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4 月光の森

本日更新1回目です。

 一本道を進み森の奥へと到達すると、そこは木々が刈り取られ開けた広場となっていた。

 そして、その中心には巨大な銀狼が鎮座しているのが見える。

 そいつは道中のザコMobとは比較にならない程の巨体に加え、HPゲージを5本も所持している。

 一目見て、それがエリアボスだと分かった。


 そいつの固有名は〈タイラントムーンウルフ〉。

 銀色の美しい毛並みに加え、何より特徴的なのが、額にある三日月型の傷跡だろう。


「ようやく、歯ごたえのありそうな敵が出て来たわね」


 ナツメが手に持った剣を楽しそうに、クルクルと弄んでいる。

 やけにハイテンションだが、ゲーム開始後初めてとなる強敵との遭遇だから、無理はないのかもしれない。

 ……いや、単に徹夜明けでおかしなテンションになっているだけなのかもしれないが。


「攻撃パターンも何も情報はないし、まずは交互にタゲを取り合いつつ、様子を見るとしようか」


 相手は完全に初見の相手だ。

 狼型をしている以上、そこから明らかに外れた攻撃は恐らくして来ないだろうが、それでも考えられる攻撃パターンはいくらでもある。

 まずは、それらを絞る事から始めないとな。


「了解したわ」


 そうして〈タイラントムーンウルフ〉との戦闘が始まった。

 俺とナツメが左右に分かれて、敵へと向かい駆けてゆく。 

 若干、俺の方が近づくのが早かった為か、敵のターゲットはどうやら俺へと向いたようだ。

 それを確認した俺は、敵との距離を一定に保ちつつ回避姿勢を取る。

 その隙にナツメが、反対側から攻撃を仕掛ける。


「やぁぁ!」


 敵の横っ腹に、ナツメが縦に1撃、横に1撃の2連撃を放つ。

 その際に剣がうっすらと光輝いていたので、恐らく〈剣術〉スキルを発動したのだろう。


「グルゥゥ!!」


 銀毛を揺らしながら、仰け反っている敵の姿が見えた。

 対するナツメも、スキル後の硬直で動きを止めている。


 今のやり取りで敵のターゲットがナツメへと移ったので、今度は俺が攻撃を仕掛ける番だ。

 背を向けた敵に対し、俺は手に持った短剣で2、3発ほど通常攻撃を食らわした後、スキルを発動する。


「はぁぁ!」


 〈短剣術〉スキルの一つ、〈ファストエッジ〉を俺は放つ。

 このスキル、威力自体は大した事は無いのだが、スキル後の硬直がほとんど存在しない為、通常攻撃に混ぜつつ気軽に使っていける技なのだ。

 それに威力が弱いと言っても通常攻撃と比べれば強く、DPS(ダメージパーセカンド:秒間ダメージの事)の底上げには十分だ。

 使用にデメリットがほぼ存在しない為、スキルが揃ってないうちは、クールタイム毎に使っていきたい技である。


 そこから更に通常攻撃をいくつか更に加えるが、敵のターゲットはいまだナツメを向いている。

 ナツメは余裕の窺える動きで、〈タイラントムーンウルフ〉が繰り出す爪による攻撃を回避しているが、そろそろターゲットを代わってやりたい所だ。


 やはり短剣は火力が足りないな、と思いつつ俺は更に攻撃を重ねていく。


「はぁ!」 


 今度は〈短剣術〉スキルの一つ、〈ポイズンエッジ〉を俺は放った。

 これは敵を斬り付けつつ、低確率で追加毒を与えるという技だ。


 ……残念ながら、毒の状態異常を食らわせるのは失敗したようだが、それなりにダメージを与えたらしく、ようやくこちらへと敵が顔を向けてくれた。


「やぁ!!」


 敵のターゲットが俺に向いたのを確認したナツメは、すぐさま攻撃を再開する。


 以後はこれの繰り返しで、〈タイラントムーンウルフ〉の5本あったHPゲージを残り1本まで削り取った。

 その間、俺は勿論の事、ナツメもまだ一撃も攻撃を受けてはいない。


「これなら余裕みたいね」


「いや待て。奴の動きが妙だぞ」


 これまで奴が繰り出して来た攻撃パターンは、主に3つ。

 巨体を生かした突進、牙による噛み付き、爪による引っ掻きだ。


 だが今、そのどれともつかない行動に出始めたのだった。


「ウォォォン!」


 顔を大きく逸らし、雄叫びを上げる。それと同時に奴の周囲全体に衝撃波が放たれた。

 幸いダメージは無いようだが、それによって俺達は奴との間に距離を取らされる羽目になる。


「私が先に仕掛けるわ!」


 奴の行動変化により、どちらにターゲットが向いているのか分からなくなった。

 同時に攻撃を仕掛けて混乱するよりはと、ナツメが声を上げて自分が先に仕掛ける事を伝えてくる。


「頼む!」


 そのナツメの判断はどうやら正解だったようだ。

 その直後に森の奥から、雑魚Mobである〈ウルフ〉が3体程、援軍として現れたからだ。


「くそっ、さっきの雄叫びは、援軍召喚かよ!」


「……そうみたいね。悪いけど、ザコの相手はお願いするわ」


