来た赤ガニの固有名は〈ヴァーミリオンクラブ〉。このエリアの雑魚Mobである〈クラブ〉よりも一回り程大きい。

 HPゲージは1本だから扱い上は、通常Mobなのだろうが、それでもその辺の雑魚Mobよりは、強いと考えるべきだろう。


「ナツメはボスを! ハルカとユキハはナツメの援護を! コイツは俺がやる!」


 素早く指示を出し、俺は赤ガニと向き合う。


「ギィィッ」


「〈ファストエッジ〉!」


 こちらへと向かってくる赤ガニの突進を軽く躱しつつ、すれ違い様にスキルを叩き込む。


「ギィィィィ!!」


 急所らしき腹部にきっちり叩き込んだにも関わらず、HPゲージは大して削れていない。


 ――思った以上に硬いな。ならばっ! 


「〈ポイズンエッジ〉!」


 クールタイムが回復していたので、今度こそとばかりに俺はこのスキルを放つ。

 ボスには状態異常は効かないようだが、こいつにはどうだ?


「ギィ!」


 無理矢理叩き込んだせいか、僅かなスキル硬直の隙を狙われ、回避が僅かに間に合わずはさみの先端が掠ってしまう。


 そういえば、敵からダメージを受けたのはこれが初めてだ。

 そう考えると少し感慨深いモノがある。

 とはいえHP全損にはまだまだ遠い。

 特に戦闘行動に支障は無いだろう。

 

 ――それに、十分なリターンは貰ったしな。


 赤ガニの身体を見れば、時折緑色に点滅しているるのが分かる。

 どうやら毒の状態異常が入ってくれたようだ。名前の隣にそれを示すアイコンも表示されているので、まず間違いない。


「〈アクアヒール〉」


 後は時間を稼ぐだけ、そう思っていた所に、ユキハから覚えばかりの回復魔法が飛んでくる。

 ナツメの援護をしつつ、こちらにも注意を配ってくれていたらしい。こういった視野の広さはヒーラーにとって重要な資質だ。

 俺が目礼を送ると、彼女はちょっと照れたような表情ではにかんだ。


「さてと、時間を稼げばそれだけで、倒せそうだが……」


 毒によるダメージは結構なモノらしく、赤ガニのHPゲージがガンガン削れていく。恐らく奴は毒への耐性を持っていないのだろう。

 この調子なら、毒の効果時間が切れる前にHPを削り切れるかもしれない。


 だが、俺としてはさっさとナツメの援護に行きたいので、奴のHPを更に削りに行くことにする。


「〈ファストエッジ〉!」

 

 高速の〈短剣〉スキルを始動技とし、俺は連続で赤ガニを斬りつけていく。

 当然、赤ガニもされるままでは無く、はさみを使い反撃を繰り出してくる。

 だが、この程度の雑な攻撃。避けるのは造作も無い事だ。


「〈ファストエッジ〉!」


 クールタイムの回復を見計らい、再度スキルを放つ。

 丁度毒ダメージと重なったらしく、赤ガニのHPゲージは0となり消滅した。


 それを確認した俺は、すぐさまナツメたちの方へと視線を向ける。

 そこは丁度ボスガニが、再び泡を吐き出す場面だった。


 それに合わせてナツメが、泡から距離を取る。

 それに僅か遅れて、ハルカとユキハから魔法による攻撃が飛ぶ。


「ギィィッ」


 泡が消え、再びボスガニが姿を現すが、対処が早かったおかげで卵は2つしかない。


「卵の処理は任せろ!」


 俺は弓へと持ち替え、卵を破壊していく。


 あとはこの繰り返しだ。

 ボスガニ単体の強さは、"月光の森"で倒した〈タイラントムーンウルフ〉よりも若干弱いくらいだ。

 厄介な、泡籠り産卵からの〈ヴァーミリオンクラブ〉召喚も、タネさえ分かれば防ぐのは容易だ。


 結局、HPゲージが残り1つを切っても、ボスガニの行動パターンに変化は無く、そのままあっさりと倒してしまった。


「わぁ! やったね!」


 ハルカが、ユキハとナツメ、2人の手を握りながら嬉しそうに飛び跳ねている。


「で、今回のMVPは誰だったんだ?」


 左下のログを確認したが、どうやら今回は俺では無かったようだ。

 となれば、該当者は1人しか思いつかないが……。


「私よ」


 ナツメが特に常と変わらぬ表情でそう言う。


「ナツメっち、おめでとー!」


「ナツメさん、おめでとうございます」


 ハルカとユキハが口々に祝いの言葉を述べる。


「まあ、今回のボスは大した事無かったからな。あれじゃ、俺のプレイヤースキルを活かしようが無いぜ、まったく」


 負け惜しみに聞こえるかもだが、それが事実なんだから仕方がない。

 

 ――別に悔しくなんかない。


「そうね。単純な相手だったから、火力で優る私が上に来るのは順当な結果だと思うわ」


 うむ。まったくもって、ナツメの言う通りだ。

 

 ――なんだかフォローされたようで、これはこれで悔しい気がする。


 話題を変えよう。


「ゴホン。……2人とももうレベル12か。大分成長したな」


 ちなみに俺とナツメは既にレベル15である。7レベル程あった差がもう、残り3つまで縮まっている。

 ちょっと悔しい気もするがこんなもんだろう。

 経験値バーの変動を見るに、恐らく彼我のレベル差で得られる経験値が変化しているようなので、当然の結果ではあるのだ。


「でしょー。ボクたちも頑張ったもんね」


「そうだな。さて、街に戻ってアイテム整理を済ませたら、次は"黄金の草原"へと向かうぞ!」


「分かったわ」


 俺の提案に対し、ナツメは表情を変えず頷く。


「ええっ」


「ちょっとは休もうよー」


 だがユキハとハルカの2人は、少し不満気な表情だ。


 おいおい、そんな体たらくじゃ、俺みたいな立派な廃人様には成れないぞ。


「いいから行くぞ!」


 ブウブウとうるさい2人を引きづって、俺達は帰路へと着いたのだった。


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