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24 新興宗教ガミガミ教

 "水霊の三日月島"から帰還した俺達は、アイテム整理などをした後、3時間の睡眠を取ってから再度攻略へと向かう。

 少々大変だが、時間にあまり余裕も無い事だし、打ち合わせは移動しながらとなる。


「なぁ。ヒョウタンを池から出したらどうなるんだろうな?」


 守るべきヒョウタン側を池の外へ出せたら、大分戦闘は楽になりそうなのだが……。


「……試してみないと分からないけど、多分エリアボスが池に帰っちゃうんじゃないかしら? そこまで甘くは無いと思うわ」


 ですよねー。

 一応試してはみるつもりだが、当てにはしない方がいいだろうな。


「池にヒョウタンを浮かべた状況で、それを守りつつ戦う必要があると考えた方がいいだろうな。……中々厄介だな」


 前回の戦闘では〈ミズチ〉が速攻で撤退した為、あまり奴の実力は分からなかった。

 ただエリアボスである以上、それなりのステータスは持っていると考えるべきだろう。


「ね、ねぇ。なんでそんなに余裕なの?」


  ああでもない、こうでもないと、頭を悩ませていると、ハルカが若干疲れた表情で、俺にそう問い掛けて来る。


「……何がだ?」


 そう答えつつ、俺は襲い掛かって来たMobを切って捨てる。


「……ううん。別に何でもない……」


 ――どうしたんだ? おかしな奴だな。



 そうこうしている内に、海を越えて再び俺達は"水霊の三日月島"へと帰って来た。

 今はもう夜中なので、前回と雰囲気が大分異なるように感じられる。


「よし。ここからは一旦、二手に分かれるぞ。俺が北側にソロで行くから、3人で南側を頼む」


「……分かったわ」


「えっ、それは流石にカイトがきつくない?」


「安心しろ。素早さ重視の俺のステータスなら、一人だったらどうにでもなるさ」


 別にそれは強がりで言っているのでは無い。

 流石にこの場所で、ソロで安定して狩りをするのは大変そうだが、ヒョウタンを取って来るだけなら問題は無い。

 〈サルトラヘビ〉の始末が、矢の特攻でどうにでもなる以上、俺が一人で移動した方が合理的だ。


「ユキハ。パーティ通話の方で、定期連絡を頼む」


「わ、分かりました。カイトさんもお気をつけて」


 そうして、俺は一時的にだがソロで行動する事になった。

 とはいえ、飽くまで目標はヒョウタンの獲得だ。

 なので戦闘は極力避けるつもりだ。


 一人になった事で、いつもより早い速度で俺は島の北端へと向け駆けて行く。

 途中、妙な恰好をした4人組とすれ違う。

 持っている武器はそれぞれに異なるようだが、全員が黒いローブを纏っており、夜の暗さも相まって顔が全く見えない。


 ――先行しているパーティじゃなきゃいいがな。


 一抹の不安を覚えつつも、どうにかヒョウタンの所まで辿り着く事が出来た。


「(カイトさん。こちらはヒョウタンの入手に成功しました)」


「(了解。こっちももうすぐだ。中央の池で合流しよう)」


 どうやらあちらの方が速かったようだ。

 いくら移動速度で優っていても、Mobとの戦闘を避けて迂回を繰り返せば、こんなものだ。


 それから北端へと到達した俺は〈サルトラヘビ〉を矢の一撃で屠り、ヒョウタンを入手すると、急いで引き返す。

 単純に後れを取り戻したいという気持ちも勿論ある。

 だがそれ以上に、先程すれ違った4人組を見て、どうも嫌な予感がするのだ。


 全速力で島の中央へと戻って来た俺を、3人が出迎えてくれた。

 だが、その表情はあまり優れない。


「まさか……」


「ええ、そのまさかよ。やられたわ……」


 ナツメがクイッと首を向けた先には、黒のローブを纏った4人組が〈ミズチ〉と戦っている姿だった。


「私達がここに着いた時、丁度召喚を始めていた所だったわ。見た感じ戸惑っている様子も無かったから、ボスの仕組みについて事前に知っていたと考えるべきね」


 俺達の戦いを見られていたのか?

 いや、戦闘開始前に周辺に誰かいないか確認したので、多分それは無いと思うのだが……。

 ならば、俺達より前に既に一度挑戦していたのか?


