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62 精霊の樹海

 現在俺達は"大樹の祠"へとやって来ていた。

 この西側に位置するエリア"精霊の樹海"へと向かう為だ。


「なんか北側はずっと森ばっかだよなぁ」


 唯一"渇水の砂丘"だけは違うものの、全体的に木々の多い地形となっている気がする。


「そうね。そして、その傾向が更に高まっている気がするわね……」


 ナツメの言う通り、西側へ進めば進む程、木々の茂り様はその密度を増しており、徐々に辺りは薄暗くなり始めていた。

 ゲームの仕様上、暗いからと言って別に全く見えなくなる事は無いのだが、それでも多少なりとも戦闘などに支障は出てくる。


「まあ樹海って名前についている以上、ある程度は覚悟していたが、これはちょっと大変そうだな」


 厄介な事に、これだけ木々が繁茂しているにも関わらず、まだ"精霊の樹海"に踏み込んですらいないのだ。

 道も整備されたモノから徐々に獣道といった様相に変化している。

 この調子ならば、いざ目的地に着いた頃にはどうなっている事やら。


「モンスターが現れないのも、ちょっと不気味よね」


 そうなのだ。

 そこら中に気配はあるのだが、襲ってはこない。

 大樹の祠周辺では、わらわらと湧いていた〈トレント〉達も今は姿を見せなくなっていた。

 楽といえば楽なのだが、何か裏がありそうでちょっと怖い。

 

 とはいえ、引き返すという選択肢がある訳でも無く、ただ先へと俺達は進んでいく。

 一歩進むごとに、行く手を遮る草木がどんどんと鬱陶しくなってくる。


「あっ、エリア名の表示が変わったよ」


 ようやく目的のエリアに到達した頃には、すっかり辺りは真っ暗になっていた。

 現在の時刻はまだお昼前だ。

 となれば単純に生い茂った木々に、日の光が遮られているのだろう。


「うー。なんか変な雰囲気だね」


 確かにな。

 なんというか夜の暗さとはまた一味違う類の暗さなのだ。

 それが一層、この場所の不気味な雰囲気を演出している。


「敵の気配が周囲に多く感じられる。警戒しながら進むぞ」


 ずっと何かしらの気配をそこら中から感じてはいるのだが、今の所襲ってくる様子は無い。

 だが、それがずっと続く保証などどこにも無い以上、警戒を怠る事は出来ない。

 これが敵モンスターの気配ならば、恐らくそう遠くない内に攻撃を仕掛けて来る筈だ。


 それから少し進んだ時点で、そんな俺の予感は的中し、ついに敵が俺達の前に姿を現す。

 

