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32 大樹の祠(中編)

 "大樹の祠"エリアにて、ダンジョンへの入場待ちをしていた俺達だったが、ようやく順番が回って来る。


「よし、油断せずに行くぞ!」


 2階、3階は特に難なく突破し、いよいよ問題の4階へ到達した。


「あれじゃないでしょうか?」


 ユキハが指で示した先には一体の〈トレント〉がいた。

 

「う、ううん? 他のと何か違うところがあるか?」


 言われて観察しても、違いがあるようには見えない。


「右上の方に1枚だけ微妙に枯れている葉っぱがあるんです」


 言われてそちらを良く観察すると、確かにそれらしき葉っぱは存在した。


「……よく気付いたな」


 分かるかぁー!!

 そう叫びたい衝動を抑えてつつ、ユキハの成果を称える事にする。


「あの〈トレント〉以外を殲滅すればいいんだな。あれのタゲは俺が持つから、3人で残りの始末を頼む」


 遠くから矢を一発当てて、そいつのターゲットを取った俺は、部屋の隅へとその〈トレント〉を誘導する。

 残った敵はナツメがタゲを取りつつ、ハルカが弱点である火魔法によって次々に倒していく。

 

 普通の〈トレント〉全てを倒したのと時を同じくして、俺がタゲを取っていた最後の1匹も動きを止める。

 それから、上階への階段を覆っていた蔦が解ける。


「どうやら情報は正しかったみたいだな」


 俺の言葉に3人もホッとした表情を見せる。


「情報通りなら、上の階も同じ筈だ。このまま集中していこう!」


 倒してはいけない〈トレント〉と通常の個体との差異は非常に分かりづらい。

 現にさっきもユキハ以外は誰も気付けなかったのだ。

 いっそうの注意が必要だろう。


 そうして俺達は先を進んでいく。


 5階の〈トレント〉は葉っぱの数が違った。その差、僅か1枚。

 ユキハがすぐに気付いたから良かったものの、そうでなければ確認が大変だったと思う。

 6階の〈トレント〉は主枝から生えている側枝の向きが一箇所だけ上下逆という、また非常に分かりづらいモノだった。

 意外にもこれはハルカが発見した。

 

「ふふん。ボクもやるときはやるでしょっ!」


 などと、慎ましやかな胸を張りながら言っていたが、軽くスルーしておいた。


 そうした苦労の果てに、ようやくエリアボスのいる7階までと辿り着くことが出来た。

 そこは、下の階と似た作りの部屋だったが、一つ大きく異なるのは、奥に階段が無く、その代わりとばかりに台座の上に大きなクリスタルが鎮座している事だ。


「えっと、あれがエリアボス……?」


 ハルカが頭上に疑問符を浮かべているが、気持ちは理解できる。

 エリアボスらしき敵の姿は見当たらず、台座に置かれたクリスタル。

 その上になぜかHPゲージが5本表示されているのだ。

 固有名〈マザートレント・コア〉。

 言葉通りに読み取れば、〈マザートレント〉というモンスターの心臓部といった所か?


