3 同類発見
本日更新3回目です。
続きは明日更新予定です。
宿屋で寝ているプレイヤーをPKしていた俺の前に、一人の少女が現れた。
内部に入る前に物音などの確認はきちんとしていた為、これは俺にとって想定外の事態だった。
どうやら少女の方も、俺と似たような状況らしく、驚きのあまりにか、先程から口を半開きにしたまま固まっている。
このおかしな状況を打破すべく、咄嗟に俺は目の前の少女に対しパーティ申請を送る。
俺の意図を汲み取ってくれたのか、それはすぐに受理され、俺と目の前の少女――ナツメというらしい――はパーティメンバーとなった。
そして事前説明で聞いていた、パーティ通話の機能を俺は行使する事にした。
パーティ通話は、パーティメンバー以外には聞こえないという特性を持つので、それを利用したのだ。
「(おい、聞こえるか?)」
「(ええ、聞こえているわ)」
「(単刀直入に聞く。お前もPKを?)」
こんな時間に、あんな場所にいたのだ。
目的は限られる。
「(……ええ、そうよ。そう言うってことは、あなたもね?)」
「(ああ、じゃあ俺達は同類な訳か。……夜明けも近いし、まずは外に出ようか)」
「(……そうね)」
了承を得られた事で、俺とナツメは連れ立って建物の外へと出る。
僅かだが、空が明るくなり始めていた。
どの道、そろそろ潮時だったようだ。
この建物内のプレイヤーの経験値は、少々惜しかったが、今夜だけで既に十分稼がせて貰った。
なので、ここまでで満足する事に決めた。
「(……しかし、お前も随分殺したみたいだな。もうレベル13かよ)」
人通りの無い薄暗い街中を連れ立って歩きながら、俺はナツメへと話しかける。
彼女は俺よりもレベルが1高い。
その事実に、俺は悔しさを覚えていた。
「(それはあなたもたいして変わらないでしょう?)」
あと一人殺せば、確かにレベルは上がるので、差はほとんど無いのかもしれないが、それでも負けは負けだ。
「(まさかこんな真似をする人が、私以外にも居るなんてビックリだわ……)」
「(それは俺も同意見だな)」
「(……ねぇ、折角パーティ組んだんだし、このまま狩りに行かない?)」
ナツメが「良い事を思いついた」といった表情で、そう提案してくる。
肩程まである鮮やかな赤い髪を揺らしながら、そんな事を言う彼女の姿は、言葉に代え難い魅力に溢れていた。
そんな彼女の提案に対し、俺は思案する。
ゲーム開始直後からこれほど大胆な行動を取れる辺り、ナツメは十分以上に出来るプレイヤーだとまず判断していいだろう。
そして確か事前情報から判断するに、"始まりの街"周辺のエリアは、適正レベルは然程高くない筈。
今の俺達のレベルなら、上手くやれば2人だけでも、エリアボスを討伐することが可能かもしれない。
「(良し、じゃあ行くか! ついでにボスも倒しちまおうぜ!)」
徹夜明けで、テンションがハイになっていたせいもあるだろう。
俺はナツメの提案に乗っかる事にした。
「(ふふっ、そうこなくちゃね。あなたとなら例えボスでも、あっさり倒せちゃいそうな気がするわ)」
同じ事を考える似た者同士の俺達は、更なる共感を覚えつつ、一緒に狩りに向かうことに決めた。
軽い情報交換を済ませ、PKで得たドロップアイテムの整理を行い、インベントリを軽くした。
そんな俺達の次の目的地は、始まりの街の北側にあるエリア"月光の森"だ。
◆
"月光の森"へとやって来た俺達は、襲い掛かる敵をなぎ倒しながらドンドン奥へと進んでいく。
まだ夜明け前のなので周囲は暗いのだが、夜目はしっかり効くらしく、特に行動に支障は無いようだ。
出現するMob(Moving objectの略:モンスターの事を指す)は、皆レベル5前後、レベル10を超えている俺達にとっては苦戦する相手ではない。
「〈ウルフ〉が左右に3体ずつ! 右は任せたわ!」
敵にこちらを探知されて囲まれる前に、相手へと素早く忍び寄り先制攻撃を掛けるナツメ。
その動きに本来伴う筈の足音が、ほとんど聞こえてこない。
その様子に、俺達が互いに気付けず対面することになったのは、互いが所持する〈忍び足〉のアビリティが原因だったと俺は気付く。
「これじゃ、気付けなかったのも無理は無いな」
そう呟きつつも、俺は任された右側の敵へと向かっていく。
「……私達、レベルを上げすぎちゃったのかしら? こうもあっさりだと、なんだか変な気分だわ……」
「そうか? ボスを2人で倒すつもりなら、こんなもんだろ?」
"Countless Arena"におけるパーティの上限人数は、4人だ。
だがエリアボス戦などでは、2パーティ8人で挑むミニレイド、4パーティ16人で挑むフルレイド、8パーティ32人で挑むコープスレイドと言った具合に、複数のパーティで組んで行う戦闘が存在するらしい。
初期のエリアから、いきなり大人数は要求しないとは思うが、それでも少なくとも通常のパーティ上限である4人で戦うことを前提にしているのは、多分間違いないだろう。
現在の俺達は本来4人で戦うべき相手を、2人で倒そうしているのだ。
だからこそ道中の雑魚Mob相手に苦戦しているようでは、まずエリアボスには勝てないと考えていい。
「まあ、それもそうね」
初期のエリアだけあって、道はほぼ一本道だ。
道中には、雑魚Mobが行く手を遮る以外、特に障害らしい障害は存在せず、あっさりと俺達は森の奥、すなわちエリアボスの下へと辿り着いたのだった。