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23 水霊の三日月島(後編)

 "水霊の三日月島"の北端で、ヒョウタン(白)を手に入れた俺達は、次はヒョウタン(赤)を入手すべく南端へと移動を開始する。


「ううっ。なんか奇襲ばっかりで、すっごく疲れたよ……」


 そう呟くハルカだけでは無く、他の2人にも若干疲労の色が見える。

 かくいう俺もだ。


「ここまでほとんど休み無しだしな。そろそろ帰還も視野に入れるべきか」


 気が付けば、日も大分傾いて来ている。

 今日は早くから"大樹の祠"へと出向いたりしたので、随分と色々やったように思える。

 その分、精神的な疲労もかなり大きいが。


「しかし、折角ここまで来たんだし、エリアボスの顔を一度は拝んでおきたいよな」


 "大樹の祠"とは違い、エリアボスのもとへと至るルートは大体見当は付いている。

 であれば、初討伐を狙う意味でも、早めに戦いたい所だ。


「そうね。とりあえず、南端でひょうたん(赤)を手に入れてから、それを実際に使ってみるところまでは頑張りましょうか」


「りょーかいー」


 ハルカは相変わらず疲れた表情だが、特に反論はして来ない。

 彼女も今という中途半端なタイミングで撤退しても、後の苦労が増すだけだと理解しているのだろう。

 まあ仮に理解していても、キツイときにはボヤキたくなるものだ。

 それでストレスが発散出来るならば、好きにさせておこう。


「で、やっとで辿り着いた訳だが、予想通りに赤いヒョウタンがあるな」


 また、〈サルトラヘビ〉とかいう、見かけ倒しの雑魚が出て来るのか、あるいは他の敵なのか。

 もしくは、別に何か仕掛けがあるのか、いずれにしても近づかねば話にならない。


「よし、近づくぞ。警戒は怠るなよ」


 3人が頷いたのを確認し、俺はゆっくりとヒョウタンをぶら下げた木へと近づいていく。


「ギィィー!!」


 以前と同じように、木が揺れてヒョウタンからモンスターが飛び出してくる。

 どうやら前回同様〈サルトラヘビ〉というモンスターのようだ。


「コイツか。なら楽勝だな」


 以前戦った時は、弓の一撃であっさりと死んだのだ。

 見た所違いも無さそうだし、今回も楽勝だろう。

 そう思って、素早く近づき短剣で斬りつけたのだが……。


「っ! なんだ!? 妙に硬いぞ!」


 俺の短剣での一撃は綺麗に入った筈なのだが、敵のHPゲージは僅かにしか削れていない。


「カイト!」


 突然の事態に、一瞬フリーズしてしまった俺に喝を入れるようにナツメがそう叫ぶ。


「くっ!」


 そのお蔭もあり、サルトラヘビが持つ虎の爪の一撃を、どうにか俺は回避する事が出来た。

 同時に入れ替わるようにして、ナツメが前へと出る。


「やぁぁ!」


 一撃、二撃と攻撃を叩き込むナツメだったが、サルトラヘビの尻尾のヘビが意志をもったようにして、噛み付いて来た為、一歩後ろへと下がる。


「近接戦じゃスキルを使う隙が無いわね……」


 虎の胴体と、尾の尻尾。この2つが別々の意思を持って同時に攻撃してくるのだ。

 顔の猿はただ吠えているだけのようだが。


「なんだこいつ。普通に強いじゃないか」


 北端で出会った奴とは別物なのだろうか?

 

 先程からハルカも後ろから魔法を撃ちこんでいるのだが、魔法耐性がかなり高いのか効果はどうも薄い模様だ。

 俺は前衛をナツメに任せて、武器を弓へと持ち変える。


「食らえ!」


 動きも俊敏であり、1撃目は外してしまったが、連続して放った2撃目が奴を貫く。


「グギャァー!!」


 俺の放った矢の一撃は、〈サルトラヘビ〉のHPゲージを一撃で吹き飛ばし、奴は粒子となり消えていった。


「へっ!?」


 俺が放ったのはスキルでも何でもない、普通の矢の一撃だ。

 俺の短剣やナツメの剣、それにハルカの魔法の方が、威力としては恐らく高い筈だ。

 にも関わらず、結果はこれだ。意味が分からない。


「……矢が特効武器だったという事かしら?」


 特効武器とは、特定の相手に対してのみ特別な効果を持つ武器の事だ。

 ドラゴンに対するドラゴンスレイヤーみたいなモノの事を指す。


「そう、なんだろうな……。じゃないと、説明がつかない」


 つかないのだが、なんか釈然としない気分だ。

 〈サルトラヘビ〉とやらに何か元ネタでもあるのだろうか?

