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20 襲撃者

 現在俺達は"大樹の祠"の前で、11人ものプレイヤーに囲まれていた。

 見れば連中の中には、このダンジョンに先客として来ていたプレイヤーの姿も混ざっていた。


「おら。殺されたくなかったら、さっさと"生存の書"をこっちに寄越しやがれ」


 彼らはどうやら、俺達が持つ"生存の書"を奪いに来たらしい。

 活躍ポイントランキングによって俺達の名前は、全プレイヤーに知れ渡っている。

 そして上位のプレイヤーであれば、間違いなく"生存の書"を所持している筈だという、彼らの推測は間違ってはいない。

 間違っていないのだが……。

 

「なぁ、お前ら馬鹿なのか? 俺達が"生存の書"を持っているのを知っているなら、"封印の書"を使われる危険は考えなかったのか?」


「なっ!?」


 俺の極々当たり前な指摘に対し、彼らは分かりやすいほどの動揺を見せる。

 

 ――まさかこの人数がいて、ホントに誰も気づいてなかったのか?


 いや、どうやら違うらしい。

 幾人かは俺の指摘に対し、冷静さを保っている。

 理由は分からないが、恐らくワザと黙っていたのだろう。


「皆、脅しに引っ掛かるなよ! "封印の書"で幽閉出来るのはデスペナルティ中のプレイヤーだけだ! この人数差で俺達が死ぬ訳がないだろう?」

 

 冷静を保っていたうちの一人が、そんな風にして彼らを煽り出す。

 プレイヤーネームはマコト。

 見覚えがある姿だと思ったが、その名前を見て思い出した。

 以前、"黄金の草原"で†ラーハルト†達と揉めていた奴だ。


 その煽りの効果は大きかったらしく、先程までの動揺は一転、どいつもこいつもニヤケ面を浮かべて、こちらをじろじろと見て来る。


 ――まったくイラつく連中だ。


 この様子では、遅かれ早かれもう戦闘は回避出来そうには無い。

 だったら、こちらも全力で相手をするだけだ。


「ポーション類の使用制限を解除する。スキルも出し惜しみするな。全力でやるぞ」


 一応定期的に、対人戦時のフォーメーション確認は実施している。

 彼女達ならば、上手くやってくれるだろう。


「"生存の書"を渡すつもりはこっちには無い。どうしても欲しいなら、力づくで奪い取るんだな」


 ゲーム開始直後のPKによって、デスペナルティによる所持アイテムのドロップ率は、10%程度だという事は調べがついている。

 最後は運任せになるが、もしここで仮に殺されても"生存の書"を失う危険性はそう高くない。

 所持金は半分程ドロップするので、このエリアで得た稼ぎがかなり消し飛ぶが、それはやむを得ないだろう。

 もっとも、黙って殺されてやるつもりなど、俺には毛頭無いが。


「おいおい、この人数相手に勝てるつもりかよ。いけすかねえ奴らだ。ちっ、いくぞお前ら!」


 マコトの号令により、敵もまた一斉に動きだす。

 こうして、4対11という、数の上では圧倒的に不利な戦いの火蓋が切られた。



 一見絶望的な戦力差に見えるが、こちらに有利な点もいくつか存在する。


 一つは、レベルと装備の格差だ。

 こちらが全員レベル23なのに対し、あちらはレベル20未満ばかりだ。

 装備についても同様で、俺達が使うのは"2ndエリア"のエリアボスドロップから作った高級品であるのに対し、彼らが身に纏うのは明らかにそれより1段や2段は劣るモノばかりだ。


 もう一つは、こちらが既に各種支援魔法を全員に掛けている点だ。

 ダンジョン攻略中に掛けていたそれらがまだ効果を継続しており、あと10分は持つ。

 対して彼らは、脅しだけで終わらせるつもりだったのか、人数差で舐めていたのか知らないが、誰もバフを掛けていない状況だ。


 そして―ー


「ハルカ! 俺にアレを!」


 俺はこのエリアに来て、ハルカが覚えたばかりの新魔法の使用を要請する。


「任せてよ!」


 ハルカの杖から飛んだ光が、俺へと纏わりつく。

 

