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19 新エリアへ続く道

 既存の全エリアのボスが倒され、また新しいエリアが開放された。

 そこで次の行動方針として、新エリアへのルートを探すという事が決まり、現在、俺達はそれに関する話し合いの真っ最中だ。


「さて、どこから探すのが正解なのか……」


 既存のエリアは8つ。

 そのどこかに、新しいエリアへと続く道が新たに出現しているモノと思われる。

 これまでの経験則から、新エリアも複数存在すると思われるので、そのルートも同様にいくつもある筈だ。


「それっぽい脇道はいくつも見た覚えがあるけど、その時点ではどれも行き止まりだったんだよねー」


 新エリアが開放するまでは、そこへと続くルートは、途中で途切れていたり隠されていたりして、分からないようになっているので、事前に探しておくのは難しい。


「近くの4エリアに絞って、探したらどうかしら?」


 ナツメの提案は確かに悪くない。

 ゲーム開始時から開放されていた"月光の森"、"黄金の草原"、"朱色の砂浜"、"白亜の採石場"の4エリア、通称"1stエリア"は"始まりの街"に隣接しており、移動が楽だという利点がある。

 対して後から開放された"2ndエリア"を探索する場合、一度"1stエリア"を経由する必要がある為、どうしても時間が掛かる上に無駄足だった時の損も大きい。


「まあ、それが無難か。で問題は"1stエリア"のうち何処から探すか、だな」


「うーん。"月光の森"からでいいんじゃない?」


「ふむ。して、その理由は?」


「だって、ボクたちが出会った場所だよ?」


 ハルカのあっさりとした断言を前に、俺はちょっとだけ呆気に取られるが、すぐに気を取り直す。


「あー、まあそれでもいいか。どうせ、ここで悩んだところで、大した根拠は見つからなさそうだしな」


 それぞれが、コレと言った決め手となる情報を持ち合わせていない現状、悪戯に時間を浪費するよりは、さっさと動いた方がいいかもという判断だ。

 かくして、俺達は再び"始まりの街"の北に位置する"月光の森"へと向かう事になった。



「ここから右の道を進んだら"渇水の砂丘"、もうちょい先にある左の脇道を進めば"邪妖精の住処"に行けるんだよね」


 俺達はゆっくりと周囲を確認しながら、薄暗い森の中を進んでいる。

 どちらの道も、最初にここを訪れた時には存在しなかったモノだ。


「ああ、東西に別のエリアがあるってことは、他にあるとしたら北側か」


 このエリアの北端にはエリアボス〈タイラントムーンウルフ〉と戦った広場がある。

 あの時点ではそこで行き止まりだったが……。


「どうやら、ここが正解だったみたいだな」


 広場の奥に、以前には無かった道が出来ている。

 これが新エリアに繋がっているのだろう。

 あっさりと正解を引き当てた幸運に感謝しつつ、俺達はその道を奥へと進む。


 ここまでと同じく、左右を木々に囲まれた道を進んでいると、ふとユキハが呟きを漏らす。


「"大樹の祠"……?」


 その言葉を聞き、慌てて現在のエリア名へと視線をやると、その表示に変化がある事に気付く。


「……いつの間にか新エリアに入ってたみたいだな」


 これまではエリア間を跨ぐ際には、周辺の地形などに大きな変化が見られた為すぐに分かったのだが、今回はどうやら違うようだ。


「むぅ。なんか全然新エリアって感じがしないな」


「……いいえ、あれを見て」


 そんな俺のボヤキを否定するように、ナツメが遠くの前方を指差す。


「〈トレント〉か。出現Mobは流石に別物になってるみたいだな」


 こいつは"月光の森"では見なかったモンスターで、樹木が2足歩行をしている姿をしている。そのレベルは23で、俺達より1高い。

 "2ndエリア"では、もう敵を倒しても経験値バーがほとんど動かなくなっており、レベル上げに困っていたので丁度良かった。