「多分あれを破壊すればいいんだろうが……」


 それを妨害するべき敵の姿が無い事が、逆に俺を慎重にさせる。

 何より〈マザートレント〉という言葉が、俺に非常に嫌な予感を抱かせる。


「よし、俺が仕掛けてみる。周囲の動きに注意しててくれ」


 様子見に矢を一発〈マザートレント・コア〉へと放つ。

 微かにそのHPゲージが減った直後、俺達がいる大樹そのものが大きく振動する。

 と同時に、部屋の奥からニョキニョキっと巨大な枝が4本が這い出て来る。


 ――ああ、やっぱり。


 思わず内心でそうため息をつく。

 〈マザートレント〉というのは、今俺達がいる、この大樹そのものを指していたのだ。

 そして、あのクリスタルはその心臓部という訳なのだろう。


「えっ、えっ? どういうこと?」


「今回のエリアボスは、今いる大樹そのものって事だ」


「ええっ!? ちょっと大きすぎない?」


「幸い〈マザートレント・コア〉なんてものがご丁寧に置かれてるから、それを倒せば多分OKだと思うぞ」


 推測に過ぎないが、多分間違っていないと思う。

 流石にこの大樹そのものを切り倒せとか言われたら、流石にお手上げだ。


「そっか。じゃあ、いつもとやる事はあんまり変わらないのかな?」


「だといいけどな……」


 そんな話をしている間にも、現れた4本の枝は壁を伝いながらこちらへと移動して来ている。


「ともかくやるぞ!」


 そんな俺の言葉を合図に、エリアボス戦は始まった。


 現れた4本の木の枝の固有名は〈マザートレント・ガード〉。

 こいつらはかなり厄介で、ヘイトも何も関係なく、各枝が別々に俺達一人一人を狙ってくる。

 HP自体は大してないらしく、攻撃を数発当てるだけで簡単に倒せるのだが、即座に新しいのが召喚される為、あまり意味は無い。

 精々、再召喚後にターゲットへと向かう僅かな時間が稼げる程度だ。


 なので、各人散開して回避スペースを十分に確保した上で、攻撃を適当にあしらいつつ、〈マザートレント・コア〉へと攻撃を集中する事にした。

 この作戦によって、大した被害もなくコアのHPを残り2ゲージまで削り取る事に成功した。

 ここまでは良かったのだが、そこから先が問題だった。


 再び大樹全体が大きく振動し、更に4本の〈マザートレント・ガード〉が追加された。

 これで、一人辺りに2本の枝が付き纏う事になる。

 1本だけならば、回避しながらでも十分に攻撃をする隙はあったのだが、そうはいかなくなった。

 俺達を襲う攻撃が倍になったことで回避に専念しても、たまに被弾してしまう始末だ。


「くそっ、このままじゃジリ貧だな……」


 それから30分程、どうにか2本の枝を回避しつつ、攻撃出来ないか頑張ってみたのだが、結果は無残という他ない。

 こちらのHPは大して減ってはいないものの、相手のHPもそれは同様なのだ。

 実質、こちらはただ踊っていただけのようなものだった。


「作戦変更だ! 先頭はナツメで、防御に専念してくれ! ハルカは俺と一緒に枝の迎撃! ユキハはナツメに回復を集中!」


 俺の指示に従い全員が一箇所へと集まる。

 枝の攻撃は直線的な為、ナツメが前に立ったことで、全部そちらへと向かう。

 それをナツメが華麗な2本の剣捌きによって、ある時は切り落とし、ある時は剣で防ぐといった具合に、枝の攻撃を処理していく。

 だが流石のナツメでもそれら8本の攻撃を全て捌き切るのは不可能なので、ダメージを徐々に負っていくが、それはユキハがフォローする。

 

 俺とハルカの2人も、それを黙って見ている訳もなく、ナツメへと向かう枝を弓や魔法で叩き落していく。


「まずは、この状況を安定させる。反撃はそれからだ」


 その言葉通り、しばらくは反撃を控えて、枝への迎撃に専念した。

 そうして行動に慣れる事で、徐々に余裕が生まれて来る。


「よし、迎撃はハルカに任せた。俺はコアのHPを削る!」


「りょーかい! さっさと倒しちゃってっ!」


 敵の攻撃パターンに慣れて十分に余裕が出来た事で、俺抜きでも大丈夫だと判断する。

 それから俺一人だけではあるが、攻勢に転じる事にした。


「〈アローレイン〉!」「〈ラピッドショット〉!」「〈ガイデッドシュート〉!」


 俺はありったけのスキルを打ちまくり、コアのHPをドンドン削っていく。

 ナツメの方は大分厳しそうだが、どうにか持ち堪えている。


 ――良し、このままいけば!