「任せろっ!」


 ナツメがボスと交戦しているのを尻目に、俺は〈ウルフ〉達へと視線を向ける。

 と同時に、すぐさま短剣を腰にしまい、インベントリから弓矢を取り出す。

 素早い武器交換・装着は、VRMMO廃人としては、必須技能の一つだ。


 ほとんど時間のロスなくそれを終えた俺は、続いて斜め前へと移動を開始する。

 やがて最適な射撃ポイントへと移動した俺は、ウルフたちへと弓を向ける。


「食らえ!」


 俺は〈弓術〉スキルの一つ〈ピアシングアロー〉を発動する。

 威力自体は通常攻撃に毛が生えた程度だが、貫通特性を持っている為、上手く使用すれば、複数の敵への同時攻撃が可能なのだ。

 道中の戦闘で〈ウルフ〉の行動ルーチンは、大体把握している。

 奴らの行動を予測し、3匹が射線上に並ぶタイミングで俺はスキルを放ったのだ。


 結果、俺の放った矢は、計算通りに3匹全てへと命中する。

 勿論、一撃で倒す程の威力は無いが、それでもターゲットは全てこちらへと向いた。それで目的は十分果たした。


 〈ウルフ〉たちが一斉にこちらを振り向き、駆けて来る。

 俺は弓を仕舞うと、再び短剣を構えて奴らを迎え撃つ。


「食らえっ!!」


 俺は短剣スキル〈ラウンドアクセル〉を発動する。

 これは短剣で、自分の周囲に円を描くように攻撃するスキルだ。


「ギャウッ!」


 俺のスキルによって纏めて斬り裂かれたウルフたちは、全員がHPバーを全損し、一斉に消えていく。

 それを確認した俺は、すぐさまボスと対峙しているナツメの方へと視線を向ける。


 どうやら、まだダメージは負っていないようだが、回避を優先しているためか、ボスのHPゲージも僅かしか削れていない。


「ナツメ! 援護する!」


 俺は再び弓を装備し、周囲を警戒しつつ援護を行う。

 勿論、ダメージを与え過ぎてターゲットを奪わないよう慎重にだ。


「助かるわ!」


 そうやって徐々にボスのHPを削っていると、再び、ボスが雄叫びを上げる。

 前回同様、奥からウルフ3体が姿を見せる。


「60秒周期だ! ナツメはそのままタゲを! ザコは俺がやる!」


 60秒周期とは、援軍を呼ぶ雄叫びの使用周期の事だ。

 廃人たる俺の体内時計は、それくらいの時間なら正確に読み取る事が出来る。


「分かったわ」


 ナツメにボスの相手は任せ、先程と同じ様に俺は〈ウルフ〉達を淡々と処理する。

 あとはこれの繰り返しだ。


 〈タイラントムーンウルフ〉の残ったHPゲージも順調に削れていき、残りミリを残すだけとなった。


「ナツメ、LAラストアタックは譲ってやるよ」


 別にこれは善意からの発言ではない。ただ少し確認したい事があるのだ。

 俺は構えていた弓を下げ、ナツメが〈タイラントムーンウルフ〉へとトドメを刺すのを、黙って見守ることにした。


「〈クロスブレイド〉!」


 そんな叫びと共に、ナツメが縦に1撃、横に1撃の2連撃を繰り出す。

 それがトドメとなったらしく、〈タイラントムーンウルフ〉は力を失ったようにゆっくりと崩れ落ち、その場の空気に溶けるようにして消えていった。


「やったわね!」


 ナツメが喜びの声を上げる。


「ふぅ、おつかれ」


 対して俺は、それだけ返事をして、左下のログへと視線を送る。


『"生存の書"を入手しました』

『"封印の書"を入手しました』 


 そこには、エリアボス初討伐時のMVPプレイヤーに与えられるアイテムを入手した旨が記されていた。


 ……なるほどな。やはりそういう事か。


「……おかしいわね。私のログに"生存の書"のドロップが無いわ」


 ボスへの与ダメージはナツメの方が多い筈だ。その上、LAまでゲットしたのだ。

 MVPも自分が取ったモノだと思うのは無理もない。


「ああ、こっちに来ているからな」


「え!? ……ああ、そういう事ね」


「みたいだな」


 どうもMVPの評価基準は、単純な与ダメージだけではないらしい。

 詳しくは今後調べていく必要があるが、多分本当の意味で、戦闘に貢献する必要があるのだろう。


「別にいいわ。今回の戦闘ではあなたの方が貢献度が高いのは、私も認めてる」


 ナツメが物分かりの良い奴で助かった。

 やはり彼女は、俺のパーティメンバー候補の一人だ。

 このゲームで最高のプレイヤーを目指す以上、優秀な仲間は必要になる。

 こんな早い段階で彼女と出会えたのも、きっと運命の導きなんだろう。


 ……ふっ、俺らしくもない感傷だ。


「ふぁぁ。……流石に眠いわね。街に帰りましょうか」


 口を抑えつつ、あくびをするナツメを見ていると、さっきまで忘れていた眠気の存在を思い出してしまう。


「ああ、そうだな……っ! 誰だっ!」


 俺は、どこかからこちらを見つめている視線を感じ、反射的にそう叫んだのだった。


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