11 新エリア探索
本日更新1回目です。
俺達が宿屋で寝ているうちに、活躍ポイントランキングの発表があったようだ。
ゲーム開始からもう5日経ったのか。不規則な生活を送っているせいで、日時感覚がかなり薄くなっているようだ。
「まあ、大方予想通りの結果だな」
俺が1位で、ナツメが2位のようだ。
ナツメとの差はほとんどないが、それでも勝ちは勝ちだ。
ここは素直に喜ぶとしよう。
一方で僅差で2位に甘んじることになったナツメだが、特に嬉しくも悔しくもないようだ。
まるで至極当然の結果、と言わんばかりの表情をしている。
「おめでとう、カイト」
俺がどう声をかけようか判断出来ずにいると、逆に向こうから祝いの言葉を贈られた。
「あ、ああ。ありがとな」
ナツメが何を考えているのかイマイチ分からないが、彼女は貴重な仲間だ。
変に揉めるような事態にならなくて良かったと、内心で安堵する。
「良かったね、カイト!」
「ああ、お前らも悪くない順位じゃないか。だが、俺のパーティメンバーとしてはまだまだだから、もっと頑張れよ」
2人とも20位以内に入っているので、VRMMO初心者としてはかなり上々の結果だろう。
「むぅ。もっと褒めてくれてもいいのに」
ハルカが顔を膨らませているが、俺はそれを軽く流す。
「まあ、所詮開始5日間での暫定順位だ。この結果にあまり浮かれてる場合じゃない。今後もボスの初討伐をガンガン狙っていくぞ」
という訳で俺達は一旦解散し、街で新エリアの情報を集める事になった。
「集めた情報から判断するに、"海魔の潜伏地"は避けた方が良さそうだな」
"海魔の潜伏地"は、エリアの半分以上を海で覆われている上、エリアボスはその中を自由に回遊しているらしい。
「そうね……。水中戦闘も大変だし、そんな中でいつボスに襲われるか分からない状況ってのは、凄く大変だものね」
ナツメが避けた方がいい理由について、ハルカやユキハにも分かるように話してくれる。
「普通に考えれば"邪妖精の住処"なんだろうが……」
"邪妖精の住処"は、山間にあるエリアだ。
邪魔な木々が多少あるくらいで、地形的には新エリアの中では一番戦い易そうだ。
出現するMobは、ゴブリンやコボルトなどの人型モンスターらしい。
奴らは武器系のスキルを使ってくるので、その対応が若干面倒なようだが、動きも大して速くはなく、かといって硬い訳でもないので、難敵という程ではないそうだ。
「……だからこそ、人が集中しちゃいそうよね」
ナツメの言う通り、分かりやすいほどに無難な選択肢である為、他のプレイヤーも同様の事を考えて、人で混み合う可能性が高い。
そうなれば、Mobの奪い合いなどで面倒だし、最悪"黄金の草原"と同じ様に、プレイヤー間の争いに発展する危険もある。
一方的に隠れて狩れる状況ならともかく、周囲の視線がある中でのPKなど、要らぬヘイトを集めるだけなので、避けれるなら避けた方がいいだろう。
「じゃあ、どうするの? "渇水の砂丘"あたりかな?」
「……いや、あそこは毒の状態異常が面倒そうだ。ハルカが作った解毒ポーションもまだ在庫が少ないし、後回しだな」
もうちょい素材を集めて、在庫を確保してから挑戦したい所だ。
「そうなると、残った"炎熱の山地"ですか?」
「えー。あそこも、マグマが噴き出したりで大変そうじゃない?」
火山地帯で道が狭い上、あちこちにマグマ噴出孔が存在し、そこから噴き出すマグマにうっかり当たると、結構なダメージを食らうらしい。
「まあ、それはそうなんだが、他よりはマシだと判断した」
「私もカイトの意見に賛成ね。マップギミックは一度覚えてしまえば対処は簡単だし、人が少ない内の方がやり易いわ」
敵Mobと違って、マップギミックは普通その場から動かないので、一番楽な対処法は、その位置を一通り覚えてしまう事なのだ。
それに新エリアは、旧エリアよりも雑魚敵のレベルが大分上がっているらしく、まだ挑戦しているプレイヤーの数は少ない。
プレイヤーの数が多くなり、エリア内が混み合えば、お互いが邪魔となってギミック回避が難しくなる危険性もある。
そういった意味でも、一番最初に挑戦すべきだと判断したのだ。
「なるほどねー。ならボクも賛成かな?」
「わ、私もですっ」
という訳で、新エリア最初に向かうのは"炎熱の山地"に決まった。
◆
"炎熱の山地"は、"始まりの街"とは隣接していないので、別のエリアを経由して行く必要がある。
"黄金の草原"と"白亜の採石場"のどちらかを通るルートがあったが、今回は"白亜の採石場"を経由するルートを選んだ。
どちらを選んでも途中で合流する事になるようだが、若干こちらの方が近道だという話を聞いていたからだ。
「うわー。思った以上に高いねー」
ハルカが視界の先にそびえ立つ山を見上げながら、そう言う。
エリア名の通り、ところどころが炎で燃えているのが分かる。
「思った以上に道が入り組んでいるように見えるな。それに道幅も大分狭い。ここを選んで正解だったかもな」