「な、なんだ!? 奴の姿が消えたぞ!?」


 ハルカが使ったのは〈光魔法〉スキルの一つ〈フェイド〉だ。

 対象を一定時間、透明化するという非常にユニークな効果を持つ。

 欠点などが無い訳ではないが、それでも対人戦闘にはうってつけの魔法である。


「ぐはぁっ」


 包囲を敷いている敵の一人に対し、すれ違いざま無言で〈ポイズンエッジ〉を叩き込む。

 死には遠いダメージだが、毒の状態異常を与えることに成功したのを確認し、すぐに次の敵へと向かう。


「ぐああぁっ!?」


 続いて今度はその隣の相手に対し〈コンビネーションエッジ〉を叩き込む。

 〈短剣術〉スキルの中でも、特に威力の高い技だ。無防備な所にクリーンヒットを与えHPゲージを一気に削り取る。


 姿を消した俺からの攻撃に対し、敵はあっさりと混乱に陥る事になった。


 この程度で動揺するとは、所詮急造の集まりだったのだろう。

 そのお蔭で崩れた包囲網から、ナツメ達が楽に脱出する事が出来たのだから、まあ良しとしよう。


 多くが恐慌状態に陥いりつつも、一部の連中は辛うじてだが平静さを保っているらしい。

 見えない俺への対応を諦め、斧を持った男が逃げ出したナツメの背後から襲い掛かる。


「おらぁ!」


 大振りの斧の一撃に対し、ナツメはこのタイミングで背後から奇襲が来ることを分かっていたかのように素早く反転し、2本の剣を斜め十字に構えて迎え撃つ。


「ぐはぁっ!?」


 斧がナツメが構えた剣に触れた瞬間、ナツメの剣から十字の衝撃波が放たれ、逆に男が弾かれる。

 あれは〈二刀流〉スキルの一つ、〈カウンタースタンス〉だ。

 剣を十字に構え、上手く相手の攻撃をガードする事で、反撃の衝撃波を放つスキルだ。

 構えを解くまでは、継続してスキルの効果は続く上、遠距離からの魔法などもきちんとガードすればカウンターを出来るので、今の彼女はかなり頼もしい前衛であり盾役なのだ。


 そうやってナツメが、ハルカやユキハを守っている間に、今度は俺は弓へと持ち替え、スキルを放つ。


「なっ、なんだ!? 今度は矢がっ!?」


 俺が放った〈アローレイン〉のスキルよって、敵のヒーラーらしき人物を中心とした一帯に矢が降り注ぐ。

 その攻撃で大分HPを減らした所に、俺はトドメの一撃を放つ。

 最近覚えたばかりの〈魔弓術〉スキルの一つ、〈チャージショット〉だ。

 魔法によって生成した巨大な矢を敵に放つ技だ。放つ前に若干の溜めを要するが、その分威力も絶大だ。


「うわぁぁぁ」


 巨大な矢に全身を貫かれたヒーラーの男は、HPが0になり光となって砕けて消えた。

 それは久しぶりに見たプレイヤーの死だったが、特に感慨は覚えなかった。


 さて、これで奴らの回復役は居なくなったし、戦況は大分楽になっただろう。


 これも、ナツメが敵の攻撃をポーションがぶ飲みしつつも、耐えてくれたからだ。

 勿論、後ろから援護を頑張っていたハルカとユキハの2人にも素直に褒め称えたい。


「くそっ、何だよこいつらっ。見たことないスキルばっかり使いやがってっ!」


 狐につままれたような表情で、そんな叫びを上げる男たち。


 まあこの辺のスキルは、レベル20以降じゃないと覚える事が出来ないからな。

 レベルが足りてない彼らでは、知らなくても無理はないのだ。


「くそっ、作戦変更だ! ヒーラーから潰すぞ!」


 今更になってそんな基本戦術をやり出す辺り、彼らは対人戦にあまり慣れていないのだろう。

 そもそも俺なら、こんな決闘紛いの状況に陥る前に、奇襲で一気に蹴りをつけるけどな。


「ユキハ! あの魔法を使え!」


「は、はいっ!」


 魔法による透明化が切れた俺は、ユキハに対しそう指示を出す。


