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22 水霊の三日月島(前編)

 現在俺達は、"朱色の砂浜"へと来ていた。


「そう言えば、エリアボスが手前の砂浜にいたから、ここでは海中に入ったことが無かったな。エリアの境界はどうなってるんだろうな?」


「多分、"海魔の潜伏地"と同じじゃないかしら?」


 あのエリアの奥には、次のエリアへの行く手を阻むような形で激しい海流が存在していた。

 試しに近づいてみたりもしたが、あっさりと弾かれてしまいそこから先へは進めなかったのだ。


「なぁ? 海中の通過が海流に阻まれてダメなら、上からならどうなんだろうな」


「……どうでしょうね。実際にやってみない事には、なんとも言えないわね」


 そりゃそうだ。


「じゃあ試しにやってみるか」


 海中へと入り奥へと泳いでいくと"海魔の潜伏地"同様に海流へとぶち当たった。

 これが隣のエリアとの境界なのだろう。

 海流から少し距離を取ってから、俺達は海上へと浮上する。


「ユキハ、あの魔法を使ってくれ」


 あの魔法とはユキハが習得している〈闇魔法〉スキルの一つ〈グラビティーコントロール〉の事だ。

 この魔法を使用された対象は、一時的にだが重力制御によって宙へと浮かぶ事が可能になる。

 中々に便利なスキルではあるが、宙に浮いた状態での移動にはそれなりに熟練が必要だし、それ以外にも効果持続時間やクールタイム、飛行高度制限など欠点は色々と存在もする。

 とはいえ、今のような場面では便利な魔法だ。


「〈グラビティーコントロール〉」


 俺の身体が、海中からゆっくりと浮かび上がる。


「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」


 極ゆっくりとした速度で、海流の先へと飛んでいく。

 速度を出し過ぎると、何かあった時に対処し辛いからな。


「くっ」


 海流の上を横切ろうとした瞬間、何か見えない壁にぶつかり、俺は後ろへと弾き飛ばされる。


「どうしたの?」


「何か見えない壁らしきモノがあるな……」


 どうやらエリア間を隔てる壁は、海上にも存在したらしい。

 ズルなどせずに、ちゃんと正規のルートを通れという事なのだろう。


「まあ、それが分かっただけでも収穫だな。大人しく真っ当な道を探すとしよう」


 "朱色の砂浜"の海中はあまり深さは無いし、どうも敵Mobも居ないようなので、探すのはそこまで大変では無いだろう。

 幸いにも、他のプレイヤーの姿は見えないしな。無論、既に先を越されている可能性もあるが。

 

