ウソでしょう? これであたしも次元犯罪者?!
「観光名所に、人がいないと思う?」
死んだ魚のような目であたしを見て、心ここにあらずといった感じに問いかけてくる彼。
「観光名所?! あんなどこにでもあるようなエーテル通信塔がぁ?! っていうか、高濃度のエーテルが集まる所に近づいたら、魂削られて精神異常起こすでしょう普通?!」
「エーテル通信?」
「え? だって、あんだけひょろ長い塔を建てる目的っていったら、外宇宙とのエーテル通信以外に考えられないでしょう?!」
「あれ、電波塔……」
「電波ぁ?! え? なに? 外宇宙との交信にエーテルより遙かに遅い光なんか使ってんの?!」
「いや、そもそも宇宙とかじゃなくて、地上向けだから」
「地上向けぇ?! あれだけ馬鹿高いのがぁ?! どれだけ効率が悪いのよ、科学って!」
あたしは思わず頭を抱えてしゃがみ込んだ。
それがわかっていたら、魔法の標的になんか選ばなかった。
いまさらそんなこと言っても始まらないんだけどぉっ!
しかも、観光名所──
流行っていない上に休みで無人だった──なんて奇跡はないわよねぇ……。
はぁ、これであたし、次元犯罪者かぁ……。
戻ったら、大騒ぎになるだろうなぁ。
いっそのこと、さらに別世界にでも逃げちゃおうか。
「──っていうか、ちょっと待って!」
ふと、あたしは窓の外に目を向ける。
未だ塔は、光の柱に包まれている。
それはいい。
「いくら距離があるからっていっても、いい加減衝撃波がきてもよくない?」
頭の中の疑問を向けたら、彼は目をぱちくりさせた。
そりゃ、いきなり言われてもわかんないよね。
「いやね、あの魔法って、より破壊力を高めるために、破壊エネルギーが目的範囲内で循環するようにベクトル操作をしているんだけど、音とか光とかはどうしても漏れ出ちゃうの」
相づちがない。付いてこられてるのかな?
まあでも半分は、口に出して頭の中を整理するのが目的なので、構わず続ける。
「だから漏れ出た光は、こうして光の柱として見えるし、音は遅れて伝わってくるの。衝撃波としてね」
「衝撃波ってどのくらい?」
お、ついてきてるかな?
「うーん、メテオストライクの魔法──とか言ってもわかんないか」
「隕石が落ちたところなら、テレビで観たことあるけど」
「へぇ、テレビってこっちの世界でもあるんだ」
たぶん、構造なんかは全然違うだろう。
目的や用途が同じなら、翻訳されることもある。
「テレビって音と映像だけでしょう? 体験してないなら実感わかないかもだけど、とにかくもの凄い爆音でね、これだけ離れてても、窓ガラスなんかは割れちゃうわよ。どうせ耐衝撃魔法素材なんて使ってないどころか、存在してないでしょう?」
「うん、普通の窓ガラス」
うなずいた彼は、
「──あ、でも、だいぶ経ってるよね? 音ってことは音速でしょう? そこまで距離があるとは思えないけど」
「だから、それを言ってるんじゃない。多少はベクトル操作の影響を受けて遅れてるにしても、いい加減ここまで来ても……」
言い終わる前に、あたしは口を閉じて目を細めた。