 そんな考えが多分フラグだったのだろう。

 コアのHPが1ゲージを切った瞬間、大樹が再び大きく震える。


「うそっ、援軍!?」


 今回は2ゲージの時点で変化があったため、1ゲージでは無いだろうと高を括っていた。

 否、より正確に言えば、そうであって欲しいと思い込んでいたのだ。


 だが現実はそう甘くは無く、1ゲージを切った段階で、周囲から〈トレント〉が5体程出現した。

 枝8本の相手だけでもギリギリなのに、その上〈トレント〉にまで攻撃を受けたら、戦線が崩壊する。

 そう判断した俺は、すぐさまコアへの攻撃を中断し、〈トレント〉を倒しにかかる。


 ――これを倒しきれば、まだいける。


 だが、そんな考えすら甘く、〈トレント〉を全滅させた僅か5秒程後、再び大樹が震え、援軍が追加されたのだった。

 それからは酷いものだった。

 ナツメはただひたすら枝の猛攻に耐え、ユキハはその援護。

 ハルカはナツメの負担を少しでも減らすべく、枝の迎撃に専念している。

 俺も〈トレント〉達の処理に手一杯で、コアに攻撃をする余裕など微塵も無かった。


 それから1時間程粘ったのだが、その間、コアのHPを1ミリたりとも削る事が出来ずにいた。

 そして自体は更に悪い方向へと転がっていく。


「カイトさん! この調子だとMPが無くなりそうです……」


 ユキハが悲痛な表情で声を上げる。

 まずいな。ユキハのMPが切れて僅かでも回復が滞れば、全滅は必至だ。


「止むを得ない。撤退するぞ!」


「でも、どうやって!?」


 この部屋に全員が入った時点で、後ろの入り口は封鎖されている。

 〈帰還の魔石〉なら撤退出来るはずだが、あのアイテムは戦闘中には使用不可という制限がある。

 端的に言ってしまえば、ようは戦闘に類する行動を30秒以上行ってはいけないと事だ。

 戦闘に類する行動とは、こちらから攻撃を仕掛けるのは勿論の事、この場合は攻撃を受けるのもアウトだ。

 盾などによる防御で、ダメージが生じなかったとしても、ダメらしくその判定基準は結構厳しい。


「俺に作戦がある」


 俺は皆に俺の考えを語る。


「現状あの魔法を使えるのはユキハだけだ。悪いが、頼んだぞ」


「は、はい! 任せて下さい」


 ユキハがそちらの準備を行う間の、回復の遅れはポーションで補う事になった。

 折角の稼ぎが吹っ飛ぶことになるが、全滅よりはマシだ。

 そうして耐える事しばし。


「準備出来ました!」


 ユキハの声に応じて、一瞬後方へと視線を向ける。


 ――あれなら多分大丈夫だろう。


「次に〈トレント〉を全滅させた瞬間に動くぞ!」


 そして、もう何度繰り返しただろう〈トレント〉の群れにトドメを刺した瞬間。


「いまだ!」


 俺達はその場から離れ、ユキハが土魔法スキルの1つ〈クレイウォール〉によって作り出した、幾重にも重なった土壁の後ろへと逃げ込んだ。


「あとは、この土壁が30秒間耐えてくれることを願うだけだな」


 そう俺が立案した作戦とは、魔法で生み出した土壁で敵の攻撃を凌ぐという極単純なモノだった。

 〈クレイウォール〉は、自分の前方に土壁を生み出すスキルだ。

 土壁自体は、大した耐久力を持っていないただの障害物だ。

 なのだが、ユキハくらいの魔法攻撃力があれば――回復魔法の威力も魔法攻撃力依存の為、ユキハのそれはかなり高い――枝やトレントたちの攻撃にもそれなりは耐えてくれる。

 そして現在この場には、30秒間を余裕で耐えれるだけの土壁が用意されていた。


 そんな訳で今現在、土壁の中に籠城しているのだが、そんな俺達に攻撃を加えるべく、枝が土壁をガシガシ殴る音が聞こえて来る。


「ううっ、ちゃんと耐えてくれるかなぁ……」


「これだけあれば大丈夫だろ。多分……」


「多分ってなんだよ、もう……」


 ハルカがごちゃごちゃうるさいが、この状況で俺達に出来ることなど無いのだ。


「〈クレイウォール〉!」


 唯一ユキハだけは、少しでも長く耐えれるように、削られた土壁の補充を行っている。

 焼け石に水だが、やらないよりはマシだろう。


「あと10秒……」


 早く時間よ過ぎてくれ。

 ただそれだけを願う。


「あと5秒、4、3、2、1……いまよ!」


 ナツメの言葉と同時に、俺は〈帰還の魔石〉を頭上へと掲げる。

 目の前で、最後の土壁が砕けたのを見送りながら、俺達はどうにか無事"始まりの街"へと逃げ帰る事に成功したのだった。


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