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44 PvP

 偶然、カズヒトと出会った俺だったが、何故か彼に勝負を挑まれ、決闘を行う事になった。


「へぇ、短剣を使うのか。そんなちっちゃな得物で、俺の〈ムーンライトブリンガー〉が受け切れるかな?」


 挑発的な物言いだが、それより気になる事がある。


「なるほど。それがその双剣の名前なのか。ちなみに、それどこで手に入れたんだ?」


「……俺に勝てたら教えてやるよ」


 ならこの勝負、ますます負けられなくなったな。

 もっとも、勝利以外は端から眼中に無いけどな。


「じゃあ、そろそろ始めるとするか」


 俺は対人戦の申請をカズヒトへと送る。

 それが受諾された事で、試合開始へのカウントダウンが始まる。


「行くぞ!」


 カウントが0になると同時に、カズヒトが俺へと目掛けて一目散に走り出す。

 どうやら短剣装備の俺相手に、わざわざ近接戦を挑んでくれるらしい。

 向こうは遠距離攻撃手段がある以上、まずは距離を置いて戦うのがセオリーだと思うのだが。


 などと考えつつも、迎え撃とうと構えていたら、俺の間合いに入る寸前、カズヒトがバックステップで後ろに下がる。


「〈ムーンライトスプリンター〉!」


 双剣を同時に交差するように振り下ろしたかと思うと、その剣先から2つの半月型の光がクルクルと回転しながらこちらへと飛んで来る。

 距離を詰めるように見せたのはフェイントで、本命は遠距離攻撃らしい。


 ――やっぱそう来るよな。


「おっと」


 バックステップをした時点で、そう来るだろう事を読んでいた俺は、斜め後ろに下がって回避する。

 そのままスキルの硬直を狙って距離を詰めようとしたが、光が満月を描くように滞空しており、カズヒトまでの進路を塞ぐ。


「くそっ、面倒なスキルだな……」


 そうして攻めあぐねている一瞬で、カズヒトとの距離は再び大きく開いていた。


「〈フラッシュブレード〉」


 そうして出来た暇に、カズヒトがまた別のスキルを使う。

 それによってか、元々うっすらと月光を纏っていた双剣がその輝きを増す。

 果たしてどういう効果なのか?

 奴のアビリティの情報が全く無いのはやはり痛いな。


「距離を詰めなくていいのか? なら、そのままなぶり殺しにするだけだ!」


 カズヒトがそう言って剣を振るうと、剣先から白い光が飛んで来る。

 先程使ったスキルと比べればその光は小さいが、むざむざ食らう訳にもいかない。

 横移動で回避をするが、その行動を読んでいたかのように新たな白い光が俺へと迫り来る。


「くっ!」


 どうにか、横っ飛びで避けたが、カズヒトの攻勢は尚も続く。

 連続して飛来する白い光を前に、俺は距離を詰められないでいた。


「はははっ! まさかこのままで終わっちまうのか!?」


 余裕綽綽といった表情のカズヒトが剣を振るう度に、その剣先から光が奔る。

 そして剣が2本あるせいで、その回転率はかなり速い。

 

 ――これは俺の弓の連射速度よりも早いな。


 流石に射程は弓のが上だろうが、それでもこの連射性能は厄介の一言に尽きる。


「ほらほら、どうした!」


 現状は距離を詰める所では無く、仕方なく俺はひたすら回避に専念する。

 

 軌道は直線的で誘導性は皆無。限界連射速度は……こんなものか。

 流れ弾での地面の削れ方を見るに、威力やノックバックも大したことは無さそうだ。

 他のスキルを一切使って来ない辺り、このスキルを使用中は別スキルの併用は不可と。

 

 回避に専念しながらも、俺はこのスキルに対する分析を行っていく。


「くそっ、何故当たらない!?」


 余裕だったカズヒトの表情が、俺に一撃も当てれない事実に対し、徐々に焦りの表情へと変わっていく。

 一方で俺はというと、分析がある程度完了した事でかなり余裕が出来ていた。

 

「よし、そろそろ慣れたし、反撃と行かせて貰うぞ!」


 そう宣言すると同時に、俺はカズヒトへと駆けて行く。


「くそっ、舐めるな!」


 カズヒトが俺目掛けて、尚も光を飛ばして来るが、ただ直線的に飛んでくる攻撃に当たる俺では無い。

 最小限のジグザグ移動で光を回避しつつ、カズヒトとの距離を一気に詰める。


「捕えた!」


 やっとで射程圏内に入った俺は、短剣を振るい、カズヒトの首元を狙う。

 

