43 白の剣士
〈リトルワイバーン〉の群れを前にして、一度は撤退を余儀なくされた俺達だったが、作戦を練り直し態勢を整えて攻略を再開する。
「〈リトルワイバーン〉が2体か。援軍が来る前に手早く倒すさないとな。右側頼んだ!」
俺が弓を構える横で、ハルカとユキハも魔法の準備入っている。
「〈ガイデッドシュート〉!」
まず左側の個体へと俺が放った魔法の矢が向かう。
前回同様、一度は回避されるが、方向転換した矢が奴の後ろから突き刺さり、奴を地面へと誘う。
それに僅か遅れて、ハルカが右側の個体へと魔法を放つ。
「〈チェーンライトニング〉!」
ハルカの杖の先から紫電が奔り、〈リトルワイバーン〉を襲うが、間一髪の所で回避される。
だが、無理な回避運動によって態勢を崩した奴に対し、間髪入れずに今度はユキハの魔法が襲い掛かる。
「〈レイズグラビティー〉」
次の瞬間、〈リトルワイバーン〉が黒い球体に囚われたかと思うと、突然急速に地面へと落下を始めた。
〈闇魔法〉スキルの一つのこの魔法は、対象を重力の檻に閉じ込めて、ダメージと拘束効果を発揮するというモノだ。
特にこの拘束効果というのが、飛行系の敵に対し非常に有効で、食らったら大抵そのまま地面へと落下してしまう。
そしてそれは今回も例外では無かったようだ。
「ナツメ、頼む! ハルカはナツメの援護を! ユキハは周囲の警戒!」
状況に応じて、矢継ぎ早に指示を飛ばしつつも、俺もまた動く。
ナツメが向かってない個体の足止めをする必要がある。再度上に逃げられると面倒だからな。
地面に落としてしまえば、もはやただ硬いだけのトカゲに過ぎない。
再度、上空へ逃げられないように気を付けつつ、慎重にHPを削っていき、2体とも倒す事に成功した。
「ふぅ。今度は援軍は無いみたいだな」
〈リトルワイバーン〉の行動範囲は広いようで、戦闘開始時に近くにいなくとも油断は出来ない。
「しばらくはこの辺で狩りをして、〈リトルワイバーン〉との戦闘に慣れるとしよう」
こうして実際に自分達が挑戦してみると、攻略が遅々として進まないのもなんとなく理解出来る。
幸い俺達のパーティは対空攻撃能力が高いので、この程度の苦戦で済んでいるが、ナツメのような近距離型のメンバーで固めているパーティだと、かなり大変だろう。
それから〈リトルワイバーン〉を20体程狩った所で、十分に慣れたと判断し、俺達はエリアの更に奥へと進む事にする。
「やっぱり〈リトルワイバーン〉は特別みたいだな」
道中、他のモンスターとも出会ったが、そちらは以前のエリアの敵をレベル相応に強くした程度の強さだった。
その為、然程苦戦する事なく蹴散らす事が出来たが、得られる経験値やアイテムもそれなりだ。
「〈リトルワイバーン〉狩りは、リスクは有れどかなり美味しいな。そろそろレベルが上がりそうだ」
現在、俺達のレベルは28だ。
ここしばらく停滞していたレベルが、ようやく上がる兆しを見せた事に嬉しさを感じる。
「美味しいけど、私はあんまり役に立ってないからね……」
対してナツメは、ちょっと複雑そうな表情をしている。
〈リトルワイバーン〉は遠距離攻撃手段を持っていないので、奴が攻撃を仕掛けるべくこちらに接近する際に攻撃をすれば、近接攻撃しか出来なくても十分にダメージを与える事は可能だ。
だから、別に近距離型でも決して倒せない敵ではないのだが、どうしても相手の出方次第になってしまうので、効率はあまり良くないのだ。
対して、遠距離攻撃を主体にした場合、こちらが主導権を握って戦えるので、慣れれば安定した戦闘が可能なのだ。
俺達のパーティには3人も遠距離攻撃が出来る人間がいるので、それをしない手は無い。
「まあ適材適所だろ。近距離型が活躍するような場面だと、逆に俺達はナツメに頼らざるを得ないんだからさ。だから気にするな」
実際"大樹の祠"なんかでは、ナツメがいなければクリア出来ていなかったと思う。
単純な近距離戦闘なら俺も短剣に持ち替えて出来なくは無いが、味方を守る盾役は流石に無理だからな。
「……そうね。ありがとう、カイト」
大体にして、〈リトルワイバーン〉を地面に落としてからは、火力面で十分な貢献をしているのだ。
本当に気にする必要は無いと思うが、その辺のストイックさもきっと彼女の魅力なのだろう。
◆
〈リトルワイバーン〉をひたすら狩りながら着実に奥へ奥へと進んでいく俺達。
「あれは……?」
目の前で3体の〈リトルワイバーン〉を相手に人影を発見する。
ナツメ同様に2本の剣を手にしたその男は、髪も白ならば肌も白、上下の服も靴も白、挙句の果てには持っている剣さえも白という、白ずくめだった。
