59 デスペナを終えて
丸1日に及ぶデスペナルティ期間を封印宮で過ごした俺は、淡い光に包まれ外の世界へと転送される。
「カイトっ!」
封印宮前の広場に転送された俺の前には、ナツメが今か今かと待ち構えるように立っており、俺の姿を見つけた瞬間、こちらへと駆けだしてきた。
「おおっ、ナツメか。態々出迎えなんてしてくれなくても――」
そう言い掛けた俺にナツメがガバッっと抱き着いて来る。
「お、おい。どうしたんだよ、ナツメ……」
視線を表情へとやると、いつもクールな彼女がこれまで見たこともない泣き顔を見せていた。
「なんで死んじゃうのよ……。死ぬなら私も一緒に死にたかったっ!」
えーと。
どういう状況かなこれ?
いやまあ生還出来なかったせいで、丸1日不在にしちゃったのは悪かったとは思う。
ただどうやら、別にその事について責められている訳でもないみたいだしな……。
ナツメ本人に尋ねたくとも、俺の胸に抱き着いたまま顔を上げてくれない。
「なぁ、これって……?」
「あはは……。まあカイトが封印宮にいた間にこっちも色々あったんだよ」
そう明るく答えるハルカではあったが、こちらもなんだか無理をしているように見える。
「と、ともかく、とりあえず顔を上げてくれナツメ。なんか知らんがともかく俺が悪かったよ」
そう言うと顔を上げたナツメが上目遣いで俺の方を見つめて来る。
「……なら約束して? 次、死の危険がある場合は絶対に私も連れて行くこと。分かった……?」
常ならぬ雰囲気を纏ったナツメを前に、俺はなんと答えていいのやら戸惑ってしまう。
いつもなら阿吽の呼吸と言わんばかりに彼女の考えが分かるのだが、今日は全然だ。
なんだか、ナツメがちょっと別人のように思えてしまう。
ただ、とりあえず彼女の言葉から、何を責められているかは大体理解出来た。
「ああ、悪かったよ。まあ次なんて無いようにするつもりだが、もし次があれば俺を助けてくれ」
「……ええ。分かったわ」
俺の答えに満足したのか、ようやく彼女は俺の胸から離れ、いつもの雰囲気へと戻る。
「さて、積もる話もあるだろうが、とりあえずギルドハウスに戻るか」
何やら周囲から注目を集め始めており、少し恥ずかしいのだ。
ギルドハウスに戻ると、ブリギッド達は丁度出掛けていたらしく、常駐のNPC達以外、誰もいないらしい。
まずは落ち着いて話をするべく、会議用の部屋へと移動する。
「それで、俺が居ない間に何かあったみたいだが、一体どうしたんだ?」
俺の問いにハルカとユキハが互いに顔を見合わせた後、ユキハが口を開く。
「……実はですね――」
そうして語られた内容は、折角晴れ晴れとしていた俺の心を非常にざわつかせてくれるモノだった。
「街にどうにか逃げ帰って、カイトさんとカズヒトさんの死をフレンドリストで確認してから、まだそう時間が経ってない時の事でした。"始まりの街"で突如としてもの凄い勢いで、変な噂がいくつも流れ始めたんです」
その噂とは、†ラーハルト†達が俺を殺してMVP報酬を掠め取っただとか、PK集団に俺を売って自分たちだけ逃げ出したなどといった、†ラーハルト†たちを誹謗中傷する内容だった。
そして、それらの噂の対象は†ラーハルト†達だけでなく、フルレイドに参加していたガミガミ達やナツメ達にも同様の内容のモノが流れていたそうだ。
そして否定しようにも、凄い勢いで様々な噂が一度に流れたせいで、話が交錯し収拾がつかない状態になったそうだ。
結局、どうにか落ち着いた頃にはフルレイドに参加したメンバーそれぞれに悪評が立っただけという結果に終わったらしい。
話の内容的にも十中八九、噂を流したのはラキシス達なのだろう。タイミング的にも一致するしな。
フードで顔と名前を頑なに隠したのは、これをやる為だった訳か。
そう考えると、俺以外の連中を見逃したように見えたのも、あながち間違いでもなさそうだな……。
しかし、目的はなんだろうな?
