39 生産プレイヤー
新しいギルドハウスを購入して一息ついた俺達は、次に4thエリアに関する情報収集を本格的に行う事にする。
「と、その前に、貰ったお詫びの宝箱を開けないとな」
「一体何が入ってるんだろうねー?」
ハルカがワクワク感を隠さず、そう言う。
とは言え、ボロい宝箱なので、中身はどうせ大して品じゃないだろう。
俺としては元々無い筈のモノだったので、別に損にならなければそれで構わないが。
「期待した挙句にショボくてガッカリしても、知らないぞ?」
そう言いながら、宝箱を開く。
すると、そこには思いもよらぬアイテムが入っていた。
「え、うそ。これ……」
「……いや、間違いない。"生存の書"だ」
そう。宝箱の中にはなんと、本来エリアボスを初討伐しなければ手に入らない筈の超レアアイテムが入っていた。
「……実は偽物とかじゃないよな?」
見た目や名前が一見同一に見えても、内部処理的には別物という可能性もある。
そんな疑念を抱いた俺は、それを即座にアイテムボックスへとしまう。
「スタックできるな……。てことは、これ。マジで本物か?」
装備品以外のアイテムは、全くの同一の物ならばアイテム欄の1枠に重ねて仕舞う事が出来る。
その為、もし重ねられないなら、偽物の可能性が高いという事になる。
この仕様を利用してアイテムの真偽判別を行ったのだが、どうやら本当に本物らしい。
「ギルドハウスの一件はもしかしたら、隠しイベントだったのかも知れないわね。事前説明で言ってたじゃない。ゲーム内のイベントなどでも"生存の書"は手に入るって」
確かに言ってたが、そのイベントというのは、もっと大々的に行われるようなモノだと思っていた。
だが、ナツメの言う通り、そう考えれば辻褄は確かに合う。
ただ、訳も分からんうちにクリアしてしまうとは、思ってもみなかったが。
「え、えっと、カイトさんが苦労した甲斐がありましたよねっ」
確かにユキハの言う通りではあるのだが、なんだか釈然としないモノを感じる。
労力の対価としては十分過ぎる程なのだが、なんかこう不意打ちを食らった気分なのだ。
「気を取り直して、4thエリアの情報集めを頑張りましょうか」
「そうだな」
まあ、何にせよ結果としては得をしたので、良しとしておくか。
よし、この話はこれで終わりっと!
◆
それから4人それぞれが街へと散らばり、4thエリアに関する情報の聞き込みを開始した。
皆と別れ情報収集の為に街を歩いていると、不意に後ろから声を掛けられる。
「あんたがカイトはんやな。ちょっと時間ええか?」
ピンク色のショートボブの髪を揺らしながら、少女はニカッと笑う。
背が低く可愛らしい容姿に反して、その口調は若干キツイ印象を受ける。
「ふむ、内容によるな」
「そっちにも損が無い話やと、うちは思っとる」
このブリギットという名のプレイヤーは、レベルは20と今の俺達より8も低い。
にも拘らず活躍ポイントランキングで50以内に入っている上位プレイヤーなのだ。
そんな彼女だからこそ、とりあえず話を聞いてみる気になったのだ。
「いいだろう。だが手短に頼むな」
「じゃ、ちょっと場所を移そか」
あまり公の場では話辛い内容という訳か。
そんな訳で†ラーハルト†達との打ち合わせなどでも利用している会議室を使う事になった。
「それで、話ってのは?」
「その前に一つ確認ええか? 所属しとるギルドの名前はなんていうん?」
俺のプレイヤーネームの左に表示されているギルド紋章を指差しながら、そう尋ねて来る。
ちなみに、この四季それぞれに咲く花を象ったギルド紋章をデザインしたのはハルカだ。
思った以上のセンスの良さに正直、俺もビックリしている。
ただ、俺個人の意見としては、花などよりも、もっとこうなんというか、カッコいい系のデザインが良かったのだが、女性陣の意見に押し切られる形で、このようなデザインとなった。
「〈シーズナルドミネイター〉だ」
「そか。聞いた事ないギルドやけど、カイトはんが作ったんか?」
「ああ。ギルドマスターは俺だ」
「メンバーは、なんぼいるん?」
「俺を含めても4人だが?」
この辺の情報は、俺が喋らずとも、少し調べればすぐに分かる事だ。
各ギルドの所属メンバーはリスト化されてギルド本部で公開されている。
その事実はギルドを作った後に知ったのだが、事前に知っていればギルドを結成するのを迷ったかもしれない。
様々なメリットを持つギルドの、数少ない欠点の一つだ。
「そか。なら安心やな」
安心? 何の事だ?
