やっぱしぃっ!!! イタい人と思われてるぅっ!!!
「あ、えっと、だから、テュマっていうのが、あたしの名前なの。こちらの世界では、『奏でる』っていう意味があってね──」
そこまで説明をすると、
「ああ、そういうことね」
彼は顔を引きつらせた。
「つまり、『奏の友達』って言いたいわけか」
奏? 彼の知り合いに、そういう名前の人がいるのだろうか?
あたしの名前の意味を聞いて、また変に早とちりをしたようだ。
もしかして彼ってば、もの凄くそそっかしい?
でもまあ、敵意をむき出しにされるよりはマシなので、このままもう少しコミュニケーションしよう。
「悪いんだけどオレ、そっち系の住人じゃないからさ、そういう言葉を使われても理解不能なんだって」
どうやら翻訳がうまくいかず、意味がわからない部分があったらしい。
あたしに文句を言われても困るんだけど、
「そりゃ仕方ないわよ。翻訳魔法だって完璧ってわけにはいかないから」
と、だけ言っておく。
「ほ、翻訳魔法って──そうきたか」
ますます顔を引きつらせる彼。
「まあ、奏の友達だってことくらいは、すぐにわかったけどさ、その格好だし──」
あたしの格好は魔術職の正装で、上着もスカートもショートブーツも手袋も、マントに至るまで黒地に銀糸の魔法文字刺繍で統一している。
あとこれにおそろいの帽子もあるのだが、魔法の影響で大気が荒れた場合、飛んだりするのが嫌なので、よほど大きな式典でもない限りはかぶらない。
それに加えて、腰には左側に短杖、後ろと右にそれぞれポーチ、首からは魔法宝石がはめこまれたペンダント、左胸には大魔導師の証のバッジと、これで魔術職でなかったら、単なるイタい人だ。
どうやらその奏って人も、あたしみたいな格好をしているのようだ。
と、いうことは、魔術職──
いや、ちょっと待って!
まさか、イタい方の人じゃないよね!?
んで、あたしもそのイタい仲間と思われたとか!?
そういえば、彼があたしを見る目って、なんとなく──いやいやいや、そんなことない!
うん、ない! 絶対に!
そう、信じたい……。
「で? オレの部屋で何してるわけ? 中に入ってるってコトは奏も一緒だろ?」
「あ、いや、異空間移動の魔法は、そのときの状況で出現ポイントがズレるから、たまたまこの部屋に出ちゃったってだけで──」
「あーはいはい。わかったから、アイツはどこ? 靴がないってコトは外に隠れてるの?」
いや、全然わかってないんですけど……。
「あ、そうそう、靴っていえばソレ、どういう格好をするかはアンタの自由だけど、せめて常識くらいは考えて欲しいんだけど」
あたしの足下に冷たい視線を向ける彼。
「あ、いや、えっと、ごめん」
あたしは慌てて謝った。
彼が靴を履いていないところを見ると、どうやらこの建物は履物禁止のようだ。
この履物問題は、知らない土地に行くと結構困る。
宗教、風習、個人的感覚と、同じ世界どころか同じ町の中でも、建物によってまちまちだったりする。
隣の建物は大丈夫だったけど、その隣は履物禁止なんていうのはざらで、下手をすると同じ建物内でも、大丈夫とダメがわかれているところもある。
聖域などでは、外でもダメな場所があるくらいだ。
とにかく「常識」というからには、この世界では建物内は靴を脱がないといけないようだ。
郷に入っては郷に従え──である。
あたしはショートブーツを脱ぎながらも、
「あ、あのぉ、一つ聞きたいんだけど──」
どうしても気になってしまい、上目遣いで彼の様子を伺いつつ、遠慮がちに問いかける。
「なに?」
ぶっきらぼうに言う彼。
「もしかして、あたしが大魔導師だってこと、疑ってる?」
途端に彼は、わざとらしく思い切りため息を吐いた。
「疑うも何も、どう考えたって、それを信じろって方が無理だろ」
やっぱしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!