表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/72

26 蜥蜴人の湿地(前編)

 †ラーハルト†達のパーティと共に、俺達は"蜥蜴人の湿地"へとやって来ていた。

 湿地というエリア名通り、そこかしこに小川や池が点在しており、水気の多い土地だ。

 その為、足元もぬかるんでおり若干歩き辛い。


「ここの出現Mobは、ボスを含めて全てリザードマン(蜥蜴人)系です。"邪妖精の住処"にいたゴブリンなどの亜人系のモンスター同様、武器スキルを使ってきますので、その辺ご注意を」


 シンが俺達にそう解説しながら奥へと進んでいく。

 その言葉通り、道中に立ち塞がった〈リザードマン〉は手に持った武器に応じたスキルを繰り出してきた。

 湿地という足場の悪さを苦にせず襲い掛かって来るので、少々苦戦を強いられたが、今のところは大した被害もなく退けている。


「奴らは、エリアボス戦でも数多く相手をする事になりますので、今のうちに動きに慣れておいて下さいね」


 †ラーハルト†達から教えてもらった情報によると、エリアボスである〈リザードマンキング〉も〈リザードマン〉よりは一回り大きいものの、これまでのエリアボスと比較すれば小柄な部類だそうだ。

 HPゲージも10本という数に惑わされそうになるが、総HP自体は然程高くないそうだ。

 では何が厄介かというと、エリアボス本体よりもその周囲の敵が問題らしい。


 敵の構成を簡単にまとめると、エリアボスである〈リザードマンキング〉を筆頭に、〈リザードシャーマン〉が4体、(キング)巫女(シャーマン)の護衛として〈リザードマンナイト〉がそれぞれに2体ずつ、そして雑兵たる〈リザードマン〉が20体以上いるそうだ。

 要するに今回の相手は、王に率いられたリザードマン達の軍勢という訳だ。


 それだけでも、結構厄介に聞こえるのに、奴らの本当の意味で面倒なのは、別の所にあるらしい。


「あいつら、騎士(ナイト)巫女(シャーマン)は持ち場から動かないから、面倒なんだよな」


 †ラーハルト†が実感の籠った声でそうごちる。


 基本的にこちらへと向かってくるのは、王と護衛の騎士、それから雑兵だけらしい。

 それだけ聞くと王を楽に倒せるように聞こえるが、実態はそうでも無いらしく、巫女を放置しておくと、王に支援や回復魔法がガンガン飛んできて大変な事になるのだそうだ。

 

「かといって巫女どもを狙おうとすれば、騎士たちが動く。巫女同士も互いにかばい合うように攻撃魔法を放ってくるしな」


 巫女から始末しようとしても、騎士や別の巫女が邪魔をしてくるのだ。当然、王や雑兵たちも黙ってはいない。


「なら、雑兵から始末するのが、ベストなんじゃないか?」


 聞く限り、雑兵1体1体に対してまでは回復魔法を使わないようだし、まずそこから数を減らすのが常套手段なのではないかと思うが。


「そうなんだけどよ。雑兵や騎士が死んだら、巫女が奴らを魔法かなんかでゾンビ化しちまうんだよ」


 ゾンビ化した雑兵は〈リザードマンゾンビ〉、騎士は〈リザードマンナイトゾンビ〉として甦り、再び襲いかかってくるのだそうだ。

 速度が劣化し、スキルは使わなくなるものの、耐久力は生前より増えているらしく、これはこれで中々に厄介らしい。


「しかも困ったことに、巫女がいる限りゾンビは何度でも復活します」


 要するに巫女を始末しない限り、雑兵の数を減らすのは不可能という訳だ。


「結局、巫女を始末しない事にはどうにもなんない訳さ」


 †ラーハルト†が吐き捨てるようにそう言う。

 話を聞いただけでも、その気持ちは十分理解できる。


「そういった理由で、今回の作戦は正攻法を取ります。†ラーハルト†が雑兵のタゲを、ナツメさんには王のタゲを持って貰います。そして、まずは雑兵をゾンビに変えてから、2人を除いた全員で巫女を倒しに行きます」