「実はな。うちらをカイトはんのギルドに入れて欲しいんよ」
うちら、という事はブリギッドだけでなく、その仲間も一緒にという事か。
「入団希望者って訳か。何故俺のところに? と聞くのは流石に謙遜が過ぎるか。だが、別に俺達はメンバーを募集している訳じゃない。だからこちらにもそれなりのメリットが無いと、受け入れる気はないぞ?」
トッププレイヤーである俺達に寄生するつもりの連中は、当然ながらお断りなのである。
うちのギルドのメンバーに相応しいのは、俺のゲーム攻略に貢献できる者だけだ。
「わかっとる。ただ、うちのレベル見て貰えれば分かるように、うちらは攻略の最前線で戦ってる訳やない。なのにランキングではなんで上位なのか、気にならへん?」
それは確かに俺も不思議に思っていた事だ。
「確かに気になるが、それがメリットに関係してるって事か?」
「せや。実はな、うちらのパーティは全員、生産系アビリティをメインで上げてるんよ。そんで、それで作ったアイテムを取引所で流すことで、活躍ポイントを稼いでたんよ」
どういう事だ? アイテムを取引所に売り払うだけで、ランキングが上がる?
「疑問に思うんのも分かるけど、これは本当の事なんよ。うちらも詳しい仕組みを把握しとる訳やないんやけど、どうも作成したアイテム類がエリアボス討伐戦なんかで活用されると、作成者の方にもいくらかポイントが流れて来る仕組みみたいやな」
「成程な。こっちは自分たちで使う分しか基本作らないから実感は無いが、確かにあり得る話だな」
「やろ? うちらの生産アビリティはかなりの高レベルやし、実際に作った装備もかなりの高値で売れとる。そしてそのお蔭で活躍ポイントも稼げる訳や。ただ、一つ問題もあってな……」
「"生存の書"だろ? 生産をいくら頑張っても、あのアイテムは手に入らないもんな」
いくら活躍ポイントを稼ごうとも、最終的にそのアイテムを手にしていなければ、待っているのは死だ。
なので、"生存の書"の入手は、生きる意志のあるプレイヤー全てにとって、最優先課題なのだ。
「そうなんよ……。ボスを倒す以外に入手手段が無いなんて、あんまりやとは思わん?」
「……まあ、確かにな」
ついさっき、エリアボスの初討伐以外での入手を果たしたばかりだが、それをペラペラ喋るような真似は勿論しない。
「やろ? って話が逸れてんね。それで、うちからの提案なんやけど、うちらがカイトはんたちを全力で支援するから、代わりに"生存の書"を分けて欲しいんよ」
"生存の書"に見合うだけの働きを見せるから、余ったのを分けて欲しいって訳か。
現時点でうちのパーティが保有する"生存の書"の数は6つ。
人数に対して既に余っている形にはなるが、"封印の書"の相殺や、デスペナルティで失う危険なども考慮すれば、決して余裕のある数では無い。
「話は大体分かった。ただ当然の話だが、そう簡単には"生存の書"を譲る事は出来ないぞ?」
「それは勿論ちゃんと理解しとる。まずは、うちらの働きを見てから、判断してはくれへんかな?」
俺が生産をメインに受け持ってくれる仲間を探していたのは事実だ。
だが、俺の想定としては、もうちょい付かず離れずの関係であって、ギルドに入れる予定は無かったのだが。
こうなるとナツメ達とも、一度きっちり話をしないといけないな。
「俺の一存では回答出来ない問題だ。一度話し合いの場を設けるとしようか。こっちもメンバーを全員集めるから、そっちも頼む」
「了解や」
そんな訳で、俺達とブリギッドのパーティで話し合いが行われる事になったのだった。