ここのエリアの攻略が後半に回され、ボスの初討伐を目指すプレイヤーでごった返した場合を想像し、自分たちの選択の正しさを再認識する。
「そうですね。まだ他のプレイヤーの姿はほとんど見えませんし……」
ユキハが視線を左右に揺らしながら、そう呟く。
「今回は私が先頭ね。カイトは最後尾でバックアタックの警戒をお願い」
いつもと逆の隊列だが、防具の新調によって俺とナツメの防御力に結構な差が出ているので、妥当な判断と言える。
流石に1ミスで死ぬような鬼畜ギミックでは無いと思うが、それでも受けるダメージは少ないに越した事はない。
「了解。じゃあ行くか」
そうして、"炎熱の山地"の攻略が始まった。
「ストップ。多分この先に噴出孔があるわ」
「またー!? ちょっと多すぎじゃない?」
ハルカが疲れた声でそんな事を言うが、文句なら運営に言ってくれ。
とはいえ、その気持ちは分からないでもない。
通路が狭いせいか、このエリアでは一度に相手をする敵Mobの数は少ない為、戦闘面での苦戦はほとんどない。
それでも旧エリアの敵よりは大分強い筈なのだが、装備の大幅強化が功を奏しているのだろう、あまりそう感じない。
にも関わらず、こうも道行きが低調なのは、マップギミックのせいだからだ。
ここのマップギミックについて簡単に説明すると、狭い通路のあちこちにマグマ噴出孔が存在し、そこからマグマが飛び出してくる。
当たれば、ナツメの防御力でもHPゲージの三分の一程削られる程の威力だ。俺が食らえば下手したら半分以上減るかもしれない。
マグマが飛び出す周期は一定のようだが、場所によってその周期は異なるらしく、噴出孔を見つける度、立ち止まって周期を確認する必要があるのだ。
それに噴出孔自体が、見つけにくい箇所にある事が多いのも、また面倒さを増す要因となっている。
〈罠探知〉アビリティでもあれば、大分楽だったのだろうが、生憎誰も習得はしていない。
お蔭で、先頭のナツメに大分負担が掛かってしまっている。
「ナツメ、俺と隊列を入れ替えよう」
これ以上ナツメを消耗させるのもマズイし、かと言ってハルカやユキハに任せるのはまだ無理だ。
そんな訳で、俺が先頭に出る事を提案する。
「……そうね。悪いけど、お願いするわ」
一瞬何か言いたげな表情をしたものの、自分でも疲労しているのは理解しているのだろう。
素直に俺の提案を受け入れてくれた。
――こういう理解が早いところはホント助かるな。
「ユキハ、俺が万が一ダメージ食らったら、すぐに回復頼むな」
防御力の低い俺には、ナツメ以上に1発が響く。
素早いフォローは必須なのだ。
「は、はい! 任せて下さい!」
まあユキハは、大人し目な性格に似合わず、反応も良いし視野も広い。
俺もそう心配はしていない。
「ボクだけやる事が無いのは気のせいかな……?」
現状個別の仕事を割り振っていないのは、ハルカだけとなる。
戦闘においても、このエリアの雑魚Mobで最も出現率が高いのが、〈サラマンダー〉であるので、ハルカの活躍度合いは普段より低くなりがちだ。
〈サラマンダー〉は炎をその身に纏ったトカゲ型のモンスターだ。その為、ハルカが一番得意としている〈火魔法〉の効きが悪いのだ。
そんな事情も手伝い、ハルカは少し自信を無くしているらしい。
「誰にでも得手不得手はあるわ。今は自分がやれることを頑張りましょう?」
ナツメがそんなハルカに対し、近寄って慰めの言葉をいくつも掛ける。
「……うん、そうだね!」
ナツメのフォローで、少しは元気を取り戻せたようだ。
その後も、マグマ噴出孔の位置を覚えながら俺達は進んでいくが、エリアボスに辿り着けないまま、ついにユキハのMPが残り僅かとなってしまった。
俺やナツメも頑張って噴出孔の探知はしていたのだが、それでもちょくちょく見逃しがあり、ダメージを食らってしまう事が何度もあった為だ。
「……仕方ない。ここで一旦、帰るとするか」
ユキハの〈料理〉でMP回復アイテムを作ることも考えたが、素材がまだ貴重だし、回復量も極僅かだ。
まだ先は長いようだし、無理をする必要もないと俺は判断した。
「〈帰還の魔石〉を使うぞ。ハルカ良かったな、お前の作ったアイテムが役に立つぞ?」
〈帰還の魔石は〉は使用する事で"始まりの街"へと帰る事が出来るアイテムだ。
戦闘中には使えないので、緊急脱出の手段には使えないが、街に戻るまでの手間が省けるだけでも大分助かる。
そこそこレアな素材を使って作る為、懐には余り優しくないアイテムだが、貴重な時間を買えるのだ。使い惜しみすべきでは無いだろう。
「そ、そうなんだけどさ。そんな言い方されると、喜ぶのが恥ずかしいじゃないっ!」
恥ずかしがるハルカに対し、ナツメとユキハがクスクスと笑いを漏らす。
張り詰めた雰囲気が和んだようで良かった。
「じゃあ、戻るぞ!」
俺が〈帰還の魔石〉を掲げると、パーティ全員の身体が光に包まれ、"始まりの街"へと転送されたのだった。