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57 封印宮

 視界の暗転はすぐに収まり、気が付けば俺は見知らぬ部屋に立っていた。


「っと、まずはデスペナの確認だな」


 早速アイテムインベントリを開き、ロストしたアイテムを確認していく。


「……ふむ。どうやらボスからのドロップ素材をいくつか失ったくらいか。結構痛いが、まあ装備とかじゃなかっただけ、まだましと言えるかな?」


 ブリギッド達に貰ったばかりの装備をいきなりロストしてしまったら、彼女達に合わせる顔が無い所だった。

 最悪の事態を避けれた事にとりあえずホッと一息つく。


 平静を取り戻した所で、今度は現在俺がいる場所についてへと意識が向けられる。

 見た所、一人用のベッドにパソコンが置かれた机。あとは細々とした調度品が置かれているだけだ。

 窓や扉など、外部との繋がりを示すものは存在しておらず、ここが完全に隔離された空間なのだと分かる。

 

「ここが"封印宮"なのか……?」


 "封印宮"というくらいだから、もっとこう神殿チックな荘厳とした雰囲気の場所を予想していたのだがどうやら違うらしい。

 まあ、でも良く考えれば"封印の書"を使われた場合は、"生存の書"で助け出されない限り、ずっとここに居なければならないのだ。

 であるならば、居住性が重視されるのは仕方がない事なのだろう。


「まあ、暇を潰すものがあるのは、こっちとしても助かるけどな」


 特にパソコンがあるのは本当に嬉しい。

 このゲームを始めてからは一度も触ってなかったからな。


「どれどれ、早速今の社会状況はどんな感じなのかな?」


 3000人ものプレイヤーがこのゲーム内に実質幽閉されているようなモノだ。

 どんな組織がこのゲームを仕組んだのか知らないが、間違いなく大騒ぎになって居る筈だ。

 元来、現実世界に対する興味が薄い俺ではあったが、事はゲームに関する話だ。

 まったく関心が無いという訳でもない。


「って、ネット繋がらないじゃねーか……」


 俺の期待に反して、このパソコンはネットとは繋がっていないらしい。


「ったく。何のためのパソコンだよ!」


 一応、プレイヤーの暇潰し用としてか、ドラマ・映画・アニメなどといった種々の動画ファイルや、漫画・小説などの電子書籍がデータとして存在していた。


「とはいってもなぁ。どれも俺は大して興味は無いんだよな……」


 ここ10年以上、ずっとゲーム一筋だった俺だ。

 他のエンタメなどについては、正直余り良くは知らない。

 世間一般からは、ゲーマーはそのまま漫画好きやらアニメ好きやらと同一視されがちであるが、実際はそうでもない。

 特にVRゲームは、俺が思うにそれらエンタメからは大分軸がズレていると感じている。

 無論、その両方が好きという人間も数多く存在しているのも、事実ではあるのだが。


「何かゲームは入ってないのか?」


 別にVRじゃなくとも、この際、旧世代型のRPGでも構わない。

 だが、残念な事に一切見当たらなかった。

 まあ、ゲーム内でゲームをやるなんて不毛だしな……。


「しゃーない。たった1日だし、寝るとしますか……」


 ここでもし"封印の書"を使われていれば、1日では済まないのだが、幸いその気配は無い。

 それに、もしそんな事態になっても、きっとナツメ達が助け出してくれる筈だ。

 その事について俺は微塵も疑ってはいない。

 そんな訳で、シングルベッドに潜り込み、睡眠で時間を潰す事に決めたのだった。


「……うーむ。眠れない」


 その理由は自分が一番良く分かっている。

 分かっていて、その事を考えないようにしていたのだが、目を瞑るとやはりどうしても心の隅から這い出て来る想いがあるのだ。


「あーっ!! もう!! ホントに悔しいわ!!」


 ガバッと起き上がり思わずそう叫んでしまう。


「くそっ! 俺ならもっと上手くやれた筈だ! 30人を足止めした上で、尚逃げ延びる手だってあった筈だ!」


 抑えきれなくなった想いを、独り吐き出していく。


「大体、ボスを倒して油断している時がPKにとっては一番の狙い目だなんて、常識じゃないか! どうして奇襲に気付けなかった!!」


 実際のところ、多少の油断はあったにせよ、並みの相手だったなら気付けるだけの最低限の警戒はきちんとしていた。

 言ってしまえば、単純に相手が一歩上手であっただけなのだが、それを認めるのもそれはそれで癪なのだ。


「あの〈タイムリストリクション〉とか言ってたっけ? あれの2発目を食らったのも、バカすぎる。どんだけ気を抜いてたんだよ、俺はっ!」


 一度目を食らった際には奇襲だった為、何をやられたかは実際には見ていない為、仕方ない事ではあるのだが、それでも存在を知っていて何も対策を打てなかった自分にイラつくのだ。


