41 情報整理 ★
ブリギッド達4人をギルドの新メンバーに迎えた俺達は、彼女らをギルドハウスへと案内する。
「ほー。ここがそうなんか……。なんか思った以上にええとこやな」
4階建てのギルドハウスは個室だけでも20以上あり、調度品の類も大抵揃っている。
正直、俺達4人だけでは明らかに持て余していたのだ。
そう言った意味でも、ブリギッド達の加入は歓迎すべき事だった。
「かなり高かったんちゃうの? 見たとこ2000万Gは超えてそうやけど」
ブリギッドの目から見ても、それくらいの値段はするように見えるのか。
やはり、かなりのお買い得物件だったようだな。
流石イベント報酬? と言うべきか。
「それがなんと、たったの1000万Gだったんだな、これが」
「ちょっ!? ……嘘やろ? 実は訳有り物件とか、そんなんちゃうやろな?」
惜しいな。ここの前に俺達が買った物件が正にそれだったよ。
その辺の事について話すのは、もうちょい彼女達と親しくなってからにしよう。
「それは無いから安心してくれ。ギルド本部の保証付きだ」
「ふーん、ならええけどな……」
ブリギッド達は尚も何かに引っ掛かっているような表情をしているが、それ以上の追及はして来なかった。
「じゃあ、3階か4階の空いた部屋をそれぞれ1つ選んで使ってくれ」
ナツメ達は3階に、俺は2階だ。
一応、男女で分けた形である。
まあ、今後人数が増えればその限りでは無くなるかもだが、今時点ではこうしておく。
「りょーかいや。部屋は自由に弄ってもええんやろ?」
「ああ。流石に穴とかを開けられたら困るが、常識の範囲内で好きにしてくれ」
「ほな、そうさせて貰うわ。しっかし、カイトはんも罪な男やな。女性ばかり7人も侍らせとるとはな」
「……あまり人聞きの悪い事を言わないでくれ。言っておくが下心なんてモノは俺には一切ない。むしろ、それを懸念しているからこそ、他の男をギルドに入れるつもりは無い」
「ううん? どういうことなん?」
まあその疑問は当然なので、彼女達にも改めてきちんと説明しておこう。
「男女が一緒になれば、まず間違いなく恋愛でのごたごたが起こる。これは経験上、いっそ絶対と言い切ってもいい」
過去にプレイしたゲームで、そうやってギルドが崩壊するのを内部外部問わず眺めた事は何度もある。
「そやなー。確かに良くある話やな。なら、男とだけ組めば良かったんちゃうんか?」
「その意見は正しいな。実際最初はそのつもりだったんだが、ナツメに出会ってしまったからな」
出会ってそう間もないうちに、俺はすぐに確信してしまったのだ。
こいつを相棒にすれば、俺はより高みを目指せると。
いくつものVRゲームを経験した俺だったが、こんな感情を抱いたのは、"Another Sphere Online"時代の相棒であるサマーデイ以来だった。
サマーデイは寡黙ではあるが、非常に頼りになる男だった。
その二刀流の技の冴えは、ただただ凄いの一言に尽きた。
そんな彼がいつも背中を守ってくれていた事が、俺がASOで名を馳せる事になった理由の一つなのはまず間違いないだろう。
そして、そんな彼に良く似た動きをナツメもまたする。
特に剣を2本持って戦った姿を見た時は、彼と瓜二つだと思ってしまった程だ。
だが、女性であるナツメは、男性であるサマーデイでは決して無い。
VRゲームにおいて性別を偽るのは不可能だからだ。
「カイトはん。さっきから話を聞いとると、随分とナツメはんに入れ込んどるようやけど、それは懸念しとる恋愛感情とはちゃうの?」
「違うな。ナツメは、俺がこのゲームで高みを目指す為の、いわば志を同じくする同士って奴だな。ナツメも、そう思うだろ?」
もしかして俺だけがそう思っているんじゃないかと、不安になり、思わずナツメへと話を振ってしまう。
「はぁ。そうね。そうよ、私はカイトと一緒にこのゲームを極めるわ」
良かった。どうやら俺の一方通行の想いでは無かったらしい。
「ブリギッドちゃん。ツッコミ所満載な2人ね」
