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27 蜥蜴人の湿地(後編)

 現状を少し整理しよう。


 まず手前の†ラーハルト†に20以上の雑兵とゾンビ騎士2体のターゲットが向かっている。

 その少し奥では、ナツメが王の攻撃をずっと捌いている。

 その更に奥側には、王を見守るように少し離れた位置に等間隔で巫女4体が立っている。

 そしてそれら巫女たちの護衛として、騎士2体ずつがそれぞれに付き従っている状況だ。


 こちらの次の手順としては、†ラーハルト†がタゲを持っている雑兵たちを一度殺してゾンビにし、少しでも弱体化させる事だ。


「〈ウォークライ〉のクールタイムが回復した! 大技ぶち込んでもいいぜ!」


 〈ウォークライ〉は周囲の敵のヘイトを一気に稼ぐ技だ。

 大技を放った術者にターゲットが移っても、すぐに奪い返す準備が出来たという訳だ。


「ハルカ!」


「任せて! 〈シャインミラー〉!」


 眩い光を放つ鏡のような物体を、敵のど真ん中へとハルカが召喚する。

 この鏡から放たれた光を受けた相手は、魔法防御が弱体化する。

 同時に一時的に敵のヘイトを稼いでくれる役割もしてくれるが、今回は†ラーハルト†がターゲットを固定済みなので然程関係は無い。

 ヘイト効果は一応の保険で、今回のメインは敵の魔法防御の弱体化だ。続く大技への布石でもある。

 

