42 竜虎の平原
"始まりの街"を出立した俺達は、"炎熱の山地"を経由し、"竜虎の平原"へと向かう。
「"竜虎の平原"では、ドラゴンが出るんだよね? なんかちょっと怖いなぁ」
ハルカが不安そうな面持ちでそう呟く。
「まあドラゴンといっても、その下級種的存在のワイバーン、しかもリトルだけどな」
「うーん。それってつまり、あんまり大した事ないの?」
「いや。ワイバーンなら空を飛ぶからそれだけでも厄介だし、これまで得られた情報から察するにほぼ間違いなくかなりの難敵だろうな」
事前に得られた情報は断片的なモノに過ぎなかったが、それでもそう判断するには十分な程ではあったのだ。
「だよね、やっぱり……」
ハルカが若干げんなりした表情を浮かべている。
「加えて、あのエリアには〈リトルワイバーン〉と対を為す存在として、〈エアロタイガー〉ってモンスターがいるみたいだな」
「竜に虎、それで"竜虎の平原"な訳ね」
全く安易なネーミングセンスだな。
まあ、100もエリアがあるのだ。それも已む無しなのだろうが。
「他にもいくつかモンスターの種類はいるようだが、特に厄介なのはその2種類みたいだな」
「でも、そいつらってエリアボスじゃないんだよね? だったら、エリアボスはどんなんだろうねー」
「そうだな。エリア名から察するに、ドラゴン系とタイガー系の2体がエリアボスとかそんな感じかね?」
まだ見ぬエリアボスに思いを馳せてみるが、情報が無い以上、所詮それはただの妄想にしか過ぎない。
「エリアボスの種類だけでも早めに調べて、対策を取りたいところね」
全くだな。
情報を得てもすぐに対策が思いつくものではない以上、考える時間的余裕はどうしても必要なのだ。
「さてと、そろそろじゃないか?」
"炎熱の山地"の特徴でもある熱気は鳴りを潜め、周囲には新緑の草木がちらほら見え始めて来る。
更に先に進むと、緑の割合が徐々に増えていき、ついには視界中が若草色で覆われるようになった。
「どうやらエリア名の表示も変わったようだな。さて、ここからが本番だぞ」
"炎熱の山地"は2ndエリアであり、今の俺達にとってそこの雑魚Mobは大した相手では無かった。
だがここから先は違う。気を引き締めて掛からなければならない。
「と、早速のおでましのようだ」
視界の端に、飛竜らしき姿が横切る。
恐らくあれが〈リトルワイバーン〉なのだろう。
距離があってハッキリとは分からないものの、リトルと言う割にはどうにも大きく見える。
そして、どうやらあちらも俺達の存在に気付いたらしく、こちらへと方向転換をするのが見える。
「戦闘準備だ。まずは俺とナツメが前に出る。2人は後方で待機しつつ、敵の行動観察と周囲の警戒を頼む」
そう指示を出してから、俺はナツメと共に一歩前へと進み出て、迎撃態勢を取る。
「〈ガイデッドシュート〉!」
先手必勝とばかりに俺の弓から魔力で創られたいくつも矢が、〈リトルワイバーン〉へと向かって飛んでいく。
「ギャルルッ」
〈ガイデッドシュート〉のスキルで放たれる魔法の矢の飛行速度は、通常の矢と比べると若干遅い。
その為、〈リトルワイバーン〉は悠遊と旋回して矢を回避しようとする。
「甘いな」
だが、〈ガイデッドシュート〉の真価は、魔法の矢の誘導性の高さにある。
奴が軌道を変えた先へと、矢も即座に追随する。
「ギャウッ」
合計8本もの矢が次々と突き刺さる。
結果、奴はその態勢を大きく崩し、地面へと墜落していく。
「いまだ! ナツメ!」
俺がそう叫んだ時には、ナツメはとっくに動いていた。
まあ彼女ならこれくらいやってくれて当然か。
「〈ブレードダンス〉!」
ナツメが20連撃という攻撃回数を誇る〈二刀流〉スキルを放つ。
これは現状俺達のパーティが使える中では、最高クラスの威力を誇るスキルでもある。
それだけに、それ相応の欠点を背負っている。
なんといっても、スキル使用後の硬直時間が非常に長いのだ。
トドメの一撃以外で使う場合、その隙を補う周囲からの支援が重要となる。
よって、俺はノックバック力の高いスキルをいつでも放てるように構えている。
〈リトルワイバーン〉のサイズ的に、ノックバックさせられるか微妙なラインではあるが、やらない手は無い。
「やぁぁ!」
〈ブレードダンス〉の最後の1撃を放ち終わり、ナツメが硬直に入る。
対する〈リトルワイバーン〉もまた、スキルを食らった衝撃で身体を仰け反らせており、すぐには動けない。
だが、それでも先に復帰するのは間違いなく奴の方だろう。だが――
「〈チャージショット〉!」
そのタイミングに合わせて俺はスキルを放つ。
