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52 2体のエリアボス(1)

 俺達フルレイド一行は、再び"竜虎の平原"を訪れていた。


 ――ここに来るのも、もう何度目だろうか。いい加減もう終わりにしたい所だな。


 もう雑魚の相手は手慣れたモノで、軽く蹴散らしてエリアボスとその御付きの大群が居る場所近くまでと辿り着く。


「事前の打ち合わせ通り、俺とガミガミでエリアボス2体をそれぞれ所定の位置まで釣るから、あとは打ち合わせ通りに頼む」


 全員が頷いたのを確認してから、俺はガミガミ達から借りた黒ローブを纏い、匂い消しを使う。


「では、カイト殿。準備は宜しいかの?」


「ああ。……死ぬなよ」


「そっちこそなのじゃ」


 確かにガミガミは一度経験済みだから、不安なのはむしろ俺の方だろうな。

 もっとも実際にやるのを間近で見て、やり方は大体理解している。

 お手本があったのに、そうそう失敗は出来ないさ。


「ハルカ、〈フェイド〉を頼む」


 隠形の効果を持つこのスキルは、俺には使えないので〈光魔法〉アビリティを取得しているハルカに頼む。


「カイト、本当にいいの? やっぱりボクが代わった方がいいんじゃない?」


 単純な隠密行動ならば、実はハルカもかなり出来る部類だ。

 下手をすれば俺よりも上手いかもしれない。

 そんな訳で、彼女は俺との交代を提案してきたのだが、それを俺は却下した。


「さっきも言ったろ? ハルカじゃ装備的に厳しいって」


 残念な事に、彼女の装備は完全に魔法攻撃主体であり、敏捷性は然程高くは無い。

 今回の作戦は、敵に気付かれずに接近するのも大事だが、それよりもエリアボスに攻撃を仕掛けて、敵の注目を集めた後にも生き残る能力こそが重要だ。

 そして、そちらにより向いているのは敏捷性を重視した装備を身に付けている俺の方なのである。

 

「だけど……」


「そんなに俺は頼りないか?」


「ううん。そう言う訳じゃないんだけど……」


「なら俺を信じてくれ。それに、やらなきゃいけない事はボスを釣るだけじゃからな。そっちの方を任せるよ」


「……分かったよ。いくよ〈フェイド〉」


 まだ若干不満そうだが、一応納得してくれたので良しとしておこう。

 彼女の魔法の効果により、俺の全身が周囲に溶け込むようにして透明になっていく。

 これで、あとは音さえ立てなければ敵に気付かれる事は無い筈だ。


「では行くのじゃ」


 同じく透明になったガミガミと共に、敵の大群へと向かって俺達は歩き始める。


 うむ。こうして近づくと、この数の敵は物凄く威圧感があるな。

 お互いに相対する敵陣を窺っているのか、思ったよりも静かだが、それが逆に不気味に感じられる。

 そんな事を考えているうちに、遂に群れの中へと俺達は足を踏み入れる。


 特に変わった様子は無いので気付かれてはいない筈なんだが、どうもそこら中から視線を感じる気がする。

 まあこれだけ目が多ければ、そう感じるもの仕方ないのだが、どうにも落ち着かない。

 

