35 ギルドクエスト
俺達が"大樹の祠"のエリアボスを倒したことで、3rdエリアのボスを全て倒した事になる。
そんな訳で新エリアが開放された訳だが、そちらの攻略は一旦後回しだ。
「次はギルドの作成を目指すぞ」
本来ならば、"清水の鍾乳洞"の攻略を失敗した時点で、そうする予定だったのだが、感情面への折り合いなどを考えて後回しになっていたのだ。
まあ〈蒼翼騎士団〉にやられっぱなしにしておくのは、精神衛生上非常に良く無い。
感情の制御は一流のプレイヤーにとっては大事な事だが、制御とはただ感情に蓋をしてやればいい訳では無い。
ただ押さえつけるばかりでは、要らぬストレスの原因となる。
大事なのは常に楽しんでプレイする事なのだ。
単純ではあるが、これは非常に大事な事なのだ。別にゲームに限った話では無いが、嫌々やるのと、やる気を持って事にあたるのでは、随分と効率に差が出る。
自身の感情と上手く折り合いをつけ、良い方向へと導くのもまた、効率厨の務めなのだ。多分。
「ギルド本部に、クエスト開始のNPCがいるらしいから、まずはそこに行きましょうか」
という訳でやって来たギルド本部。
ちなみにギルド本部は、"始まりの街"の南東側にある。
そしてその南側の一帯には、大小様々なギルドハウスが立ち並んでいる。
「うーん、あっ、あの人じゃない?」
ハルカが指差した先には、一人の冴えない中年男性が立っていた。
その頭上には〈!〉マークが浮かんでいるので、クエスト開始のNPCだと分かる。
"Countless Arena"というゲームは、従来のVRMMOと比べ、クエストの数が非常に少ない。
普通は初心者向けのチュートリアル的なクエストや、ゲームの方向性を示す為のメインクエストなど、種々のクエストが存在するモノなのだが、このゲームにはそういったモノが存在していない。
アビリティの習得についても、アイテムの使用や適切な行動に依るので、クエストが絡む事は無い。
これは俺の推測に過ぎないのだが、多分運営は各プレイヤーが自身の考えに依って自由に行動することを願ったのではないだろうか。
クエストという明確な指標が存在する事で、プレイヤーは円滑なゲームプレイが可能になるが、逆に言えばそれは遊びの無いプレイとも言える。
効率的で無駄のないプレイは、裏を返せばプレイヤーの行動を固定化させる事に他ならない。
効率厨かつ他人を出し抜きたい俺からすれば、それは歓迎すべき事だ。
自由度が高いほどに、人とは案外不自由になるモノだ。
目的が定められそれへと邁進する事に関して優秀な人間はそこそこ存在するが、何も指針が定められていない中で十全に動ける人間は少ない。
そして少ない人間のうちの一人だと自認している俺にとっては、それはただ前へと躍り出るチャンスでしかないのだ。
思考が大分逸れたな。
「こんにちは。何か御用でしょうか?」
いざその男性に話しかけてみると、そんな答えが返って来た。
相も変わらず、人間らしい抑揚を伴った喋りだ。
頭上の〈!〉マークが無ければ、プレイヤーと勘違いしてもおかしくは無い程に。
「……どうかしましたか? 私の顔に何かついていますか?」
実は中の人がいるんじゃないかと、疑ったりもしたが流石にそれは無いだろう。
"始まりの街"だけでもNPCはかなりの数が存在している。
そして話した限り、その全てがこんな感じであった。
もし仮にその全てに中の人がいるとすれば、交代要員など含めれば、膨大な人件費が掛かる筈だ。
今の労働が不要な時代、人一人雇うというのはそれだけ贅沢な事なのだ。
そんな訳で、NPCの中の人はAIなんだと思うのだが、にしても良く出来ている。
他のVRゲームのNPCは一見人間を装っていても、少し会話を交わせば直ぐにAIと分かったが、このゲームではイマイチ自信が持てない。
予算はたっぷりあるみたいだし、本当に人間を雇っている可能性を否定しきれないのだ。
また思考が逸れたな。
大事を一つ成し遂げた事に、少々ハイになっているのかもしれんな。
自重するとしよう。
「ギルドの結成受付をここでしていると聞いたんだが?」
「ええ。それで合っておりますよ。詳しくはこちらの書類をお読み下さい」
そう言って渡された羊皮紙を手に取った瞬間、それはパッと消えて、クエスト受諾を示すアイコンが視界の右下で点滅する。
「これは、思ったよりも大変ね……」
先に内容を読んだらしいナツメが、ちょっとウンザリした表情をしている。
どれどれ。
……うん。確かにこれは面倒だ。
どうも2ndエリアまでの全8エリア全てを回る必要があるらしい。
確かにシルバリズムから得た事前情報通りと一致しているが、まさか全部とは……。
「クエスト内容を読んだ感じ、複数パーティで挑戦する事が出来るみたいだから、数の力で手分けしてやったんでしょうね……」
〈蒼翼騎士団〉は50人以上、すなわち12パーティ以上が在籍している。
結成時はそれより少なかっただろうが、それでもそれなりの数が仲間にいたのだろう。
4パーティもいれば、1パーティ2エリアで済むので、随分楽なはずだ。
エリアボスを倒す必要がない以上、それ以上に人数を分けたとしても多分いけるだろうしな。
「あんまりこのクエに時間を取られたくないな。しゃーない、全員ソロで手分けしてこなすか……」
