5 パーティ結成
本日更新2回目です。
続きは明日更新予定です。
俺が感じた視線の方へと、誰何の声を投げかけると、あっさりと返事が帰って来る。
「いやー、2人とも凄かったよー。まさかあんなでっかいのを、倒しちゃうなんて」
森の入り口側から、パチパチと拍手を鳴らすのが聞こえて来る。
視線をやるとそこには2人の少女がおり、こちらへと向かい歩いて来ていた。
「ねぇ、ユキハもそう思わない?」
前に立つ少女は、首の後ろで纏めた金髪を揺らしながら、斜め後ろの少女へとそう問い掛ける。
「は、ハルカちゃん。あの人たちに失礼だよっ」
ユキハと呼ばれた長い蒼髪を持つ少女が、そう咎めるように返事をする。
「もうっ、相変わらずユキハったら、堅いんだから……」
「……なぁ、お前ら一体なんなんだ?」
放って置くと、そのままずっと2人で喋っていそうな気配があったので、俺は割り込むように言葉を投げる。
「……君たちと同じこのゲームのプレイヤーだけど?」
いや、そういう事じゃなくてだな……。
「俺が聞きたいのは、そこで何してたんだって事だ」
「ん? ああ、2人が凄い勢いで敵を倒していくから、その後をついてきただけだよー」
一応、背後には警戒を払っていたつもりだったのだが、全く気付かなかった。
横目で視線をナツメへと送り、「気付いていたか?」と尋ねてみるが、彼女もまた首を横に振るだけだった。
「……何が目的だ?」
狙いは良く分からないが、つけ回されていたのは間違いなさそうだ。
まさか、MVPで手に入れた"生存の書"狙いか?
いきなりの修羅場の予感に、俺は短剣を握る手に力を込める。
「あのさ。もし良ければさ、ボクたちを君らのパーティに混ぜてくれない?」
そんな俺の疑問に対するハルカの答えは、意外なモノだった。
「……どういう事だ?」
「実はボクら、VRMMOにあんまり慣れてなくてね。助けてくれる人を探してたんだ」
俺達に気付かれずに、後をつけることが出来た理由は不明だが、多分それは本当だろう。
そう俺が判断した理由は、彼女達の持つ武器にあった。
というのも、2人揃って杖を持っているのだ。
VRMMOにおいて、杖とは魔法補助の為の武器であり、一般に後衛が持つモノだ。
そして後衛2人だけでパーティを組むなど、セオリーから遠く外れている。
命掛けのゲームで、そんな酔狂な真似を好んでするベテランプレイヤーは、まず居ない。
なので、彼女達が初心者だというのは、恐らく正しいのだろう。
一応、仲間が隠れているんじゃないか? という疑念もあったので、周囲を見回して確認したが、他の人間の姿は見当たらない。
「成程、大体事情は理解した。でも流石にそれは甘いんじゃないか? だってこのゲーム、基本的には全員敵同士だぞ? なら初心者は狩られる存在だとは思わないか?」
俺の言葉に、状況を理解したらしいユキハが身体を震わせているが、一方のハルカは余裕の表情を崩さない。
「ハルカちゃん……」
「うーん。だったらさ、試してみない? ボクらがただ、黙って狩られるだけの存在かどうかをさ」
微笑みながらハルカが手に持った杖を構える。
「……面白い、ナツメ。やってもいいか?」
「……まあ、いいわよ。付き合ってあげる」
ナツメの同意も得られた事だ。
軽く仕掛けてみるとしよう。
「は、ハルカちゃんっ」
「ユキハ、ここが勝負所だよ。頑張ろう!」
「ううっ……」
渋々ながらではあるが、ユキハが杖を構えたのを確認した俺は、ナツメに目線で指示を送った後、一気に駆け出す。
「〈ポイズンエッジ〉!」
杖を構えて立つハルカに対し、初手から毒の状態異常攻撃を仕掛ける。
えげつないと思われるかもしれないが、対人戦とはそんなものだ。
「甘いよ!」
流石に、初撃のスキルぶっぱなしにはちゃんと反応したようだ。
短剣が弾かれ、俺はスキル硬直で動きを止める。
まあ、このくらいは対応して貰わないと面白くはないからな。
「やぁぁ!」
