表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/27

ついに登場、うわさの危険人物。

「ちょい魔法の許可ちょーだい」

 拓斗が席に戻ってきたので、こっそり声をかける。

「なんの魔法を使う気だ?」

 一瞬、彼の頬が引きつった。

 どうやら魔法に対して、かなりの警戒をしているようだ。

「この世界の文字を書けるようにしたいの。読むのは無許可でいいんだけど、書く方は許可が要るの」

「あ、そっか、これから書く必要もでてくるだろうし、わかった許可する」

 文字を書くバージョンの翻訳魔法は、2種類ある。

 読んだ人が文字を理解できるフィールドを展開する魔法と、この世界の文字を書けるように自分自身にかける魔法。

 前者は複数の異世界人が入り乱れても全員に意味が通じる反面、フィールドから出たり魔法が切れたりすると、翻訳の効果は失われる。

 後者は一つの言語に限定されるが、書いた文字は魔法が切れても現地の人が読める形で残る。

 その上、魔法対象が自分に限定されるので、持続時間が長い。

 なので、今回はもちろん後者だ。

知恵の紡ぎ手(ラフィール・ノルチェ)

 あたしは小声で呪文を唱え、魔法を発動させた。

 先ほどの入部届に名前を書き込む。

 ──テュマ・トゥ・ウェル。

 なるほど、あたしの名前って、この世界ではこういう文字になるんだ。

 でも、わかっている。これではダメだということを。

 あたしはこの学校では、奏のせいで、おかしな名前にされてしまっているのだ。

 仕方なく消しゴムで消すと、生徒手帳に書かれている名前を真似る。

 遠間……うえる──っと。

「なにを書いているんだ?」

 拓斗が覗き込んできた。

「入部届? 部活やるのか?」

「うん。三木と奏に誘われた」

「いっ?! まさか、空研(からけん)に入るつもりか?」

「カラケン? 違うよ、空想文化研究部」

「空想の『空』は『から』とも読めるから、略して空研。あまりオススメはできないぞ。変人扱いされるし」

「うん、すでにそんな目で見られた。でも、一度『入る』って言っちゃったし、周りの反応をみてころころ意見を変えるような軽い女じゃないのよ、あたしは」

「結構、律儀なんだな。ま、そういうオレも空研なんだけどさ」

「そうなの? なんだかんだ言って、結局アンタも三木や奏と同類ってこと?」

「いや、オレはそっち系には全く興味ないって」

 あたしの問いに苦笑した拓斗は、遠くを見る目をして、

「いろいろと付き合いがあってさ……」

 なんだろう、このひしひしと伝わってくる悲壮感は……。

 苦労しているんだな、彼も。

 ちょっと同情。

 ──でも、忘れてはいけない。

 あたしも、今まさにそこに身を投じようとしているのだということを。

 えーい、女は度胸だ。

 「希望する部活」と書かれた空欄に、その文字を書き込んでいく。

 それにしても、この世界の文字は、なかなか書きにくい。

「書き順めちゃくちゃだな」

 ボソリと言う拓斗。

「仕方ないでしょ、頭に浮かんだ文字をそのまま書き写しているだけなんだから。書き順とか、そんな細かいトコまでわかんないのよ、この魔法」

 そんな言い訳をしながら、なんとか「空想文化研究部」と書き終えた。

「で? これはどうすればいいの?」

「奏に渡せばいいよ。あいつの兄貴が部長だから」

「はい?」

「だから、あいつの兄貴が──」

「それはわかったってば。そうじゃなくて、かなりの危険人物って話じゃなかったっけ?!」

「だからオススメしないって言ったんだ。ま、三木とかも無事だし、さすがに学校じゃ無茶はしないとは思うけど」

 さらなる不安を抱えつつ、なんやかんやで放課後──

「うをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 新入部員キターっ!」

 部室とやらに足を踏み入れた途端、そこにいた人物から発せられた奇声に、思わず1歩身を引いた。

「しかも、すっごい美少女ちゃんっ!」

 その視線に背筋がゾクッとする。

 最強の大魔導師であるあたしを、視線だけで怯ませるとは、ただ者じゃない。

「よーし、早速コスプレだ!」

 そう言ってヤツは、どこからともなく薄い布きれのような衣装を取り出し、あたしに迫ってきた。

「するかぁっ!」

 げしっ!

 身の危険を察知し、体が勝手に反応した。

 繰り出した蹴りが、ヤツの顔にクリーンヒット。

「ぐへっ!」

 踏みつけられた蛙のような声を発し、豪快に吹っ飛んだ。

 周りにあった机を巻き込み、壁にぶち当たったヤツは、そのまま動かなくなる。

 やば、やり過ぎちゃった。

 そう思った直後、むくりと起き上がったヤツは、

「フッ、水色か」

 その意味を理解したあたしは、膝蹴りを顔面にたたき込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