36 ギルド結成
少し困った事態になってしまった。
ギルドをいざ結成するという段階になって、肝心のギルド名が決まっていないことが発覚したのだ。
「あっ、そうだ。こんなのどうかな?」
ハルカが何かを思いついたらしく声を上げる。
その表情が妙にニヤニヤしたものなので、あんまりいい予感はしないが。
「〈カイトのハーレム〉! ってどう?」
「……あのなぁ。もうちょい真面目に考えてくれよ……」
予想よりも斜め下のハルカの発言に、思わず脱力してしまう。
「えー、だって、ユキハやナツメっちみたいな可愛い女の子の中に、男はカイト一人なんだよ? これはもうハーレムと呼ぶしかないんじゃないかな?」
確かに現状を客観的に見れば、そう見えるのかもしれんが。
だが、言っておくがこれっぽっちも俺にそんな意識は無いぞ!
「またまたー。今のカイトの状況じゃ説得力ないよー」
そうかもしれんが、俺にも言い分はある。
「大体、俺は元々男だけでパーティを組むつもりだったんだ。それがナツメと出会った事で、その方針を変えざるを得なくなっただけだ。でも仕方ないだろう? ナツメという得難いプレイヤーを前にして、逃がすなんて手は無い。あれはきっと運命が導いた出会いだったんだろうな」
「へぇ……運命の導きねー。だってよ、ナツメっち?」
「そ、その……」
ナツメが珍しく冷静さを無くしたように顔を俯かせている。
俺の評価に対し、そんなに自信が無いのか?
「ナツメ。自信を持て! お前は俺にとって最高のパートナーだ!」
この言葉は間違いなく俺の本心から出た言葉だ。
いつも俺の意図を汲み取りパーティの調整役をし、かつその実力も超一流。
こんな優秀な奴、どこを探してもまずいないぞ?
彼女に匹敵するプレイヤーなど俺の記憶にある限り、精々サマーデイの奴くらいしか思い浮かばない。
だがあの男は、そもそもこのゲームに参加してるかどうかも定かでは無い。
もし参加していれば、実力的にはランキング上位に来ると思うのだが、未だ名前は見ていない。
となると、やはり参加していないのだと思われる。その事自体は少し残念だ。
「う、うん。分かったわ……」
消え入りそうな声でそう呟くナツメ。
なんか今日は様子が少し変だな。
「ナツメ、調子が悪いのか?」
俺は心配して彼女の俯いた顔を覗き込もうとするが、顔を逸らされる。
「だっ、大丈夫だからっ! それよりギルドの名前を決めるんでしょう?」
そうだった。
さてさて、どうするかね……。
ナツメ、ハルカ、ユキハ……。
ナツ、ハル、ユキ……。夏、春、雪……。ふむ、なんか四季っぽい感じだな。
「よし、思い付いた! それぞれに季節を連想させる言葉が入っているから、〈シーズナルドミネイター〉だ!」
日本語に直せば季節の支配者という意味になる……筈だ。多分。
うるさいっ、英語は苦手なんだよ!
「〈シーズナルドミネイター〉、季節の支配者ね。ところで、秋はどこにいったのかしら?」
ナツメの疑問はもっともだ。
だが、その辺も俺はちゃんと考えてるいる。
「俺の名はカイト。漢字で書くと、灰に人だ。……灰ってなんか秋っぽくないか?」
それに俺のリアルにおける苗字は雨宮。とくれば秋雨が浮かぶ。
俺の風情溢れる性格的にも、秋はイメージぴったりだと思うのだが……。
「ど、どうでしょうね……?」
話を振られたユキハは、曖昧な笑みを浮かべながらそう返してくる。
むぅ、ダメか?