フルレイドの参加メンバーの悪評を流して、それに一体何の得があるのか……。
参加メンバーそれぞれは真実をキチンと知っている為、こんな事で仲違いなどはしないと思う。
ただ、この一件でもしかしたら、他のプレイヤーとの間に溝が出来てしまった可能性はある。
もしかすると、フルレイド以上の規模の戦闘で、俺達が他のプレイヤーと組むのを妨害したって事なのか?
だとしたら迂遠過ぎる気もするが、同時に効果的である事を認めざるを得ない。
どうやら、俺達はかなり厄介な奴を敵に回してしまったようだ。
だが喧嘩を売られた以上、こっちもやられっぱなしではいられないな。
奴らの情報を集め、いずれこの借りはキッチリと返してやる。
「そんな感じで色々あったせいで、ナツメっちが取り乱したりして、ホントに大変だったんだよ? 私がカイトを置いていったせいだからって……」
「おいおい、ナツメ。俺が自分の意思でお前らに逃げろって言ったんだから、気にする必要なんか無いんだぞ?」
いつものナツメなら、俺の考えくらいすぐに分かってくれていた筈だ。
となると余程動揺していたのか。
「ううっ。本当にごめんなさい。今はもう大丈夫よ」
ふむ。まあ表情もいつも通りだし、もう心配は無さそうかな?
「まあなんだ。お前らも大変だったんだな。そんな時に居なくて悪かったな」
「いいのよ。カイトの方が大変だったんだし……」
久しぶりにゆっくりと眠れたお蔭で、気分爽快であることは黙っておいた方が良さそうである。
「それで結局、奴ら――〈全民公敵〉だったかの情報は得られたのか?」
その問いにユキハが首を横に振る。
「名前だけはそこら中で耳にしましたが、実態はほとんど分かりません……。ギルド会館の方でも照会をしてみましたが、そんな名前のギルドは存在しないみたいです」
ギルド名は偽名か、あるいはそもそもギルド自体を結成していないのか。
ラキシスと名乗った男を含め、誰一人そのプレイヤーネームは見る事は出来なかった。
なのでプレイヤーネームの横にある筈のギルド紋章も、当然ながら確認出来てはいない。
現状は奴らについては、まるで分からない事だらけって訳だ。
「奴が使ったあの時を止めるスキルについては?」
「そちらも何も……。恐らくはカズヒトさんの〈双月剣〉と同じユニークアビリティなんだとは思いますが、詳細は一切不明です」
いくらユニークアビリティといっても、ゲームバランスを壊すような性能は有り得ないと筈だ。
である以上、あのアビリティにも対処法なり弱点なりが存在するに違いない。
……違いないのだが、情報が無さ過ぎて現状では対策の取り様がないな。
「ああ、そうだ。エリアボスのMVPで得た"生存の書"と"封印の書"の配分について、フルレイドに参加した連中と話し合わないとな」
ナツメに預けていたお蔭で、それらを失わずに済んだ。
そう考えれば、俺のあの時の判断は正しかったのだと自信が持てて少し嬉しくなる。
「その事なんだけど、実はカイトが得たの以外にも2人"生存の書"を得た人がいるの」
「……へぇ。流石にフルレイド規模となれば、報酬も増える訳か」
まあ全く予想してなかった訳では無い。
パーティ毎に分配するにしても2つじゃ足りないしな。
これで、1パーティに1つは"生存の書"と"封印の書"のどちらかが行き渡る訳だ。
まあ嬉しい誤算という奴だな。
「ボスからドロップしたアイテムの分配もあるし、一度フルレイド参加メンバーで集まる必要があるな。他にも色々聞きたい事があるし」
そんな訳で、彼らに連絡を取る事にした。
幸い全員が状況的にも攻略どころでは無かった為か"始まりの街"に居たらしく、すぐにいつもの会議室に集合する事になったのだった。




