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46 フルレイド準備(前編)

 カズヒトとの戦いを終え、ゲーム攻略を再開した俺達を待っていたのは、大量の〈リトルワイバーン〉達による熱烈な歓迎だった。


「もーっ! コイツラばっかり! いい加減にしてよっ!」


 ハルカが嘆くのも理解出来る。

 先へ進めば進むほどに〈リトルワイバーン〉と出会う頻度がどんどん密になっているのだ。

 決して倒せない相手では無いものの、戦闘毎にそれなりに神経をすり減らされる為、消耗が半端ないのだ。

 大分対処に慣れた今でもそれは変わらない。


「確かに、これはきつい、なっ!」


 そう言葉を返しながらも、戦闘は現在も続行中である。

 もう一体どれだけの数を倒したのか、記憶が曖昧になって来る程だ。


「でも、確実に前に進んでいるわ。エリアボスまでそう遠くない筈よ」


 そうであることを祈るしかないな。

 嘆いても何も変わらないのだ。ならばやるべき事を頑張るしかない。


「そういえば〈エアロタイガー〉ってモンスター、まだ出てこないね。情報が間違ってたのかな?」


「うーむ。複数の出所から得たそれなりに確度が高い情報だと思っていたんだが……。まさか、誰かが意図的にデマを流したのか? だが、何のためだ?」


 エリアボスならばまだしも、通常の雑魚モンスターの偽情報を流す意味など、あまり無いように思える。

 そもそも情報の中には、明らかな体験談的な話もいくつか含まれていたので、そいつらが全員結託して俺を騙そうとでもしていない限り、そんな事有り得ないないのだ。

 

 ――悩んでも分からないな。もっと先に進めば、何か分かるのだろうか?


 現時点で嘘だろうがホントだろうが、俺達のやる事に大して変わりは無い。

 ならば、今はその事は隅に置いておくとしよう。


 それからも俺達は、増々出現頻度を増す〈リトルワイバーン〉達をどうにか退けながら、先へと進む。

 そこには、思いもがけない事態が俺達を待ち受けていたのだった。


「あ、あの……。あそこ……」


 それに最初に気付いたのはユキハだった。


「どうした? はぁ!? なんだあれ……」


 ユキハの指差す先を目を凝らして見ると、そこには異様な光景が広がっている。


 まず俺達から向かって左手側に〈リトルワイバーン〉の大群がいる。

 それに向かい合うようにして右手側には虎型のモンスターの大群がいる。

 距離が遠すぎるせいで名前が良く見えないが、多分あれが〈エアロタイガー〉なのだろう。 


「半端ない数だな……」


 これまで戦ってきた敵の数が、ショボく思える程にその数は多い。

 あれを一度に敵に回したら、流石に生き残るは厳しいだろうな。


「ここからだと状況がイマイチ分からないな。もう少しだけ近づいてみるか。あの数だ。万が一にも襲われる事態になったら、即座に〈帰還の魔石〉を使うから、そのつもりでいてくれ」


 3人がコクコクと頷いたのを確認してから、慎重にモンスターの群れへと近づいていく。

 そして、近づけば近づくほどに、より敵の全容がハッキリとしてくる。


「雑魚モンスターの大群も大概だが、あのエリアボスらしき2体もかなりヤバそうだな」


 2種類のモンスターそれぞれの群れの奥には、それらよりも更に大型のモンスターが存在していた。

 〈リトルワイバーン〉側にいるのは、〈マザーワイバーン〉といい、その名の通り〈リトルワイバーン〉を2回り程大型にした飛竜型のモンスターだ。

 対する〈エアロタイガー〉側には〈ストームタイガー〉という名の緑色の風を全身に纏った巨大な虎型のモンスターがいる。


 そして、そのどちらもエリアボスらしく、そのHPゲージはなんと20本もあった。

 それが意味するのはフルレイド、すなわち4パーティ16人で挑むべき相手であるという事だ。


「いいねぇ。やっぱ敵が強ければ強い程、燃えるってもんだ」


 これまでに無い大規模戦闘の予感に、俺は全身の震えが止められない。


「ねぇ、16人で挑むにしても、敵の数が多すぎない?」


 言われて見れば確かにそうだ。

 ザッと見ただけでも、〈リトルワイバーン〉が50体以上、〈エアロタイガー〉も多分同じくらいだ。

 〈エアロタイガー〉とは戦闘した事が無いので、その強さはイマイチ分からないが、事前情報から判断して仮に〈リトルワイバーン〉と同程度だと見積もっておく。

 正直、これだけでも16人で相手をするのはかなり厳しいのだが、その上更に、エリアボスが2体もいる。

 むむむ。これはちょっと倒すビジョンが浮かばない。


「何にせよ、俺達だけじゃどうあがいても無理な相手だ。そろそろ色々と心許ないし、一旦、街に戻って対策を考えるとしようか」


 度重なる連戦でアイテムのストックも尽き掛けているし、MPも全員残り僅かだ。

 とりあえずエリアボスの顔を拝めただけで満足すべきだろう。

 