「どうも他の人間は居ないみたいだな」
その白い男――カズヒトというプレイヤーネームらしい――の周囲には他のプレイヤーの姿は見当たらない。
「ソロって事かしら? 良くやるわね……」
まったくだ。
ライトノベルじゃあるまいし、VRMMOの最前線でソロプレイとか、いくらなんでも無謀にも程がある。
「でも変ね。一見私と同じ〈二刀流〉の様に見えるけど、使ってるスキルは明らかに別物だわ」
片手剣の2本持ちと来れば、普通〈二刀流〉を連想する。
だが、カズヒトが使っているスキルは明らかに〈二刀流〉のそれでは無い。
白い光を伴った斬撃を飛ばし、半月を描くような軌道の剣閃を放っている。
あんな遠距離攻撃や広範囲攻撃は〈二刀流〉スキルには存在しないのだ。
「良くみれば武器も見たことない種類のようだし、もしかして彼がそうなのかしら?」
「……ああ、多分あれが"白の剣士"って奴なんだろうな。まあ、あそこまで分かりやすい見た目してれば、そりゃそんな二つ名も付くわな」
直接その姿を見たのは初めてだが、彼については街でも噂になっていたのだ。
ゲーム開始からずっと無謀にもソロプレイを続け、何度もエリアボスまで到達しては返り討ちに遭っていると。
流石にエリアボスの初討伐の経験は無いようだが、新エリア開放後の動きや、エリアボスまでの到達はかなり早いらしく、その辺の活躍ぶりが認められてか、毎度ランキング上位に名を連ねている。
加えて、ブリギッドが以前に言っていた専用アビリティ付きの剣の持ち主が彼なのだ。
現在、彼が使っているあの謎のスキルは、恐らくそれ由来のモノなのだろう。
「戦いぶりを見るに、所謂魔法剣士って奴なのかね? たまにヒールしてるっぽいし」
〈水魔法〉スキルの〈アクアヒール〉を時折使っている姿が見受けられる。
それなりにHPも回復しているようなので、魔法攻撃力のステータスもかなり高い筈だ。
となると、飛ばしてる斬撃なんかも魔法攻撃力依存なのかね?
カズヒトがソロでやれている理由が分かった気がする。
ソロプレイをやる上で問題になるのだが、回復魔法だ。
ポーションが高価かつ、回復量が頼りない以上、どうしても回復魔法は必要となる。
なのでソロの場合は他に仲間がいない以上、本人が取得するしかないのだが、十全にその効果を発揮させるには、魔法攻撃力を高くする必要がある。
そうなると、必然、魔法型の装備になるが、残念な事に魔法アビリティを主体に据えると、ソロには向かなくなる。
魔法系のスキルは大抵高威力なのだが、その反面、溜めが大きくかつ被弾によるスキルキャンセルをしやすい。
一部、例外もあるものの基本はそうで有る為、ソロをやるのはかなり大変なのだ。
対して物理型の場合、多少の攻撃を無視してスキルを放てる為、ソロ向きではあるのだが、肝心要の回復魔法の威力が頼りないものになってしまう。
そこは回数を使ってカバーをと行きたい所だが、回復魔法はMP消費が激しいので、今度はMP面で問題が出て来る。
当然、物理系のスキルだろうとMPは消費するので、MP切れは死活問題となるのだ。
そしてMP回復系のアイテムは、HP回復系よりも更に貴重かつ高価だ。
たとえ儲けを独占できるソロプレイであっても、頻繁に使用すれば恐らく採算が取れないだろう。
だが彼が使っている謎のユニークアビリティは、見た所遠近両対応のスキルな上、ダメージが魔法攻撃力依存のように見える。
そしてそれはスキル以外の通常攻撃も同様なようで、淡い光をその剣に纏い、魔法ダメージを与えているようだ。
この辺は、ちょっと俺の〈魔弓術〉に近いモノがあるな。
「結構危なかっしい感じだけど、なんだかんだでちゃんと削ってるみたいだね」
「そうだな。ナツメの洗練された剣捌きとは対極の荒々しい感じの動きだが、それでも強いのには違いない」
「あの剣欲しいわね……。遠距離攻撃も出来るなんて羨ましいわ」
あまり物欲とは縁が無さそうなナツメが、珍しく目を輝かせている。
どうも今回はイマイチ活躍の場が少なくて鬱憤が溜っているみたいだ。
「かなりのレアドロップだろうからなぁ。他に似たような装備の入手報告無いし……」
俺の知る限りではあるが、専用アビリティなんて卑怯臭い能力を持つ武器は、あれだけだ。
となれば狙って手に入るようなモノでは無いのだろう。
ちなみに俺のアイテムドロップ運は、お世辞にも良くは無いので、俺も拾えるかも、なんて期待はしないでおこう。
「あ、1体倒したみたいだね。ねぇ、カイトなら〈リトルワイバーン〉を3体同時に相手にする事は出来るの?」