「〈グラビティーコントロール〉!」


 ユキハが〈闇魔法〉のスキルを自身へと使う。

 その効果によって彼女の肉体が、重力の楔から一時的に解き放たれる。

 そうして、ユキハは大空へと飛び立った。


「なっ、飛んでる、だとっ!?」


 後ろから回り込みユキハを狙おうとしていた数名が、驚きの余りに動きを止めている。

 これまでにも、俺のような軽装かつ速度重視の装備のプレイヤーならば、空を()ぶ事は出来た。

 だが、ユキハは跳んでいるのでは無く、宙に浮かんでいるのだ。


「馬鹿か」


 確かに現在のユキハの状況は、見慣れないモノだ。驚くのも無理はない。

 だが、彼女の移動速度は決してそう早いモノでは無く、冷静さを失わずに対処すれば、初見でもどうにか出来る筈だ。

 にも関わらず、彼らは疎かにも足を止めたまま、ボーっと彼女へとただ視線を向けているだけだ。


 そんな彼らを俺は冷ややかな目で見つめながら、次々と魔法で作りだした矢で射貫いていく。

 それによって、宙のユキハを攻撃可能だろう後衛職を次々と打ち倒しす事に成功した。


「くそっ、他の奴を狙え!」


 ようやく少し冷静さを取り戻したようだが、それはちょっと遅すぎた。

 その間に戦況は大分かなりへと傾いている。

 彼らは空に浮かぶユキハを倒すを断念したのか、狙いを今度はハルカへと向ける。だが、彼女一人ならナツメがきっちり守ってくれる筈だ。

 それに今の戦力差ならば集中攻撃を受けても、ユキハが回復魔法を自由に飛ばせるので十分に対処は可能だ。


 そうこうしている内に敵の数は更に減り気が付けば、状況は4対7となっていた。

 装備やレベル、なにより対人戦への理解度の差を考えれば、もはやこちらが有利と言ってもいいかもしれない。


「くそっくそっくそっ、どうしてお前たちばかりっ!」


 何やら怨嗟にまみれた声を、マコトが吐き出しているが、そんなの俺の知った事じゃない。

 むしろ他人の嫉妬は、俺の自己顕示欲を満たし、心地良い気分にさせてくれるだけだ。


「さて、そろそろ諦めたらどうだ?」


 俺個人としては、もはや勝ちを確信していたが、まだ一応人数では相手が上だ。万が一の危険も無くはない。

 彼らが引くのなら、黙って見逃すつもりだ。


「うおおおぉぉ!!」


 破れかぶれといった表情で、マコトが剣を手に単身で俺へと突撃してくる。

 

 ――やれやれ、面倒な奴だ。


 俺は短剣を構え、迎え撃つ態勢を取る。


「〈サンダースマイト〉!」


 だが、俺が手を下す前に、頭上から降り下ろされた雷の鉄槌によって焼き尽くされてHPを全損し、粒子となって消えていった。

 

「えげつないな、お前」


「え、そうかな?」


 ハルカが首をコテンと捻っている。

 その姿を見て、俺に近づくことすら許されずに死んだマコトが少々哀れに思えた。

 まあ自業自得でもあるので、別に同情などはしないが。


「で、お前らはまだやるのか?」


 既に状況は4対6。

 数の上では、まだ相手が上だが、戦力的にはもはや完全にこちらが有利だ。

 このまま殲滅するか少し迷ったが、これ以上要らぬ恨みを買う必要もないし、彼らを殺しても経験値が多少美味しいくらいで、大したメリットは無い。

 それに死んでデスペナルティを食らった連中と、生き残った連中の間に確執が生まれればいいな、という計算もある。


「わ、悪かった。俺はもうあんたらからは手を引くよ」


 両手を上げて、一人がそう言った事で、残りの5人もそれに同調する様子を見せる。


 かくして、初めての集団対人戦は、俺達の勝利で幕を閉じたのだった。


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