49 威力偵察
俺達3パーティ+1は"竜虎の平原"のエリアボスを倒す前段階として、まずは偵察をしにここを訪れたのだった。
とはいえ、勿論いきなりエリアボスに挑む訳では無い。
まずは取り巻きである雑魚Mobとの戦いにある程度慣れておく必要がある。
特に〈エアロタイガー〉との戦闘経験がまだ無かった事もあり、今回は"蜥蜴人の湿地"経由でここへと来ている。
「おいおい……、あっちもこっちも虎ばっかだなぁ……」
うんざりとした声で†ラーハルト†がそう呟く。
これがただの虎だったならそうでも無かったのだろうが、カズヒトからの情報に依ればかなり面倒な相手らしいのだ。
なので、そうなる気持ちも分からないでも無い。
「あのモンスターがどの程度の強さか、実際に体験する必要がありますね。まずは一戦やりましょうか」
そう。〈エアロタイガー〉はその名にエアロという文字がある事からも分かるように、風の魔法を操るモンスターなのだ。
ただでさえ早い敏捷性を、風魔法によって更に強化し、その動きでもってこちらをかく乱してくる。
更に、いくつかの攻撃系の魔法を用いて遠距離攻撃も行ってくるのだ。
加えて、魔法を使うと言ってもやはり虎型モンスターらしく、接近戦においてもその牙や爪による攻撃は強力なままだ。
要するに、遠近両対応かつ高い敏捷性を誇る、隙の少ないモンスターなのだ。
その上、こいつは一体だけではなくうじゃうじゃと群れて襲ってくるわけで、そうなると対処が非常に難しいのは分かって貰えるだろう。
「カズヒトは、既に戦った事があるみたいだし、とりあえず後方で待機しててくれ。†ラーハルト†達、ガミガミ達、俺達の順でまずはローテーションするとしようか」
エリアボス戦でも恐らく〈エアロタイガー〉とは戦う事になる以上、今ここで戦闘経験を積んでおく必要がある。
「分かったぜ。行くぞぉ!」
†ラーハルト†が気合いを入れて、敵の方へと突っ込んでいく。
一見、アホな特攻のようにも見えるが、敵のターゲットを集める為に必要な行為だ。
――やっぱなんかちょっとアホっぽいな。
そんな失礼な感想を俺が抱いているとも知らず、†ラーハルト†は次々と〈エアロタイガー〉のターゲットを集めていく。
その結果として、†ラーハルト†が4体の虎に集られている姿を夢想していたのだが、どうやらそうはならなかったようだ。
「くそっ。もっと寄って来いよ!」
イラついた声でそう叫ぶ†ラーハルト†。
というのも、〈エアロタイガー〉達は、†ラーハルト†にターゲットは向けているものの、囲むようにして一定の距離を置いているのだ。
剣を持ち防御に特化した†ラーハルト†に遠距離への攻撃手段は少ない。
その為、出来れば距離を詰めて己の射程内に敵を収めたい所なのだが、奴らはそれを許してはくれない。
その敏捷性の高さを存分に活かして、風魔法によるヒット&アウェイを仕掛けて来るのだ。
「〈ウォークライ〉!」
周囲の広範囲を対象としたこのスキルによって、†ラーハルト†は〈エアロタイガー〉達のターゲットをどうにか維持している。
だが、下手に敵に攻撃を仕掛けようとすると、別の個体がこのスキルの射程外となってしまう為、ほとんどその場から動けずにいる。
――あれはストレス貯まるだろうなぁ。
一見直情型の馬鹿に見える†ラーハルト†だが、実は彼は何気に我慢強い男なのだ。
まあでなければ、タンク役なんてものは出来ないだろうが。
普段の開けっ広げな言動も、きっと彼なりのストレス発散方法なんだと思う。
「†ディオ†、†ティア†。今のうちですよ」
「了解!」「まかせなっ!」
シンの指示によって弓使いの2人が、次々と矢を射掛けていく。
だが、〈エアロタイガー〉はその高い敏捷性を活かして、それを回避する。
「なら、こいつでどうかな!」
†ディオ†が矢を持たず弓だけを抱えると、その中心に光の球体が形成される。
「〈ガイデッドシュート〉!」
光の球体から10本もの矢へと変化して、敵の一体に襲い掛かる。