「あとは彼らが失敗するのを祈るしか無いわね」


 最悪、彼らのボス討伐の邪魔をするというのも考えたが、却下した。

 現時点で、悪戯に敵をつくるのは、明らかにマイナスだろう。

 悪評が広まれば、後々の攻略に間違いなく支障が出る。

 現に、以前俺達を襲ったマコト達については、それとなくPKであることを噂で流しておいた。

 思惑通りにいけば、彼らは肩身が一気に狭くなるはずだ。


「今はフードを下ろしているんだな……」


 彼らの戦いぶりを見守りつつ、ふとそんな事が気になる。

 行きにすれ違った時は、全員フードを被っており、顔が見えなかったが今は全員素顔を晒している。


「いいパーティね」


 彼らの戦いぶりは、見た目の奇異さに反し非常に堅実なモノだ。

 短剣使いの"ガミガミ"と鞭使いで紅一点の"ちやちや"、前衛の2人が交互にタゲを維持しつつ、万が一外れても後ろの弓使いである"ガブガブ"が、すぐさまフォローを入れており、〈ミズチ〉をヒョウタンへと寄せ付けていない。

 ヒーラーらしい"ゲルゲル"も、中々優秀なようで、盾持ちが居ないパーティにも関わらず安定している。

 プレイヤーネームが変な事を除けば、その戦闘様式などは俺達のパーティとの共通点も多く、非常に参考になる。


 参考になるのは良いのだが、この調子だと初討伐まで持っていかれそうだ。


 そしてそんな俺の危惧は現実のモノとなり、左下に初討伐である事を示すログが流れる。


「すまない。俺の認識が甘かったようだ」


 俺は仲間の3人へと頭を下げる。

 今回初討伐を逃したのは、結果としては俺の判断ミスによるものだった。

 やはり一度失敗した時点で、多少の無理を押してでもすぐに再挑戦するべきだったのだろう。

 正直、判断が難しい場面であったのは事実だが、それを言い訳にはすまい。


「気にしないで。誰も異議と唱えなかったんだから、全員の責任よ」


「そうだよー。今回が駄目でも次があるよ!」


「そ、そうですよ。まだ討伐ログが流れたのはここだけですし……」


 3人は口々にフォローの言葉を述べてくれるが、何より俺は緊張感を失っていた自分自身に腹が立っている。

 そうならないように気を付けてはいたものの、やはりランキングで連続1位を取った事で慢心していた部分がどこかにあったのだろう。


 ――分かっていても、ままならないモノだな。


 とはいえ、余りくよくよと悩むのも俺らしくは無い。

 失敗は失敗として素直に受け止めた上で、次へと切り替えていくとしよう。


「奴らは出来るプレイヤーみたいだし、この機会に交流を持つのも悪くは無いと思うんだが、どうだろうか?」


 ユキハが一瞬戸惑った様子を見せたが、他2人はすぐさま頷いてくれた。


「ユキハ、どうした?」


「い、いえ。何でもありません。私も大丈夫です」


 その妙な態度が若干気になるが、今はガミガミ達へと話かけるのが先だ。

 急がないと〈帰還の魔石〉で帰ってしまうかもしれない。


「初討伐おめでとう、後ろから見てたけど、凄かったな」


 戦闘を見ていて恐らくパーティのリーダーだと判断したガミガミへと、俺はそう話しかける。


「むっ、お主らは?」


 口調は硬い感じだが、声は若くそのギャップが少しおかしく思えるが、流石にそれを口に出す程俺は馬鹿では無い。


「ああ、俺はカイト、後ろの3人は俺の仲間だ」


「うむ、それは存じておる」


 まあランキング1位だから、俺の事を知っていても別に不思議では無い。

 そう思っていると、突然ガミガミが手を振り上げて声を上げる。そしてそれに後ろの3人も追従する。


「我らは!」


「新興宗教!」


「ガミガミ!」


「教!」


 ドーン! と爆発音のエフェクトがバックで聞こえそうな感じのポーズを決める。

 突然の奇行を前に、俺は目を丸くするが、当の本人たちは何故かドヤ顔だ。


「あー。でだな、良かったらフレンド登録しないか?」


 反応に困った俺は、とりあえず見なかった事にして話を続ける事にした。

 そんなに俺の態度に一瞬彼らは、傷ついたような表情を見せるが、それも僅かの事だ。