 これは急所(クリティカル)狙いの攻撃だ。

 このゲームにおいて、人体にいくつも存在する急所に対する攻撃は、通常の2倍~数倍のダメージを与える。

 他の武器と比べて威力が低く抑えられている短剣という武器は、その一方で小回りが利く為、こと急所狙いにおいては非常に優秀なのだ。 

 加えてゲーム序盤のPK祭りによって俺は〈暗殺術〉アビリティを取得しているので、その恩恵によって急所に対する攻撃の威力は更に増している。


 対人戦において短剣とは、使い様によっては非常に高い火力を叩き出す事が可能なのだ。

 まあ、対モンスターの場合は、急所が分かりづらかったり狙い辛かったり、あるいは存在しないと場合もあり、中々安定しない武器でもあるのだが。


「くぅぅっ!」


 だが、俺の短剣がカズヒトの首元に刺さる寸前。

 振り下ろしていた筈の剣を首元へと持ってきて、間一髪ながら俺の攻撃を弾く。


「やるな! だがっ!」


 何度も言うが、短剣の利点は小回りが利く事なのだ。

 ちょっと弾かれた程度では、すぐに再攻撃に移る事が可能だ。


「〈ポイズンエッジ〉!」


 ここぞとばかりに、毒を与える〈短剣術〉スキルを使い、一気に削りに行く。

 

「ぐぅぅっ!?」


 当たる直前に身体を捻られた為、首元へのクリティカルヒットは逃したが、それでもこの1撃は非常に大きいものとなった。

 というのも、カズヒトのプレイヤーネームの横に毒状態を示すアイコンが浮かんでいるからだ。


 目的を果たした俺は、バックステップで距離を取った後、そのままカズヒトとの距離を取る。


「くそっ、毒か。リフレ――。ぐぅっ」


 カズヒトが毒を治療すべく〈水魔法〉スキルの1つ〈リフレッシュ〉を発動しようとする。

 だが、カズヒトが〈水魔法〉アビリティを持っていることは事前に知っていたので、その行動は予想済みだ。


 持ち替えた弓で攻撃を加え、魔法をキャンセルさせる。


 その後も何度か、カズヒトが治療を試みるが、その度に俺から放たれる矢によって阻止される。

 回復系の魔法はどれも、軽く攻撃を受けるだけでキャンセル出来てしまうのだ。

 俺くらいの腕の持ち主ならば、タイマンという条件下であれば、ほぼ確実に相手の回復行動を阻止する事が可能なのだ。

 これがほとんどのPTでヒーラーが後衛を務めている理由でもある。

 そういった意味でも、ソロで回復までこなすカズヒトの腕前は卓越していると言える。


「くそっ」


 ソロという事もあり、状態異常耐性はそれなりに積んでいたのだろう。

 特に麻痺やスタンなどの状態異常は、ソロだと生死を分けるので、絶対に避けなければならない。


 そのせいもあってHPが1割を下回る大分手前で、毒が解けてしまったようだ。

 現在のカズヒトのHPゲージは残り後半分程。

 だが、HPでこちらが有利が取れればそれで十分だ。

 後はこの弓で封殺させて貰う。


「まだ、俺は負けてない!」


 先程とは一転して、奴が追う側、俺が追われる側だ。

 となれば当然、俺は奴に距離を詰められないように動く。


 俺の弓による牽制に苦戦しながらも、カズヒトは徐々に距離を詰めて来る。


「〈ガイデッドシュート〉!」


 だが、俺の弓による攻撃は、カズヒトが使ったような直線的な攻撃だけでは無い。

 特にこの〈ガイデッドシュート〉というスキルは、対人戦では非常に効果的だ。

 何といっても、(ほぼ)必中の誘導弾なのだ。

 回避しても方向転換をして追って来る以上、その対処法は限られる。


「うおぉぉお! 〈ハーフムーンスラッシュ〉!」


 左右から交差させるような大振りの剣閃が放たれる。

 半月のような大きな弧を描いたそれは、俺が放った魔法の矢を全て撃ち落とした。

 