固まった俺をカバーするように、ナツメが前へと出る。
「くぅぅ」
ハルカがギリギリの所で、ナツメの剣を受けるが態勢を大きく崩してしまう。
そのままやっちまえ。ナツメ、
「やらせませんっ!」
だが、ハルカの隙をフォローするようなタイミングで、ユキハが前へと出て来る。
その所為でナツメの追撃は失敗に終わる。
「へぇ、意外にちゃんと動けるんだな」
そのオドオドした態度から、ユキハの事は員数外に考えていたが、先程の動きは中々だった。
俺は認識を少々改める事にする。
「だが、まだ甘い!」
その間に俺は、既に硬直から復帰している。
そして、俺はナツメの影に隠れて、弓へと装備を変更していた。
「〈ピアシングアロー〉!」
至近から放たれる弓の一撃。
咄嗟にユキハは、杖を掲げ防御するが、それは甘々すぎる対応だ。
貫通属性を持った矢は、ユキハを杖の防御ごと撃ち抜き、更に後ろにいたハルカまでも貫く。
恐らくまだ、ダメージを受ける衝撃に慣れていないのだろう。2人は分かりやすい程にハッキリと怯む。
だが、そんな隙は俺達の前では命取りだ。
ナツメの剣が、ユキハの首元へと突き付けられる。
「これで、終わりね」
この状況では、もはや彼女達に逆転の余地は無い。
あとはトドメを刺すだけだ。
「待て、ナツメ」
だが俺はあえてそれを制止した。
もっとも、ナツメは俺がそう言い出す事を分かっていたかのように、特に反論する事無くその言葉に従ってくれる。
「ハルカにユキハだったか。初心者にしては、まあ悪くはない動きだった」
「むぅ。そんな上から目線で褒められても、あんまり嬉しくないよ!」
抗議の色を目に浮かべ、ハルカがそんな事を言っているがそれは無視だ。
「とりあえずだが、お前たちのパーティ入りの話は、考えてやってもいい」
「ホントっ?」
先程とは一転、花が咲いたような笑顔を浮かべるハルカ。
「ただし、条件がある」
「な、何?」
俺の言葉に、ゴクリと息を呑むようにして、姿勢を正すハルカ。
「俺はこのゲームのトッププレイヤーを目指している。だから、お前らに成長が見られず、俺の足を引っ張るようなら、迷わず斬り捨てる」
飽くまで彼女達2人に、成長の可能性を感じたから、一時的に組むことを許容するに過ぎない。
その事はきっちり理解して貰わないとな。
「え、それだけ?」
「ああ、それだけだが?」
「やったね、ユキハ! これでいけそうだね!」
ハルカがユキハの手を握って喜び跳ねている。
もしかして、俺は早まったのだろうか? 思わず隣のナツメに視線を送る。
「……そもそも、私とパーティ組む前提で話を進めているわね。まあ、私もそのつもりだったから別にいいけど」
「あー……すまん。ちゃんと確認を取るべきだったな……」
俺の脳内では決定済みだったとはいえ、本人の了承を取るのをすっかり忘れていた。
「ま、別にいいわよ。それにあの2人もそう悪くはないと思うしね」
それについては俺も同意見だ。
VRMMOプレイヤーに重要な要素はいくつかあるが、その中で最も得難いのは、意外な事に基本的な体捌きの技術なのだ。
VRのアバターとはいえ、身体を自由自在に動かすというのは、案外難しいものだ。
いくらやっても上達しない奴はしない。
対して彼女達2人は、その面においては既に十分な実力を持っている。
そもそも、2人ともレベルはまだ7。その上、2人の武器は後衛用の杖だ。
正面から殴り合えばこちらが勝つのは、そもそも当たり前の話なのだ。
VRMMO自体への知識不足は、教えてやれば後からいくらでもフォローが効く以上、パーティメンバーとしてはそう悪くない選択だと思っている。
それに既にナツメという凄腕の仲間を得ていたので、これ以上のパーティメンバーの充実は、逆に俺の活躍の場を奪いかねない。
承認欲求の塊である俺に、そんな事態は耐えられないのだ。
こうして暫定的ではあるが、俺のこのゲームにおいて共に戦う仲間が決定したのだった。