 ゾンビにわざわざ変えるのは、敵のスキルの使用を封じる為だ。

 流石の†ラーハルト†でも、スキルを使う20体以上の敵のタゲを長時間維持するのは無理なようだ。


 前回の挑戦では、その最中に味方パーティが先走り巫女を狙った結果、騎士達に返り討ちにあい全滅。

 残された†ラーハルト†達は、這う這うの体で逃げ帰ったそうだ。

 それでも全員生還した辺り、流石だなとは思う。


「巫女と騎士を全部始末してから、最後に王を倒します。皆さん、作戦は厳守でお願いしますね」


 シンがそう言うのも無理はないだろう。

 自分たちが完璧な仕事をこなしていても、組んだ味方がポカをすれば、失敗する。

 それが集団戦というモノだ。


「ナツメ、王のタゲやれそうか?」


「ええ、1体だけ、しかもタゲを維持するだけなら、そう難しくないと思うわ。任せて」


 王は、雑兵よりも多彩なスキルを使ってくるそうだが、それが武器攻撃である以上、ナツメの〈二刀流〉スキルで対処可能だ。

 そういう意味では、ナツメ向きの相手とも言える。

 俺でもやってやれなくは無いだろうが、耐久力的にスキルはすべて回避する必要がある為、難易度が大分高くなる。


 以上のようなやり取りが、このエリアへと出向く以前に行われていた。

 十全とまではいかないまでも、かなりの詳細な情報を提供してくれた†ラーハルト†達に感謝だ。

 まあ、その分の対価は支払うのだから、別にそんな必要もないんだがな。



 "蜥蜴人の湿地"を奥に進むと、小川に四方を囲まれた平野部があり、そこに多数のリザードマン達がいた。

 その中心には、玉座が無くとも一目で王だと分かるほどに一際大きな個体が、両手に大剣を構え立っている。

 恐らくあれが〈リザードマンキング〉だろう。

 その四方に均等に距離を置いて、巫女服を纏った白いリザードマンがいる。

 間違いなく、あれが〈リザードシャーマン〉だろう。

 奴らには、護衛として剣と丸盾を構えた騎士が2体づつ付いている。

 それが〈リザードマンナイト〉だ。

 その更に周囲に、様々な武器を構えた〈リザードマン〉たちがバラバラに立っている。


「すっごい数だねー」


 これだけの数の敵Mobを一度に相手にするのは、このゲームでは初めてだ。

 ハルカのその感想も無理は無い。


「大丈夫ですよ。数の多い雑兵どもは†ラーハルト†が全て抑えますので」


「ああ、俺様に任せとけ!」


 シンの言葉に応じるように、†ラーハルト†がドンッと自身の胸を叩いて見せる。

 まあ、こいつの腕は知っているので、そちらは心配していない。


「ユキハ。†ラーハルト†の事は、シンに任せておけば大丈夫だから、気にしなくていいぞ」


 ユキハの視野の広さは美徳ではあるのだが、今回はこちらの支援に集中して貰いたい。

 †ラーハルト†パーティでは今回、弓使いである†ディオ†と†ティア†の2人が、半分ヒーラーよりの立ち回りをするらしいので、回復については、ユキハが心配する必要は無い。というか、するべきでは無い。


 これまでのユキハのヒーラーとしての働きぶりは、十分に見事と言えるモノであったのだが、今回はいつもと少々事情が異なる。


 基本的に、視界の左上の表示されるのは自分とパーティメンバーの情報だけだ。

 ミニレイドなどで組んだ別のパーティのHPなどは、直接その相手を見ないと分からない。

 その為、パーティ外の人間の状況把握は難しいのだ。

 にも関わらず、下手に欲を出して他パーティの支援を行おうとすれば、ミスの原因ともなり得る。


 ミニレイドという枠組みで複数パーティが組んだとしても、それはフレンドリーファイアなどの危険が無くなるだけで、別パーティへの支援などはあまり考えるべきでは無い。慣れないうちは特にだ。


