魔法がオカルト?! あたしの世界じゃ科学がオカルトよっ!
「なんてことしてくれたんだよっ!!!」
彼の半狂乱な怒鳴り声で硬直が解ける。
「アンタがいいって言ったんでしょっ?!」
負けじと怒鳴り返すあたし。
「それに魔法使用の許可だって出したのはアンタだし、あたしはちゃんと確認したからねっ!!!」
さらに畳み掛ける。
「魔法が本当に使えるなんて思うかよ!」
「そんなの勝手に見た目で判断したアンタが悪いんじゃないっ! あたしは最初から大魔導師だって言ってたでしょっ!」
「だから大魔導師なんて、そんなの実在するなんて思わないって普通!」
「実在するも何もいまここに──はいぃっ!?」
そこまで言ったところで、あたしは彼との微妙なズレに気づいた。
「もしかして、大魔導師っていないの? こっちの世界?」
「いないって、そんなの」
「大魔導師って、あれよ? 魔導師の中でも最高位のクラスで──」
「だぁかぁらぁ、魔導師も大魔導師もいないんだってばっ!」
「つまりなに? この世界って魔導師とか魔術師とかの区別がなくて、みんな魔法使いで一括りなわけ?」
「魔法そのものがないんだよ!」
「魔法がないっ?! えっ、だって、あんだけでっかい建物、魔法も使わずどうやって建てられるのよ? よっぽどの力持ちで背中に羽でも生えてなきゃ無理でしょう?! それともなに? 巨人の一族が住んでいるか、まさか巨大化の能力があったりするとかいう?!」
「いや、科学だよ、科学!」
「科学って、あの科学?! 魔力を使わないで錬金術が再現できるって騒いでいるあれでしょ? あんなオカルトが実在するのぉ?!」
「実在するもなにも、こっちにしてみれば、魔法のほうがオカルトだって!」
「はぁ? 魔法がオカルトぉ!?」
つまりなに? この世界って、技術の進化形態が根本から違うってこと?
「でもでもアンタ最初、あたしが異世界から来た魔法使いだってことに理解示してたよね? 魔法がオカルトっていうなら、そんなんで時空間の跳躍とか信じるなんておかしいでしょう!」
「そういう設定なんだと思ったんだよぉっ!」
「え? 『設定』ってなに? どういうこと? そういう口癖とか方言とかじゃないの?」
「そういうコスプレをしてるんだと思ったんだってば!」
「コスプレ?」
「職業とかキャラクターのコスチュームを真似て、それになりきることをコスチュームプレイ、略してコスプレっていうんだよ!」
つまり、格好だけの魔術職みたいな人たちを、こっちではそう呼ぶのか……。
「──ってことはなに? アンタは初めて会った人に対して、本物かどうかの確認をすることもなく、もう頭から、そのコスプレ? っていうのだと、決めて付けてたわけ? それってものすごーく失礼じゃない?!」
ジト目を向けるあたし。
「い、いや、そもそも魔法がないんだから、本物かどうかの確認なんて考えないって。それに、よくそういう格好するヤツが身近にいるから、てっきりその友達かと……」
勢いが削がれ、たじろぐ彼。
「ああ、奏って人ね? その人がなに? コスプレする人なの?」
「ま、まあ、そんな感じ」
よし、話のペースが完全にあたしのものになった。
「ま、いいわ。それより、この世界に魔法がないってことは、魔法警察局とかも存在しないってことよね?」
「ないない」
「つまり、魔法の発動場所を探知する技術なんて、当然ないわよね?」
「た、たぶん──って、なんだよその顔、なんか、悪いこと考えてないか?」
「そんなことないわよ。ただ、距離も離れてるし、このまま黙っていれば、この世界の人たちじゃ、塔を吹き飛ばした張本人を特定することなんて、できないんだろうなぁって思っただけよ」