だからコスプレって言うな!
「おまたせ」
奏の持ってきた制服に着替えたあたしは、ショートブーツは自分のを履いて、ドアを開けた。
そこで待っていた拓斗と奏が、あたしを見て息をのんだ。
「どう?」
あたしの問いに、
「うおぉぉぉぉっ! すっごくかわいいっ!」
奏が声を上げた。
「そうでしょそうでしょ」
容姿に恵まれたあたしは、何を着ても似合ってしまうのだ。
「めちゃくちゃ似合ってるよ、そのコスプレ」
「コスプレ言うなあっ!」
反射的に言ってしまったけど、あたしは学生じゃないから、実際にコスプレってことになるわけで……。
複雑な心境だ……。
拓斗は一言も喋らないと思ったら、ボーッとした顔であたしに見とれている。
ふっ……どうやら、また1人、男を虜にしてしまったようだ。
ふと、あたしにイタズラ心が芽生える。
「似合う……かな?」
少し恥ずかしげな表情を作り、上目遣いで問いかけてみた。
「ま、まあ、い、いいんじゃないか?」
真っ赤にした顔を、あさっての方に向けて答える拓斗。
なかなかおもしろい反応を見せてくれる。
そんな拓斗を見て、ほっぺたを膨らませた奏が、
「いたたたたたたっ!」
彼の耳を掴んで引っ張っりながら、
「早く行かないと遅刻しちゃうでしょお」
「わかった、わかったから放せ、まだドアのカギ閉めてないだろ」
「いいでしょ、どうせ盗られるモノなんてないし」
「よくないって!」
うんうん、なんとも微笑ましい光景だ。
結構おもしろいので、ちょくちょく構って上げようと、心に誓うあたしであった。
なんてのんきにナレーション入れてる場合じゃなかった。
ぼやぼやしてたら、おいて行かれてしまう。
慌てて2人のあとを追いかける。
「ところでテュマはバッグを持ってかないの?」
しばらく歩いたところで、奏が問いかけてきた。
「バッグ?」
首をかしげるあたし。
そういえば、拓斗も奏もバッグを持っている。
「必要?」
「スクールバッグは登校風景にはかかせないアイテムだよ。どうせコスプレするなら完璧を目指さないと」
「じゃ、いらない」
真面目に言う奏に、あたしは即答した。
「まあ、教科書とかノートを入れるから必要っていば必要だけど」
苦笑する拓斗。
「え? なに? そんなに大量に教科書やノートを使うの?」
「中身全部が教科書やノートってわけじゃないけど、1日に6教科はあるからね」
「もしかして、それぞれに教科書とかノートがあるの?」
「全部が全部ってわけじゃないけど、だいたい教科書とノートが1冊ずつで、教科によっては辞書とかもあるし」
「なるほど、紙ベースの本なわけね? そりゃかさばるわね」
「アタシは置き勉してるよ」
胸を張る奏。
ソレを指さして、
「こういうヤツもいるし」
再度苦笑の拓斗。
「なになに? テュマの世界の学校は教科書とかノートがないの? もしかして魔法でバーンと出しちゃう設定?」
「設定言うなっ! 奏が言うと、なんでもファンタジーにされそうで怖いわっ!」
とりあえずツッコミを入れておいてから、
「あたしの世界じゃ、板状の魔法端末ひとつに、全教科の教科書が入ってるわ。そこにメモもできるから、わざわざノートはいらないし」
「あ、そういうのこの国でも計画されてるって聞いたことあるよ。魔法端末じゃなく、電子端末だけど」
「ふーん、魔法と科学の違いはあっても、考えることは一緒なのね」
「えー、なんかつまんない。やっぱ魔法の世界っていったら羊皮紙じゃないと」
「いつの時代の話よ」
あたしは思わず苦笑した。