「分かりました。こちらのパーティの支援に専念しますね」


 ぐっと杖を握り、ユキハがそう宣言する。

 こちらの指示を理由も無く無視するような子じゃないので、これで一安心だ。


「ではまずは王を釣り出すとしましょう。カイト、お願い出来ますか?」


 シンの言葉に俺は頷き、弓を構える。

 同時に、†ラーハルト†が前へと出て、前方の〈リザードマン〉達のターゲットを取るべく突貫していく。


「うおおおっ! 〈ウォークライ〉!」


 盾を掲げた†ラーハルト†がそう叫ぶことによって、周囲に衝撃波が奔る。

 〈盾術〉スキルの一つで、ダメージは無いが敵のヘイトを大きく稼ぐことが出来るらしい。


 〈リザードマン〉達が†ラーハルト†に釣られたのを確認し、俺は弓の射程ギリギリまで王へと近づく。


「〈ブラインドシンカー〉!」


 俺が選んだのは、威力が低くかつ射程が長いスキルだ。

 下手にダメージを与え過ぎれば、ナツメにタゲを預けづらくなるので当然の選択だ。


「グゴォォォ!!」


 〈リザードマンキング〉が雄叫びを上げて、こちらへと一気にタゲを向ける。

 と同時に、護衛の〈リザードマンナイト〉2体もそれに追随してくる。

 すぐさま俺は、†ラーハルト†の後ろへと下がる。


「ナツメ!」


 俺と入れ替わる形でナツメが前に出て、追いかけてきた王へと攻撃を仕掛ける。


「〈クリムゾンアサルト〉!」


 〈二刀流〉スキルの一つで左右交互の4連撃からの、2本同時での斬り上げを放つ剣技だ。

 威力はかなり高いが、その分スキル後の硬直も大きい。


「グゴォ!!」


 その隙を逃す訳もなく、王の大剣の一振りでナツメは弾き飛ばされるが、それは予定通りだ。

 シンを除くヒーラーの3人から、一気に回復魔法が飛んできて、HPはあっという間に元通りだ。

 多少無茶をしても、ナツメに対し王のターゲットを確実に向ける為にやった事だ。


 王のターゲットがナツメへと向いた事で、同時に護衛の騎士のタゲもそちらを向く。

 騎士をゾンビ化させるまでは、ナツメは3体のタゲを持つことになり負担が大きくなる。

 早めに騎士を一度倒さないとな。

 倒しても、巫女によってゾンビ化して甦るが、王の護衛を最優先する思考が消え他の雑兵と同じAIになるので、扱いが楽になる。


「ハルカ! まずは騎士から倒すぞ!」


 騎士を倒すまでは、†ディオ†と†ティア†の2人も†ラーハルト†の支援に回るので、俺とハルカの2人でやる必要がある。


「〈ガイデッドシュート〉!」「〈サンダースマイト〉!」

 

 なるべく王に当てないように、単体向けのスキルで騎士へと攻撃を仕掛ける。

 一瞬騎士は、俺達の方へと向かう様子を見せたが、やはり王の護衛を優先するらしく、すぐさまナツメへと視線を戻す。


 ここまでは予定通りだ。

 俺とハルカは他を巻き込まないよう気を付けつつ、遠距離から騎士のHPを削り切る。


「グヴォォ……」


 倒れた騎士に巫女が掲げた杖から黒い光が飛び、ゾンビ化して復活する。


「†ラーハルト†!」


「おうよ! 〈ブーメランシールド〉!」


 いつの間にか、両手に盾を持っていた†ラーハルト†が片方の丸盾を投げ飛ばす。

 それが、ゾンビ騎士2体に連続でぶつかっていく。

 〈盾術〉の攻撃スキルはどれも威力は大した事ないが、敵のヘイトを大きく稼ぐ効果がある。

 また、復活したばかりで誰にもヘイトが溜っていなかった事もあり、ゾンビ騎士2体のタゲは†ラーハルト†へと向く。


 気が付けば、最初の数体だけでなく、周囲の雑兵全てが†ラーハルト†へと殺到していた。 

 それを巧みな位置取りと、盾捌きで†ラーハルト†はいなしている。


 ここまではシンの計画通りに進んでいる。

 とはいえ、前衛2人への負担がかなり大きいので、早めに状況を進める必要があるのは間違いないだろう。

 焦る気持ちを抑えつつ、俺は努めて冷静に目の前の状況を見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