 こういう時にネットで検索出来ないのはもどかしいな。


「ま、まあさ。とりあえず、無事に倒せたんだし、素直に喜ぼうよっ、ねっ?」


 まあハルカのいう事にも一理ある。

 俺は黙ってその言葉に頷いた。



 そして再びやって来た島の中央部にある池。

 その途中、他のプレイヤーとも何度かすれ違ったので、余りゆっくりもして居られないようだ。


「アイテムの説明欄には『水霊を祀りし地に捧げよ』としか書かれてないけど、どうするんだろうね?」


 2つのヒョウタンをはめ込むような場所は見当たらない。

 俺達は揃って頭を悩ませる。

 

「あ、あの、ヒョウタンって水に浮くので、池に浮かべてみるのはどうでしょうか?」


 ユキハがふと思いついたように、そう呟く。


「ふむ。まあダメでも回収すればいいだけだし、試してみるか」


 特にリスクを伴う行為でも無いし、試せることはドンドン試すべきだろう。

 俺はインベントリから紅白2種のヒョウタンを取り出し、池へと浮かべてみる。


 すると、池の表面が一瞬輝いた後、急に水が濁り始める。


「正解、みたいだな」


 やがて池の水面が急激に膨らみ、中から巨大なヘビらしきモンスターが姿を現したのだった。


「固有名〈ミズチ〉。HPゲージは5本と。やっとでエリアボスのお出ましのようだな」


 〈ミズチ〉は水のように青く透き通った肉体を持っており、水霊の名に相応しい神秘的な姿をしている。 

 奴のいる池は、その巨体に反してそう広くない上、中は濁っている為、戦うには不向きだ。


「皆下がってくれ。池の外へ釣り出す」


 戦うのに不向きならば、場所を変えてやればいいだけだ。

 そう判断した俺は、〈ミズチ〉へと矢を射掛ける。


 それによって俺の方へとジロリと眼を向けた奴が、俺の方へと向かって泳いでくる。

 かに見えたが、突如として奴は方向転換をし、池の端に浮いている2つのヒョウタンへと首を向ける。


「なんだ!?」


 〈ミズチ〉は俺に攻撃された事などもう忘れたかのように、ヒョウタンへと向けて水流を吐き出す。

 その1撃によって、赤いヒョウタンが割れて池へと沈んでいく。


「マズイわ、カイト!」


 咄嗟にそう叫びナツメが〈ミズチ〉へと走り出す。

 慌てて俺やハルカも攻撃を放つが、一歩遅かったらしく奴は再び水流を吐き出し、残った白い方のヒョウタンも破壊してしまう。

 

 遅れて俺達の放った攻撃が〈ミズチ〉へと突き刺さるが、奴はもはやそれを気にした様子も無く、どこか満足気な様子で池の中へと潜っていく。

 そして、池の濁りが消え、元の澄み切った水へと戻った時にはもう〈ミズチ〉の姿はどこにも無かった。


「くそっ。そういう事かよ……」


 一連の出来事で分かったのは、以下の通りだ。

 エリアボスである〈ミズチ〉の召喚には、島の北と南にあるヒョウタンの入手が必要となる。

 手に入れたそれらを池に浮かべると〈ミズチ〉が現れるが、奴はヒョウタンの破壊を狙って来る。

 もし奴にヒョウタンを破壊されてしまうと、目的は果たしたとばかりに、姿を消してしまうという訳だ。


「えー。もしかして、一からやり直しって事?」


「……そうね」


 全員がガックリと肩を落としている。

 まあ無理も無い。俺だって同じ気持ちだ。


「仕方ない。一度帰って休むとするか」


 既に他のプレイヤーもこの地へと来ている以上、本当ならこのまま再挑戦をしたい所だ。

 だが、俺とナツメはまだしも、ハルカとユキハの2人が精神的に結構なダメージを受けている様子だったので、断念する事にした。

 度重なる奇襲によって集中力をすり減らせれた結果だ。この状況で無理をしても、きっと上手くはいかない。やむを得ないだろう。


 それに、この性質の悪い仕掛けならば、他のプレイヤーだってそう簡単にはクリア出来ないと思う。

 なので、時間的には恐らくまだ暫くの猶予がある……筈だ。


 希望的観測に縋りつつ、疲れた精神を休めるべく、一度"始まりの街"へと帰還するのだった。


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