「どうだろな。まあ、やってやれなくは無いだろうが、もっと時間は掛かるだろうなぁ」
俺は回復魔法が使えないので、ソロでやる場合、被弾は極力避ける必要がある。
なので、目の前で戦っているカズヒトのように、多少のダメージを無視しての特攻が許されないのだ。
そうなるとどうしてもDPSが低くなってしまうので、敵を倒すのに時間が掛かってしまう訳だ。
「時間を掛ければ出来るんだ……。流石だね。ボクにはちょっと無理だなぁ」
「それはお前が魔法型だからだろうさ。俺も同じスタイルなら流石にソロは厳しいだろうさ」
魔法型の本領はパーティプレイだ。
前衛がタゲを取っている後ろから、思う存分隙のデカい大技を叩き込みHPを削るのが仕事なのだ。
適材適所というだけの話であって、別にソロが出来ないからと引け目に思う事は無いのだ。
「2体目も倒したみたいだね。あとは余裕かな?」
「そうだな。あの感じなら、3体目もすぐだろう」
それから、そう時を置かずにカズヒトが3体目の〈リトルワイバーン〉を撃破する。
「いやー、いいモノ見せて貰ったよ。ソロで〈リトルワイバーン〉3体をソロで撃破とは恐れ入る」
ここで出会ったのも何かの縁だ。
ソロプレイに拘りがあるみたいなので、ギルドへの勧誘などは無理だろうが、別に俺にもその気は無い。
ただ、上位プレイヤーとコネを繋いでおくだけでも、十分に有意義だからな。
目指すはフレンド登録あたりかな?
「あんたたちは……? そうか、あんたがランク1位の廃人様か」
良い意味で名前が売れるのは、俺としても望む所ではある。
ただ、廃人呼びはやめろ。俺の名前はカイトだ。
「戦闘を見させて貰ったけど、そのユニークアビリティ凄いな。なんて名前なんだ?」
「ああ、それはな……。いや、教えるのは別に構わないが、その前に俺と一戦やらないか?」
「は? 藪から棒になんだ?」
俺にそんな好戦的な雰囲気は無かった筈だ。むしろかなり友好的にコンタクトを取ったつもりなんだが……。
何か知らぬうちに、恨みでも買っていたのか?
「ああ、勘違いしないでくれ。別にあんたに何か恨みがあるって訳じゃない。たださ、やっぱり誰が最強なのかは、ハッキリさせておきたくないか?」
なるほど、こいつ自分が最強だと思っている口か。
最前線でソロで戦っているプレイヤーなんて、今のこいつ以外に知らない。
となられば、天狗になるのも已む無しか。
「面白い。いいだろう。どっちが、本当の最強か教えてやろうじゃないか」
最高のVRMMOプレイヤーとして、売られた喧嘩は買わねばならない。
「ちょ、ちょっと大丈夫なの?」
ハルカが心配そうなそうで、こちらを見てくるが、安心して欲しい。
「ちょっと俺に時間をくれ。何、すぐにコイツを倒して攻略に戻るさ」
「へぇ、凄い自信だな。だけどあんたがランク1位なのは、所詮仲間に頼ったからさ。タイマンなら最強は俺だ!」
「残念ながら、それは勘違いだな。確かにお前は強い。だが、上には上がいることを教えてやろう」
そう言えば、久しぶりの真っ当な1vs1の対人戦だ。
このゲームで言えば、初めてのそれは、俺の心を物凄く踊らせてくれる。
「ナツメさん、止めなくていいんですか?」
「……ああなったら、止めても無駄よ」
流石ナツメ。良く分かってるじゃないか。
「さて、ルールはどうする?」
「デスペナは可哀想だし、残HP1割で決着でどうだ?」
一応このゲームには対人戦モードが存在する。
そのルール設定の中には、HPが一定割合以下になると、試合終了とするモノも存在する。
削り過ぎてそのまま殺してしまう、なんて事故を防げるので便利なのだ。
これを利用しての緊急時の避難が出来そうにも思えて以前検証した事もあったが、残念ながら無理だった。
パーティメンバーとは戦えないし、モンスターとの戦闘中も無理だ。
本当にただ戦う為だけのモードであり、勝利しても特に得られるモノは無い。
手に入るのは、ただ勝利したという栄誉だけだ。
だが、それでいい。
「問題無いぞ」
「アイテムの使用は禁止でいいか?」
「俺はなんでも構わないぞ。どうせ勝つのは俺だからな」
「はっ、言ってろよ。女に囲まれて良い気になっているあんたには、絶対に負けないぜ!」
また、仲間が女性ばかりな事を突っ込まれてしまった。
やはり、この状況は傍からみると羨ましいものなのかね?
俺個人としては、良い仲間に恵まれたな、という思いはあっても、女性ばかりだから嬉しいという感覚は特にないので、イマイチ理解出来ないのだ。
「さてと、準備はいいか?」
「ああ、いつでも来いよ!」
俺と"白の剣士"カズヒト、2人の男の戦いが、今始まるのだった。




