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54 2体のエリアボス(3)

 〈ストームタイガー〉の行動変化を前に、苦戦を強いられる俺達。


「何か、何かこの状況を打破する手は無いのかっ!」


 このままでは遠からず、全員の回復アイテムやMPが尽きてしまう。

 打開策が無いかと、他の連中に視線を向けるが、反応は芳しくない。


「くそっ、あの風の弾丸をどうにかしないと、どうしようも無いぞ!」


 〈ストームタイガー〉は己に纏った嵐の鎧を、弾丸に変えて周囲を攻撃している。

 そのターゲットは、ヘイトに関係なくランダムな模様であり、タンク役以外にも被害が出始めている。

 その結果、こちらの攻撃の手がどうしても弱まってしまう。

 その上、その弾丸には僅かながらのHP吸収能力を備わっているせいで、敵のHPの削れる速度が一気に低下してしまっているのだ。


「まて……。嵐の鎧を弾丸に変えている……?」


 改めて状況を良く観察してみれば、弾丸が放たれる際、〈ストームタイガー〉を守っていた厄介な嵐の鎧が一瞬だけだが、剥げている事に気付く。


「もしかすると……。試してみるか」


 俺は弓を構えて、奴が風の弾丸を放つ瞬間を待つ。


「来たっ!」


 これまでならば、ここで回避して終わりだったが、今回は違う。


「食らえっ!」


 風の弾丸を避けつつも俺が放った矢の一撃は、丁度風の弾丸を生成すべく鎧が剥げ落ちた箇所へと吸い込まれる。


「ガルゥゥゥ!?」


 〈ストームタイガー〉がこれまでには無い悲鳴のような呻き声を上げる。


「成程。どうやらあそこが弱点みたいだな」


 ただの矢の一撃でHPバーの変動が目視出来る程ダメージを与えたのだ。

 加えてあの怯みっぷり、まず間違いないだろう。

 

「皆、聞いてくれ!」


 奴が風の弾丸を放つ際に、嵐の鎧が剥がれた場所に弱点が生じる事を、メンバー全員に聞こえるように話す。


「流石じゃの、カイト殿。どれ、我も試してみようぞ」


 ガミガミがジグザグに移動しながら〈ストームタイガー〉に突っ込んでいく。

 それを邪魔するように、風の弾丸が飛ぶが――


「当たらんよ」


 ガミガミは、それを回避しつつ、嵐の鎧が一瞬剥げた場所へとあっさりと短剣を差し込む。


「ガルゥゥゥ!?」


 再び、〈ストームタイガー〉が大きく仰け反る。

 今度は、仰け反る事が予想済みだったので、その隙に一斉に攻撃が殺到する。

 この一連の攻撃によって、〈ストームタイガー〉のHPは再び大きく削れていく。


「ふむ。どうやら本当のようじゃの。これは下手をすると、以前よりも御しやすくなったかの?」


 5ゲージを切ってから、風の弾丸を放って来るようになり、一見するとより厄介になったように思えた。

 だが、同時にこれまで無かった弱点を露呈する事になった。

 そして、弱点を狙えばここまで大きく動きを止めるのだ。

 敏捷性が高く攻撃を当てるのが大変な〈ストームタイガー〉だが、その足を止めてしまえば、ただの的に過ぎなくなる。


「だな。とはいえ、あんな一瞬のタイミングにあっさり合わせるお前も凄いと思うぞ」


「何、カイト殿のお手本が良かったのよ。何より、その事実に気付いた事こそ大手柄じゃぞ」


 確かにそれはそうだ。

 嵐の鎧が剥げるのは、ほんの僅かな間に過ぎない。

 