「〈ファイアエレメンタル〉か。精霊の樹海だけあって、精霊系のMobって事か?」


 前方の暗闇に、球状の炎の姿をしたモンスターが何体も宙に浮かんでいた。

 名前的にも見て目的にも多分、炎の精霊という奴なのだろう。

 そして、そいつらは先手必勝とばかりに一斉に炎の魔法を放ってきた。


「ちっ、退避!」


 狭い道な上、周囲には邪魔な草木が生い茂っていたので、多少動きづらくはあったが、幸いきちんと警戒していたので全員が無事回避に成功する。

 だが――


「ちょっ。なんだこれっ、あちこちが燃えてやがる!?」


 回避した炎が、どうやら周囲に草木に引火したらしい。

 その炎はまるで油でも撒いてあったかのように、猛烈な勢いで燃え広がっていく。

 幸い煙に巻かれて意識を失うなんて事は無さそうだが、炎自体にダメージ判定があるらしく、こちらのHPをジワジワと削って来る。

 このままここに長く留まれば、敵の攻撃を受けるまでもなく死が見えて来そうなHPの減少っぷりだ。


「くそっ、一時退却だ!」


 状況はもはや敵を仕留める所では無くなっており、俺たちは一目散に元の道を逃げ帰る事になった。

 その最中、街の噂で聞いていたここはヤバいという話の意味をようやく理解出来たのだった。


「ふぅ。ったく、アイツら何考えてやがる。俺達を森ごと焼き尽くすつもりかよ……」


「はぁー、びっくりしたね。もしかしてボクも森の中だと、〈炎魔法〉は使うのを辞めた方がいいのかな?」


「いや、それは心配ないと思うぞ」


 通常の炎の魔法ではああいった現象は起こらない。

 意図してやろうとしない限り、ああいった燃え広がり方は普通有り得ないのだ。


「そっか。でも、あんな事されたら先に進めないね」


「そうだな。このエリアのコンセプトは、雑魚Mobと地形が一体となって立ち塞がるといった所か?」


「うーん。〈水魔法〉で消火とか出来ないのかな?」


「出来なくはないだろうが、あの炎の勢いだと、全員で対処しても追いつかない気がするな」


 そして当然ながら、〈水魔法〉を全員が習得している訳では無い。


「その案は却下だな。仮に消火出来たとしても、同じ事を繰り返されたらどうしようもない」


 生憎、あの炎の魔法を使うのが一度だけだとは決まってはいない。

 攻撃の規模から察するに、そうクールタイムが長いスキルでは無いと予想される。

 であれば、二の矢、三の矢に備える必要があるだろう。


「一番は魔法そのものを使わせない事でしょうね。見た感じ隙は結構大きそうだったから、エンカウントと同時に仕掛ければ、キャンセルは十分狙えると思うわ」


 魔法に対する最大の対処法は、発動前に潰してしまう事だ。

 初見では流石に無理だったが、ネタが割れている2度目以降ならきっと出来なくは無いと思う。多分。


「そうだな。とりあえずその方向でいくとするか」


 俺達はリベンジすべく、先程と同じ道を再び進んでいく。


「この辺りだったよな。……にしては、焦げ跡一つないな……」


 辺りは真っ暗な為、周囲の景色からは判別が付き辛いが、歩いた距離的に大体この辺りの筈だ。

 にもかかわらず、あれだけ派手に燃えていた炎の痕跡一つ見当たらない。


 どういう事かと、周囲を見渡していると再び何かが近づいてくる気配を察知する。


「来るぞ!」


 そう言って気配の方へと視線をやると、そこには氷塊といった様相のモンスターが複数体、宙に浮いていた。


「ちょっ、さっきのとは違う!?」


 先程のモンスターは〈ファイアエレメンタル〉であったが、今俺達の目の前にいるのは〈アイスエレメンタル〉という名前のMobだ。

 その名の通り、如何にも寒そうな雰囲気をしている。


 そんな事を考えていたせいだろうか、予想外の事態だったこともあり、一瞬対処が遅れ、再び先手を許してしまう。


「くそっ、皆、避けろ!」


 〈アイスエレメンタル〉の放つ氷の槍をどうにか回避する俺達だったが、先程と同様、再び地形そのものが俺達へと牙を剥く。


「このっ。……あうっ」


 敵に攻撃を仕掛けるべく動こうとしたナツメが、その場で足を滑らせてコケてしまう。

 一瞬、まさかのドジッ娘ナツメさん降臨か!? などと血迷った思考をしたが、すぐに違うと分かる。


「なんだこれ、めっちゃ滑るな……」


 ナツメの醜態を事前に見ていなければ、間違いなく俺も同じ轍を踏んでいた事だろう。

 足元の摩擦係数はそれ程に低くなっていた。

 その理由は単純明快。地面がカッチカチに凍っているのだ。

 そしてその原因は十中八九、先程の氷の魔法だろう。


「くそっ、一時退却だ!」


 幸いにして俺達の後方はあまり凍っていなかったらしく、なんとか逃げ出す事に成功した。

 だが、皆の表情は昏い。

 それもその筈、2連続でまともに戦闘すら行えずに、尻尾を巻いて逃げる事になったのだから。


「もー! これじゃ戦いにならないよっ!」


 いやはや全くだ。

 これは非常にストレスが溜まるな。

 "炎熱の山地"であったようなマップギミックとは違い、今回のはモンスターが引き起こしている。

 その為、あの時のようにギミックの暗記によって対処するのは残念ながら不可能だ。


 また炎、氷の精霊と来たのだから、残りの水・風・雷・土の4属性、下手をすると光や闇の精霊まで出現すると考えた方がいいだろう。

 そいつらが、どんな妨害を引き起こすかは知れないが、きっとロクでもない事であるのだけは分かる。


「さあて、これはどうするかね……」


「一度、魔法を発動させてしまったら対処のしようがありませんので、十分に警戒してこちらが先手を打つしか無いのでは……」


 確かにユキハの言う通りだ。

 敵がどんな魔法を操るとしても、要は使わせなければいいのだ。


 結局、当初の方針通り、まずは魔法を発動させないことを重点に置いて対処すべきという結論となった。


「うーん。だけどなんかボク、すっごく嫌な予感がするんだよね……」


 3度目の挑戦へと向かう途中、ハルカがそんな事を言い出す。


「……言うな」


 実は俺もそうである。

 だが、口に出せばフラグになってしまうと思ったから黙っていたのに……。


 どうか、これ以上面倒事は起きませんように。

 そう祈りながら俺達は先へと進むのだった。


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