40 新しい仲間
ギルドへの入団を希望するブリギッド達の扱いをどうするか決める為、ナツメ達に今俺がいる会議室へと来てもらう。
対するブリギッド側も、残りの希望者達をここへと集めている。
「それで全員か?」
「せや。そっちも全員集まったみたいやな。じゃ、まずは自己紹介といこか。うちの名前はブリギッド。生産は〈鍛冶〉と〈採掘〉をメインでやっとる」
それを誇示するかのように、巨大なハンマーを取り出して構える見せる。
背の低い彼女には一見似合わなさそうな代物だが、その扱いは意外な程に様になっていた。
「私は金屋子って言います。よろしくね。親しみを込めてカナちゃんって呼んで下さいね? 生産は〈裁縫〉と〈釣り〉を主にやってます」
そう名乗った彼女は終始、優し気な表情を浮かべている。
そして柔らかい色合いの茶色の長い髪が、それを余計に際立たせているように感じられる。
だが、一方で腰に下げた〈細剣〉から手を一切離さない辺り、案外油断ならない女性にも思える。
「私はムルキベルよ。よろしく。生産は〈細工〉と〈採集〉をやってるわ」
三つ編みにした黒髪に眼鏡っ子という、いかにも文学少女ちっくな容貌の少女だ。
どうやら俺同様に弓を使うらしく、その背中にはロングボウが下げられている。
「私はエーディンって言います。宜しくお願いしますねっ。生産アビリティは〈料理〉と〈調合〉がメインですっ」
焦げ茶色のツインテールの髪をぶら下げながら、人懐っこい笑みを浮かべる。
腰には短剣が下げてあるから、短剣使いなのかね?
「うちを含め全員が、生産アビリティに関してかなりの自信を持っとる連中や」
そう言って各々がいくつか自慢のアイテムを取り出し、俺達へと見せつけてくる。
「おおっ。この弓いいなぁ。物魔両方の数値がバランス良く高い」
その中でもやはりメインウェポンである弓に、俺は目がいってしまう。
総合的に判断すれば、今俺が使っているものよりも、性能がいいのだ。そりゃ気になっても仕方がないだろう。
「ポーションも性能凄いね。たまに取引所で見かけたやけに高性能なのって、もしかしてエーディンさんが作った奴?」
〈調合〉をやっているハルカは、そちらが気になったらしい。
「そうですよー。ファンがいるみたいで、同じ人がすぐ買ってくれるんです」
たしかに性能は良かったが、それ以上に値段が高かったので俺達はスルーしていたのだが、やっぱり買う奴がいたのか。
まあ、じゃないと普通は値段下げるよな。
「私はやっぱりこの剣が気になるわね。魔法攻撃力を完全に捨ててるけど、その分、物理攻撃力がとんでも数値だわ。こんなのどうやったら、作れるのかしら?」
同じ〈鍛冶〉アビリティを使う者として、いやそれ以上に剣を扱う者として気になるようだ。
「せやろ? 他の生産武器には、負ける気がせぇへんで」
「生産武器には? てことは、ドロップ武器にはこれ以上の品が有るってことか?」
「……そうやな。うちが知っとる範囲でも、一つだけ真似できん武器があるな」
「へぇ。どんな武器なんだ?」
「うちも詳しい事は知らん。ただ、あれは多分、所謂ユニーク武器って奴なんやろなぁ。専用アビリティなんてもんまで付いてるらしいしな。それは流石のうちでも真似は出来へん」
専用アビリティか。初めて聞いたな。
文脈から察するに、特定の武器を装備時のみに使えるアビリティってとこか?
「なぁ、その辺もっと詳しく教えてくれ」
「いやだから、うちも詳しくは知らんのよ。なんでも2本の剣で一揃えの武器らしいけどな」
どこで入手したのか、どんなアビリティなのか、などは一切分からないそうだ。
専用アビリティがどういったモノか気になるな。
後で要調査だな。
「しかし、どれも自慢するだけの品ではあるな」
「お褒めに頂き光栄やな。ただまあその所為で、金と装備はあっても、うちら自身のレベルが低いんが玉に瑕やけどな」
生産アビリティを育成するには、何より時間が掛かる。
金も当然掛かるが、そっちは出来たアイテムを売却する事で回収が望めるからな。
ただ、生産アビリティの育成に時間を掛ければ、その分だけ自身の基礎レベルを上げる時間が目減りする。
全員がかなりのやる気勢にも関わらずレベルが低いのは、多分そういう事なのだろう。
「成程な。今の段階でも、これだけやれてるんだ。俺達から素材を回してやって作る方に専念すれば、これ以上の品が出来るあがるだろうな」
「せやな。流石に生産オンリーでレベルが低すぎると何かと心配やから、多少は狩りもするつもりやけどな」
街中ですらPK可能なゲームだ。
あまりにレベルが低いと、PK連中のカモにされる恐れがあるからな。
最低限の自衛能力は必要だろう。
ギルドに引き篭もれば、その心配も無いかもだが、流石にずっとそれでは息が詰まるしな。
「いっそ定期的に俺らがパワーレベリングをやるくらいが、効率が良いかもな」
「そこまでやってくれるなら、こっちとしても大助かりやな」
効率厨たる俺は、効率を上げる為なら労は惜しまないのだ。
「もっとも、お前たちをギルドに入れるかどうかは、まだ確定じゃないがな。少しこっちで相談をするから、一旦席を外してくれないか?」
「別にかまへんよ。良い返事期待してるで」
ブリギッド達が一旦、会議室の外へと出て行き、残っているのは俺達4人だけとなった。
「さてと、どう思う?」
「うーん。良い人達だとは思うけど、ギルドに入れる事でプラスになるかは、ちょっとボクには良くわかんないや」