「ええっ、一人で!? ちゃんと出来るかなぁ……」
隣のユキハも言葉こそ発しないが、イマイチ自信なさげだ。
「俺とナツメが、2ndエリアをやるから、2人は1stエリアの方を頼む」
たまにはソロプレイをするのも悪くは無いだろう。
いつもと違う視点でプレイする事で、見えなかったものが見える、……かもしれない。
「わ、分かりましたっ」
「うー。頑張るよ」
まあ今の2人ならば、1stエリアならば実力的にはソロでも余裕の筈だ。
「ナツメ、そっちは大丈夫そうか?」
「そうね。まあなんとかするわ」
勝手に決めて悪かったと思わなくもないが、戦闘スタイル的にソロ向きの俺達が2ndエリアに向かうのが無難なのは確かなのだ。
許してくれ。
「向かうエリア2箇所はそっちが先に選んでくれていい。残った方に俺が行くから」
結局、ハルカが"月光の森"と"朱色の砂浜"、ユキハが"黄金の草原"と"白亜の採石場"、ナツメが"邪妖精の住処"と"渇水の砂丘"に、そして俺は"炎熱の山地"と"海魔の潜伏地"に向かう事が決まった。
「何かあったら、すぐにパーティ通話で連絡するように。それと危険だと感じたら遠慮せずに〈帰還の魔石〉を使うように」
〈帰還の魔石〉を使えば、パーティ全員が"始まりの街"へと引き戻されるので、出来ればパーティから一旦抜けて欲しいが、緊急時だとそうもいかないので、使用タイミングを誤らないようにという配慮の上での言葉だ。
もっとも、奇襲などを受けて既に攻撃を食らってしまっていた場合はどのみち使用出来ないので、精々保険の一つといった所だ。
◆
そうして再びやって来た"炎熱の山地"。
相も変わらず、炎が飛び交い辺りは熱気に包まれている。
俺は装備を火耐性が高い品に変更して、目標地点まで一気に駆け抜ける事にする。
道中のMobは基本無視だ。〈サラマンダー〉の移動速度は大した事が無いので、今の俺のステータスならば、十分可能だ。
ギミックは極力回避するが、少し時間が空いたせいで、微妙に忘れてしまっていたらしく、何度かダメージを食らってしまう。
だが、以前来た時よりレベルが大分高くなっている上に、火耐性を積んでいるので、大事には至らない。
この程度なら、ユキハが作った〈料理〉アイテムで回復すれば問題は無いのだ。
エリアボスへと向かう道中を脇に逸れ、クエストNPCが居る筈の場所へと向かう。
そこには、ギルド本部にいたNPCそっくりの冴えない中年男性がいた。
名前は違うが、多分グラフィックは使い回しなのだろう。一応髪や目の色が違うようだが、それ以外に相違点は見当たらない。
「確かにあなた方の絆は確認致しました。次の職員が待つ場所へと向かって下さい」
ちょっとした問答を経た上で、上記のような有り難い言葉を頂く事になった。
多分パーティで来る事を想定していたが故のセリフなんだろうが、ちょっと笑ってしまう。
やっぱりこいつらはAIなんだなと確信出来て、引っ掛かっていた小骨が取れた気分になった。
次に俺が向かったのは、"海魔の潜伏地"だ。
とはいえ、流石にNPCが海の中で待っているなんてシュールな事態は無いだろうと考え、海岸線のどこかに居るものとばかり思っていたのだが、残念ながらその甘い考えは外れてしまった。
なんと、次のNPCは沖にある小さな岩礁で待っているらしいのだ。
嫌がらせか!? とは思ったが、文句を言っても始まらない。
仕方なく海の中を泳いで、その岩礁を探す事にする。
道中運悪く〈クラーケン〉に遭遇してしまい、戦闘を回避する為に、大きく迂回する羽目になったりもしたが、どうにか無事岩礁へと辿り着く。
「遠くまで海中散歩ご苦労様です。ちなみに私は舟で送って貰いましたので、ご心配は無く」
聞いてもいない情報を付け加えて来るNPC(また冴えないおっさんの色違いだった)にイラつきつつも、無事クエストを終える。
どうやら俺が最後だったらしく、他のエリアについては全て完了のチェックが入っている。
「(こちらもクエスト完了した。〈帰還の魔石〉を使うから、戦闘は控えてくれ)」
〈帰還の魔石〉の素材の供給も増え、値段が下がった事で、大分気軽に使えるようになった。
となれば、時間節約の為にも使うべきだろう。
「おつかれさま」
「ああ、全員無事に終わったみたいだな。クエストの完了報告に行くとするか」
"始まりの街"へと戻った俺達は、再びギルド本部に居る冴えないおっさんのもとへと向かう。
「おおっ! 素晴らしい! たった4人でこんなに早く成し遂げるとは! 何か不正をやったんじゃあるまいね……?」
いや、そんな事やってないから!
VRゲーム、特にこのゲームでチート行為などまずもって不可能だ。
有り得るとすれば、精々外部からの干渉くらいだろうか。
「いいからギルドの結成許可をくれ」
「ああ、すまない。そうだったね。これで大丈夫だ。後の事はあちらの職員に尋ねて欲しい」
彼が指差した方には、女性職員が立っているのが見える。
どうやらあちらで、ギルド結成の手続きが出来るらしい。
「いよいよだね! そう言えばギルドはなんて名前にするの?」
「……」
そう言えば、その事を全く考えていなかった。どうしよう。
「あー。何か案がある奴はいるか?」
その問いに対する答えは無く、全員無言であった。
おいおい……。




