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60 反省会

 現在、いつもの会議室にはフルレイドに参加した全メンバーが集結していた。


「よぉ、廃人。封印宮はどうだったよ?」


 †ラーハルト†がいつものお気楽そうな表情でそう尋ねて来る。


「そうだな、なんつうか出入り口の無いビジネスホテルみたいな?」


「なんだそりゃ?」


 正直出入り口が無い以外は、取り立てて変わった所は無かったのだ。

 それ以外になんと答えればいいというのか。


「しかし元気そうで良かったです。デスペナルティによるロストはどうでした?」


 シンが話題を変えるようにそんな質問をしてくる。


「ああ。ボスからドロップした筈の素材がいくつか無くなってたな。まあ致命的なモノの紛失は無かったと思う」


「そうですか。なら良かったです。流石に今回の損失分は、全員で補填しないといけませんしね」


 どうやら、俺がデスペナルティを負った分について、埋め合わせをしてくれるつもりだったようだ。

 当たり前の事なのかもしれないが、そういった配慮を普通にやってくれる事は地味に嬉しく感じられる。


「そう言えば俺が死んだ後、カズヒトはどうしたんだ?」


 態々助けに来てくれた彼だったが、俺が早々に脱落してしまった以上、恐らく彼もまた死んでしまったものだと思われる。

 俺が復活してから大して時間も空かない内に連絡が取れた辺り、そう長くは持たなかったのだと推測出来る。

 封印宮内ではフレンド通話なんかの機能は一切利用出来なかったしな。


「あはは。お察しの通り、すぐにカイトさんの後を追う事になったよ。まあ2人程、道連れにはしてやったけどさ」


「へぇ。あの状況で2人も殺したのか。随分と頑張ったじゃないか」


 俺が死んだ後は大体30対1の戦力差だった筈だ。

 いくら相手が顔を隠すのに必死だったとしても、その絶望的な戦力差の中で反抗の一撃を加えるのは中々出来ない事だ。

 普通は数の暴力に押しつぶされるからな。


「そう言って貰えると頑張った甲斐があるかな」


 俺がそう褒め称えると、少し照れた様子を見せるカズヒト。


「それで、アイテムのロストは方はどうだった?」


「あー、防具が1つ無くなっちゃったね。後はカイトさんと同じで素材ばっかかな」


 装備品のロストか。それはちょっと痛いな。


「まあ、この双剣を落とさなかっただけでも、ラッキーだったと思ってるよ」


 そう言ってカズヒトは2本の光輝く双剣を構えて見せる。

 たしかにこんなレアアイテムがロストしてたら、相当な損失だっただろうな。


「カズヒト、その点はご安心下さい。あなたが失った防具については、ここにいる全員で補填しますので」


「えっ、でも俺は勝手にカイトさんを助けに行っただけだし……」


「まてまて、勝手に何かやったのは俺も一緒だぞ。俺は奴らに一矢も報いる事が出来なかったが、代わりにやってくれたお前には感謝している」


 周囲の了承を得る暇など無かったのだ。

 あんな切迫した状況下では個々人の判断で動いたからといって、批判を受けるような事は有り得ない。


「そうですね。そしてそれは、ここにいる誰もがやりたかった事です。それを代表してあなたがやってくれた。そういう事ですよ」


 普段は冷静ぶってるが、いざこういう時にきちんと融通が効く辺りも、シンの事を買っている理由の一つだな。


「そっか……。じゃあ有り難くお言葉に甘えるとするかな」


「ええ、そうして下さい」


 同じ戦闘に参加したとしても、個々人の役割や立ち回りによってどうしてもアイテムの消費などに差が付いてしまう。

 その際の消費をどう補填するかは実は意外と難しい問題なのだ。

 消費を飽くまで個人の責任とした場合、消費の多い役割を振られた側は、不公平感を味わう事になる。

 まあそれは当然だろう。ドロップアイテムは皆で山分けなのに、自分だけ持ち出しが多ければ大抵の人間は多かれ少なかれ不満に思うに違いない。


 対して、それらを無制限で保障してしまった場合、今度は活躍ポイント狙いで、アイテムの節約など考えず無茶苦茶な使い方をする輩が現れる危険があるのだ。

 貴重なアイテムを馬鹿みたいに使ってくれてもパーティ全体での消耗扱いになるなら、他を出し抜いて一人活躍ポイントを稼ごうと動くのはある意味では効率がいい。

 ただ、そんな事を実際にやってしまえば、他のメンバーの追従して無茶をやりかねないし、そうなれば仮に勝てても無茶な消耗分、収入は大きく目減りする。