 そうして手分けして捜索する事、およそ1時間。


「(ねー! 多分ここじゃない? 不自然に海流が途切れてる場所があるよー)」


 距離が離れていてもパーティ通話は聞こえるので、こういう時に便利だ。

 ハルカに位置を尋ね、全員がそちらへと急行する。


「なるほどな。確かに怪しいな」


 穴が開いたように、ぽっかりとその部分だけ海流が消失している。


「まずは俺が突っ込んでみよう。ユキハは万が一に備えて回復準備を頼む」


 勿論、リーダーとしての責任感故の発言ではあるが、活躍ポイントの獲得チャンスかもという打算も少しだけある。


「行くぞ!」


 俺は海流の間の空間を泳いでいく。

 予想通りというべきか、何の妨害も存在しなかった。

 そして、気が付けばエリア名の表示も変わっている。


「"水霊の三日月島"か」


 名前から察するにこのエリアは、陸上メインのようだ。

 海中戦闘は面倒なので、少しだが気が楽になった。


「(カイトー! 大丈夫なのー!)」


「(ああ、悪い。特に問題無さそうだ)」


 エリア名につい気を取られ、連絡が遅れてしまっていた。

 俺らしくないミスだ。


「"水霊の三日月島"ね。このまま進めば、島があるのかしら?」


「多分な。ユキハ、悪いが一応上から確認して来てくれないか?」


 今いる海中では視界が悪く、そう先まで見通せないが、海上に出れば話は別だ。


「わ、分かりました。行ってきますね」


 ユキハが魔法の効果によって、海上へと浮かび上がっていく。


「(あっ、見えました。ここから真っ直ぐ行った先に、三日月型をした島の姿が見えます)」


「(分かった。ありがとう)」


 その報告を聞き、ユキハと合流した俺達は、真っ直ぐにその島を目指した。

 途中何度か、これまで見た事無い雑魚Mobにも襲われたりしたが、大した苦戦も無く退ける事が出来た。


「ここが"水霊の三日月島"か」


 どうにか目的の陸地に到達した俺は、周囲を見渡す。

 程々に草木が生えただけの、見た所普通の島だ。

 ユキハ曰く、エリア名通りに三日月の形をしているらしいのだが、ここからでは良く分からない。

 ただ、ユキハの情報から判断すれば、今俺達がいるのは丁度三日月の背中の中心付近だ。


「島の形状から推測すれば、エリアボスは三日月の両端どちらか、あるいは中心付近にいそうだな」


 ワザワザこんな意味ありげな形状をしているのだ。

 これで、中途半端な位置にエリアボスがいたら逆にビックリする。


「じゃあ、まずは近くだし、中心付近の探索?」


 周辺には、特にエリアボスがいそうな場所は見当たらない。

 なので、まずは三日月の腹辺りを探すことにした。


 そして移動する事しばし、途中でMobを狩りつつ、あっさりと腹部分へと到達した。


「確かに三日月みたいだねー」


 視界には三日月のように弧を描いた断崖が広がっていた。

 そして、その一画に妙な場所を発見する。


「……池みたいね」


 その池の周囲を囲む木々には注連縄(しめなわ)が張り巡らされおり、そこから紙垂しでが垂れている。

 神社などで良く見られる光景だ。

 周りの整然とした風景とも合わさり、どことなく神聖な雰囲気が感じられる。


「如何にも何かありそうな感じだが、何も居ないみたいだな?」


 池の水は澄み切っており、底まで見通せる。

 かなり深いようだが、モンスターの姿は見えない。


「……何か条件があるのかもね」


 これは勘に過ぎないが、多分ここがエリアボスの出現地点だろう。

 ただ、エリアボスと出会うには、何か条件を満たす必要があるようだが……。


 それから暫くの間、池の周囲を探ったりしたのだが、特に何も発見出来なかった。


「……流石に一筋縄では行かないな。もしかしたら、島の他の場所にも、何かあるのかもしれない。そっちを探ってみよう」


 まずは島の北端部を目指す事にした。

 道中出現した雑魚Mobは、主に3種類。

 まず小さな蛇型のモンスターである〈アイランドスネーク〉。

 こいつは奇襲からの毒牙による状態異常攻撃が厄介で、毒治療のアイテムをそこそこ使うことになってしまった。

 次に〈ホワイトタイガー〉。

 名前の通りに白い虎型のモンスターで、その足の素早さによる奇襲と、牙の攻撃力の高さが脅威であった。

 もっとも、サイズはそれなりなので、警戒していればそう厄介な敵では無かったが。

 最後に、〈ナックルモンキー〉。

 体術を操るモンスターで、その軽快なフットワークによる樹上からの奇襲は、慣れるまでは中々面倒であった。


 ――こうして列挙してみると、なんか奇襲してくる敵ばっかりだな。


 若干の苦戦もあったが、どうにか俺達は島の北端へと無事到達した。

 そこは断崖となっており、その手前には白いヒョウタンの生えた巨木が生えていた。

 

「怪しいわね」


 これまで周囲の木々にヒョウタンが生えている種類は存在していなかった。

 それに加えどうもこのヒョウタンの白さは、自然のモノには見えないのだ。


「これがキーアイテムなのかもな。とりあえず取ってみるか」


 そう言って木に近寄ろうとした瞬間、ヒョウタンが突如震え、同時にそこから何かが飛び出してくる。


「な、なんだ!?」


 そのモンスターは、頭が猿、体は虎、しっぽは蛇という、妙な姿をしていた。

 モンスターネームは〈サルトラヘビ〉。まんまである。


「HPゲージ的に、ボスでは無さそうだが、油断するなよ!」


 ボスでは無くとも、そこらの雑魚よりは強い筈だ。

 様子見を兼ねて俺は、遠距離から矢を放つ。


「グギャァー!!」


 どの獣のモノか良く分からない悲鳴を上げて、そいつは矢の一撃であっさりと粒子となって消えていった。


「……なんだったんだ、コイツ」


「……さぁ?」


 訳が分からないが、これで阻む敵は居なくなった訳だ。

 俺はさっさと白いヒョウタンを回収する。


『ヒョウタン(白):ヒョウタン(赤)と対となるアイテム。水霊を祀りし地に捧げよ』


 アイテムの説明欄には、それだけ書かれている。

 

「これは推測だが、多分南端の方にヒョウタン(赤)があるんだろうな。で、その2つのアイテムを使えば、エリアボスが出現するって所か?」


「多分そんな所でしょうね。南端まで結構距離がありそうだから大変ね」


「ええー。また移動!?」


 ハルカがそう嘆く気持ち分からないでもない。

 ここまで来るのにも、結構苦労はしたのだ。

 それを一度引き返した上で、また同じくらいの距離を歩く必要があるのだ。

 

 だがまあちょっとシンドイが、それでも先が見えたのだ。

 頑張るとしようじゃないか。


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