「2人がそれで納得してるんなら、別にええんとちゃうか。変にツッコむのも野暮ってもんやろ」
ブリギッド達がなにやらヒソヒソと言い合っているが、良く分からないのでスルーしておく。
「要するに、今後も男性プレイヤーをギルドに入れるつもりは無いってことでええんかな?」
「……そうだな。余程の逸材でもない限り、俺にその気は無いな」
別に男性を入れない事に対し、特に不満がある訳でないらしく、ブリギッド達はその方針に理解を示してくれた。
「さてと、ブリギッド達も自分の個室の整理をしたいだろうが、それはもうちょい待ってくれ」
「ん? まだ何かあるんか?」
「早速だが、新エリアの攻略についての話だ。4thエリアが解放されて、丸1日が経過した。そろそろ新エリアに関する情報が出回っている筈だ。その辺の情報収集を手分けして行いたい」
「それをうちらも手伝えって事でええんか?」
「そうだ。情報はなるべく広く集めたい。情報源もなるべく複数持ちたいしな。頼めるか?」
「勿論。任せといてや」
ブリギッド達が頷いた事で、俺達は情報収集の為、それぞれ街のあちこちへと散っていくのだった。
◆
それから2時間後。
各人が集めた情報を整理するべく、再びギルドハウスへと集合する。
「さてと、何か有益な情報はあったか?」
一人一人から得られた情報の聞き取りをしていく。
「ふむ、整理するとこんな感じか?」
まず新エリアだが"精霊の樹海"、"牛馬の高原"、"竜虎の平原"、"不毛の荒野"の4つ。
数はいつもと同じようだ。
ただ、エリアの配置がこれまでの傾向と異なり、西に偏っている。
"精霊の樹海"は"大樹の祠"の西側、"邪妖精の住処"の北側に。
"牛馬の高原"は"邪妖精の住処"の西側、"蜥蜴人の湿地"の北側に。
"竜虎の平原"は"炎熱の山地"の西側、"蜥蜴人の湿地"の南側に。
"不毛の荒野"は"清水の鍾乳洞"の西側、"炎熱の山地"の南側に、それぞれ位置している。
そこに至るまでのルートについても、粗方調べはついており、新エリアに到達する事自体はそう苦労は無さそうだ。
問題は、その新エリアそのものについてである。
「まだエリアボスの目撃情報が一切ないとはな」
これまでなら、1日あればエリアボスの顔を拝むパーティは出て来ている頃だ。
「マップギミックについても、特にこれといった危険なものは無いようだ。にも拘らず攻略が進んでいないのは、どうも雑魚Mobに苦戦してるみたいだな」
どうやら4thエリアの雑魚Mobは、これまでと比較にならない程に強いらしい。
皆から集めた情報を総合するに、どうもそうとしか思えないのだ。
「そうだよね。今までも苦戦してる人は結構いたけど、ランキング上位の人達は割とサクサクって倒してたもんね」
そして、それは俺達も同じだ。
雑魚を相手に楽勝とまでは行かずとも、先に進めない程に苦戦した経験はこのゲームではまだ無い。
「うちらは普通に苦戦しとったけどな」
ブリギッドが苦笑ぎみにそう言うのが聞こえるが、生産メインのプレイヤーと俺達のような戦闘メインのプレイヤーではまた事情が違う。
「どうもどのエリアも、種類は違えど似たような感じで雑魚に苦戦しているみたいだな。はてさて、次の目標地点をどこにするべきか……」
集めた情報はどれも、雑魚Mobの何々が強い、ヤバいといった程度の精度の低い情報ばかりで、比較検討するには情報が少々足りていない。
「面倒そうな"精霊の樹海"は後回しにするか……」
唯一、"精霊の樹海"については、マップ自体も樹海マップという事で先に進むのが大変という要素がある。
一見して面倒な程、最終的には実は楽というのは、このゲームでは良くある話だが、それでも面倒なモノは面倒なのだ。
やはりどうしても避けたくなってしまう。
加えて、雑魚Mobの強さを早めに体験しておきたいという思惑もある。
「ならいっその事、一番敵が強そうな"竜虎の平原"にしたらどうかしら?」
"竜虎の平原"では、〈リトルワイバーン〉という名のドラゴン型のモンスターが出現するようだ。
大抵のRPGにおいて、ドラゴンとは特別な存在である。