 そんな感じで、その後も自分の細々とした失敗に対する文句を、ひたすら吐き出し続ける。


「……はぁはぁ。少しスッキリしたな。良し、この失敗は今後の糧とし、後には引き摺らないようにしよう」


 これは、大きな失敗を犯した時に行う、俺独特の儀式みたいなものだ。

 失敗の反省は大事だが、失敗した事実を引き摺ったまま今後の活動に悪影響を及ぼすなど、ただの愚の骨頂だ。

 だが、そうである事を理性していても、人間という生き物は簡単に感情を上手くコントロールする事は出来ない。


 なので、思考を切り替える切っ掛けとしてこうして儀式を執り行うのだ。

 まあ言ってしまえば、自己催眠的な何かに近いとも言える。


「良し、切り替わった。もういつもの俺だ」


 先程まで荒ぶっていた筈の感情の波が、今は嘘のように凪いでいる。


「さて、今度こそ寝るとするか」


 ベッドの布団に潜り込み、その僅か10秒程後には、俺は眠りに落ちていた。



「ふぁぁ。良く眠れたな……」


 メニューを開いて現在時刻を確認すると、12時間程が経過していた。

 どうやら丸々半日も眠っていたらしい。


「やっぱ、人の気配が全く無い環境はいいな」


 宿屋だろうが、ギルドハウスであろうが、眠っている際にどうしても近くに人の気配が存在する。

 そういった状況下では、無意識に警戒心が働いてしまい、その結果若干だが、眠りが浅くなるのだ。

 それで支障が出たことは特に無いのだが、それでもこうゆっくりと惰眠を貪れたのは久しぶりであったので、良い気分であった。


「……しかし、人の気配を全く感じないってのも、逆におかしな話だよな」


 "封印宮"は基本的には、俺のように死んだ者が一時的に収容される場所だ。

 "封印の書"を使われればその限りではないが、今の所、まだその使用は確認されてはいない。

 だが、だとしても、"封印宮"に現在収容されているのが、俺ただ一人だという事はまず有り得ないだろう。

 ノンストップで攻略を進めている一部の連中を除き、多くのプレイヤーは既に何度も死を経験していると聞いている。

 デスペナルティの期間は1日とかなり長く、その期間が他のプレイヤーと被らないなど、まず考えにくい事なのだ。


「となると、ここは完全に別空間って事なのかね……」


 一応ゲーム内において、"封印宮"は"始まりの街"の丁度中心に位置していた。

 事実、デスペナルティから解放されたプレイヤーはその入り口から出て来る事になっている。

 だが、プレイヤーからは、その外観しか分からない為、内部はどうなっているのかは、実際に死んだ者にしか分からないのだ。


 であるならば、実際に封印される場所は、別にあの建物の内部である必要は無いという事だ。

 〈帰還の魔石〉の例を出すまでもなく、ゲームにおいて特定の場所への転移はシステム上、割と容易なものだ。

 この部屋にも出口となる扉が無い事だし、大方デスペナルティ終了と同時に、"封印宮"の外に転移されるような仕組みになっているのだろう。


 ワザワザそうまでして厳重に隔離する意味は分からないが、その意図を探るのも、暇つぶしにはいいかと考えていたのだ。

 もう一度寝るにしても目が冴えてしまっており、すぐには無理っぽいしな。

 そう考えると、健やかな目覚めというのも、良し悪しだなと贅沢な想いを感じてしまう。


「しかし、ネット接続を遮断しているのは理解出来るが、わざわざゲーム内からも隔離する意味がイマイチ良く分からないな」


 ネットの遮断は、単純に外部と連絡を取って欲しくないからだろう。

 いくら機能制限を掛けたとしても、僅かにでも外部とコンタクトが取れるなら連絡を取る方法はいくらでもあるからな。

 そんな危険を冒すくらいならば、完全に遮断してしまえというのも理解出来る話だ。


 だが、ゲーム内からも隔離する理由が良く分からない。

 "封印宮"の建物は確か破壊不能オブジェクトに設定されていた筈だ。

 であるならば、そんな建物内部にちょっかいを出す手段など普通のプレイヤーには存在し得ない。


「ふーむ。良く分からないな……」


 別に大した話では無いのだが、なんかこう妙に引っ掛かるのだ。

 

 その後も色々思考を捏ね繰り回してみたのだが、結局何も結論は得られなかった。

 なんだかんだで結構長く唸っていたらしく、2時間ほどが経過していた。


「まあ気にしても仕方がないな。もう一眠りして、きっちり寝溜めするとしますか」


 俺は体質的にある程度までなら寝溜めが出来るので、時間があるときにガッツリ寝ておくことで、その後長い時間、不眠での行動が可能となるのだ。

 そんな訳で更に睡眠を取り、解放直前に再び目覚める。


「良し、ぐっすり眠れた事だし、この後れを取り戻さないとな!」


 デスペナルティによって1日という長い時間を失ったのは、大きな痛手ではあるが、決して取り返しがつかない訳でない。

 ならば、俺のやる事は一つ。

 後れを取り戻すべく、これまで以上に頑張るしかない。


「そろそろ、時間か……。おっ――」


 俺の身体を薄い光が包み込む。

 転送開始の合図だな。

 そうして、丸1日を過ごした個室に別れを告げ、元の世界へと俺は帰還したのだった。


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