「ふむ、良かろう。ゲームクリアにおいて、上位パーティの連携は後々不可欠になるだろうからの」


 見た目や言動はちょっとあれだが、基本的には頭が切れる奴のようだ。

 今はまだパーティ単位で十分に攻略を進められているが、先々を見据えれば、複数パーティの連携は確実に必要になる。

 少なくとも8パーティ32人で挑むコープスレイドの存在は、事前説明で明らかにされている。

 運営の性格の悪さを考えれば、それ以上の人数で挑むことも視野に入れた方がいいだろう。


 "Countless Arena"の参加者は3000人だが、その全員がゲーム終盤まで攻略を続けていることはまず有り得ない。

 攻略を諦める者も出るだろうし、それでなくても最前線についていけるのがどれくらいいるか分かったモノでは無い。

 それに"封印の書"の存在もある。

 あのアイテムが、エリアボスの初討伐以外にも入手方法が存在していれば、その分ゲームから除外される人間の数は多くなるのだ。

 

 そう考えれば、プレイヤー同士で争っている余裕など、本来は無いのだ。

 だからこそ、俺もPKは最初だけで封印したのだ。

 これがもし仮に普通のVRMMOだったなら、今頃俺は嬉々として上位プレイヤーたちの首を狙っていただろう。


「ところでその黒ローブは何なんだ?」


「これは我らのガミガミ教の祭服だ」


「へぇ、もしかして〈裁縫〉アビリティで作ったのか?」


「ああ、そうだが」


 ローブ系の装備は、その見た目通りに軽く、また魔法攻撃力や魔法防御力を高めて易い傾向にある。

 なので、魔法主体のハルカやユキハもこの系統の装備だ。

 もっとも、コイツらみたいに真っ黒じゃないけどな。

 今の所フレンドに〈裁縫〉アビリティを育てている奴は居なかったので、これは収穫だ。


「そういえば、何で俺とすれ違った時、わざわざフードで顔を隠していたんだ?」


「あー……。まあ、お主たちになら、話しても良かろう。実はこのローブ、フードを下ろしていると、隠蔽効果が付くのだよ」


 その言葉に俺は驚きを隠せない。

 未だ探知系のスキルを獲得していない俺達パーティにとって、そのアイテムは大きな脅威と成り得る。


「……まじか。中々ヤバい代物だな……。てか、それ話しても良かったのか?」


 自分で聞いといてなんだが、そんな重要な情報をあっさり漏らしてもいいのだろうか?


「実はの、お主たちの〈ミズチ〉戦を隠れてみておったのだ。このローブを使っての」


 成程、先を超されていた訳じゃなく、俺達の戦いから情報を得ていた訳か。

 今回の俺の一番のミスは、周囲への警戒が不足していた事のようだ。

 こんな序盤から、そんなアイテムが存在しているなんて想像出来なかったから、やむを得ないと言えば、そうなのかもしれないが、やはりリーダーとしては手痛い失点だろう。


「まあ、その詫び代わりじゃ。なので、他言無用に頼むぞ?」


 ガミガミ曰く、攻撃行動を起こせば隠蔽効果があっさり消えるらしいが、それでも十分危険だ。

 そんな効果を持つアイテムの存在を事前に知れただけでも、大きな収穫だった。


 その後、いくつか情報交換の後に、彼らと別れる事になった。

 

「なんか良い人なのか、悪い人なのか、良く分からないね」


 言動や恰好が少々変なだけで、話した印象は至って善良なモノだった。

 だがそんな彼らでも、他パーティを出し抜くような真似を極普通にしているのだ。


「まあ、そんなもんだろ。こんなゲームに参加している奴らは、皆どこかおかしいに決まっているさ」


 こうな事を言えば、ハルカは怒って反論するかと思ったのだが、意外にも神妙な顔つきで何かを考えている。

 

 ――やれやれ、調子が狂うな。


「初討伐はもう無理だが、折角ここまで攻略準備したんだ。〈ミズチ〉を倒して、素材だけでも手に入れておくぞ」


 ガミガミ達が攻略のお手本まで見せてくれたのだ。

 ここまで御膳立てされておいて、まず失敗は有り得ない。


 事実、俺達は大した苦戦もなく〈ミズチ〉を撃破する事に成功したのだった。


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