「良し! 雑魚Mobを狩りつつ、奥へと進むぞ!」


 宣言通り、俺達は道中のMobを次々と蹴散らしながら進んでいく。

 じっくり装備を揃え、またアビリティを育てた甲斐があったというものだ。


 森の中を進む事しばし、多少のくねりはあれど、基本一本道で迷う要素は特に無かった。

 そして、大した苦戦も無くあっさりと奥へと辿り着く。


「わぁ、でっかい木だねー」


「これが"大樹の祠"な訳ね」


 俺達の目の前には、幹の直径が10mは優に超えているだろう大樹がそびえ立っていた。

 そしてその根元の中心には、扉らしき姿が見える。


「要するにこの中が、このエリアの本命って訳か?」


 道理で奥まであっさり進めた訳だ。

 

「多分そうなんでしょうね。どうする? このまま中に入るの?」


 正直悩みどころだ。

 他のエリアの情報が不明な現段階で、攻略エリアを定めてしまうのは危険にも思える。

 だが、折角自力で見つけた新エリアだ。

 このまま最後まで攻略したいという思いが無い訳ではない。


 そんな風に迷っていたら、突如として地面が揺れるのを感じた。


「な、なんだ!?」


 その揺れの原因は、目の前の大樹にあったようだ。

 その身を揺さぶるようにしばし震えた後、何かを外へと排出する。


「痛ぅー。なんだよこれ……」


 出て来たのはどうやらプレイヤーだったらしく、落下ダメージを受けたのか、尻をさすっているのが見える。

 それから彼ら4人はこちらの方へとジロリと一瞥をくれただけで、それ以上は何も発する事なく、再び大樹の中へと消えていった。


「どうやら先客がいたみたいだな」


 新エリア開放から、かなり急いで来たつもりだったのに、先を越されていたとは少々悔しい。


「さっきのが、このエリアのマップギミックなのかしら?」


 大樹内での何らかの行動が原因で、あんな事になったのだろうが、ここからでは理由はさっぱりだ。

 ただ、こうして先を進むプレイヤーの存在を見てしまうと、追い超してやりたくなるのが廃人の性というモノだ。


「カイトがリーダーなんだし、良い様にしたらいいと思うわよ。2人も、それでいいでしょう?」


「ボクは全然問題ないよ」「わ、私もですっ」


 そうか。ならお言葉に甘えるとしよう。


「良し! このままここを攻略するぞ!」


 俺達は勇み足で、大樹の中へと入るのだった。



「中は意外と明るいんだね」


 木の中だからてっきり暗いと思っていたのだが、意外にそうでもないらしい。

 木壁のそこかしこに生えているコケから淡い緑の光が生み出されており、どこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 また複数の階層に分かれた構造をしているようで、天井はそう高くない。


「各階層は狭そうだけど、上に長いのかしら?」


 そう言えばさっきのプレイヤーたちが落ちて来たのも、まあまあ高い位置からだった。

 あれくらいの高さならどうにでもなるが、あまり高すぎる位置から排出されると、落下ダメージも馬鹿にならないと思うので、何か対策を考えた方がいいかもしれない。


「ここでうだうだ考えても仕方ない。先に進むぞ」


 奥にある小さな階段を昇り、上の階へと向かう。


「敵が沢山いるよ!」


 ハルカの言葉通り、そこには多くの〈トレント〉達が待ち受けていた。


「コイツらを倒さないと先には進めそうないな」


 上へと続く階段の手前には蔦が幾重にも絡まり壁を形成し、その行く手を遮っている。

 そして〈トレント〉達がそれを守るようにして、待ち受けているのだ。


「やるぞ!」


 数は少々多いが、道中で大体の性質は理解した。

 もはや奴らは俺達にとって強敵とはなり得ない。

 〈トレント〉達を薙ぎ払うと、行く手を塞いでいた蔦が解け、上へと向かえるようになった。

 

