64 光と闇の精霊(前編)
一度休息を取った後、俺達は再び"精霊の樹海"に来ていた。
だが、攻略は遅々として進んでいない。
その理由は極々単純だった。
「良し! またレベル上がったな。ここマジ美味しいな!」
「そうね。ここで狩りをしていると、"竜虎の平原"での狩りが馬鹿らしくなってくるわね」
「ここに来てからもう3つもレベル上がってるよ。こんなハイペースなのって、ホント久しぶりだよね」
そう。俺達はエリアボスを探すことなく、ひたすらレベル上げに邁進していたのだ。
ここの雑魚Mobである精霊モンスター達は、いずれでも攻撃一発で倒せるほどに軟らかい。
精霊の属性によって適切な攻撃方法を取る必要があるが、それさえ理解していれば単なるカモに近いのだ。
たまに先手を取られてしまい、周囲を無茶苦茶にされて猛ダッシュで逃げ帰る事もあるが、そのロスを差し引いても尚美味しいのだ。
「とはいえ、そろそろ経験値の溜まりも遅くなってきたし、次レベルが上がったら攻略を再開するとしようか」
「……そうですね。そろそろ眠気が……ふぁ……」
ユキハが目を僅かにトロンとさせながらそう答える。
確かに、狩りを開始してからもう30時間は経過している。
そろそろ皆限界も近いだろう。
効率が良いからといって夢中になり過ぎたようだ。
そんな訳で一度休息を取り、今度こそエリアボスを発見すべく"精霊の樹海"の奥地へと向かう俺達。
「しっかし、こうも周囲の景色に変わり映えが無いと、迷ってしまいそうだな」
周囲は相変わらず高い木々に覆われており薄暗く、出現モンスターにも変化が無いので、本当に先に進めているのか少し不安になる。
「そうね。来た道は全部ちゃんと覚えてるから、帰れないって事は無いはずだけれど……」
そう言いつつもナツメは若干不安気な表情を浮かべている。
まあ、いくら道を全て暗記していても、マップギミックなんかでそれを乱されたら終わりだからな。
迷いの森なんてゲームではありがちだしな。
「まあその時は、そのギミックもろとも攻略するだけだ」
むしろ、そんな分かりやすいギミックならば、攻略方法も熟知しているので逆に対処は楽なものだ。
そういった既知のギミックよりも、このゲーム独自のギミックの方がよっぽど危険だと思う。
「それもそうね。……ねぇ、あれ……」
ナツメがふと何かに気付いたように前方を指差す。
木々を抜けた視線の先に、白い光の球体と黒い闇の球体が浮かんでいるのが見える。
「……あれは光と闇の精霊ってとこかな?」
〈ライトエレメンタル〉と〈ダークエレメンタル〉。
どちらもこれまで見かけなかった種類の精霊モンスターだ。
「てかHPゲージ5本あるな。もしかして、あいつらがここのエリアボスなのか?」
上位属性の精霊がエリアボスという訳か。
「しかし、ボスにしてはちょっとショボい感じだな」
見た目は色や雰囲気が異なるだけで、他の精霊のマイナーチェンジ版だ。
サイズも一緒な為にあまりボスだという雰囲気がしないのだ。
そもそも、奴らの今いる場所からして特にボスの居所という感じはしないしな。
とはいえHPゲージ的にまず間違いないだろう。
これまでエリアボス以外で複数ゲージを持っていた敵は居ないからな。
「まずは慎重に攻撃を仕掛けよう。物魔どっちが有効か確認したいしな」
精霊モンスター達は、属性によって物理か魔法、どちらかの攻撃しか通じなかった。
となれば、奴らもそれに習う可能性が高い。おあつらえ向きに2体いる訳だしな。
「まずは俺が弓で遠距離から様子を見る。総攻撃はその後だ。ハルカ、あれを頼む」
「りょーかい。〈フェイド〉」
〈光魔法〉で姿を消して、弓を構えたまま奴らへとゆっくりと近づいていく。
周囲に草木が多い為、音を殺して歩くのは至難の業だったが、どうにか無事、気付かれないまま弓の射程内へと近づくことが出来た。
「(仕掛けるぞ)」
パーティ通話でそう伝えてから、俺はまずは魔法の矢を〈ライトエレメンタル〉へと放つ。
「(……マジか)」
矢は〈ライトエレメンタル〉の表面に吸い込まれ、同時に6種類の精霊モンスター達がその周囲に召喚される。
「(光の方に魔法攻撃はダメみたいだな。次は物理で行く)」
ダメージを全く与えなかった為、先程の矢は攻撃と認識されていないのか、精霊の召喚以外に特に動きは無い。
「(食らえ!)」
続いて放った普通の矢は、今度は特に吸い込まれるという事も無く、奴のHPバーを僅かだが削る事に成功する。
――となると光に物理を、闇には魔法で対処すればいい訳だな。
ダメージを与えた事で〈フェイド〉の効果が解け、その場にいる精霊モンスター全てが俺の方へと視線を向けて来る。
「やるぞ!」
気付かれてしまった以上、一人で隠れている意味は薄い。
あとは全員で戦うだけだ。