 ――俺でなきゃ見逃しちゃうね。


 などと心の奥底で自画自賛しつつ、弓を構え直す。

 これで〈ストームタイガー〉を攻略する目途が立った。


「全員、嵐の鎧が剥がれた箇所を狙え! 動きが止まったら一斉攻撃だ!」


 攻略法さえ確立してしまえば、あとはただの作業だ。

 ここにいるメンバーは全員凄腕であり、この後に及んで詰まらないミスを犯す訳も無く、ガンガンHPを削っていく。

 5ゲージ未満での、行動変化が無いか注意深く見守っていたが、流石にもう無いらしい。

 4ゲージ、3ゲージ、2ゲージ、1ゲージ、とHPは順調に削れていき、そして――


「ガルゥゥゥゥゥ……」


 〈ストームタイガー〉が消え入りそうな悲鳴を上げたのとほぼ同時に、奴のHPゲージが遂に0になる。


「やったか……!?」


 つい、実はやってないフラグみたいな台詞を呟いてしまったが、どうやらちゃんと倒せたようだ。

 〈ストームタイガー〉が光の粒子となって消えていくのが見えた。


「よし、だがまだ油断するなよ。もう1体いるぞ!」


 半ばやり切ったような気分ではあったが、戦闘はまだ終わりでは無い。

 もう1体のエリアボス〈マザーワイバーン〉の始末が残っているのだ。


「ふぅ、だがやっとで俺様少しは楽を出来そうだな」


 †ラーハルト†がこっそり安堵の息をついている。

 流石の彼でも、エリアボス2体のタゲを取り続けるのは精神的にもきつかったらしい。

 まあそりゃそうだよな。


「さてと、こいつはどんな行動変化を見せるのかね……」


 〈ストームタイガー〉がそうであったように、エリアボスの多くはHPをある程度削ってからその本領を発揮する。

 こいつも恐らくそうだろう。


「HPゲージの変わり目には要注意だ! 特に5の倍数の時にはな!」


 これまでの経験上、大体そのタイミングで行動パターンが変わったからな。

 注意するに越した事は無い。


「†ラーハルト†。まだいけるか?」


「俺様を舐めるなよ! まだまだいけるぜ!」


 若干その声が強張っているようにも聞こえたが、虚勢を張る元気があるならまだ大丈夫だろう。


「さてと、このままぶっ倒して、さっさと帰るとしようか!」


「「「おおう!」」」


 うむ、いい返事だ。

 まだまだやれそうだな。



 などと、意気込んで〈マザーワイバーン〉のHPを削りに掛かった俺達だったが、現在、ピンチに陥っていた。


「くそっ。皆大丈夫かっ!?」


「おうともよっ!」


「な、なんとか……」


 どうやらまだ幸いにして犠牲者は出ていないようだ。

 だがこのままでは、近いうちに死人が出る。


「もー、なんなんだよぉ、さっきのはさ!」


 ハルカが憤慨するようにそう叫ぶが、それには俺も同感だ。


「広範囲ブレスですか。攻撃範囲が広く回避が難しい分、風の弾丸よりもある意味厄介ですね」


 シンがそう呟くが、その声には若干焦りの色が含まれているようにも聞こえる。


 そう、先程俺達を襲ったのは、〈マザーワイバーン〉がその口から放った広範囲に渡る火炎ブレス攻撃だ。

 HPが10ゲージを下回った段階で追加された攻撃パターンである。

 その威力自体は、風の弾丸よりも若干強い程度だったが、問題はその攻撃範囲と追加効果だ。

 あまりに広範囲にその攻撃は放たれたが為、とてもじゃないが回避が出来るようなモノでは無かった。

 †ラーハルト†はその手に持つ盾で防いだようだが、それ以外の連中――勿論俺も含めて――は直撃を食らってしまった。

 その上、厄介な事に†ラーハルト†を除く全員が火傷の状態異常を食らう事になり、大変面倒な事になったのだ。

 ヒーラーは、HP回復に状態異常治療にと追われ、これ以上ダメージを受ければ死の危険があるアタッカー達は、迂闊に〈マザーワイバーン〉に攻撃を仕掛けることが出来なくなった。


