55 2体のエリアボス(4)
御付きの雑魚Mobを全て始末し、遂にエリアボスの内の1体〈ストームタイガー〉を倒す事に成功した俺達だったが、残るエリアボス〈マザーワイバーン〉の猛攻を前に苦戦を強いられていた。
「そろそろ奴のHPが5ゲージを切る。恐らくまた何かしら行動に変化があるだろうから注意してくれ!」
全員のMPが心許ない状況である為、本当ならこのままごり押ししたい所なのだが、ここはぐっと堪えるしかない。
10ゲージを切った際に追加された火炎ブレス以上の攻撃があった場合、迂闊な動きを取れば全滅しかねないからだ。
「これでっ!」
全員が身構えたのを確認してから、俺は矢を放つ。
それにより、〈マザーワイバーン〉のHPゲージが5ゲージを下回る。
「グギャァァァ!!」
そんな雄叫びをあげた後、〈マザーワイバーン〉が地上へと降りて来る。
「何をやっても落ちなかったくせに、わざわざ自分から降りて来てくれるとは。こちらとしては好都合だが……」
都合が良すぎて逆に怪しく感じる。
そんな俺の嫌な予感は、どうやら的中してしまったようだ。
「グギャァ!!」
〈マザーワイバーン〉が大きく息を吸い込んだかと思うと、その口内から火炎弾を放ってくる。
「っ退避!」
そう指示を出しつつ、俺自身も回避に専念する。
咄嗟のその行動は正しかったらしく、さっきまで俺のいた場所が草ごと焼き払われていた。
しかも尚悪い事に、火炎弾はその1発だけでは無かったようだ。
「グギャ!! グギャ!!」
〈マザーワイバーン〉の口からテンポ良く次々と火炎弾が飛び出してきて、俺達に襲い掛かる。
どうもその攻撃は、特定の誰かを狙ったものではなく、大体俺達がいる付近に対しランダムで放たれているようだ。
そんな訳で、折角の†ラーハルト†が集めたヘイトも意味を為さなくなっている。
「くそっ、†ラーハルト†、あれ防げそうか!?」
「俺に真っ直ぐ飛んでくればな!」
要するに現状では無理って事か。
しかし、こうも連続してランダムに攻撃されると、反撃する隙が無いな。
近接の連中は当然近寄れないし、遠距離攻撃も放つ暇が無い。
折角、地上に降りて来てくれたのに難儀な事だ。
今は全員なんとか回避出来ているが、人間の集中力には限界がある。それもそう長くは持たないだろう。
そんな事を考えていると、断続的に放たれていた火炎弾の発射が止まる。
見れば〈マザーワイバーン〉が息を大きく吸い込む姿勢を取っていた。
「流石にあれだけ連射すれば、溜めの時間も必要なようだな」
力を溜めている間の〈マザーワイバーン〉はほとんど無防備のように見える。
どのくらい溜めるのか時間を測ってから、次の機会に総攻撃を仕掛けてやろう。
それから10秒程経った後、再び奴は動き出し、火炎弾の掃射を再開する。
「これが止んだら、全員で一斉攻撃だ!」
その一心で、襲い来る火炎弾の猛攻をどうにか回避していく俺達。
「よしっ、今だ!」
火炎弾の掃射が止み、〈マザーワイバーン〉が再度溜めのモーションに入ったのを見計らい指示を下す。
俺達遠距離攻撃勢は武器を構える。
一方、近接の連中は〈マザーワイバーン〉を殴るべく、駆け出していく。
「待ってくださいっ!」
近接の連中が奴に肉薄しようとした瞬間、ユキハから大声で待ったの声が掛かる。
「どうした!?」
意味もなくそんな事を言う彼女では無いので、何故かを問いただそうとするが、返答を聞く前にその理由は俺にもすぐ理解出来た。
〈マザーワイバーン〉が溜めモーションを解除し、いつの間にか再度ブレスを吐くモーションへと移っていたのだ。
――くそっ。まだ10秒どころか5秒も経ってないぞ!?