 その上で、敗北を喫するような事態になれば、損害は一気に計り知れないものとなる。


 よって、このゲームでのパーティプレイにおいて重要なのは、余り個人の成績に執着し過ぎない事なのだ。

 別に頑張って一人目立つ事自体は、そう悪い事でもないのだが、それのみに目線を向けて周囲との協調をないがしろにしてはいけない。

 まあ、要するに空気を読めって事だな。

 VRMMOは、コミュニケーションが苦手な奴がやるモノと思われがちだが、トッププレイヤーともなればそれではやってはいけない。

 一見ボッチを気取っていても、気が付けば周囲には女の子ばっかり、それくらいの甲斐性が必要だという訳だ。 

 

 ……なんか思考が大分変な方向に逸れたな。


「さて、次は"生存の書"と"封印の書"の配分方法についてですが、何か意見がある方は?」


「……確か、全部で"生存の書"3つと"封印の書"が2つなんだよな? そういや誰が準MVPを取ったんだ?」


「我と†ラーハルト†殿じゃよ」


 俺の問いに対し、ガミガミが答える。

 まあ言われて見れば確かに納得の面子だ。

 むしろ俺がMVPを取れたのが不思議なくらいだな。


「成程な。カズヒト以外の各パーティに"生存の書"は1枚ずつって訳か。なら、残る"封印の書"をどのパーティが取っても不公平感が出そうだし、カズヒトに渡せばいいんじゃないかな?」


「……え? いや、流石にそれは悪いよ……」


 カズヒトが遠慮する素振りを見せる。


「いえ、それが一番でしょうね。ただ、カズヒトが貰いすぎだと思うのでした、その辺は残る素材分配を多少減らす事で調整すればどうでしょう?」


「うーん。まあそれなら……」


 カズヒトが納得の様子を見せた事で、"封印の書"を渡し、残るは素材の分配についてだ。

 話し合いの結果、どのパーティも働きに大差は無かったという事で落ち着いた。俺もその意見には特に異論はない。

 なので基本的には人数で均等分配し、どうしても割り切れない部分をカズヒトの取り分を減らす事で調整する。

 その上で、カズヒトが失った防具についての補償を全員で負担したのだった。


「さて、フルレイドに関する処理はこれで終わりですが、このまま対PK集団への対策会議の実施を提案します」


「賛成だ」


「我らも同意じゃの」


「お、俺もっ」


 という訳で、ラキシス達についてのどう対応するかについて、話し合いが行われる事になった。

 全員があっさり同意した辺り、皆結構気にしていたんだろうな。


「俺は直接耳にした訳じゃないが、なんでも色々変な噂が流れてたらしいな」


「んだな。ったく、誰があんな馬鹿みてぇな話を持ち出したんだか。まあ、犯人はアイツラしかいないんだけどよ」


「ん? それ何の話?」


 そう言えば、カズヒトはまだ誰からもその辺の話を聞いていなかったようだ。

 各パーティ毎の情報共有も兼ねて、全員が今持つ情報を話す事になった。


「なるほどねー。俺が封印宮でゴロゴロしてた間に、そんな事になってたんだ……」


 カズヒトが何とも言えない微妙な表情を浮かべている。

 俺も最初にこの話を聞いた時には、そんな顔をしていたんだろうか?


「こちらも対抗する噂を流しましたので、そう遠くない内に噂そのものは沈静化すると思います。ですが、それだけでは彼らは恐らく止まらないでしょうね」


 同感だ。

 あれだけ大掛かりな組織を作り上げたんだ。

 もっと色々やって来る筈だ。


「そういえば、私達が狙われるちょっと前に〈蒼翼騎士団〉が襲われたらしく、ギルドマスターのブルーロビンが殺されたようですね」


「……それホントか? 確かアイツはいつもメンバーに囲まれてなかったか?」


「ええ、ですがそんな多数の眼を掻い潜って、ブルーロビンだけを暗殺したようですね」


 どうやら俺達がやられたのと同じく、黒ローブで気配を消して接近した上で、あの時を止めるスキルで全員の動きを止めている隙に殺したようだ。

 まったく、あのスキルは本当に厄介だな。

 油断している所に動きを止められたら、急所を晒してしまうせいで、防具で覆われてない場所にクリティカルヒットを狙われ放題なのだ。

 いくら良装備で身を固めていても、そんな真似をやられたらすぐに死んでしまう。


「すぐ取れる対策は、カイトがやったように"天使の首飾り"を装備しておく事でしょうね。それで即死する事態は回避できます。ただ、根本的な解決の為には、あの黒ローブに対する対策を取る必要があるでしょうね」