 そう、対処法の一つは、別のスキルによる迎撃なのだ。

 〈ガイデッドシュート〉の魔法矢の欠点として、通常の矢と比べやや弾速が遅い事がある。

 なので、動体視力に自信のあるプレイヤーならば、撃ち落とす事は決して不可能では無い。

 もっとも、散々俺に弓で射られまくって態勢を崩した状況下でそれを為し得たのは、十分驚嘆に値するのだが。


「やるな。だが――」


 魔法の矢を迎撃する際に使ったスキルはかなりの大技だったらしく、今のカズヒトはその硬直によって完全に動きを止めている。

 今の彼は俺から見ればただの的だ。


「終わりだ!」


 確実に仕留めるべく、首元に狙いを定めて矢を放つ。

 矢を放った瞬間、俺は奴の首元に何か光るものを見つける。

 さっきまであんなモノは無かった筈……。

 あれは――


「うぉぉぉ!!」


 俺の矢の直撃を受け、HPが1割を割る筈だったのが、なぜか現実にはカズヒトのHPはまだ残っており、試合終了の合図は告げられていない。

 そしてそれを予期していたかのように、カズヒトがこちらへと距離を詰めて来る。


「まさかっ! さっきのは〈天使の首飾り〉か!?」


 〈天使の首飾り〉は以前ブリギッドに貰った事があるアイテムだ。

 装備していると、致命的なダメージを受けた際に一度だけ身代わりをしてくれるアイテムだ。

 一応、アクセサリーの分類なので、試合のルールにあるアイテム使用制限にも引っ掛からない。


「ああ、そうだよ! カイトさんが強すぎるから、あんな高いアイテムまで使う羽目になったじゃないか!」


 カズヒトの言葉にもあるように、あれはかなり高いアイテムなのだ。

 まさかこんな得る物の少ないPvPに引っ張り出して来るとは思っていなかったので、俺にとっても想定外だったのだ。


 若干涙目になりながらも、距離を詰めたカズヒトが俺に対し2本の剣を振るう。


「こうなったら、意地でも勝つ!」


 大金をつぎ込んだ以上、余計に負けられなくないといった所か。

 

 そして現状だが、客観的に見れば俺がかなり不利だろう。

 相手は双剣を使っているのに対し、こっちは弓。

 近接戦闘では、どう見てもあちらが有利に思えるだろう。

 ここは短剣に持ち替えたい所だが、相手もそれを許す程甘くは無い。だが――


「こうなった以上、俺の勝ちだ! 負けを認めろ!」


 カズヒトがそんな言葉を叫ぶが、俺には響かない。


「舐めるなよ! 弓相手に近接戦なら余裕だと思ったか!」


「これで御仕舞だ!! 〈ブレードダンス〉!」


 ここに来て初めて、カズヒトが〈二刀流〉スキルを放ってくる。

 ナツメ同様に奴もまた〈二刀流〉アビリティを習得していたらしい。

 まあ剣を2本持っている時点で、それは予想はしていた。

 その事は勿論、奴も理解しているだろう。

 

 それでも奴がこのスキルを使った理由は、なんとなく分かる。

 至近の間合いにおいて2本の剣が織りなす20連撃。

 その濃密な剣の嵐を前にして、避ける事は無理だと思っているのだろう。


「だが甘い!」


 確かにこの間合いでこれを回避するのは普通ならばかなりの難事だ。

 これが初見ならば、俺にも流石に全部避けるのは無理だっただろう。

 だが、残念ながらこのスキルはナツメが使っているのを何度も見た事があるのだ。

 その為、このスキルによって攻撃の来る位置や角度は全て把握しているのだ。


 結果、俺はカズヒトが次々と放つ剣撃を、最小限の動きでもって回避していく。


「はぁ!? マジかよ……」


 剣舞を繰り出しながらも、カズヒトがあんぐりと口を開いている。

 俺が的確に全ての攻撃を避けているのが、余程信じられないらしい。


「ここぞという場面で隙のデカい連撃系のスキルに頼る辺り、まだまだ対人経験は未熟らしいな」


 対する俺は、そんな言葉を発する余裕がある程、楽々と回避している。

 

「ああ、ちくしょう……」


 そして20連撃は一発も俺に掠る事なく、終わりを迎える。

 その先に待っているのは、対人戦という括りにおいて、非常に長い硬直だ。


「中々、楽しかったぞ。もうちょい対人戦のセオリーを勉強してからまた来いよ」


 そうして動きを止めたカズヒトへと、俺はトドメの矢を悠々と打ち込むのだった。


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