ハルカならてっきり即賛成かと思っていたのだが、意外にもそうでは無かった。
彼女も色々と考えてるんだなと、失礼ながらもそう感心する。
「ある程度の分業化は効率を上げる為には必要だしね。勿論限度はあるけれど。カイトは、彼女達を入れた方が良いと思ってるんでしょう? なら私も賛成だわ」
俺は公平な目線で見て貰えるように、あえて賛成とも反対とも言っていなかったが、どうやらナツメには見抜かれていたらしい。
「私は賛成です。今の攻略ペースを考えると、今後生産にまで力を割く余裕は無いと思います」
ユキハは、純粋に今の状況から見ての意見だ。
人柄に関しては、ナツメ同様、俺の判断を信頼してくれるという事なのだろう。
「意見も出揃ったし、俺の見解を言わせて貰おう。俺は彼女達をギルドに入れるべきだと思っている」
そこはナツメも予測していたし、他の2人も何となく悟っていたのだろう。
特に目立った反応は無い。
「理由はユキハが言ってくれた通りだ。今後、最前線のプレイヤー達は生産を他に委託して、自身のレベル上げに邁進するだろう。エリアボスの難易度は明らかに上がっていっているのに、大して攻略ペースが落ちないのそれが理由だ。となれば、その流れに置いて行かれない為にも、俺達も同じようにやる必要がある」
睡眠時間を削って、ただ効率的なプレイに専念するだけでは、どうしても限界があるのだ。
その限界を超える鍵は、数の力、組織の力だ。
「とはいえ、俺達は彼女達4人の人柄をあまり知らないので、信頼できるとは言い難い。なので、いくつか条件を出して、それを呑んでくれれば、受け入れようかと思う」
俺のVRプレイヤーとしての勘に依れば、彼女達に俺達を騙す意志は無い。
これでも、長いVRゲーム生活において一度も詐欺の類にあったことが無い程度には、俺の危機感知能力は優れている。
勿論、それを過信する事は出来ないが。
「その条件っていうのは?」
「そうだな。まず、ギルド内での権限の違いだ。俺がギルドマスター、他3人がサブギルドマスターとする。そしてブリギッド達は一般ギルド員に据える。権限に応じてギルド倉庫の扱い制限などを設けて、重要なアイテム類は彼女達には取り出せないようにする」
俺の経験上、ギルド内で一番起こり易い揉め事は、アイテムの貸し借りに関する事だ。
例えば、ギルドの共有資産である装備を新人が盗んで消えたなんて話は、良く耳にするのだ。
これについては、他の3人も納得なようで、特に意見は無いようだ。
「もう一つが、"生存の書"の譲渡についてだ。各自の予備の分を含めて、こちらで8つ以上は確保する。それ以上の数になった際に、ギルドへの貢献が十分だと判断すれば、彼女達に譲る事を検討しよう」
まずは、先に相手に出すものは出させるのだ。
そうでなければあれほどの貴重品を渡す訳にはいかない。
「それだと、大分あちらが不利になるけれど、呑むかしら?」
「これは俺の予測だが、恐らく問題無く呑む筈だ」
むしろあれほどの貴重なアイテムを、何のデメリットも無く譲ると約束する方が、逆に不審がられる筈だ。
少なくとも俺ならそう思う。
「確かにそうね。そもそもこちらが圧倒的に有利な立場である以上、あちらはこちらの善意を信用するしかない訳ね」
そういう事だな。
俺達を信頼出来ないなら、話はそれで終わりだ。
もっとも、ギルドマスターを信じる気もなく、ギルドに入るなんて言いだすような奴らには見えなかったが。
「特に反対が無いなら、この条件で交渉をしようと思うがいいか?」
3人が頷いたのを確認して、外で待っているブリギッド達を再びこの会議室へと招く。
「そんで、そっちの意見は纏まったんかいな?」
「ああ。結論から言うと、4人をうちのギルドに受け入れる方向になった。但し、条件がある」
条件がある事は、あちらも予想済みだったようで、特に動揺は見られない。
「ほんで、その条件ってのは?」
「ああ、その条件は――」
ナツメ達との話で決まった2つの条件を、ブリギッド達にも話す。
「ははっ。やっぱうちの見立ては正しかったな。想定よりも大分甘い、かつ甘すぎない理想的な条件や」
「ふむ。かなり厳しい条件だとは思うんだがな」
「確かにかなり厳しい。けどな、"生存の書"を自力で入手するんは、残念ながらもっとキツイんや。カイトはんらはポンポン入手しとるから、そう難しくないように思ってるんかもしれんけど、普通のプレイヤーにはどうやったって入手不可能な品やで。それを頑張りさえすれば手に入る所まで、ハードルを下げてくれたんや。これを甘いと言わずなんというんや?」
ふむ。言われてみれば確かにそうかもしれない。
だが、俺達は"生存の書"の入手を目標としてプレイしている訳では無い。
見ているのはもっと高みだ。
きっと、その目線の違いが生み出す感覚のギャップという奴なのだろうな。
「甘すぎるか。じゃあ条件を追加するか?」
「いやいや、それは勘弁してや」
だったらそんな事言わなきゃいいのにな。
今のブリギッドの言葉は、俺達の感覚がズレていることを注意する為の言葉だった訳だ。
果たしてどっちが甘いのやら。
「んじゃ、問題無いようなら、4人ともギルドへの入団申請を送ってくれ」
こうして、ブリギッド、金屋子、ムルキベル、エーディンの4人が俺達のギルド〈シーズナルドミネイター〉へと加入したのだった。




