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51 作戦立案

 御付きの〈リトルワイバーン〉達を全て倒した事で〈マザーワイバーン〉を追い詰めたかに思えたが、状況は再び一変する。

 〈マザーワイバーン〉が後方に待機していた援軍を呼び、更にそれに呼応するかのようにして〈ストームタイガー〉とその御付きの〈エアロタイガー〉達までもが動き出したのだ。


「おいおい、どうするよ……。流石にあの数は面倒見きれねぇぜ?」


 自信家の†ラーハルト†が無理だとハッキリと断言しているのだ。

 どうやっても無理なのだろう。

 いや、それは当たり前だ。

 今やって来ている敵は、その数100に近いように見える。

 あれ全てのタゲを取っては、さしもの†ラーハルト†でも1分と持つまい。

 ナツメと2人で分担しても、それはさして変わらないだろう。


「止むを得ないな。撤退しよう」


 今ならまだ敵は〈マザーワイバーン〉だけだ。

 この1体から逃げ切るだけなら、どうにかなるだろう。

 だがもたもたしていれば、後方の大群が追いつかれる。

 そうなれば、いくら俺達でも数の力を前にすり潰される未来はまず避けれないだろう。


 そんな訳で一目散にここから逃げ出す事にした。

 意外な事に、懸念事項だった〈マザーワイバーン〉は俺達の離脱を特に邪魔する素振りは見せなかった。

 むしろのその視線は、援軍にやってきた大群の方に向けられているようにも見える。


 敵の探知距離よりも十分に離れてから、俺達は一旦休止する。

 幸い追撃などは来ずに、あっけなく逃げおおせる事が出来た。

 だが、その理由は明確だ。


「どうやら、〈リトルワイバーン〉と〈エアロタイガー〉が争っているようですね」


 視界の奥で繰り広げられているこの光景こそが、追撃が無かった原因だ。


「援軍に来た〈リトルワイバーン〉共は〈マザーワイバーン〉を危機から救う為、対する〈エアロタイガー〉達は、〈マザーワイバーン〉を仕留めるチャンスを狙って、といったところか?」