「ガミガミ達もあれ持ってるけど、何か対処法は無いのか?」


「むむぅ。我らがやったように、匂い消しを併用した上で、音を消して動かれたら察知するのはなかなか難しいのじゃ……」


 まあエリアボスにすら奇襲出来るくらいだからな。

 そうすぐには対処法は出てこないか。


「となると、可能性があるのは探知系のアビリティを取得する事ですかね……。とはいえ、取得方法が分からないとなんとも……」


「あー、それなんだけどさ。一応、俺持ってるよ? 〈足音探知〉と〈気配探知〉」


「まじか。じゃあなんで、奴らの奇襲に気付かなかったんだ?」


 アビリティがあっても、それで対抗出来なければあまり意味は無いのだ。


「いやー。あれONにしておくと、少しだけどMP使うんだよね。普段はONにしてるんだけど、フルレイドの時はMPがカツカツになりそうだったから、節約の為に切ってたんだ……」


 むぅ。

 文句を言いたい気分ではあるが、実際にMPがカツカツだったのは事実の為、その判断が間違っていたとは言い辛い。

 自分たちの気配察知能力を過信して、その辺の事の情報共有を怠った俺を含めた全員が悪いともいえるしな。


「カズヒト。良ければ習得方法についてこの場で共有して頂けませんか? 勿論、対価として各パーティから、それなりの情報は支払うと言う事で」


 そう言いながら、シンはこちらとガミガミに交互に視線を送って来る。


「俺達は構わないぞ」


「我らもじゃ」


 そんな訳で、カズヒトから2つのアビリティの習得方法が伝えられる。

 その内容だが、敵の近くで非戦闘状態で待機しつつ、その足音やら気配にずっと意識を向け続ける事で獲得出来るらしい。

 なんでも強そうな雑魚に対し、挑むかどうかをずっと迷っていたら獲得出来たそうだ。

 ちょっと間抜けな感じだが、そういう偶然が意外な発見に繋がる事は案外多いものだ。


 シン達から提供されたのは、〈精霊魔法〉というアビリティの情報についてだ。

 まだ、取得したばかりで有用なスキルを覚えていなかったので、今回の戦闘では使わなかったそうだが、名前から察するに結構有用そうなアビリティだ。

 取得条件は、〈火魔法〉〈水魔法〉〈氷魔法〉〈風魔法〉〈土魔法〉〈雷魔法〉の6つの属性の魔法アビリティに加え、〈杖術〉アビリティを一定のレベルまで育てる必要があるそうだ。

 属性魔法6つ同時取得自体はやっている人間も結構いそうなものだが、その上で〈杖術〉アビリティをわざわざ取るプレイヤーはそうはいないだろう。

 むしろ、何故シンが取得できたのかが不思議なくらいだ。

 彼はパーティを組んだ時はいつもずっと後方で支援をやっているので、あまり前に出て杖を振り回して戦うイメージが湧かないのだ。


 そしてガミガミ達からは、黒ローブの作成方法が提供された。

 実物を所持していれば、対策も練りやすくなるので、これも十分助かる情報だ。


 そして、俺達からはギルドハウスの一件についての情報を提供した。

 これまで"生存の書"の入手ルートは、エリアボスからのみに限られていた為、全員に驚かれる事になった。

 この情報を活用してすぐに"生存の書"入手とはいかないかもしれないが、こういった方法での入手の実例があると言う事を知っているかいないかで、今後のゲームプレイにおける動き方が変わるのだ。

 そういった意味で、受け取った情報への対価としては十分だったと思う。


「中々有意義な情報交換会でした。ラキシス達への対策は抜きにしても、今後もこういった催しは是非とも開催したい所ですね」


「そうだな。さて、そろそろお開きにするか」


 気が付けば結構な時間、話し合いをしていたようだ。

 

「では、今後もラキシス達についての情報のやり取りは密に行いつつ、攻略の方も頑張るとしましょうか」


 シンのそんな言葉で締めくくり、解散となった。


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