巨大な魔法の矢が奴に突き刺さり、その身体を再度大きく揺らす。
思った以上にあっさり吹き飛んだな。
飛行しているだけあって、見た目の印象よりも実は軽いのだろうか。
「助かったわ、カイト」
後ろへと一旦下がりながらそう礼を述べるナツメ。
だが、さっきの一連の行動は全て、俺のフォローを想定した上で行ったに違いない。言葉とは裏腹に彼女は案外計算高いのだ。
だが、それでこそ俺の大事なパートナーである。
何よりちゃんと俺の事を当てにしてくれて、こちらとしても嬉しい限りだ。
「しっかし硬いな。これでまだ死なないのか」
俺とナツメの2人で出せる現状最高クラスの火力を叩き込んだのだが、それでもまだ奴のHPは残っている。
これまでの雑魚Mobとは比べものに成らない程にタフだ。
「そうね。でも決して倒せない相手じゃないわ」
確かに雑魚としてはこれまでに無い程に強かったが、それだけだ。
「さて、トドメを刺して先に――」
「カイト! 前!」
俺の言葉を遮って、後方に待機していたハルカがそう叫ぶ。
それに釣られて視線を、〈リトルワイバーン〉の更に奥へと向ける。
「おいおい、マジかよ」
そこには、援軍らしき多数の〈リトルワイバーン〉の姿があった。
「1体ならともかく、あれを複数相手するとなると、ちょっとキツイわね……」
「だな。あれにトドメを刺したら、一旦下がるぞ!」
「了解」
俺とナツメは、死にかけの〈リトルワイバーン〉にスキルを叩き込み止めを刺すと、すぐさま踵を返してエリア境界まで撤退する。
モンスターはエリアを跨いで移動しない性質を利用して、逃げ切ろうという訳だ。
行動が早かったのが幸いし、どうにか〈リトルワイバーン〉の群れから無事逃げ切る事が出来た。
「さてと、軽く作戦会議だ。ハルカ、ユキハ、どうだった?」
観察に専念してもらっていた2人に、意見を求める。
「他のモンスターも遠くには居たみたいだけど〈リトルワイバーン〉の群れが来たら逃げちゃったみたいだよ」
「ふむ。モンスターが、別のモンスターの姿を見て逃げ出すか。ちょっと妙な話だな」
これまでも複数種のモンスターと同時に戦う機会は何度もあったが、普通に共闘していたと思うのだが……。
「その中に〈エアロタイガー〉らしき姿はありませんでした」
〈リトルワイバーン〉と対を為す存在と言われていたモンスターか。
単に生息域が異なるだけなのかもしれないが、少し引っ掛かるな。
「となると、現状は〈リトルワイバーン〉対策を第一に考えるべきか。1体なら2人でもやれる。3体ぐらいまでなら、まあ4人でなら多分問題ないだろう。だがそれ以上になると、少々キツイな」
やはり飛行系のモンスターは厄介だ。
1体なら〈ガイデッドシュート〉で確実に撃ち落とせるのだが、あのスキルはクールタイムが長く連射が利かない。
となると残りは、俺の腕次第か。
「ハルカ、あいつらを魔法で撃ち落とすのは出来そうか?」
「うーん。結構早いし、小回りも利くみたいだから、あんまり自信ないなぁ」
〈炎魔法〉は空を飛ぶ相手には向かないので、〈雷魔法〉か〈光魔法〉のどちらかとなる。
「ある程度誘導の利く〈雷魔法〉で頑張って貰うしかないな」
「ううっ。頑張るよ」
「ユキハも、今回は攻撃参加だな。アイツラには〈闇魔法〉の効果が高そうだ」
〈闇魔法〉は実質、重力を操る魔法だ。
その為、空を飛んでいる敵に対しては相性が良い。
「分かりました。ですが、回復はどうしましょうか?」
「なるべく被弾を減らす立ち回りにするしかないな。ただ、危険と判断したら、攻撃の手は止めて回復に回って欲しい」
全員が攻撃に回る以上、目指すは先手必勝。
近づかれる前に、敵を全て撃ち落とす為に砲台役を3人に増やしたのだから。
ユキハが神妙な顔つきで頷くのを確認し、俺はナツメへと顔を向ける。
「ナツメは、地面に落とした〈リトルワイバーン〉を狩る役目だな。あちこち走り回る事になり大変だが、頼んだぞ」
「ええ、任せて」
「じゃあこの作戦で行くとするか。ただ、5体以上を同時に相手する事態になったら、即座に撤退するとしよう。ある程度慣れるまでは、無理は禁物だからな」
デスペナルティが大きいこのゲームでは、ともかく死なない立ち回りが重要だ。
死んでしまえば、丸1日の拘束とアイテムと所持金の一部をロストする。効率を考えれば意地でも避けるべき事態だ。
「さて〈リトルワイバーン〉を狩るとしようか」
そんな宣言とともに、再び俺達は"竜虎の平原"へと向かうのだった。
前話に各エリアの配置図を追加しました。
よければご確認下さい。