それを一度は回避したものの、誘導によってUターンした矢の追撃は避けられず、いくつもの矢に串刺しにされ、動きを止める。
「んじゃ、続いて俺も行くぜー! 〈チャージショット〉!」
その隙を狙い澄ましたかのように、追撃の強大な魔法矢が襲い掛かる。
それに貫かれた〈エアロタイガー〉が光の粒子となって消えていった。
「よっしゃ! まずは1体!」
見た所、〈エアロタイガー〉は〈リトルワイバーン〉程の耐久性は無いようだ。
まあ、あれで堅かったら反則だしな。
てか、いつの間にか†ディオ†と†ティア†の2人も〈魔弓術〉を覚えていたんだな。
以前合った時は使っていなかったので、多分最近の事なんだろうが。
これまで、俺以外に使っている人間を見たことが無かったので、ちょっとだけ優越感があったのだが、それももう終わりらしい。
残念な事だ。
「あと3体。焦らず確実に仕留めるとしましょうか」
2人が1体仕留める間にも、†ラーハルト†が風魔術の猛攻に晒されていた。
だが、彼は見かけの印象に反した堅実な盾捌きで、それに耐えていた。
そんな彼をシンが的確な回復魔法で支えている。
回復役をきっちりこなしつつも、全体の指揮を取っているシンも流石の腕前である。
その後も、特に危なげなく〈エアロタイガー〉を1体ずつ倒していき、ついに奴らを全滅させたのだった。
「お疲れさん。まあ、流石といった所だな」
「ええ。この程度の相手なら、時間の制約が無ければどうとでもなりますね」
澄ました表情でそう答えるシン。
しかし、そんな彼らだったが"不毛の荒野"では雑魚Mobの強さを前に、ロクに前に進めていないらしい。
一体どんだけ強いんだろうな……。
「じゃあ、次はガミガミ達の番だな」
「うむ。我らも負けてられぬな」
ほう、見かけによらず負けず嫌いな性格をしているらしい。
表情からは分かりづらいが、瞳が燃えている。
まあ、トッププレイヤーなんて負けず嫌いでもなきゃやってられないか。
ガミガミ達のパーティは、短剣使いのガミガミと鞭使いのちやちやが前衛。
ヒーラーのゲルゲルと弓使いのガブガブが後衛という、中々バランスの取れたパーティ構成だ。
タンク役が居ないので、前衛2人が2体ずつターゲットを受け持つ形になる。
全員が卓越した腕前の持ち主であったが、そんな中でも特に目を引いたのはやはり、鞭使いのちやちやだろうか。
そもそも、鞭をメイン武器に使うプレイヤーは非常に少ない。
それはこのゲームに限った話ではなく、VRMMO全体でその傾向が強い。
というのも、鞭という武器は扱い辛いのだ。
間合いは、剣などよりは広いものの中距離というには少し短い。
にも関わらず、柔らかい鞭では敵の攻撃を受け止める事は出来ない。
接近戦において敵の攻撃を受け止める事が出来ないのは中々大変な事なのだ。
短剣もそれに近いが、全く防御に使えない訳では無い。
何より隙が小さいので、回避に重点を置くことで戦える。
対して鞭は、それ程小回りが利かないので、短剣以上に難しい立ち回りが要求されるのだ。
ともかく鞭の届くギリギリの間合いを維持しつつ、いかに近づかれないかを念頭に置いて戦う必要がある。
もし一度懐に入られれば、挽回が大変だからだ。
「甘いわねっ!」
そんな難しい鞭という武器ではあるが、決して弱い武器では無い。
特に〈鞭術〉スキルには敵を拘束・足止めする効果を持つスキルが多いらしく、それらを上手く活用してちやちやは2体の〈エアロタイガー〉を相手に巧みに立ち回っている。
「へぇ、鞭ってあんな風に戦うんだねぇ」
そのちやちやの華麗な鞭捌きを見て、ハルカが感嘆の声を上げている。
「使い手がほとんどいないからな。この機会に良く見ておくといいぞ」
"水霊の三日月島"でのエリアボス戦では、彼女の戦いぶりはほとんど見れなかったので、実質初めて見た訳だが、彼女の立ち回りは鞭使いにとってお手本と呼べるようなレベルのモノだった。
貴重な鞭使いだが、決して0では無い以上、万が一それらと戦う際に参考になるだろう。
そう考えれば、目が離せないのだ。
