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ちょっとした誤解、でもそれが異世界旅行の醍醐味よ

「そ、そう?」

 えっとぉ……。

 なんだろう、この、なんとも言えない恥ずかしさと、むなしさは……。

 だぁってぇ──

 そ、そうだ、コイツが悪い!

 コイツが、有名人を見たような顔で驚くからいけないんだっ!

 こらーぁっ、もっとわかるように驚けぇっ!

 でも、まあ、あたしも、ちょーっとばかり、早とちりだったかもしんないし、今回だけは特別に許してあげましょう。うん。

 それに、ほら、これで当初の目的は果たせるワケだし、細かいことは気にしない気にしない。

「あ、えっと、そうだ、とりあえず自己紹介ね」

 気を取り直したあたしは、咳払いをひとつ。

「あたしはテュマ・トゥ・ウェル、16歳。出身はサヴァダ魔法王国。最大最強の称号を史上最年少で得た、天才美少女大魔導師よ」

「…………」

 およ? なんか反応が薄い──というか、全く反応なし?

「はあ」

 今度は彼がため息をついて見せた。

「なるほどね」

 とりあえず納得したようだけど、今のため息はなに?

「つまりアレだ。異世界からやってきた魔法使いという設定だ」

「ま、まあ、そういうことになるわね」

 はあ、良かった。

 一瞬、話が通じないかと思った。

 千里眼の魔法で下見をして、景色なんかを参考に、そこそこに文明が発達してそうな世界を選んだわけだけど、いくら翻訳魔法で会話ができても、意味が通じるか通じないかはまた別の問題だ。

 前に行った異世界なんか、魔法技術の発達がかなり遅れていて、移動魔法といったらようやく空中浮遊ができるようになった程度だった。

 そんなだから、異世界を移動する魔法なんて、夢のまた夢、実際にやってみせるまでペテン師扱いされてしまいましたよ、あたしは。

 あん時は大変だったよ、ホント。

 異空間の移動魔法ってのは、魔力の確保や天候、時空壁の状況とか、その時のタイミングとかもあるでしょう?

 そんなのいっくら天才のあたしでも、すぐになんかやって見せられるわけないっつーの。

 あんな世界はもう二度と行きたくない──って、愚痴っててもしゃーないんだけどさ。

 でも今回は、異空間移動が理解できる程度には魔法文明も発達しているようだから、余計な説明で骨を折らなくても済みそうだ。

 語尾の「設定」とか、ちょっと意味不明な部分もあるけど、そこは文化の違いというか、この土地の独特な言い回しというか、方言のようなモノだろう。

 さすがの翻訳魔法だって、「で、ござる」とか、「だ、ぴょん」とか、意味のない語尾を付けられても翻訳のしようがないし、多少の変換ミスだってある。

 ご愛敬というヤツだ。細かいことにいちいちツッコミを入れてはいけないのだ。

「で? 結局のところ誰?」

「はいぃ!?」

 想定外の質問に、おもわず素っ頓狂な声を出してしまいましたよ、あたしは。

「『誰』って、だから自己紹介したでしょう?」

「いや、トマト王国のサラダ姫はもういいから、本当はどこの誰かってこと!」

 翻訳の魔法は、なるべく自然になるように、発せられた音声を組み替える形で変換し、口の動きに合わせ相手の耳に届けている。

 その精度は非常に高く、こっそり使われたら、翻訳の魔法が発動していることにも気づかないほどだ。

 精神感応魔法と比べたら、無駄が多いようにも感じられるけど、持続時間が長い上に、精神系の魔法を好まない種族や、最悪それだけでダメージになるデリケートな種族も存在するため、異世界とのコンタクトには欠かせない。

 その仕組みは非常に複雑で、発せられた言葉を単純に変換するのではなく、発言者の思考を読み取ることで正確な翻訳を行っている。

 だから固有名詞とかは、変換が可能だったとしても、あえてそのまま伝わる。

 でないと、あたしの名前のテュマなんかは、翻訳されて「奏でる」になってしまうからだ。

 しかし今回はそれが裏目にでたらしく、誤解を招いてしまったらしい。

 どうも、あたしの名前と出身地名は、彼の世界の野菜の名前や、それを使った料理名と発音が似ているようだ。

 彼は今、そういうイメージで発言していた。

 しかもそれらを人や都市の名称として使うのは、考えにくいというか、正気の沙汰ではないくらいあり得ないのだろう。

 確かに、初対面の相手に、「俺の名前は穴掘り豚、丸焼き出身だ」とか言われたら、あたしだったらケリ入れてる。

 そんなワケで、あたしの自己紹介は、冗談ととられてしまったようだ。

 ちなみにイメージの伝達は、変換が不能だったり、困難だったり、意味が重複していた場合などに、まれに発生する。

 本来なら、そういう場合は無変換が選択されるのだが、思考を読み取る構造のため、感情の起伏でおかしな影響が出ることもあるのだ。

 一種のバグのようなモノなのだが、魔法の構造上、これは仕方がない。

 相手から術者への一方通行で、一定量を超えなければ許容範囲とされている。

 ついでに付け加えておくと、異世界で魔法を使う場合、原則としてその世界の住人の許可をもらう必要があるのだが、翻訳魔法と帰還魔法は無許可で使っても良いことになっている。

 中には、魔法使用の許可だけもらって、あとは精神感応とか精神操作の魔法──という人もいるけど、あたしに言わせれば、そんなのは邪道中の邪道だ。

 現地の人とちゃんと会話を交わしてコミュニケーションをとり、信頼を深めていく。

 それが異世界旅行の醍醐味ってヤツである。

 だから、こういう行き違いは覚悟の上だ。

 ただ、下手をすると、どんどん泥沼化してしまうので、なるべく早く誤解をといておいた方が良い。

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