「まずは雑魚の処理からだ!」
経験上、召喚された各種精霊モンスターを放置しておけば、間違いなく大惨事になる事は分かっている。
その事は彼女達も分かっていたようで、俺の指示が届くその前に、既に動いていた。
「やぁぁ!」
ナツメが炎・風・雷の精霊を続け様に斬り捨てる横で、ハルカとユキハも魔法によって残りの精霊たちを始末していく。
一方その頃、俺は光と闇の精霊、2体のエリアボスから攻撃を受けていた。
「くっ」
〈ライトエレメンタル〉の主力攻撃は白い閃光によるものだ。
威力そのものは大した事ないようだが、攻撃速度が恐ろしい程に速く何度か直撃を受けてしまう。
一方〈ダークエレメンタル〉が放つのは黒色の重力球だ。
こちらの攻撃はゆらゆらと、極ゆっくりとした速度でこちらへと向かってくる。
それを避ける事自体は勿論簡単なのだが、避けても再度こちらへと向けて方向転換を図って来る。
しかもその重力球はかなりの威力を持っているらしく、周囲の草木を押し潰しながら進んでいる。
直撃を貰えば結構ヤバそうだ。
――閃光を多少食らってでも、重力球の方は絶対に避けないとマズイな。
ある程度ダメージを覚悟すればだが、とりあえず反撃が可能な程度には余裕が生まれる。
しかし、それがまずかった。
「ガイデッドシュート!」
〈ダークエレメンタル〉へと10本もの誘導性の魔法の矢が飛んでいく。
「なっ!?」
とここで、〈ライトエレメンタル〉が庇うようにして前に出て来て、一身に魔法の矢を受けてしまう。
結果、10×6で60体もの精霊モンスターが一斉に召喚される。
「えええっ、何これ!?」
「悪い! ミスった! 撤退するぞ!」
流石にこの数を相手にするのはいくらなんでも無理だ。
俺達は60体もの精霊の魔法攻撃に怯えながら、這う這うの体でこの場から逃げ出したのだった。
◆
どうにか逃げ延びて一息ついた俺は、ナツメ達の前で90度に身体を折り曲げる。
「すまん。完全に俺のミスだ……」
言い訳のしようも無い大失態だったので、ひたすら俺は頭を下げる他ない。
「カイト、謝罪はいいから状況を教えて頂戴」
確かにそれもそうだな。
俺は起こった事について説明をする。
「うーん。もしかして誘導系のスキルって実は思ったよりも使い勝手が悪いの?」
悔しい事に、そのハルカの言葉にも一理あるのを認めざるを得ない。
ついこの間も〈マザーワイバーン〉が〈ストームタイガー〉へ擦り付ける場面を見たばかりだ。
「弾速自体はそんなに早くないしね、あれ」
そうなのだ。
なので知能が高い敵には、下手をすると今回のようにその高い誘導性能を逆に利用されてしまう。
「他の精霊モンスター達はそんな事をしなかった以上、見た目はどうでもやっぱりエリアボスって事なんでしょうね」
見た目が雑魚モンスターのマイナーチェンジだからと言って、舐めて掛かってはいけない訳だ。
「そうだな。どうやら速度の遅い遠距離攻撃は、どっちか一体を倒すまではご法度みたいだな」
先程のように、敵を増やす結果になったら目も当てられないからな。
「なら私が先に〈ライトエレメンタル〉を倒すのに専念した方が良さそうね」
接近戦なら誤爆の心配は少ない。
そして彼女の攻撃は物理なので、〈ダークエレメンタル〉には通らないので、逆は不可能だ。
「そうだな。闇の方は、俺がタゲを持って引き離すとしよう」
流石に2体のタゲを持っての接近戦は大変だからな。
それぐらいは頑張らせて貰うとしよう。
「だったら、今回はボクの方が適任じゃない? ボクなら魔法で接近戦もある程度出来るし」
彼女が得意とする〈火魔法〉には近接向けのスキルがいくつか存在している。
そう言う意味では確かに俺より向いているかもしれない。
俺が短剣を持ったとしても、〈ダークエレメンタル〉には攻撃は通じないしな。
ハルカの身のこなしは最初から只者では無かったし、今ではゲームでの動きにも随分慣れて来ている。
ならば任せてみるのも一つの手だろう。
実際に経験しないと人は成長しないものだしな。
「分かった。今回のミスを挽回したい所だったが、そっちの方が良さそうだな」
汚名返上に下手に拘って、より良い選択肢を捨てるのはあまり宜しくない。
そちらについてはまた別の機会に頑張るとしよう。
「となるとユキハは支援に専念するとして、俺は遊撃担当かな」
エリアボスの居所が、専用にあつらえたモノではなくごく普通の場所だったことから、戦闘中に雑魚が乱入してくる事も懸念される。
今回の俺の役回りは、そういった不測の事態に対応する為の予備戦力という訳だ。
物魔両方を使えるから、誤爆に注意しながら、ちまちま2人の援護をする事も一応は可能だしな。
作戦も決まった事で、俺達は再びエリアボスへと挑戦しに向かうのだった。