 そう考えれば辻褄が合う。

 というかそうでないと眼前の光景に説明が付かない。


「やはり、あの2種類のモンスター達は対立していた訳ですね。ずっと睨み合っていたのは、戦力が拮抗しているが故、といった所でしょうか?」


 事実、初めは俺達が倒した分、数の有利で〈エアロタイガー〉側が押していたが、徐々にどこからか飛来した〈リトルワイバーン〉達によってその数の差は埋められていく。

 それから見守る事しばし、2者の争いが完全に拮抗し、結果2者とも最初にいた場所へと戻っていく。


「得られた情報は多いですが、ゆっくりと整理する時間が必要なようですね。一度、街へ戻るとしましょうか」


 シンの提案に俺も同意だ。少し考える時間が欲しい。

 他の皆も同じ気持ちだったらしく、特に反対意見も無く一時、"始まりの街"へと帰還する事になった。



 そして再びやってきたいつもの会議室。


「ガミガミの活躍のお蔭で〈マザーワイバーン〉を無事引っ張り出せた訳だが、その後の展開で色々分かった事は多いと思う。その辺をまずは纏めるとしようか」


 まず〈マザーワイバーン〉の性能だが、あれはまんま〈リトルワイバーン〉の上位互換なのだろう。

 第一にその巨体ゆえに単純に攻撃力が高い。

 またそれは耐久力にも同じ事がいえ、〈リトルワイバーン〉のように易々と地に落とすのは難しそうだ。

 そして、何より厄介なのが、〈リトルワイバーン〉らを強化する能力を持つ事だ。

 あれのせいで、個々の戦力が体感で1.5倍は厄介になったように感じられた。

 さっきの戦闘でも、あれ以上敵の数が多ければ、こちらがやられていた危険が高かったと思われるくらいだ。


「それらよりも更に問題なのは、〈マザーワイバーン〉がピンチになると援軍を呼ぶという点ですね」


 そうなのだ。

 ああいう事をやられると、ボスだけ釣り出して倒すと言う作戦が成り立たなくなる。

 正面から戦えばまず負ける戦力差である以上、どうにかして頭だけを叩く方法を考える必要があるのだが……。


「うーん、でもさ。〈リトルワイバーン〉と〈エアロタイガー〉はなんか争ってたよね? アイツラを上手く争わせて消耗した所を両方一気に叩くんじゃだめなの?」


 ちやちやがそんな意見を発するが、それに言葉を返せる者はいない。

 しばしの沈黙のあと、ガミガミが口を開く。


「ちやちやよ。確かにそうなのだが、問題はそれをどうやって為すか、なのじゃよ」


 その通りである。

 あいつらは確かに敵対しているようだが、かといって互いの全滅覚悟で泥沼の争いをする訳では無い。

 戦力が拮抗し、味方のボスに危害が及びそうならば、手を引くだけの知能はあるのが、先程のやり取りで十分理解させられた。

 故に、彼らが実際に争うのは、どちらかに戦力比が傾いた時だけであり、その状況を作り出すだけでもかなりの難事である。

 そうまでして作り出した状況も、俺達が離れればあっという間に収束してしまった。

 これでは、敵を同士討ちさせて、俺達だけで倒せる所まで削り合わせるのは難しいように思える。


「まあ、考えの方向性としてはいいとは思う。ただ、問題はその手段がな……」


 ボスの守護を第一に考える連中を、泥沼の戦いに引き摺り込むにはどうすればいいか……。


「なぁ、さっきのガミガミさんみたいな真似出来る奴は、他にはいないの?」


 ずっと黙っていたカズヒトが珍しく口を開く。


「ふむ。……カイト殿なら出来るのでは無いか?」


「まあ、その黒ローブと匂い消しのアイテムを借りれるなら、多分いけるだろうな」


「ふむ。それは勿論構わんよ」


「なら可能だが、それがどうしたのか、カズヒト?」


 そう尋ねるが、彼は何かを考えるようにして目を伏せている。

 そしてしばしの沈黙の後、彼はようやく口を開く。


「ちょっと作戦を考えてみたんだけど……」


「一つでも多くの意見が欲しい所だ。遠慮せずに話してくれ」


「分かったよ。まずさっきの要領で、エリアボスを2体とも釣って、両方を互いに攻撃の届く距離まで誘導するんだ」


 そうなれば、互いの御付きのモンスター達が鉢合わせになって争うって寸法か。

 だが、そう上手くいくだろうか?

 両方の敵意が釣った相手に向かないとも限らない。

 いや、普通はまずそうなるだろう。


「そこは敢えて敵の中に突っ込む。んで、誤爆を狙う」


 まあ混戦だと、誤爆は非常に起きやすい。それを避ける為、パーティやレイドを組む訳なんだしな。

 モンスターの場合、通常はフレンドリーファイアーは起きないが、あの2つの群れは敵対しているので例外のようだ。

 でなければ、モンスター同士で争い合うなんて真似、出来ないしな。


「しかし、それは釣り役の負担がかなり大きそうだな」


「そうだね。でもそれさえ出来れば後はそんなに難しくないよ」


 カズヒトの作戦を要約すると、俺達は敵のど真ん中に留まりつつ、ひたすらフレンドリーファイアーが起こるように敵を誘導するように立ち回る。

 戦闘を傍観している連中を軽く殴って、戦闘モードに移行させてから、誤爆を誘い同士討ちを誘う。

 それを繰り返す事で、争いを拡大させ乱戦へと持ち込む訳だ。

 言い方を変えれば、タゲを取る度に他の奴に擦り付けてしまおうという、もし相手がプレイヤーだったならば最低な行為である。


「……そうですね。細かい所は色々と詰め直す必要がありそうですが、悪くは無いと思いますよ」


 そうだな。

 非常に面倒臭い立ち回りが要求されそうだが、他に実行可能そうな案が浮かばない以上、採用するしかないか。


「†ラーハルト†は今回は〈ウォークライ〉は封印ですね」


 あれは優秀な範囲タゲ取りスキルではあるのだが、周囲の敵のタゲ全てを無差別に取ってしまう為、今回の作戦には向かない。


「むぅ、そうすっと、なんか俺の出番が少なくならねぇ?」


「雑魚を始末した後なら、いくらでも仕事はありますから、それまでの辛抱ですよ」


 シンに諭されて、とりあえず†ラーハルト†は大人しくなる。


 そんな感じで、個々人がどう動くかの詳細を詰めていく。

 特に俺は、ガミガミと共に重要な役どころなので、事前の準備が大事だ。

 モンスターを狩るのに置いて重要なのは、個人のセンス以上に、事前にどれだけ備えるておくかである。

 かなり複雑な動きをするといえど、所詮はAIなので、情報が十分にあれば、動きを予想する事は可能だ。

 そして、予想した動きに対し、こちらはどう動くのかを事前にシミュレーションしておくかどうかで、本番の動きに雲泥の差が生じる事になる。

 そういう意味では、大抵のエリアボス戦は始まる前に、勝負はある程度決していると言っても過言では無いかもしれない。


「さてと、大体確認は終わったようだし、そろそろ出発するとしようか」


 今回は、大分情報を得る事が出来たので、一応ボス2体を撃破する所まで筋書きを一通り描く事が出来た。

 あとは、いかに作戦通りに各人が動けるか。そして、想定外の事態が起きても素早く対処できるか、に掛かっている。


「よし、では今度こそエリアボスを倒すぞ!」


 今回のフルレイドの発起人兼リーダーである俺は、皆を鼓舞するようにそう叫ぶ。


「「おう!!」」


 そして再び、"竜虎の平原"へと向かうのだった。


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