〈マザーワイバーン〉の想定外の行動を前に、俺達――特に近接の連中が一転してピンチへと陥る。
ああも近づいてしまえば、退避は厳しいだろう。
「俺の後ろに来いや!」
近接の連中と一緒に前へと出ていた†ラーハルト†がそう叫ぶ。
彼は手に持つ大盾を掲げ、どうやら身を挺して彼らを守ろうとしているようだ。
間一髪、近接の連中が†ラーハルト†の後ろに潜り込んだ直後、〈マザーワイバーン〉から特大の閃光のようなブレスが放たれる。
「くっ」
俺達後衛の奴らは、どうにか全員回避したようだが、†ラーハルト†達は直撃を受けてしまったようだ。
「†ラーハルト†!?」
彼の安否が気になり、思わずそう叫ぶが、幸いすぐに返事はあった。
「俺様にヒールを集中しろぉ!」
そんな事を叫んでいる彼は瀕死の有様だった。
だが、どうやらその後ろの奴らは守りきったらしく、幸いは死者は出ていなかった。
「ナイスだ、†ラーハルト†!」
「カイト、称賛の言葉は後で。それよりも奴を!」
シンが†ラーハルト†へと回復魔法を放ちながら珍しく、声を張り上げる。
見れば、〈マザーワイバーン〉がその動きを完全に止めていた。
これは俺の推測だが、火炎弾の後の溜めモーションは、俺達を誘う為の罠であり、本命は先程の閃光のような巨大ブレスだったのだろう。
事実、あれは凄まじい威力であったらしく、生粋のタンク役で相当堅い筈の†ラーハルト†を一撃で瀕死へと追いやっている。
だが流石に、手札はあれでお仕舞だったのだろう。
今は俺達に無防備な姿を晒している。
これも実は罠かと一瞬疑ったが、〈マザーワイバーン〉の苦しむような姿から、流石にそれは無いだろうと判断する。
「今度こそ総攻撃だ!」
俺が口火を切らんとばかりに、矢を放った事で、足を止めていた他の奴らも次々と攻撃を仕掛けていく。
「グギャァァァァァ!?」
〈マザーワイバーン〉へと次々と攻撃が叩き込まれが、奴は苦悶の声をあげるばかりで反撃してこない。
そのままHPを残り2ゲージ程まで削った辺りで、ようやく奴は再起動し火炎弾を放ってくるが、今回は事前の兆候を察知出来たので全員退避済みだ。
「良し、もう大体タネは割れたみたいだな。このまますり潰してやる!」
火炎弾の連射は回避に専念し、溜めモーションに入った所で、今回は遠距離のみの攻撃に徹する。
すると前回同様、閃光のような巨大ブレスを放ってきたが、今回は全員がきちんと距離を置いて奴の挙動を観察していたので、難なく回避する事に成功した。
するとブレスで力を使い果たした〈マザーワイバーン〉が苦悶の表情を浮かべた後、再び動きを止める。
完全に前回の行動と同じ流れだ。
「これで、終わらせるぞ!」
先程の閃光ブレスによる被害からの立て直しに使ったせいで、手持ちのアイテムはもう残り僅かだ。
MPも全員ほぼ尽き掛けており、ヒーラー達も残った僅かを回復では無く攻撃へとつぎ込んでいる。
そんな訳で、もう被弾は許されないギリギリの状況だ。
だがその一方で俺達の猛攻を前に〈マザーワイバーン〉のHPもまた残り僅かとなっていた。
「トドメだ! 〈アローレイン〉!」
俺は温存していた大技を放ち、僅かに残ったHPゲージを削り切る。
「グギャァァ!!」
〈マザーワイバーン〉が断末魔の咆哮を上げたのち、力なくその巨体を横倒しにする。
それに僅か遅れて、その体が光の粒子へと変じていった。
「ゥォォ……オッシャァァー!!」
†ラーハルト†がそう勝利の雄叫びを上げたのを口切りとし、全員が一斉に喜びの声を上げる。
「やったのう……」
「やっぱカイトさんは凄いな!」
「中々大変な戦いでしたね……」
皆、口に出す言葉は違えども、物凄く喜んでいるのが良く分かり、聞いている俺の胸が熱くなるのを感じる。
――やっぱ大人数で何かを成し遂げるのは楽しいものだな。
「ははっ。皆喜ぶのもいいが、俺達全員ボロボロで、今のままだと雑魚Mobにすらやられかねない状況だぞ。まずは街に戻るとしようぜ」
俺がそう軽口を言った瞬間、背中に悪寒が走るのを感じる。
「そうですね。今のあなた達なら簡単に仕留められそうだ」
「誰だっ!?」
背後から掛けられた声に、そう叫び返したつもりが、それは声にならなかった。
いや、それどころか、身体がまったくいう事を聞いてくれない。
動かせない視界の中を確認すれば、眼につく奴ら全員がその動きを止めていた。
「ユニークアビリティ〈時魔法〉スキルの一つ、〈タイムリストリクション〉です。文字通り時を止めるスキルなのですが、実際の効果はただ対象の動きを止めるだけのスキルのようですね」
抑揚の感じられないその声に、俺の勘が警報を鳴らし続けるが、やはり微動だにする事は出来ない。
「時間も余りありませんし、早速本題を。我々の名は、〈全民公敵〉。ゲーム攻略を目指そうとする全てのプレイヤーの敵です。なので、カイトさん。特にあなたのような攻略最前線を引っ張る人間には、是非とも死んで頂く必要があるのです」
その言葉と同時に、背後から何度も斬りつけられる気配を感じる。
といっても、痛み等の感覚がある訳ではない。
ただ俺の勘では、何度も殴られかなりのダメージを受けているような気がするのだが、かといって吹き飛ぶでもなく俺の身体は微動だにしない。
そう、まるで時間が止まっているかのように。
「時間切れのようですね。では、しばらくの間ですが、封印宮でごゆっくりお過ごし下さい」
そんな感情の色が見えない言葉が投げられたのと時を同じくして、俺の背中に何度も斬りつけられたような痛みが走る。
視界では、俺のHPバーが見る見るうちに減少していく様が映っていた。




