69 意外な抜け道
途中ラキシス達からの妙な横やりがあったりもしたが、めげずに"牛馬の高原"の攻略に勤しむ俺達。
だが攻略開始から既に10日が経とうしているにも関わらず、いまだ攻略の糸口を掴めずにいた。
「いい加減エリアボスの顔ぐらい拝みたい所なんだがな……」
そう、いまだエリアボスの所まで到達すらしていないのが現状なのだ。
〈ミノタウロス〉と〈ケンタウロス〉の波状攻勢を前に、俺達はずっと足踏み状態を余儀なくされている。
レベルの上昇も既に止まっており、これといった進展も無く、閉塞感に包まれている。
「ごめんなさい……。私が……」
そう俯きながら呟くナツメ。
彼女はラキシスとの邂逅の後、その動きに精彩を欠いてた。
「まっ、誰だって調子の良いとき悪い時はあるさ」
「そ、そうだよっ。気にする事ないよ、ナツメっち!」
「あ、あの、元気を出して下さい」
どうして、たったあれだけの言葉を掛けられただけで、ここまで動揺するのか問い質したい所ではあったがやめておく。
彼女の性格上、自分から言い出さないのは、それだけ話したくない事情があるんだろう、きっと。
「それにナツメの不調だけじゃないからなぁ、攻略が進まない原因は」
正直なところ仮にナツメが本調子だったとしても、現状にそう大差は無かったと思われる。
それほどに、このエリアの敵は単純に手強いのだ。
いや、そもそもを思えば、これまでが余りに順調に行き過ぎだったのかもしれない。
このゲームの制限時間は1000日間。対してエリアの総数は100。
1つのエリアの攻略に10日掛けてもいい計算なのだ。
無論、後半の難易度上昇などのトラブルに備えて、素早く攻略する事自体は重要なのだが、それでも流石に早すぎたのかもしれない。
今のところ僅か30日で、既に14エリアも攻略しているからな。
このペースで進めば、制限日数の4分の1も消化しないうちにクリア出来てしまう計算になるが、流石にそれは運営として許容出来ないのだろう。
最新鋭の設備と共に3000人という多数のプレイヤーを巻き込んだ以上、かなりの予算がこのゲームには投じられている事が推測される。
であれば、恐らく制限ギリギリまでクリア出来ないように調整してくる可能性が高いと思われる。
なので攻略状況によっては運営が何らかのテコ入れをしてくる可能性は非常に高いのだ。
そう言う意味では、もしかしたら俺達はちょっと頑張り過ぎたのかもしれないな。
「こうなると、他のパーティと連携を取る事も考えないとな……」
ただ最前線の戦闘に耐えうる面子で俺が声を掛けられるのは、†ラーハルト†達とガミガミ達だけしかおらず、彼らは今のところ"不毛の荒野"の攻略を頑張っているようだ。
当初ここを攻略していたガミガミ達だったが、得意の隠形が全く通用しないせいで、ここの攻略を諦めたらしい。
このエリアを攻略しているプレイヤーは俺達以外にも何組もいるのだが、コンタクトを取ろうにも避けられてしまっている。
多分、ラキシス達が流した噂の影響がまだ残っているのだろう。
そんな訳もあって、連携を取ろうにもその相手の心当たりが無いのが現状だった。
「ってあれ、カイトさんじゃん。こんちはー」
そんな風にして頭を悩ませている俺達の背後から、そんな声が掛かる。
「なんだ、カズヒトか。またソロか?」
「なんだって、その言い方は酷くない? そして、勿論ソロだよ」
本人的には別にソロに拘っている訳ではないそうなのだが、腕前的には他のギルドやパーティから勧誘が来ているように思う。
にも拘らず今だソロな辺り、なんだかんだいいつつも好き好んでやっているようにしか見えない。
「そうか。だがいくらお前でも、ここのソロは厳しくないか?」
「えっ? そうかなぁ。むしろソロするだけなら、今まで一番楽だった気がするけどなぁ」
んん? どういう事だ?