それにワイバーンである以上、きっと空を飛ぶ筈だ。
どう考えても厄介極まり事、間違いない。
「情報が不足している現状では、あまり悩んでも意味が無いだろう。それより行動を起こすべきか」
「そうだよねー。ボクたちいっつもそんな感じだし」
考え無しのつもりは無いが、あまり悩みすぎるのは俺達らしくない。
現状、俺達らしくある事で上手くいっている以上、それを下手に変えるのは宜しくないだろう。
「じゃあ目的地は"竜虎の平原"に決まりだ」
「ほならうちらは、生産の方を頑張るとしますか」
「ああ、倉庫の素材アイテムだが、好きに使って構わないぞ」
"生存の書"などといった一部の重要アイテムを除き、ブリギッド達が自由に取り出せるようにしてある。
「へぇ、ってこんだけを自由にしてもええの?」
なんだかんだいっても俺達は現状このゲームのトップパーティなのだ。
保有している素材もかなりの数がある。
「ああ。ガンガン使って、生産アビリティを鍛えて、俺達に良い装備を提供してくれ」
「うち、ちょっと感動してもうたわ。ありがとな、カイトはん。皆、この信頼に答えれるように頑張るで! せや、折角やからお礼代わりに、これを進呈するわ」
「ん? なんだこのアイテム?」
「〈天使の首飾り〉って言うアクセサリーや。ピンチの時に一度だけ身代わりになって攻撃を受けてくれる便利な代物やで」
確かにかなり便利な効果を持つようだ。使い捨てかつ割と値の張る品のようなので、ポンポン使う訳にはいかないが、エリアボス戦など、ここぞという時には役に立つだろう。
いきなり良いモノを貰ったな。
「ありがとな」
「まあ、うちらもギルドに貢献して、カイトはんの信頼を勝ち取らなあかんしな。気にせんといてや」
そう言ってから、ブリギッド達はまだ若干興奮したような表情で去っていく。
「ねぇ、良かったの? あれ全部売ったらかなりの額だよ?」
ハルカが少し不安そうな表情でそう尋ねて来る。
まあ、その心配も無理は無い。
お礼に貰った〈天使の首飾り〉も中々高価なようだが、あの大量の素材アイテムとつり合いが取れる程では無いのだ。
「相手に信頼されるコツは、まずこっちが信頼していることを見せつけてやる事だ。人間ってのは、好意を向けて来る相手を簡単に裏切る事は出来ないものなんだよ」
勿論、そうでは無い人間も確かに存在する。
だが、流石にそんな地雷のような人間は、俺の勘がすぐに見抜く。
何より、目先の利益で左右されるようなビジネスライクな関係では意味が無いのだ。
互いの命が掛かったゲームである以上、それ以上の強固な結びつきが欲しい。
「俺としては、彼女達と早めに信頼関係を築いておきたい。うちのギルドは数を多く集めるつもりが無い以上、質で補わないといけないからな」
〈蒼翼騎士団〉のように何十人と集めて、数の力に頼る事を否定するつもりは無い。
だが、それを維持するのはかなり大変だし、何より俺はギルドマスターをやる以上、ギルドメンバーは全員生還させるつもりでいる。
俺の進む道の先を思えば、それくらいは成し遂げて当然だろう。
「ハルカ、カイトの判断を信じましょう」
尚も不安そうなハルカをナツメが説得してくれる。
「うーん、分かったよ。彼女たちの事はまだ信じられないけど、ボクはカイトを信じるよ」
「ありがとな。ユキハも大丈夫か?」
「はい。私もブリギッドさん達は、そんな悪い方達では無いと思ってますので」
俺もそう思う。
騙す気があるなら、あんな高いアイテムをホイホイ渡して来たりはしないだろうからな。
「そうか。ありがとう」
初めは半ば成り行きでパーティを組んだが、今となっては3人ともかけがえのない仲間である。
そう思うのに、何かきっかけがあった訳では無い。ただ、自然とそう思うようになっていたのだ。
こんな想いを、ブリギッド達にも抱けるようになればいいなと、俺はそう思うのだった。
「よし、じゃあ俺達も出発するぞ。目的地は"竜虎の平原"だ」
そうしてギルドハウスを後にし、俺達は"竜虎の平原"へと向かうのだった。