 ――もうちょいデスペナが軽ければ試しに1戦やってみるんだがな。


 このゲームの現状の仕様ではそれも叶わない。

 そんな訳で俺達は、〈帰還の魔石〉を使い、一度"始まりの街"へと帰るのだった。



「おっ、丁度ええとこに帰ってきたな」


 ギルドハウスへと戻ってきた俺達を、ブリギッド達が出迎えてくれる。


「どうした?」


「早速、倉庫の素材でいくつか装備を作ってみたんよ。いやー、あんだけ素材があれば、色々捗るなー」


 職人冥利に尽きるといった感じで嬉しそうに笑いながら、出来た装備をいくつも差し出して来る。


「おおっ! どれも今俺達が付けてるのより性能いいな。……貰っていいのか?」


「勿論や。うちらの貢献を忘れんでくれたら、それでええよ」


「分かってるさ。こっちもまた素材が色々集まったから、それを渡しておくよ」


 〈リトルワイバーン〉を大量に狩ったので、その素材だ。


「まだ市場にもほとんど流れてない素材ばっかりやないか。……腕がなるわ」


「そいつを使って更にその腕を磨いてくれるとこっちも嬉しいぞ」


「任せといてや! ……そうや、一つ気になる噂が街で流れとる」


 嬉しそうな表情から一転、神妙な顔つきに変わるブリギッド。


「どうも、本格的なPK集団が動き始めとるらしい」


 PKか。

 PKというと、マコトの顔が思い浮かぶが、あいつらにそんな大それた真似が出来るとも思えないので、多分別の連中なんだろうな。


「ふむ。詳しく聞かせて貰おうか」


「いうても、噂程度の話やで」


 そう前置きしてからブリギッドがPKについて語り出す。


 なんでもそいつらは4thエリアのみに出現するらしく、強い雑魚を倒して安心した所を狙う手口らしい。

 ランキングでそれなりに上位連中も被害に合っている辺りからも、かなり腕の立つ奴らだと推測されるらしい。

 ただ、肝心の戦闘能力やキャラクター名なんかは奇襲で全員やられている為、分からないらしい。

 多分、隠形系のスキルなり装備なりを使ってるんだろうな。


「ともかくカイトはんも気を付けてな」


 ふむ。ちょっとこれだけでは情報が少なすぎるな。

 ともかく警戒を怠らないようにしよう。


「分かった。ゆめゆめ気を付けてるとするよ。じゃあ、ちょっと俺達は出掛けて来るからまたな」


 ブリギッド達に別れの挨拶をしてから、ギルドハウスを後にする。

 向かった先は、いつもの会議室だ。


「さてと、まずは情報整理といこうか」


 "竜虎の平原"のエリアボスは、〈マザーワイバーン〉と〈ストームタイガー〉の2体。

 それぞれ、HPゲージを20本持っている事から、フルレイド級相手だと推測される。

 取り巻きとしてそれぞれ、〈リトルワイバーン〉と〈エアロタイガー〉が少なくとも50以上はいる。

 俺の感覚からすれば、フルレイド(4パーティ16人)どころか、レギオンレイド(8パーティ32人)くらいは必要に思える敵戦力だ。

 である以上、なんらかの抜け道的な攻略方法があると推測されるが……。


「何にせよ。面子を集めないとな……」


「そうね。でも3パーティも宛てはあるかしら?」


「そうだな……。以前に誘って貰った訳だし、†ラーハルト†達はまず決まりとして、他はどうするか……」


「あの変な人達はどうかな? ガミガミ教とかいう……」


 あの連中か。腕は確かだし、パッと見は変人ではあっても、根は善良な部類だと思う。

 フレンド登録もしているので、連絡を取るのは容易だしな。


「あと1パーティか。ブリギッド達じゃ流石にキツイだろうしな……」


 残念ながら今の彼女達の実力では、4thエリアでは大した戦力にならないだろう。


「あの蒼翼なんたらって人達はどうかな?」


 〈蒼翼騎士団〉の連中か。

 一応、団長であるブルーロビンとはフレンド登録してはいるが、あれから連絡を取ってはいない。

 正直、やられっぱなしなので、若干彼らに隔意を抱いているのだ。

 だが、そんな俺の意思とは関係なく、彼らを呼ぶ事は出来ない。


「あいつらはダメだな。数が十分にいるから、下手に情報を流せば、ギルド単独で攻略に向かう可能性が高い」


「そっかー。そうだよね……」


 それでなくても、主導権を奪われる可能性が高いからな。

 となると、単パーティで行動している連中が理想なのだが……。


「うーん。ちょっと思いつかないねぇ……」


 別に知り合いが少ないという訳では無いのだが、戦闘に自信があってかつ信頼出来る連中となると、一気にその数が減ってしまう。


「とりあえず†ラーハルト†達とガミガミ達に連絡を取って、そいつらの知り合いに誰か良い連中を知らないか訊いてみるとするか」


 出来れば俺が一度この目で見てから確認した相手の方がいいのだが、この際我儘は無しだろう。

 最悪、顔合わせの段階で明らかにダメな連中を紹介されたら、難癖つけてでも排除するしかない。

 まあ、そこまで変な奴らを彼らは呼ばないだろうとは思うけどな。


 それよりまず心配すべきなのは、彼らがこの話を受けるかどうかだ。


「よし、まずは奴らに連絡を取るぞ」


 俺はフレンド通話を使って、彼ら達にフルレイドパーティへの誘いの声を掛けるのだった。


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