「〈スペクトラムシャワー〉!」


 ハルカが敵の中心近くへと駆けてゆき、杖を掲げる。

 その更に上へと、光輝く球体を生み出す。

 それが一瞬その輝きを増したかと思った瞬間、そこから周囲を薙ぎ払うようにして光線が放たれる。

 〈光魔法〉スキルの中でも随一の威力と範囲を誇る大技だ。


 後には、円を描いた焦げ目が残っており、その射線上の雑兵は全て焼き払われ、死んでいた。

 魔法防御が弱体化していたとはいえ、一撃で敵を葬るその威力、流石と言わざるを得ない。


 その死体へと向けて、巫女から黒い光が降り注ぎ、雑兵たちがゾンビとなって蘇る。


「〈ウォークライ〉!」


 ゾンビたちの一部が、近くにいたハルカを狙おうと視線を向けるが、†ラーハルト†がそれを許さない。

 盾から放たれた衝撃波を受け、ゾンビどもはすぐさま†ラーハルト†へと視線を向け直したのだった。


「これでやっと準備が整いましたね。†ディオ†、†ティア†。2人もカイトたちに協力して、巫女の撃破に当たって下さい」


 †ディオ†と†ティア†の2人はヒーラー役もこなせるというだけで、本来は弓による遠距離アタッカーだ。

 となれば、俺は前に出て戦った方がいいだろうと判断し、短剣へと持ち替える。


「俺が突っ込むから、援護は頼んだ!」


「ああ、任せてくれ」「オッケー!」「ボクも頑張るよっ!」


 3人の返事を確認し、俺は巫女へと駆けて行く。


「ユキハさん。あなたもあちらの支援に集中して下さい。ナツメさんは私が見ておきましょう」


 パーティ外への支援回復は難易度が上がるが、シンが自信満々にそう言い切るのなら、問題は無いのだろう。

 アイツは無理な事はハッキリ無理と言うタイプだからな。


「〈ラウンドアクセル〉!」


 巫女を殴った時点で、騎士達のターゲットはこちらを向くのだ。

 ならば纏めて殴っても大して変わらない。

 そんな訳で、周囲を切り裂く〈短剣術〉スキルを俺は放つ。


 その結果、護衛の騎士2体と、周囲の巫女たちの視線が俺の方へと向く。

 こうなると、回避に専念せざるを得ないが、この隙にハルカ達が巫女たちを殺してくれる筈だ。


 そんな俺の想いが伝わったのか、矢や魔法が次々と巫女とその護衛の騎士に降り注ぎ、ドンドンとHPを削っていく。


「「〈アローレイン〉!!」」「〈ラーヴァストライク〉!」


 示し合わせたかのように、ハルカ達3人が同時に大技を放つ。

 それによって、俺の正面の巫女たちのHPは0となる。


「よっしゃぁ!!」


 それを見た†ラーハルト†が、いの一番に喜びの声を上げる。

 その姿を見て、キツイポジションなのに余裕がある奴だなと、俺はある意味感心をする。


「いや、待て。様子がおかしいぞ!」


 俺はある事実に気付き、警告の声を上げる。

 巫女の死体が、残ったまま消えていないのだ。


「まさか……」


 残った3体の巫女へと、視線をやるとそいつらは各々杖を掲げており、そこから黒い光が放たれる。

 その黒い光は、騎士2体の死体だけでなく、巫女の死体にも降り注ぐ。

 そして俺の目の前にはゾンビ騎士2体と、そしてゾンビ巫女が姿を現した。


「おいおい、巫女までゾンビ化するのかよ……」


 前回の†ラーハルト†達の挑戦では、巫女の撃破には至っていないので、これは想定外の出来事だった。


「ゾンビ化で弱体化はしている筈です。死体に対するゾンビ化能力が失われている事を祈りましょうか……」


 シンは一応、こういった場面を想定はしていたものの、それは無いと判断していたらしく、声に苦々しさを滲ませながらそう言う。

 シンの言う通り、ゾンビ巫女に死体をゾンビ化する力さえ無ければ、魔法をちょっと使うだけのただの雑魚だ。

 そして俺もそうである事を祈っていたのだが……。


 †ラーハルト†にゾンビたちを押し付け、残った巫女の討伐へと俺達は向かう。

 そして、先程と同じような手順で倒したのだが……。


「まじかよ……」


 ゾンビ巫女から黒い光が飛び、騎士がゾンビとして蘇る。

 それの直後に、もう一体の騎士と巫女も、他の巫女から飛んできた黒い光によって、同じくゾンビとして蘇った。


「これは……」


 俺達は、今起こった事態を前に絶望に呑み込まれそうになっていた。


 いくら殺しても、ゾンビ化する能力が失われないのだったら、無限ループだ。

 どうやっても周囲のゾンビたちの数を減らせない事になり、これでは王を倒すのは不可能だ。


「まだです。王を回復する能力が失われていれば、問題はありません」


 巫女のゾンビ化により、王に対するHP回復能力が失われるのならば、まだやり様はある。

 そのシンの言葉に†ディオ†と†ティア†の2人が、王へと向けて攻撃を行う。


「……だめみたいね」


 HPを削られた王に対し、巫女だけでなくゾンビ巫女からも回復魔法が飛んでくる。


「シン、どうする?」


 こうなっては、俺も打開策が浮かばない。

 あとは作戦立案者であるシンに、何か腹案が無いのか期待するしかないが……。


「……」


 シンは†ラーハルト†へ忙しなく支援を飛ばしつつも、無言のままだ。

 その表情はどこか苦しそうにも見える。

 そうしている事しばし。


「……やむを得ませんね。一度、てっ――」


「待ってくださいっ」


 恐らく撤退と言いかけていたシンの言葉を遮り、ユキハがそう叫ぶ。


「どうしたんだ、ユキハ」


「た、多分ですけど、シンさんの作戦は間違っていません。このまま続けましょうっ!」


 そのユキハの言葉に対し、全員の視線がそちらへと向かう。


「どういうことでしょうか、ユキハさん?」


 シンが代表してユキハへと尋ねる。

 表情は訝しむものだが、その声にはどことなく期待の色が滲んでいるようにも聞こえた。

 

「"ゾンビ巫女"は恐らくですが、"巫女"と"ゾンビ巫女"の蘇生は出来ないんだと思います」


 ユキハのその言葉を脳髄をフル稼働して、噛み砕く。

 そう言えば、先程ゾンビ巫女が蘇生したのは、巫女ではなく騎士だった。

 ゾンビ巫女が、巫女を蘇生する姿はまだ見ていない事に気付く。


「ですが、そう言い切る根拠は何でしょうか?」


「は、はい。これまで"巫女"は、近くの死体から順に蘇生をしていました。ですが、"ゾンビ巫女"は一番近くにあった"巫女"の死体を無視して"騎士"の死体を蘇生させていたんです。これが根拠です」