 ――ガミガミはこれを良く一人でやり切ったよな。


 幸い今回はガミガミと一緒なので、俺は一人では無い。

 なので少し安心なのだが、もし一人だったら、今以上に緊張しただろうな。


「(ストームタイガー)の前に到着したのじゃ)」


 ガミガミからそんな連絡がフルレイド通話で入ってくる。


「(こっちも〈マザーワイバーン〉の前に着いたぞ)」


 互いの準備が完了したので、後はタイミングを計るだけだ。


「(ではカウント行きますね。5、4、3、2、1、開始です!)」


 シンの合図と共に、俺達は動き出す。


「グギャァァ!!」


 攻撃を受けた〈マザーワイバーン〉が雄叫びを上げながら、視線をこちらへと向けて来る。

 隠形は解除されたので、僅かに遅れて周囲の〈リトルワイバーン〉達からも敵意を向けられる。

 あとは敵を釣り出すだけだが、なるべく多くを巻き込む必要があるので、以前よりも難易度は高い。

 わざと挑発するようにジグザグに移動して、多くの敵意を掻き集めながら、所定の場所へと逃げていく。

 そこには、俺とガミガミ以外の全員が待ち受けていた。


「ちゃんと釣ってきたぞ!」


 何発か攻撃を掠らせながらも、どうにか〈マザーワイバーン〉と御付きの〈リトルワイバーン〉30体程を釣る事に成功した。


「我もおるぞ!」


 対するガミガミもどうやら無事に作戦を成し遂げたらしく、〈ストームタイガー〉と多くの〈エアロタイガー〉を引き連れている。


「俺の後ろに下がんな!」


 †ラーハルト†が傷だらけの俺達を庇うように盾を構えて前に出る。

 それと同時に、後方から俺とガミガミに回復魔法がいくつも飛んで来る。


 さて、ここからが作戦の本番だ。

 俺達に向けられた敵意を利用し、いかにモンスター同士の戦いへと持ち込むかが課題だ。


 その方策として、俺達は〈エアロタイガー〉の風魔法を利用する事にした。

 やる事自体は単純だ。

 〈リトルワイバーン〉を背にした状態で〈エアロタイガー〉に風魔法を撃たせる。

 そして、それを回避して誤爆させれば、あとはモンスター同士の戦闘になるという寸法だ。


 問題は、風魔法の速度が速い事、一時的とはいえ〈リトルワイバーン〉相手に背中を晒してしまう事だ。

 〈リトルワイバーン〉については、†ラーハルト†やナツメが彼らのタゲを持つ事で、背後からの奇襲をさせないようにしてくれる手筈になっている。

 あとは、俺やガミガミが上手く風魔法を回避して、誤爆させるだけだ。


「グルゥゥ!」


 早速〈エアロタイガー〉のうちの1体が風の刃を放ってくる。

 

 ――くっ、早いな。だがっ!


 魔法系スキルの中では〈光魔法〉と〈雷魔法〉に次ぐ弾速を持つだけあって、かなりの早さだ。

 だがその軌道は直線的であり、俺ならば十分に避ける事が可能だ。


「ギャルルゥ!!」


 俺が避けた事で、風の刃が〈リトルワイバーン〉の内の1体へと突き刺さる。

 結果、思惑通りに俺達に向けていた敵意を〈エアロタイガー〉へと向け直し、互いに争い始めた。


「よし! この調子だな!」


 同じ手順で、次々に2者を争わせていく。

 ガミガミもどうやら上手くやっているらしく、現場はどんどん乱戦へと陥っていく。


 多少余裕が出来たので、今度は釣れなかった連中を釣りにいき、そいつらも乱戦に巻き込む事にする。

 あとから援軍で来られても面倒だからな。

 

 そうして、初期の位置にいたモンスター全てを戦闘に巻き込んだのを確認した俺達は、今度はこの戦場からの離脱を始める。


「奴らを刺激しないように、ゆっくりと後退だ」


 ここまで戦場が乱れれば、俺達が何かせずとも戦闘は拡大の一途を辿る筈だ。

 とはいえ、万が一にも収束しないよう、近くで経過を見守る必要はあるが。


「今の所は順調ですね。予定通りに両軍合わせて10以下になったら仕掛けましょうか」


 状況次第では、それ以上の数が残っていても戦いを挑む必要があったが、この分なら恐らく大丈夫だろう。

 

「残る不安要素は、エリアボス2体ですかね……」


 そうなのだ。

 奴ら単体の戦闘力についての情報はまだ大して分かっていないのだ。

 一応、軽く戦った感触では、御付きの連中をデカくしただけの感じだったが、エリアボスがそれだけで済むとは思えない。

 特にゲージ減少後の行動パターンの変更については、未知であるため十分な警戒が必要だ。


「むっ。少し〈リトルワイバーン〉の数が減り過ぎておるの。どれ、ちょっと手助けしてくるかの」


 ガミガミの言う通り、若干だが戦況が〈エアロタイガー〉へと傾いている。

 これでは先に〈リトルワイバーン〉が全滅してしまう。

 俺達としては出来れば両者とも均等に数を減らしてくれると助かる。


 ガミガミらの介入で、傾きかけていた天秤がまた平行に戻る。

 こういった介入を繰り返す事で、戦闘が収まる事が無いまま、ついにそれぞれの御付きが5体を下回った。

 このままエリアボスだけになるまで行きたい所だが、欲を掻きすぎると思わぬしっぺ返しに遭いかねない。

 この辺りが潮時だろう。


「いまだ! 行くぞ!」


 まずは御付きの連中から確実に仕留める事にする。

 エリアボス2体はその後だ。


「〈ウォークライ〉!」


 †ラーハルト†の叫ぶ声は心なし嬉しそうに聞こえる。

 十八番のスキルの使用自粛を命じられて、ストレスが溜まっていたのだろうか?


 スキルの効果によって争っていた連中のタゲの多くが†ラーハルト†へと向く。

 こうなると彼の負担はかなり大きいので、なるべく早めに敵の数を減らして楽にしてやろう。


「「「「〈アローレイン〉!」」」」


 まずは一番射程の長い弓による一斉掃射だ。

 俺も武器を持ち替えてそれに参加している。

 それに僅か遅れて、魔法による攻撃が飛んでいく。


「やぁぁ!」


 一度に大量のスキルが爆撃された事で、視界が無茶苦茶になるが、そんな中にナツメ率いる近接部隊が突っ込んでいく。


 俺達の猛攻によって、残った御付きのモンスター共を全て仕留める事に成功した。

 そして遂に、残るは敵は〈マザーワイバーン〉と〈ストームタイガー〉のエリアボス2体だけとなったのだった。


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