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21 次なる目的地 ★

 襲撃者をどうにか退けた俺達だったが、色々と無理をしたためか消耗も大きかった。

 特にライフポーション類は遠慮なくガンガン使ったので、今の手持ちではエリアボス戦は心許ない。


「仕方ない。一旦、帰るとするか」


 ダンジョンのギミックや、襲撃者たちへの対応などに時間を取られたせいか、気が付けばこのエリアも人が増えてきている。

 このエリアへのルートは、俺達がそうであったように発見は比較的容易な為、こうなるのも必然の成り行きなのだろう。


 大樹内のダンジョンは狭く、このまま人が混み合えば攻略の難易度は増していく。

 そういう意味でも、今が引き際なのかもしれない。

 それでなくても、先へ進む目途は立っていなかったしな。



 そんな訳で"始まりの街"へと帰還した俺達は、襲撃者たちが落としたアイテムやお金の整理を行う。


「アイテムはロクなのが無いな」


 装備品の類はほとんど無く、目ぼしいモノと言えば精々ライフポーションくらいか。

 もっともそれらは、ハルカが生産する品より大分性能が劣るモノだが。


「お金はそこそこ手に入ったし、それで我慢しましょう」


 唯一救いはだったのは、ナツメの言葉にもあるように、奴らが結構な額のお金をドロップした事だ。

 恐らく、俺達に返り討ちに遭う事など想定していなかったんだろうな。

 色々と甘い奴らだ。


「そうだな。この金をライフポーションの補てんに使うとするか」


 それでも、消費したポーション類の補充をすれば、あっさり消し飛んでしまう程度の額である。

 ハルカが作るポーション類の材料が、それだけ高価であるという訳でもあるのだが。


「取引所でなるべく安く素材を買い集めましょう」


 "Countless Arena"におけるお金の主な使い道は、プレイヤー間取引によるアイテムの売買だ。

 ゲーム初期にはNPCの商店からアイテムを購入する事も多かったが、今となってはそれはほとんど行われてはいない。

 

 プレイヤー間の取引は、勿論対面した上でのやり取りも可能なのだが、一番の主流は取引所を介して行うモノだ。

 そのやり方は実に簡単なもので、取引所を運営しているNPCに話しかけると、他プレイヤーが出品したアイテムの一覧が出て来るのだ。

 購入者側は、その一覧から必要なアイテムを探し、提示された金額を払う事でアイテムを手に入れる事が出来る。

 また検索ワードや金額などの条件から商品を絞り込む事も可能で、商品を探す手間は最小限で済む。

 販売者側にとっても購入者側にとっても、一々取引相手を探す手間が省けるので、非常に便利なシステムなのだ。


「……掘り出し物は無さそうね」


 稀にだが、アイテムの価値を理解していなかったり、販売価格の入力ミスをしたりなどの理由で、相場より遥かに安い品が売られている事があるのだ。

 なので街にいて時間が空いた時などは、しょっちゅう取引所を覗いているのだが、そう簡単に見つかる代物では無い。

 このゲームではまだ見たことはないが、他のゲームでは1日中取引所に張り付いて、そういった商品の転売によってただ資産を稼ぐことだけを目的とプレイを行う連中が何人もいたものだ。


 結局、ほぼ相場通りに素材アイテムを購入し、ハルカにポーション類の生産をお願いする。

 その間、時間が空いた俺たちは、新エリアに関する情報収集を行う。


「何か有益な情報はあったか?」


「いいえ。特に目ぼしい情報は無いわね」


 まあ、まだ新エリアが解放されて大して時間は経っていない。

 発見者はそれなりにいるのだろうが、街で情報が流れるにはまだ時間が掛かるだろう。


「……さて、どうするか」


 既に発見済みである"大樹の祠"の攻略に再び向かうべきか、あるいは他のエリアを探すべきか。

 正直悩みどころだ。


「……私は他のエリアに行った方がいいと思うわ」


「ふむ。して、その根拠は?」


「PKしてきた連中は私達が"大樹の祠"に挑んでいる事を知っているわ。半分くらいは"封印宮"送りにしたけれど、残った連中がまた別の仲間を連れて来る可能性も0では無いわ」