「兎も角、今は状況を立て直すぞ。アイテムの使用は躊躇するなよ!」


 状態異常治療のアイテムはまだ余り数が出回っておらず高価だ。

 だが、今はそんな事を気にしている場合では無い。


「幸い、風の弾丸ほど連射してくる訳では無さそうですが、何か対策を打たないと次は死者が出そうですね」


 正直、死にかけていた奴が何人もいた。

 死者が出なかったのは、単なる偶然に過ぎない。


「確かにな。だが、どうする? 回避出来る位置まで下がると、攻撃が当たらんぞ?」


「……そうですね。†ラーハルト†が盾で防げていたようですし、こちらも盾を用意するとしましょう。〈土魔法〉を使える方は私の方へ来てください」


 ユキハら〈土魔法〉を使える連中が、シンの許へと集まる。

 成程、あれを盾にする訳か。

 MP効率が余り良くはないが、背に腹は代えられない。


「ともかく、ブレスを再度使われる前に少しでも多く削るぞ!」


 今の所、ブレス以外に変化は無い。

 ならば、これまで通りの戦法は通用する筈だ。


「とはいえ、いい加減あいつを地面に叩き落してやりたい所だな」


 擦り付ける相手が居なくなった以上、〈ガイデッドシュート〉が有効かと思ったのだが、奴はなんと地面に擦り付けやがったのだ。

 その際に地面に近づく一瞬を狙ってナツメら近接の連中が攻撃を仕掛ける事で、HPを削る事に成功していたが、それでも奴を地面へと這いつくばらせるには至ってはいない。

 〈ガイデッドシュート〉以外の遠距離攻撃は、奴の機動性の高さのせいでかなり回避されてしまうしな。

 二回りはデカい癖に〈リトルワイバーン〉よりもはるかにすばっしこいのは、一体どういう事だと叫びたくなる気分だ。


「くそっ、当たらないなっ!」


 正直、動いている的であっても、俺が狙いを外す事は早々無い。

 となれば――


「多分攻撃を見てから避けてんだろうなぁ……」


 デカい図体に見合わない反射神経の良さだ。

 まったく、嫌になるぜ。


「っ、あのモーション、ブレスが来るぞ!」


 そうこうしている内に、再び〈マザーワイバーン〉がブレスの態勢に入る。

 滞空して動きを止めている為、一見隙だらけなのだが、その実高いスーパーアーマーを持っているらしく、その行動をキャンセルするのは難しい。

 実際、さっき何発も矢をぶち込んでみたのだが、全く止まる気配が無かったからな。


「全員、こちらへ!」


 幸いシンのブレス対策が間に合ったらしい。

 そこには、〈土魔法〉スキルの一つ〈クレイウォール〉で作られた簡易要塞があった。

 いつだったか"大樹の祠"の攻略に使った戦法を教えてやったのを、シンが覚えていたのだろう。

 あいつは、大抵他人の戦法を取り入れるのが上手いからな。

 まあ、対価はちゃんと受け取っているので、特に文句を言うつもりは無いが。


「……しかし、ここまで豪華に造る必要があったのか?」


「まずは様子見ですよ。状況を見つつ、徐々に手を抜く予定です」


 まあ、防げなかったら意味が無いからな。

 最初は慎重なくらいがいいのだろう。


「グギャァァァ!!」


 雄叫びを上げるようにして、〈マザーワイバーン〉がブレスを放ってくる。

 一体が炎に包まれるが、今の所要塞内の俺達にダメージは無い。

 尚もブレスの放射は続くが、要塞が崩れる気配は無い。


「よし、耐えきってくれたか」


 炎が収まった時、俺達は全員ダメージを追わずに済んでいた。

 だがそれにホッとしている暇など無い。

 たかだか攻撃一つを凌いだだけに過ぎないのだ。


「反撃いくぞ!」


 奴のHPゲージはまだ8ゲージ以上残っている。

 恐らく5ゲージ以下での更なる行動パターン変更もあるだろうし、まだまだ気を抜けない戦いが続くのだった。


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