65 光と闇の精霊(後編)
作戦を練り直した俺達は再び〈ライトエレメンタル〉と〈ダークエレメンタル〉、2体のエリアボスへと戦いを挑む。
「〈バーニングハンド〉!」
ハルカがその手に纏わせた炎の一撃を〈ダークエレメンタル〉へとぶつける。
このスキルは威力こそ高いもののかなり接近する必要がある為、中々扱いずらいのだが、ハルカは十全に使いこなしている。流石だな。
「良し、タゲは取れたな。あとはゆっくり引き離してくれ」
まずは2体のボスを引き離さない事には、俺やユキハが攻撃に参加出来ないからな。
「良し攻撃開始だ。HPゲージの変わり目には注意しろよ」
無事2体の距離が離れた事で、俺達は攻撃を開始する。
エリアボスだけあって中々硬いが、攻撃方法さえ間違えず、援軍を呼ばれる事態にならなければ、そう大変な相手でも無い。
2体のボスはHPをじりじりと擦り減らしていき、遂に〈ライトエレメンタル〉のHPゲージが4ゲージを割る。
「さて、何か変化はあるかな?」
様子を見守っていると、2体が動きを止める。
「なんだ? 光の方だけじゃなく、闇の方まで?」
〈ダークエレメンタル〉のHPはまだ4ゲージを割っていない筈なのだが、〈ライトエレメンタル〉に連動するようにしてその動きを止める。
その事を訝しんで動けずにいると、突如として2体の姿が掻き消える。
「くっ。どこに行った!?」
慌てて周囲を見回すが、どこにも奴らの姿はどこにも見当たらない。
周囲の気配を探っても、それは同じ事だった。
「くそっ、逃げられたか? ともかく探すぞ!」
この隙にHPを回復などされては、折角の苦労が水の泡だ。
それだけは何としても阻止しなければならない。
そんな訳で俺達は、4人纏まって移動を開始する。
出来れば散開して探したい所だが、このエリアで戦力を分けるのは流石に自殺行為だろう。
「見当たらないわね……」
「奴ら、一体どこに逃げやがった?」
エリアの奥へと探しに向かうが、途中雑魚Mobの妨害などもあって捜索は遅々として進まない。
ただイライラが募るばかりだ。
仮に奴らが自己再生能力を有していたとしたら、もう全快していてもおかしくない時間が経ってしまっている。
「ねぇ! ほら見て、あそこっ!」
1時間程の間、ずっと樹海を彷徨った挙句、ようやく奴らの姿を発見する。
「幸いHPは回復していないみたいね」
どうやら奴らに自己再生能力は備わっていなかったようだ。
見失った時点からHPゲージに変化は見られない。
「もう一回攻撃を仕掛ける。行動パターンに変化が無いか注意しろよ」
そう注意を喚起しつつ、慎重に攻撃を仕掛ける。
幸いにも、特に行動パターンに変化は見られないようだ。
「となると、HPゲージの変わり目で逃走するだけなのか?」
攻撃が激しくなったりといった変化が無いので、楽なようにも思えるが、実際の所、この広く視界の悪いエリアを逃げ回られるのは、それはそれで非常に面倒である。
「ってまた消えたよ!?」
今度は〈ダークエレメンタル〉の方のHPが4ゲージを割ったタイミングで、2体揃って動きを止めて、その僅か後に姿を消した。
先程と全く同じ光景の繰り返しだ。
「成程な。どっちかのゲージの変わり目毎に、2体揃ってこのエリアのどこかに逃げ出すって事か。となると、後6回程は同じ事をやらされるかもしれない訳だ」
正直、敵と戦ってHPを削るよりも、逃げ出した敵を見つける事の方が大変だ。
そういった意味でも、これまでに無いタイプのエリアボスだと思う。
ただ、時間さえ掛ければ確実に倒せそうな事を考慮すれば、これまでのエリアボスと比べればまだ楽な部類なのかもしれないな。
などと思っていたのが、フラグだったのだろうか。
事態は悪い方向へと転がる。
「あ、あそこじゃない?」
再び、2体を発見した俺達だったが、そこには先客の姿があった。
「うおお。いきなりエリアボスと遭遇かよ? 俺達もしかして超ついてねぇ?」
「んだな。これで"封印の書"は俺達のモノだ!」
今回、エリアボスが逃げたがエリアの入り口付近だった事もあり、ここにやって来たばかりのパーティに見つかってしまったようだ。
横取りもムカつくが、それよりも不味い事実に気付く。
「おい、ま――」
それを彼らに伝えるべく、俺は声を上げようとするが、どうやら一歩遅かったらしい。
「ちょっ、なんだよこれっ!?」
彼らは特に考え無しに攻撃をしかけて、精霊の召喚を誘発してしまったようだ。
気が付けば、30体程の精霊Mobがその一帯に出現してしまっていた。
「くそっ、援軍か。このっ」
「死ね! 死ね!」
