まさか、あたしのほかに異世界旅行者?!
ようやく光の柱からの光が収まり始める。
それに連れ、頭の片隅でくすぶっていた「まさか」の可能性が現実味を帯びていく。
「やっぱり、そういうことか……」
光の中に徐々に浮かび上がってくる巨大なシルエット。
「あれ? 壊れてないよね?」
嬉しそうな彼の声に、あたしの願望が作り出した幻覚ではないことを確信する。
「もしかして魔法なんて本当はなくて、全部オレを騙すための嘘だったんじゃ──」
「この後に及んで、まだ魔法を信じないっていうの? だったら、もういっぺんやってあげましょうか? 魔法?」
ちょっとイラッとしながら言うあたし。
「い、いや、もう、いい、わかった、わかったから、信じるよ。だから、もう魔法の使用は許可しないから」
慌てる彼。
もちろん、そんなことするわけがない。
せっかく次元犯罪者にならないで済んだわけだし、塔が吹っ飛んでなくてホッとしている。
でも同時に、大魔導師としては、ちょっと複雑な心境なのだ。
「じゃ、じゃあ、魔法の失敗とか──」
「はあぁ?」
にらみつけるあたし。
「このあたしが魔法の失敗!? そんなことあるわけないでしょおっ! そもそも、あんだけ完璧な魔法の発動を失敗って、どこに目ぇ付けてんのよぉ!?」
「そ、そうなんだ」
たじろぐ彼をみて、魔法を知らない相手に対して、ちょっと大人げなかったかなと反省し、
「そもそも魔法の失敗なら、あれだけ強烈な光の柱なんて発生しないわよ」
改めてそう説明をした上で、
「あれは、打ち消されたの」
「打ち消された? そんなことできるの?」
「できないコトはないけど、周りに全く被害を出さないくらい完璧に相殺するなんて、ほとんど神業よ」
「それってつまり、誰かがやったってこと?」
「まぁね」
「いったい誰が?」
「そんなのあたしが聞きたいわよ。この世界に魔法を使える人はいないんでしょう? だったら、あたしみたいな異世界旅行者じゃない?」
そんなことはどうだっていい。
それより、あたしが不機嫌──もとい気になるのは、あたしの魔法を相殺したということだ。
「とにかく、よほどの偶然が重なったか、そうでなきゃ、あたし並みの天才大魔導師ってことになるわね」
「まあ、誰だっていいや。おかげで助かったよ」
まったく、お気楽でうらやましい限りだ。
結果的にはそうなんだけど、魔導師にとって攻撃魔法を相殺されたということは、かなり屈辱的だったりするのだ。
なぜなら、あたしが発動させた魔法を見て、瞬時に相殺できる魔法を判断し、対抗する魔法の呪文を唱えて発動させたということであって、もしこれが魔法勝負であったなら、あたしは負けを認めざる得ない。
しかも初級の魔法ならまだしも、かなり気合いを入れた上級魔法でそんなことをやられちゃ、あたしのプライドをどれだけ傷つけられたか、わかっていただけるだろうか?
この借りを返すには、同じコトをやって見せるしかない。
「ふっ……」
あたしは不敵な笑みを浮かべた。
おもしろい、やってやろうじゃない!
どこの誰だかは知らないけど、今度はあたしが完璧に相殺してみせるわっ!
アンタが使える中で、最強最上級の攻撃魔法をねっ!