 階段を昇った先には、先程と同じ様にして再び〈トレント〉の大群が道を塞いでいる。

 とはいえ、別段変わった様子も無くその階も突破し、4階へと向かう。


「……確かこの辺だったよね? あの人達が降って来たのは……」


 そんな呟きを零しながら、ハルカが周囲を見回している。


「そうだな。……この階に何かあるんだろうか」


 こちらも下の階と同様に〈トレント〉達が大量におり、その奥には蔦で塞がれた上へと続く階段があるだけだ。

 一応の用心の為、しばらくの間〈トレント〉達のタゲを取らないギリギリの位置で観察を続けたのだが、特に変わった様子は見られない。


「とりあえず先に進むしかないか……」


 考えていても何も分からないのだ。

 今更撤退するつもりなど無い以上、選ぶ道はそれしかない。


「いくぞ!」


 俺の号令を受け、他の3人も〈トレント〉達を一掃すべく動き出す。


「〈ラーヴァストライク〉!」


 ハルカが初っ端から大技を放つ。

 巨大なマグマの塊が、ゴロゴロと早足で敵へと向かい転がっていく。

 樹木の化身たるトレントに火属性の魔法は弱点だ。

 巻き込まれた数体のトレントが、その一撃で光となって砕け散る。


「よし、つ……な、何だ!?」


 俺が「次の敵に行くぞ!」と叫ぼうとした瞬間、部屋を構成していた周囲の木壁が大きく揺れるのを感じる。


「な、なんですか!?」


「これは、まさか……!?」


 あまりの揺れに身動きを取れずにいると、突然周囲からいくつもの木の枝が伸びて来て俺達を絡め取る。

 次の瞬間、壁の一部に穴が開いたかと思うと、そこから投げ出されたのであった。


「わぁー!?」


 空中に投げ出された俺は、空中で態勢を立て直し、5点着地を試みる。

 身体を回転させながら、つま先、脛、太もも、背中、肩の5点で落下の衝撃を分散させる技術だ。

 

「たぁぁ!」


 これによって、見事落下ダメージを0へと抑える事に成功した。

 そしてそれは俺だけでなく、他3人も同様だった。

 元々知っていたらしいナツメはともかくとして、事前に簡単に説明していたとはいえ、ぶっつけ本番であっさりと成功させたハルカとユキハに対し、僅かだが嫉妬の念が浮かんでくる。


 ――この技を習得するのに、結構何度も練習したんだけどな。


 大樹の外へと投げ出された俺達は、その後も何度か挑戦を続ける。

 が、いつも同じ階層で、外へと放り出されるのだ。


「原因が分からないな……」


 何か仕掛けがあるのかと、色々探ったりもしたのだが、収穫は今のところは無い。


「……揺れが始まるタイミングは、いつも誰かが〈トレント〉にトドメを刺した瞬間だったと思うわ」


 思い返せば、確かにそうだった気がする。

 ただ、〈トレント〉を倒したからといって、必ず揺れが起こる訳でもなかった。

 〈トレント〉の倒し方や倒した人間が誰かなども、特に法則性は見当たらず、ギミック発動との関連がイマイチ見えてこない。


 そうやって頭を悩ませていると、ふと周囲に気配を感じる。


「……誰だ!」


 俺は武器を構えつつ、そう叫ぶ。


「察しが良すぎるぜぇ、カイトさんよぉ」


 返事と共に、周囲からいくつもの人影が現れる。

 その数、10人ちょい。


「……大人数でわざわざ取り囲んで、一体何のつもりだ?」


 状況的にある程度察しはついているが、一応確認のつもりでそう尋ねる。


「決まってるだろ? てめぇらが持っている"生存の書"をこっちに寄越しな」


 思った通りの回答に、内心で溜息を吐きつつ、俺は短剣を持つ指に力を込めるのだった。


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