結局、ガミガミ達も危なげなく〈エアロタイガー〉4体を無事殲滅する事に成功した。
まったく惚れ惚れするような素晴らしい連携だった。
さして次はいよいよ俺達の番だ。
「さてと、この感じだとあまりみっともない所は見せられないな」
「そうね。目の前で見てて敵の動きも大体理解出来たし、さくっと片付けてあげましょうか」
前の2パーティの戦いぶりに当てられたのか、苦手な〈リトルワイバーン〉で溜った鬱憤を晴らせる相手というのもあり、珍しくナツメが燃えている。
まあ、冷静ささえ失わなければやる気を出すのは良い事だ。
「あれくらいの相手なら俺が前に出る必要も無いか。前はナツメに任せたぞ」
ナツメがやる気のようだし、俺は弓で援護に徹するとしよう。
「ユキハはナツメのフォローに集中してくれ。ハルカは俺と一緒に敵の殲滅だ」
「わかりました」「任せて!」
「じゃあ行くぞ!」
俺の言葉を合図に、ナツメが敵に向かい一目散に突っ込んでいった。
「行くわよ!」
†ラーハルト†が純粋なタンクであるのに対し、ナツメはタンクも出来るアタッカーといった所だ。
本職のタンク程は堅くは無いものの、〈二刀流〉スキルの一つ〈カウンタースタンス〉によって、盾役をこなすことが出来る。
だが、やはり彼女の本領は――俺程では無いにしろ――その高い機動性を活かした突撃能力にある。
「やぁぁ!」
ヒット&アウェイなどさせまいと、魔法を放つべく足を止めた〈エアロタイガー〉に対し攻撃を放つナツメ。
逆に、一撃を加えた後、ナツメは別の敵相手へと向かっていく。
ナツメが戦っている間、俺達もそれを黙って見ていた訳ではなく、奥の方の敵へと攻撃を仕掛けていた。
そうなれば、当然敵は攻撃を仕掛けてきた俺達の方へとターゲットを向けて追いかけて来る。
だが、その進路上にはナツメが存在するように俺達は位置取りを考えつつ攻撃を放っていたので、下手に俺達を追おうとすると、ナツメに後ろから斬られるという寸法だ。
そうしてナツメへと、タゲが集まった所でナツメは〈カウンタースタンス〉を発動。
後は、ナツメからターゲットを奪わない程度に攻撃をして、敵を削るだけだ。
集中攻撃を受けるナツメに対しては、ユキハが付きっ切りでフォローをしているので問題は無い。
そして最後は、ある程度HPが削れた相手から順に俺とハルカで集中攻撃して倒す。
これを繰り返す事であっという間に敵は全滅する結果と相成った訳だ。
「流石カイトさんだな! 4体のエアロタイガーをあんなに早く全滅させるなんて……。俺一人だとこの10倍は時間がかかるよ」
カズヒトが尊敬の眼差しを俺へと向けて来る。
――いやいや、多少時間掛かろうともソロで4体倒せるなら十分凄いって。
そう思ったが、それを口に出すと余計にややこしい事になりそうだったので、言わないでおいた。
「同数相手なら、まず問題は無さそうですね。次はもう少し数を増やしてみましょうか」
そんな訳で次は倍の8体程を集めて戦ってみたが、今度も多少の苦戦はあったものの、各パーティ無事に倒す事に成功した。
「〈エアロタイガー〉の実力は大体把握しました。次は〈リトルワイバーン〉ですね」
こちらについては、俺達は既に何度も戦った相手なので、†ラーハルト†達とガミガミ達だけが戦う事になった。
見る限り他のプレイヤーの姿はあまり見ないし、見ても雑魚相手に苦戦してロクに前に進める気配は無い。
そんな訳でまだ時間的には余裕がありそうではあったが、かといって余りのんびりしている訳にもいかない。
〈リトルワイバーン〉との戦闘だが、†ラーハルト†達は弓使いが2人もいる為、撃ち落としにそう苦戦せずに割と楽そうに戦っていた。
ガミガミ達も弓使いのガブガブがいるので、†ラーハルト†達程では無いにせよ、普通に倒していた。
2パーティとも、俺達程苦戦しなかったのは、事前情報があったからだろう。
いや、絶対にそうだ! そうに違いない!
そんな感じで、雑魚Mobとの戦闘に慣れた俺達は、いよいよエリアボスの許へと向かうのだった。