「ボクはどっちかというと、春じゃなくて、秋なんだけどなー」
などと良く分からない呟きが聞こえた気もしたがスルーだ。
「〈シーズナルドミネイター〉ってギルド名、中々に格好良いと思うんだがどうだろうか?」
「そうね。まあ、別にいいんじゃないかしら? 私は構わないわ」
「うーん。ボクも他に意見がある訳じゃないし、問題ないよ」
「私も大丈夫です」
少し反応が薄いのが気になるが、一応3人の同意を得られた事で、これで決定とする。
〈シーズナルドミネイター〉か。我ながらセンスに溢れた素晴らしい名前を考えたと感心する。
◆
「ギルド名は、〈シーズナルドミネイター〉で宜しかったでしょうか?」
「あ、はい。大丈夫です」
若い女性ギルド職員に質問にそう頷き返す。
現在、俺達はギルド結成の手続き中だ。
「ギルドハウスについての説明を致しますね。質問があれば、いつでもお尋ね下さい」
ギルドハウスについて、職員が説明を始めたが、そのほとんどがシルバリズムから事前に聞いていた内容だった。
なので、いくつか細かい点を尋ねるだけで、大体の仕様は理解することが出来た。
「ではこれよりギルドハウスのご案内を致しますので、ついて来て下さい」
ギルド本部の外に出て少し南に行くと、そこには大小だけでなく形も様々な建物が所狭しと立ち並んでいた。
この中から、俺達のギルドの本拠地となるギルドハウスを選ぶのだ。
「1件1件価格設定が違いますので、ご購入の際はその点どうぞご注意下さい。また建物の販売価格は、ゲーム進行に合わせて徐々に上昇致します」
ゲームが進行すれば、プレイヤーの所持する資産は増えていく。
もし価格が据え置きだった場合、相対的に見れば徐々に価値が下落していく事になるので、その対策だろう。
ギルドハウスは常に一定の価値を持つという訳だ。
「なぁ、ギルドハウスを複数購入するってのは可能なのか?」
「答えは否です。各ギルドが一度に所有できるのは1件のみです」
となれば、ギルドハウスを複数買い占めて、後から転売するといった方法も取れない訳か。
「ギルドハウスの権利を放棄する場合は、ギルドがその時の売価の半額にて、買い取り致します」
半額か。
なら初期に購入してから、時間を置いてから売却すれば、その差額で儲けるなんてことも出来そうだな。
とはいえ、複数のギルドハウスを購入出来るならともかく、1件しか所持出来ない設定では、狙ってやる意味は薄い。
精々、ギルドハウスを引っ越しする際の代金の一部になれば御の字といったところか。
「さて、どうするか……」
「ボク、あの建物がいいなー」
ハルカが指差す先には、何かの城かと思う程の巨大な建築物があった。
「おいおい。あんなデカい建物、俺達じゃ使い切れないぞ?」
多分数十人、下手をしたら3桁人数が使う事を想定しているような大きさだ。
何より、その値段は間違いなくトンデモナイ額だろう。
「ちなみに、あれいくらなんだ?」
好奇心から、俺はそう尋ねてみる。
「8700万Gです」
やはりか。
ちなみに、俺の現在の所持金(銀行に預けた分も含める)が300万G程。
他の3人も多分似たようなモノだろう。
装備類や所持品を全員が全て売り払っても、まず届かない額だ。
「あはは。ちょっとお高いね」
ちょっとどころじゃないけどな。
「人数が増えるにしても、そう一気に増える事は無いだろう。とりあえず10人くらい住める建物を買えばいいんじゃないか?」
「そうね。入りきれなくなったらその時に、またお金を集めて、新しい建物を買えばいいしね」
「でしたら、候補としてはこちらの物件になりますね」
ギルド職員が空中にこの付近の地図を浮かべる。
その一部が光っているが、どうやら条件に合致する建物を示しているようだ。
金額は、500万~1000万前後。
ずっと使える事を差し引いても随分と高い宿代ではあるが、引き換えに睡眠時の安全などのメリットが手に入るのだ。
俺に否は無い。
とはいえ、やはり高い買い物だ。
慎重に選ぶに越したことはないだろう。
「1件1件実際に見てみたい。案内を頼んでいいか?」
「畏まりました」
という訳で、俺達は候補の建物を1件1件見て回る事にした。
「部屋は広いし家具も揃ってますけど、建物が古いですね……」
「部屋は広くて綺麗なんだけど、家具類がほとんどないわね」
「新築だし、家具も揃ってるけど、ちょっと狭いな」
あちらを立てればこちらが立たず。
中々いい感じの物件が見つからない。
そんな中、最後の1件へと案内される。
「あれ? ここいいんじゃない? 部屋の数も多いし、それぞれが結構広いよ?」
「建物もまだ新しいわね」
「調度品もキレイな物が揃っていますよ」
3人それぞれから絶賛を受けている。
そうであれば、今度は別の面が心配になる。
「ここの値段はいくらなんだ?」
「150万Gです」
まさかの安さだった。
「なんでそんなに安いんだ?」
他の物件と比較すれば、1000Gを超えていてもおかしくない代物に思える。
「なぜと申されましても……」
ギルド職員の女性が困惑の表情を浮かべる。
「何か理由がある筈だ。良く調べてみよう」
4人で手分けして、建物内を調べるが、不審な点は見当たらない。
「カイト、どうするの?」
この建物は値段を含めた各条件で、俺達の要求を十二分に満たしている。
強いて欠点を挙げれば、街の中心部からやや遠い事だろうか?
だが、〈帰還の魔石〉の帰還ポイントは、ギルドハウス内へと変更できるし、各種設備も出張NPCがいるので、わざわざ出向く必要も無くなる。
その程度は大したデメリットには成り得ないのだ。
条件が良すぎるのが、ちょっと引っ掛かるが、こんな良物件を逃す手は無い。
「よし、ここを買おう!」
「お買い上げどうもありがとうございます」
こうして、俺達のギルド〈シーズナルドミネイター〉は、その本拠地となるギルドハウスを購入した。
今の俺の心中は、ギルドの結成と素晴らしいギルドハウスの入手、この2つを達成した事への喜びに満ち溢れていた。