「えっと、敵は1体ずつしか出てこないし、凄く楽じゃない? 流石にエリアボスには負けちゃったけどさ」
「おい!? もうエリアボスまで行ったのか!?」
俺達がどれだけ頑張っても、その顔を拝む事すら出来なかったというのに。
「う、うん。〈アステリオス〉っていう〈ミノタウロス〉のでっかい奴と、〈ケイローン〉っていう魔法を使う〈ケンタウロス〉の2体がボスだったよ」
「そうか。良し、対価はきちんと払うから、ボスまでの行き方を教えてくれ!」
「え、えっと……。行き方を教えろって言われても、特に何も変わった事はしてないつもりなんだけど……」
「またまたー。そんなに隠さなくてもいいじゃないか」
「いや、だから、ホントだって!?」
色々と問い詰めてみたが、どうも嘘を吐いている気配は無い。
「ねぇ、もしかして、ソロで行くことそのものが条件なんじゃないかしら?」
ふと思いついたようにそう呟くナツメ。
確かにそれは盲点だった。
「ふむ。それなら一応説明はつくか……」
「あれ、もしかして俺、余計な事しゃべっちゃった?」
自覚の無いまま、適切な攻略法を取っていたカズヒト本人は、迂闊にも俺達にその情報を漏らしてしまった事実に気付いたようだ。
「ははっ。なぁに、お前のお蔭で攻略が進展しそうなんだ。もしさっきのが本当なら、ちゃんとそれなりに対価は払うさ」
「ううっ、折角のソロ攻略のチャンスだったのに……」
今更ながらに大チャンスを逃した事に気付いたカズヒトは、かなりショックを受けている様子だ。ドンマイ。
「良し、早速試してみるぞ。とりあえず一旦俺はパーティを抜けてソロで先に進んでみる。何かあったらすぐ連絡するから、ここで待っていてくれ」
「分かったわ。……絶対に無理はしないでね」
心配そうな表情をナツメらは浮かべているが、幸いこのエリアでPKを受ける心配はほとんど無い。
というのも、隠形能力の類が一切通用しないため、俺が何をするでもなく、モンスター達がPKの存在を察知してくれるからだ。
完全に囲まれる前にその存在に気付くことさえ出来るのなら、俺一人で奴らから逃げるのは、そう難しい事では無いのだ。
モンスターが強すぎる故に、PKの心配が無いというのは、また皮肉な話ではあるが。
ショックで呆然と突っ立っているカズヒトは放っておいて、パーティから抜けた俺は一人先へと進んでいく。
それから、そう間を置かずして、モンスターと遭遇するが――
「へぇ、カズヒトの話は本当だったのか……」
行く手を阻むモンスターは〈ケンタウロス〉ただ1体のみ。
正確には周囲に気配はいくつもあるのだが、どうも手を出しては来ないようだ。
パーティで攻略していた時には、まずこのような事は有り得なかった。
「長槍を構えて武人気取りって事か?」
集団には集団で対抗を、一人には一人で対抗するという訳なのだろう。
潔い話ではあるが、たった1体相手ならば俺が後れを取る事はそうそう有り得ない。
「そこを退いて貰うぞ!」
そうして、行く手を阻むモンスター達を蹴散らしていく。
相手が〈ミノタウロス〉の場合もあったが、やる事は変わらない。
ただ打ち倒すのみ。
これまでの苦労が嘘のように、エリアをどんどんと先に進むことが出来、僅か1時間程でついにエリアボスの許へと到達する。
「あれがカズヒトが言ってたエリアボスか?」
俺の視線の先にある小高い丘の上には、〈アステリオス〉と〈ケイローン〉、2体のエリアボスが鎮座していた。
〈ミノタウロス〉が所々に皮製の鎧を纏った軽戦士といった様相であったのに対し、〈アステリオス〉はその全身を金属の鎧で守っている。
二回り程大きなサイズと相まって、装甲車のような強烈な威圧感を放っている。
対して〈ケイローン〉は〈ケンタウロス〉と比べても、多少大きな躯体と装備が若干豪奢な程度で、装甲の強度に大きな差は無いように見える。
だが、長槍では無く杖を手にしており、奴が魔法を扱う事を窺わせる。
〈ケンタウロス〉以上に、より後衛に特化した存在という訳なのだろう。
そして残念な事に、どうやら彼らは道中のMobとは違い、俺と1対1で戦ってくれる訳では無さそうな雰囲気だ。
まあ、それはそうだろう。でなければカズヒトがそのまま倒していただろうしな。
〈アステリオス〉はその重装甲故に、恐らくその鈍重さが弱点なのだろう。
対して〈ケイローン〉は、多少強化がされているにしても、基本的には機動性特化の紙装甲のようだ。
故に1体が相手ならば、その弱点をつけばいいのだが、その2者が組んでいるとなれば話は別だ。
短所は補われ、長所はより際立つ。
その事実は、このエリアでの戦いで嫌という程、実感させられている。
「まあ、ソロが駄目なら、こっちもパーティで挑めばいい訳だ」
カズヒトとは違い、俺にはその選択肢が存在するのだ。
彼女達の実力ならば、ソロでここまで抜けてくるのも、特に問題は無いだろうしな。
そう言う意味では、実はここのエリアは、個々人のソロでの戦闘力が最低限確保されているかを、試しているのかもしれない。
たまに、回復などに特化しすぎて、ソロが全くできない奴もいるので、そういった連中の選別の役割を果たしているのかもな。
「(――という訳だ。パーティを一旦解散して、一人ずつでこっちにやって来てくれ)」
フレンド通話で連絡し、俺は彼女らの到着を待つ。
「お待たせ」
ナツメの到着から多少遅れて、ハルカとユキハもそれぞれやって来る。
全員無事なようで、とりあえず一安心だ。
「……あれがエリアボスなのね」
「もー、やっとで来れたよ」
タイマンなら比較的組し易い相手だったとはいえ、それでも決して弱い敵では無かったからな。
その気持ちは良く分かるぞ。
「さて。ここまで来れば、パーティを組んでもどうやら問題無いようだな」
ソロを解消しても、エリアボスやその周囲に特に変化は見られない。
「さてと、いい加減このエリアでの戦闘も、終わりにしますか!」
その言葉と共に、俺達は2体のエリアボスへと向かっていくのだった。