 ユキハのその言葉に、正直俺は驚きを隠せないでいた。

 その事実自体も勿論なのだが、何よりユキハがそんな細かい位置関係のチェックまでしていた事に対してだ。


「……なるほど。もう少し頑張ってみるには、十分な情報ですね」


 ユキハの発言は、確信を持つには足りないが、それでもまだ挑戦するだけの気力を俺達に与えてくれた。


「ああ、まだまだ俺は余裕だぜ! 後ろの事は気にせず、ガンガンぶっ殺せや!」


 †ラーハルト†も意気消沈しかけていた皆を勢いづけんとばかりに、そう叫ぶ。

 一時は絶望に呑まれかけていた皆の表情に、生気が戻る。


「よし、やるぞ!」


 そうして、再び俺達は巫女たちの討伐へと向かっていった。



 結論から言うと、ユキハの推測は当たっていた。

 巫女を全員一度殺した時点で、ゾンビ巫女の復活は止まった。

 あとはゾンビ巫女を全部殺すことで、騎士や雑兵のゾンビ化復活も止まるのだ。


 こうなってしまえば、手間が掛かるだけでやる事は単純。敵を一体一体倒していくだけだ。

 ここまでやって来た俺達にとってそれらは、ただの消化作業のようなものだ。


 敵の数を減らせば減らす程に、各人への負担は減りそのペースは上がっていく。

 そして、遂に残りは王だけとなった。


「ったく。手間かけさせやがって!」


 ずっと雑魚のタゲを取り続けて、負担が大きかった筈なのに、†ラーハルト†の表情は変わらず元気なままだ。

 タフな奴だな、まったく。


「私もそろそろこの顔は見飽きたわ」


 ナツメも戦闘開始からずっと王と対峙し続けていた訳で、ストレスは半端無かった筈だ。

 やっとで訪れた鬱憤晴らしの機会に目を輝かせている。


「皆さんお疲れのようですし、そろそろ終わりにしましょうか」


 シンのその言葉と共に、アタッカー全員が一斉に攻撃を仕掛ける。

 当然、王から抵抗はあったが、8対1という数の暴力の前にそれは無意味であった。

 結果、あっという間に王たる〈リザードマンキング〉のHPは削れ、そして0になった。

 流石にここからの蘇生などはなく、その死体は粒子となり空気に溶けていった。


「MVPは私ですか……」


 シンが若干納得いかなさそうな声で、そう呟く。

 一見目立たなかったが、あれだけの数の敵のターゲットを受け持っていた†ラーハルト†が倒れなかったのは、シンのサポートに依るところが大きい。そう判断されたのだろう。


「まあ、仕方ないか」


 こちらのパーティがMVPを取れなかったのは少々残念だが、それほど悔しい気分では無かった。

 どちらかというと、全員で頑張ってエリアボスを倒せた事に対する喜びの方が勝っているのだ。


「さて、アイテムの分配ですが、約束通り5:5で宜しかったですよね、カイト?」


「え? 確か――」


 ハルカが何か野暮な事を言おうとするのを、その前にナツメがその口を塞ぐ。


 事前の話し合いでは、6:4であちらの取り分が多かった筈だ。

 きっとこれは、シンなりのユキハに対する感謝の表現みたいなモノなのだろう。

 そんな素直じゃない彼を他のパーティメンバーたちが、やけにニヤニヤとした顔つきで見ている。

 まったく仲が良い事で。


「ああ、それで問題ないぞ、シン」


 折角のシンの心遣いだ。遠慮なく受ける事にする。

 それから、分配したアイテムと"封印の書"を受け取り、約束通り"水霊の三日月島"の攻略情報を伝える。


「では、機会がありましたら、またご一緒しましょう」


「廃人! 楽しかったぜぇ! またな!」


 そう言い残し†ラーハルト†達は去っていく。

 こうして、このゲーム初となるミニレイドパーティによるエリアボス攻略戦は、その幕を閉じたのだった。


更新に関するお知らせです。

ストックが残り僅かになりましたので、申し訳ありませんが、現在の毎日更新から週5日更新に変更させて頂きます。

予定では、水曜と日曜を休みとして、それ以外の曜日には更新を行いたいと思っています。


引き続き、お付き合い頂けたら幸いです。

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