 俺達から手を引くとは言ってはいたが、所詮は口約束。

 まして、いきなり集団で襲ってくるような連中の言う事など信用に値しないのだ。


「そうだな。その意見に俺も賛成だ。……だが、そうなると次はどこに行くべきか、また考えないとな」


 新エリアの情報が出回っていない以上、自分たちの足で探すしかない。

 †ラーハルト†などのフレンド連中に尋ねることも考えたが、却下した。

 こちらの手持ちの札が少ない状態で、借りを作るのはあまり好ましいとは思えないからだ。

 彼らとは前回のように互いに損が無い範囲で、情報のやり取りをすれば十分だろう。


「……でしたら、"朱色の砂浜"を探すのはどうでしょうか? 多分あそこにも新エリアへのルートがあると思うんです」


 若干緊張したように声を震わせつつも、ユキハがハッキリとそう述べる。


「そう言い切る根拠はなんだ?」


 最初はオドオドしていたユキハだが、今ではこうして普通に意見を出せるくらいには、こちらに心を開いてくれている。

 その変化が、少し心地よく感じられる。


「ええと、まず"1stエリア"ですが、それぞれ"始まりの街"の東西南北に存在していました。対して"2ndエリア"は"始まりの街"からそれぞれ斜めの位置にあります」


 ユキハの言う通り、これまでのエリアは"始まりの街"を基点に考えれば、中々に分かりやすい位置に存在していた。


「そして今回新たに出現した"3rdエリア"ですが、その一つである"大樹の祠"は北に2マス先の地点に有りました。なら他のエリアも、東西南の2つ先にあるのでは無いでしょうか?」


 要するに"朱色の砂浜"の東、"黄金の草原"の西、"白亜の採石場"の南に、新エリアが存在するんじゃないか、という意見だ。


挿絵(By みてみん)


「確かにその可能性は十分あり得ると、俺も思うが……。だが、実は今回は北側にばかり新エリアが集中している、なんて可能性もあるんじゃないか?」


 そもそも新エリアの数自体、定かでは無いのだ。

 現時点で、そう言い切るには根拠が少なすぎるように感じられるが……。


「多分ですが、それは無いと思います。実は"大樹の祠"での戦闘中に浮かんだ時、エリアの東西両側共にずっと先まで森が続いているのが見えたんです」


 あの戦闘中に、そんな事まで見ていたのか。

 相変わらずの視野の広さに驚くべきなのか、戦闘中によそ見していた事を怒るべきか、少々迷うところである。

 まあ、ユキハの回復の手腕に手抜きは一切感じなかったので、怒るのはやめておこう。


「なるほどな。それが本当なら、ユキハの意見も確かに理解できる。森メインのエリアを3つも同時期に攻略させられるとは、流石に考え辛いしな」


 確定するにはまだ弱いものの、十分参考になる意見だ。

 これまでの運営のやり口を鑑みるに、不規則なエリア配置などはやりそうに無いし、現状では東西南北の2マス先に"3rdエリア"が存在するというユキハの説が、一番妥当に感じられる。


「しかし、何故"朱色の砂浜"の東なんだ? 西や南の2マス先じゃダメなのか?」


「……これは大した理由では無いんですが、"朱色の砂浜"の東側は海です。なので、探索している人の数が少ないんじゃないかなと……」


 成程。競い合う相手が少ないというのは、確かにいい条件だ。

 ほとんどが海で覆われていた"海魔の潜伏地"でも、ライバルは少なかったしな。


「よし、ユキハの意見を採用するとしよう。他の2人も文句は無いか?」


「勿論だよっ。ユキハ凄いね! ボクびっくりしちゃったよ」


「ええ。元々私も似たような意見だったからね。……ただ、ユキハ程の根拠は持ってなかったけれど」


 2人から特に反対は無いようなので良かった。


「あれだ。もしこれで間違っていたとしても、ユキハの責任じゃないからな。パーティ全員で考えて、俺が決定を下した事だ」


 折角ユキハが勇気を出して、意見を述べてくれたのだ。

 その勇気をこそ、俺は称えたい。


「あ、ありがとうございます、カイトさん」


 俺の言葉にぺこりと可愛くお辞儀をするユキハ。

 

「てなわけで、次の目的地は"朱色の砂浜"だ。そこに新エリアへと続くルートが無いか探すぞ!」


 その宣言と共に、俺達は"始まりの街"を出発するのだった。


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