更に悪い事に、雑魚精霊たちに闇雲に攻撃を仕掛けてしまった為、更に事態は悪化の一途を辿る。
「はぁ!? 分裂した!?」
驚くのも無理はないだろう。
俺達も最初はかなりビックリしたからな。
しかし、分裂した姿を見ても尚、攻撃の手を止めないのは流石にちょっと頂けないが。
「ちょっ――」
その後、彼らは大量に増えた精霊たちから魔法の一斉爆撃を受けて、全員が粒子となって消えて行ったのだった。
「あーあ、やはりこうなったか……」
彼らは自分たちの事を幸運だと言っていたが、決してそうでは無い。
これまでの経験上、大抵のエリアボスは、そのエリアの雑魚Mobの強化バージョンである事が多い。
それ故、雑魚Mob相手にある程度戦闘経験を積んでいないと、ロクに戦えないように設定されているように思える。
にも関わらず、いきなりエリアボスと遭遇してしまった彼らは、間違いなく不運だったと言えよう。
俺達でも初見でいきなりだったら、全滅してた可能性は十分にあるからな。
そう考えると、彼らの醜態も余り笑えるものでは無い。
「さてと、はぁ……。雑魚Mobの数が大分ヤバい事になってるな」
遠目で見る限り、精霊達は100体近くまでその数を増やしていた。
これではエリアボスと戦う事など、まず不可能だろう。
――となれば時間経過で、精霊達が周囲に散っていくのを待つしかないか。
「……あの、もしかしてボスのHPゲージ回復していませんか?」
ユキハのそんな呟きに釣られて、奴らのHPゲージを思わず凝視してしまう。
――なんてこった……。
そのユキハの指摘が正しい事を理解して、頭が痛くなる。
どうやらHPを削ったパーティ以外が攻撃を仕掛けてしまったせいで、ボスのHPが全快してしまったようだ。
俺達のこれまでの苦労が、水の泡になってしまったという訳だ。
「これさ。もしかして奴らが逃げ出す度に、他のパーティに殴られないようにすぐに見つけなきゃいけないって事か?」
ゲージの変わり目毎に奴らが逃亡すると仮定すれば、8回も逃げた奴らを探し出す必要がある訳だ。
そして、その間、他のパーティに先を越されてはいけないとなると、かなりの綱渡りになる事が窺える。
「……でしょうね」
ナツメもその事を理解したのか、疲れたように息を吐く。
どうも今回のエリアボスは、強さよりも嫌らしさにステータスを全振りしているらしい。
「はぁ、また1からやり直しと行きますか……」
正直気分は乗らないが、ボス撃破までの道のりは見えているのだ。
ここで諦めてしまうのは、それはそれで勿体ない。
そんな訳で、敵の数が減るのを待ってから、再び俺達はエリアボスへと攻撃を仕掛けるのだった。
◆
それから、何度となく逃げたエリアボスを探しては削るを繰り返す。
途中2度程、他のパーティにエリアボスを先に見つけられて、HPを全快にされてしまうという事件はあったが、それにもめげずに俺達は奴らのHPを削り続ける。
「おらぁ! これで終わりだっ!!」
エリア中を散々走り回らされた恨みの呪詛を込めて、攻撃を思いっきり叩き付ける。
それによって、最後に残った〈ダークエレメンタル〉を無事倒す事に成功した。
「ふぅ、なんとか終わったわね……。これで樹海自体にも仕掛けがあったらと思うと……」
幸いにして、マップギミック自体は俺達の知り得る範囲では存在しなかったようだ。
でなければ、もっとエリアボスの捜索に苦戦しただろうからな。
流石にそこまで鬼畜な難易度設定には運営もしていないようだった。
「人が少ないのも良かったよね。ここが大変だっていう噂のお蔭かな?」
その噂自体は意図して流されたモノでは無かったのだろうが、結果的にこのエリアの挑戦者の数を減らす事になり、間接的にだが攻略の助けになってくれた。
もし、今以上にプレイヤーの数が多くいれば、HPを回復された回数は3回どころでは済まなかっただろうしな。
そういった意味でも、まだ未攻略エリアが多く残っている今のうちにここにやって来た俺達の判断は正しかったと言えるだろう。
「でMVPはナツメか。まあ当然か」
ぶっちゃけ、今回の俺はあまり活躍はしていない。
無論、役立たずという訳でも無かったとは思うが、活躍ポイントは下手したら一番少ないかもしれない。
けれど、自分に適した役割に応じた行動を取った結果なので、然程不満は無い。
不満を覚えるくらいなら、もっと色々こなせるよう自分を高めるべきだしな。
「さてと、帰るとしますか」
「そうね。こんな薄暗い所、さっさと去るとしましょう」
ずっとエリアの端から端まで走り回されたせいで、皆大分疲れてはいたが、エリアボス討伐をやり遂げた事もあり、その表情は晴れやかなモノだった。




